
同和行政・同和教育をなくす広島県北連絡会の結成に向けて
岡本幸信(おかもと ゆきのぶ・広島県北連絡会事務局次長)
「同和行政・同和教育をなくす広島県北連絡会」(以下、「なくす会」)は一九九九年十二月七日、結成総会を三次市内で開きました。「なくす会」は九八年に解散した「公正・民主の同和行政をすすめる県北連絡会」を改組・発展したもので、文字通り広島県北での同和行政の終結、同和教育(「解放教育」)の廃止を目的とするものです。
「なくす会」の結成に至るまでの経過を、全国部落解放運動連合会(全解連)の第二十九回定期大会議案の「部落解放運動の発展的転換をはかる基本方針」(案)(以下、「基本方針(案)」)を深める立場から論じてみたいと思います。
1 「解同」タブーの強い県北地域
「基本方針(案)」では、(3)最終局面の課題で、「(部落問題解決の)最終局面における運動の課題は、何よりも特権的な同和行政や分離主義者の『同和教育』など、行政によって人為的に生み出されている同和の枠組みや弊害を早急に除去し、終結をはかることである」とし、「さらに、部落問題の解決を図っていくうえで大きな障害となっている、私的制裁など違法性をもった『確認・糾弾』行為や部落排外主義にもとづく国民敵視のあらゆる策動を社会的に排除すること、『人権』の名で、国民の内心に踏み込みかねない行政主導の『啓発』体制に反対すること、である」としています。続いて、「なかでも現実の課題として、『解同』(部落解放同盟)路線を社会的に包囲していくことが運動の発展的転換を実現する大きな保障である」とその運動の重要性を強調しています。
三次高事件、八次小事件をはじめ多くの事例を列挙するまでもなく、広島県北での「解同」とその路線に追随する勢力の行政、教育への介入と支配という異常な事態は、部落問題の解決のみならず、地域の民主主義の発展を阻害しています。
これにたいし、八次小裁判の勝利にみられるよう全解連をはじめ民主勢力、良心・良識のある教師や住民の理解と奮闘によって大局的には私たちの理論と運動が支持されているものの、住民にとっては「解同」の「確認・糾弾」行為による恐怖が「解同」タブーとなり、潜在的批判は強いにもかかわらず声に出して具体的な形として「解同」路線を社会的に包囲する世論と運動を大きく形成することはできず、長年にわったての私たちの運動課題でした。
こうしたなか、九九年は「解同」タブーを打ち破る大きな情勢の変化が生まれました。
2 「解同」路線批判が表面化
言うまでもなく九九年二月の世羅高校校長自殺という最悪の事態を契機に、「解同」による偏向教育−「解放教育」の学校現場への異常な押しつけにたいし、この偏向教育の是正を求める県民世論が大きく広がったことです。
この問題については、すでに多方面から論じられており今回の主題でないため内容は割愛しますが、この問題がさらに、県議会で六月、九月議会の本会議で相次いで自民党県議から「解同」の「確認・糾弾」行為や「解放教育」への厳しい批判をするところにまでになりました。
部落問題や「解同」問題を質問するのは、これまでは日本共産党県議だけであり、しかも、議会の非民主性から本会議での質問は同党などの少数会派は二年に一回しか機会がなく、同党の議席空白の時期もあり、この問題がほとんど県議会に反映することはありませんでした。
このことからみれば一年間で二度も本会議で質問することそのものが大きな変化ですがその内容も見るべきものがあります。
たとえば、県北の中心地三次市からの選出議員である吉岡広小路県議(自民党)は六月議会で「ハード面の整備も進み、同和地区の環境整備は十分ととのってきた」うえで、「ソフト面については、本県の学校教育の中で人権教育、同和教育を推進しながら依然として部落差別が根絶されず、就職、結婚などで差別が存在するのはなぜか」と問いかけ、「行き過ぎた同和教育によって、同和問題や部落差別を語ることは、怖いというイメージを植え付け、学校においても職場においても地域社会も家庭も、真摯な論議を避け、問題に触れることさえタブーとしてきた風潮がある」と指摘する一方、同和行政の終結と一般行政への移行を求めました。また、吉岡県議は今年三月の予算特別委員会でも「地域学習」問題について追及しています。
県議会での変化にとどまらず、温度差はあるものの宗教界、労働組合、地方自治体、マスコミなどにも「解同」タブーが破られつつあり、「解同」路線への批判の声が表面化しているのが昨年の大きな情勢の変化といえるでしょう。
3 支配体制の矛盾の拡大と県民世論結集の条件
この情勢の変化は、県内の支配勢力が「解放教育」問題を利用しながら「君が代」の掲揚、「日の丸」斉唱の強要をはじめとする文部省による異例な広島県教行委員会への「是正指導」を通じて管理統制を強めることを目論んだものであることは明日です。他方において、「解同」をこれまで革新の分断として、また、民主運動や教育・教職員組合運動の前進を阻む重要な役割を与えていましたが、県民の相次ぐ「解同」路線による同和行政、解放教育の大きな歪みに対する批判の表面化は、支配勢力自らが支配体制を維持していた構造を崩しかねない矛盾を生み出しました。ここに、これまでたたかってきた民主勢力にとどまらず、「あたり前の行政を、あたり前の教育を」と願う保守層も含めた広範な県民世論を結集できる客観的状況が広がったのです。
4 「なくす会」結成に向けて準備会はじまる
「公正・民主の同和行政をすすめる県北連絡会」を改組・発展した次の組織を確立し得ないまま、主に保守勢力主導によってつくられた情勢の変化の中、私たちは九九年九月以降、数回にわたって「なくす会」の準備会を開きました。
準備会には、「公正・民主の同和行政をすすめる県北連絡会」に結集していた全解連、県北地域労連とその傘下労組、三次民商、日本共産党県北地区委員会などの諸団体、個人が集まり、各地の状況交流と情勢分析、組織の在り方について論議を繰り返しました。
ある自治体では、人権センター建設反対のビラを全戸配布し、町民世論を広げ、事実上建設を不可能にさせた取り組みや、別の白治体では「人権条例」策動にたいし、千二百人をこえる反対署名を集め、制定を断念させ、「人権宣言」に変更をせざるを得ないこと、いまだ異常な同和教育や地域学習がなされ、多くの住民から批判があがっているなど、異常な同和行政、同和教育をなくしたいという住民の声が形としてみえはじめている情勢に準備会に集う人々に確信をもたせると同時に、国民融合論に基づく同和行政、同和教育をなくす組織の立ちあげの必要性を強く感じました。
5 地域内外の本音の論議のなかで
準備会に参加した全解連の各支部の代表者からは、「もう特別な同和教育はいらない」という傾向にたいし、各種団体の代表者からは「団体補助金、個人施策など特別視する同和行政をやめてほしい」という共通の傾向をもったもので、地区内外の微妙な認識の違いを覚えました。とりわけ、団体補助金、個人施策については突っ込んだものとなりました。
ある団体代表者は「率直に言って、全解連の支部が『もう団体補助金はいらない。個人施策もいらない』と宣言してもらえれば、『解同』との違いも分かりやすいし社会的世論を喚起できる」と切り込み、ある全解連の支部代表は「なかなか支部で合意できないでいる。この問題は汗と涙と血の出る問題だ」と話しました。
しかしながら、このような真剣な論議そのものが、部落問題解決の指標の部落差別にかかわって、部落住民の生活態度・習慣にみられる歴史的後進性が克服されること、地域社会で自由な社会的交流が進展し、連帯・融合が実現することーを促進するものであり、一致できていない課題については会の運動の中で明らかにしながらも基本的には、特別な同和行政・同和教育をなくしたいという一致点を見いだすことができました。
6 会の目的と一致点での共同
会の名称と目的についても大きな論議がなされました。
特に、同和行政・同和教育をやめさせる課題を会の目的としています。この点を強調する意味はこの課題が具体的な住民の要求になっている県北の情勢から大きな意味をもつものです。
しかしながら、「『同和行政を終結させる要求は、住民のいろいろな要求を取り上げる運動化にすることが必要』とし、終結それ自体の目的化では部落解放にはならない」(第二十八回全国部落問題研究集会での真田是山口県立大学教授の発言から)と言われるよう部落問題の解決は、同和行政、同和教育の廃止によって完了するのではなく、地域の民主化にあります。
この視点から、全解連の代表者からは「たんなるなくすことだけを目的とするのではなく、地域の民主化を目的に入れるべきではないか」との意見も出されました。
論議を通じて、@単に同和行政を終結するだけでなくより充実をさせた一般行政に移行することが何度もだされたことAいまは民主主義の弊害となっている「解同」の横暴や同和行政・同和教育をやめさせることが住民の要求であるし、保守層を含めた幅広い人々との共同が可能。この一致点で運動をすすめることB部落問題の解決の視点からは、同和行政・同和教育をやめさせることを目的とする組織は過度期のものとしてとらえ、その運動の発展いかんによって地域の民主化を求める組織への方向を求めるーことを確認し、会の目的を明らかにしたうえ、「なくす会」の名称を決定しました。
7 君田村の教訓を生かす
県北の運動の輝かしいものに、君田村での同和行政終結がありますが、この事実を多くの住民が知らない、あるいは、終結したことは知っていてもその内容までを知る機会がないなど、君田村の教訓が県北で生かされていないことが明らかになりました。ましてや準備会に集う人々においても少なからず同様な状況がありました。
例えば、九六年に終結しながらその取り組みをまとめたものがいまだ一冊もありません。これは由々しき問題であると同時に当面の大きな関心事になりました。そこで、当時の高田昭幸全解連君田支部長に話をしていただきました。終結にあたって支部が何度も話し合いをすすめながら同和地区の返上を行政に迫ったことや終結後、奨学金制度を全村民に対象を広げたり、お年寄りのおむつ代の支給など一般行政の拡充をした内容については、参加者から大きな共感を得るとともに、同和行政の終結後の在り方をみるなかで「なくす会」の運動の方向性に改めて確信をもったこと、君田村の教訓を全体化し広げる重要性を確認しあいました。
8 結成総会、開かれる
結成総会では、広島県北における「解放教育」の実態と問題点を岡田隆行教諭(八次小裁判元原告)が報告しました。岡田氏は各地の実例を示しながら、「『解放教育』は着実に形骸化し、住民や子どもたちの心から離れているが、いまだに『解放教育』を支える組織が存在し、自治体も巨額の団体補助金をつぎ込んだまま。ここにメスを入れることが『解放教育』をなくす道につながるのでは」と問題提起をしました。
続いて高田昭幸氏が君田村での同和行政の終結の運動を報告。高田氏は「絶えず地域の実態から物事を見つめ、部落問題の解決とは何かを地域住民と話し合っていくなかで、『同和』はもういらないことを村に言い続けたことが同和行政の終結につながってきた。単に同和行政を終わらすだけでなく、一般行政を住民とともに引き上げることこそが大切だ」と教訓を述べました。
各地からの報告の後、「なくす会」準備事務局の吉岡雅氏(県解連書記次長)がなくす会の規約と運動方針を提案し、参加者全員の一致で承認されました。
規約では、会の目的を県北での同和行政を終結させ、一般行政への移行をめざす同和教育を廃止し、憲法と教育基本法に基づくあたりまえの教育を確立するーーことを共同のたたかいとしてすすめることを明記し、これに賛同する個人、団体で構成することを定めています。
運動方針は、幅広い人々の結集であることを考慮して、具体的な目標は運動の中で明らかにすることとし文書にはせず、分かりやすいものをという見地から、各自治体の実態を明らかにする「調べる」取り組み、学習会や情報交流会などの「学ぶ」取り組み、同和行政を終結させた君田村の教訓や「解同」路線の暴露、なくすための政策提起を中心としたビラ、パンフの発行など「広める」取り組み、住民と本音の懇談、自治体や教育委員会、地方議員との懇談など対話を中心とする「話し合う」取り組み会員拡大など仲間を「増やす」取り組み−としました。
最後に、会長には高田氏を、事務局長には吉岡雅氏をはじめ役員の選出を行いました。
9 予想をこえる幅広い人々が参加
結成総会に向けて、諸団体の構成員への働きかけと同時に、各自治体議員に呼びかけを行い、当日を迎えました。
結成総会には、私たちの予想を大きく上回る百人が参加。とくに、約五十人は民主団体関係者でしたが残る約五十人は私たちの知らない方々の参加でした。
これまでの背景から受付にはあえて名簿を置かない配慮をしたため、具体的な参加者の名前を把握することはできませんが、おおよその確認では、多くの保守系地方議員が十数人。この議員の方々の口コミを通じて多くの住民が参加したことになります。私たちは、率直に言ってこのような状況に驚くとともに「あたり前の行政、教育を」という思いは住民共通の強い願いであることを示したものです。
10 「なくす会」結成の反響
「なくす会」の結成は、私たちの予想をさらに越える情勢の変化をもたらしました。
総会に参加したある地方自治体の副議長は、二度にわたって高田会長宅を訪問し、「同和問題については全くあなたの言うとおりだ。ぜひ、議員にも話してほしい」と要請。同じく総会に出席した保守系議員の参謀役の住民が、早速十人の入会者を集めました。ある首長経験者は、「解同」の非社会的行為が自治体財政を圧迫させている事例をあげ、「本当に住民の願いにあった会ができた」と喜びました。
高田会長は君田村の経験から、全解連支部の住民が本音で話し合い同和行政を終結させることを心から納得しない限り、前進はないという考えから、今年三月には、甲奴・神石地区協議会、東城町文部などで学習会に出向き訴えました。高田会長は「どこの学習会にも全解連の会員だけでなく、保守系の議員さんも多く参加しています。初めて『解同』以外の話を聞くことができたが、話を聞いてよかったという感想が寄せられるなど、ほとんどの方からは、真剣に聞いてもらい好意的に受けとめられています。本当に情勢の変化を感じています」と話しています。
このような動きのなかで、県議会だけでなく地方議会でも保守議員が異常な同和事業の是正を求めるなど部落問題のタブーが破られようとしています。
11 動きを阻止すると言明する「解同」
「解同」広島県連、とりわけ、県北ではどのようにこの流れをどうとらえているのでしょうか。その一例として、「解放新聞広島県版」一月五日付の「解同」北部地区協議会幹部による新春座談会から見てみましょう。
副議長の大森俊和氏(三次市議)は「市議会内では、予想をこえる差別反動的議論が日共と理念なき議員によって展開されており、自らの責任の重さを痛感した年」、同じく副議長の宇江田豊彦氏(庄原市議)は「県北の地方自治体においても反動的な議員によって『部落責任論』が展開をされ、それに引きずられるように同和行政が後退をしている現実もあります」との認識にたったうえで、今後の運動方向については「特に啓発拠点施設の充実をはじめとする人権・平和・環境などの市民運動の要を解放運動が担うべく幅広い運動をすすめて」きた(辻駒啓三議長)とし、「総保守化の政治状況のなかで、地方自治体の反動的な議員が吾われに敵対した動きを強めていますが、まだ大衆的なところまで発展をしきらずにいます。この状況を踏まえ、より周辺共闘をすすめ、かれらの動きを阻止していかなければなりません」(宇江田豊彦氏)と話しています。
「解同」包囲網を「大衆的な運動にまで発展していない」としたうえで「かれらの動きを阻止する」というように、住民の切実な願いに背を向けて、まさに対峙した立場を露骨に示しています。
12 「なくす会」の特殊性と今後の運動の在り方
なくす会の特徴に、これまで同和行政の終結を求める運動は、その意志のある自治体、運動団体などが一つの行政区内の問題として具体化されていましたが、なくす会は、ほとんどが「解同」路線に屈した二市三郡の自治体を範囲にしたなかで運動を推し進めるという特殊性とむずかしさをもっています。また、二〇〇二年の法切れという時間とのたたかいも加わっています。その意味からも世論を広めることこそがなりよりも早道であり、そのためにも「なくす会」が、「大衆的な運動にまで発展」することが求められています。
そのためには、今後の運動のあり方については、次の点を重点に置きながら運動をすすめる必要があります。
@これまでの行政対応や批判だけに終わるのではなく、対話を基調とした「政策提起型」の運動にすることです。
A実態解明を重視し、事実に基づく運動とそれを会全体の認識に共有することです。
B地域住民内外の要求を顕在化させ、その具体化を図り、共同型の要求運動と結合することです。
C君田村をはじめ全国の先進地から教訓を学び広めることです。
D「解同」などの部落問題解決の逆流にたいする徹底した暴露を行うことです。
私たちの活動ははじまったばかりで、未熟な点も多いとは思います。しかし、会の発展の中で多くの県民との共同をすすめながら、同和行政・同和教育をなくすなかで「解同」路線の社会的包囲を形成し、真の部落問題解決と民主主義の花開く地域づくりをめざすようがんばることを決意して終わりにします。
資料
「同和行政・同和教育をなくす広島県北連絡会」・規約
第一条(名称)
この会は、「同和行政・同和教育をなくす広島県北連絡会」(略称:なくす会)と呼び、事務局を三次市におきます。
第二条(目的)
この会は、県北の同和行政を終結させ、一般行政への移行をめざします。
また、同和教育を廃止し、憲法と教育基本法に基づくあたりまえの教育を確立すべく共同のたたかいをすすめることを目的とします。
第三条(活動)
この会は、学習・調査・宣伝活動をはかり同和行政の終結と同和教育の廃止を求める運動を展開します。
また、部落問題解決に逆行する不当な攻撃をはねかえし、自由と民主主義を守り発展させる活動を行います。
第四条(会の構成)
この会は、会の目的に賛同する団体・個人で構成します。
第五条(組織・運営)
この会は、会長、副会長(若干名)、事務局長、事務局次長(若干名)、幹事(若干名)、会計、会計監査(二名)の役員を置きます。
事務局および幹事会は必要に応じて開催します。
総会は、毎年一回開き、規約改正、役員の選出、活動方針の決定など行います。
第六条(財政)
この会の財政は、団体会費・個人会費および寄付金で賄います。会費は年額個人一口二〇〇〇円、団体一口五〇〇〇円とします。