
女性に特有の肛門病というものがあります。
珍しい病気まで知ってしまうと、自分も必ず病人のような気がしてくるものです。
医学を勉強し始めた医学生や看護学生は、誰でも一度は、そういう錯覚にとらわれます。それを乗り越えると、今度は、病気に対して全く無自覚になって、それはそれで困ったものなのですがね。
内痔核は、肛門の少し上、直腸の下端にある、静脈叢がはれ出て、肛門に落下してくることによって起こる病気です。静脈叢が原因ですから、出血が主症状です。肛門内に落下し始めると、肛門によって内痔核そのものが締め付けられるので、より一層、大きく腫れ、痛みが出てきます。ひどい場合は、内痔核の血の巡りが悪化し、壊死に陥ることもあります。
これを「かんとん痔核」といい、男性にも女性にも起こることですが、かつては、妊娠中に起こることが多く見られました。妊娠中に壊死に陥った「かんとん内痔核」の手当をしなければならないことが多かったと、年配の助産婦さんはいいます。不思議に、近年では、妊娠中に内痔核の脱出で困ることは少なくなくなりました。
私が、J大学の産婦人科外来で、妊娠中の女性の内痔核の調査を依頼されているとき、検査を担当した妊娠中の女性で、ほとんど内痔核の増大は確認されませんでした。
時代とともに、病気も変わる、ということでしょうか。その時一緒にいた年配の助産婦さんは、昔話を語るように、「昔は多かったのにねぇ。」と言っていたのが印象的でした。
しかし、出産後は、妊娠中とは別です。ほとんど例外なく、内痔核が増大していました。それが、1-2週間で治る方もいますし、それを契機に、肛門の変形をきたす人もいます。
裂肛は、いわゆる「切れ痔」のことですが、これは、切れ痔という簡単な名前からは想像できないほど、多くのメカニズムが働いて、病状が変化し、最終的には、肛門がきわめて細くなる状態にまで進行します。
肛門の疾患は、一般的に男性に多いのですが、この裂肛だけは、女性、しかも、20歳代の若い女性に起こることが多いのです。
硬い便で肛門の上皮が切れることが最初の原因ではないかと、類推されていますが、では、なぜ、若い女性に多いのかという説明はされていません。
たいてい、前方か後方に起こります。左右に起こることは、非常にまれです。
裂肛は、その裂け目が治ったり、再発したりというのを繰り返し、「慢性肛門潰瘍」とも呼ばれる、慢性裂肛に移行します。
慢性裂肛の時期になると、肛門の外側には、皮膚のたるみ(skin tag)が出現し、肛門の変形が生じてきます。また、肛門の内部には、肛門ポリープと呼ばれる、乳頭肥大がおこります。痛みをあまり感じない時期には、この、肛門の変形だけを気にしている女性が多いものです。
たいてい、この時期は、20年ぐらいにおよび、それがすぎるころには、排便障害が出現してきます。便が、細くなってくるのです。鉛筆ほどの太さにもならないことがよくあります。
このころになると、朝の排便がとても辛くなり、なかなか便がでません。トイレが、一日の仕事の中で、とても大仕事に感じられるようになります。この時期の女性は、たいてい、40歳から60歳くらいです。
これは、裂肛によって、肛門狭窄といわれる肛門の狭い状態になっているからです。手術をすると、嘘のように便がスムーズに出るようになり、この手術を受けた女性は、こんなことなら、もっと早く手術を受ければよかったと、口をそろえて言います。
この時期にも適切な治療を受けなかった患者さんは、かなり、生活を犠牲にして人生を送ることになります。
痔ろうは、明らかに男性に多い病気です。
痔ろうは、肛門陰窩とよばれる肛門腺が何らかの原因によって炎症を起こすことにより起こす病気です。
まず、肛門皮膚の周囲におできのような膿をもってくる「肛門周囲膿瘍」という病気が先行することが多いのですが、女性の肛門周囲膿瘍患者は、男性患者数の10分の1ぐらいしかいません。
肛門周囲膿瘍を起こすと、これは緊急的に処置をしなければいけない病気なのですが、その適切な外科的処置をしても、約半数が痔ろうに移行します。
ですから、痔ろうの女性患者さんも男性に比較して少ないというわけです。(ちなみに、学生さんには、「じろうというだけに男性に多い。」なんて言って教えます。そう「次朗は次男」です。)
女性の痔ろうは、女性の肛門括約筋が華奢であることを考えると、適切に治療する必要性が男性よりも高いといえます。これは、前項「女性と肛門」でお話しした通りです。
また、若い女性の痔ろうは、クローン病を念頭において検査を進めなければいけません。
以上で、3大肛門疾患を簡単に説明しましたが、それ以外に多いのが、便秘です。これは別の項で述べますが、女性の便秘は、中学生ごろから始まることが多いようです。
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