2002年3月

対談 「21(トゥーワン)の人事破壊」
平本 清 氏 株式会社21(トゥーワン) 専務取締役
日下 公人社団法人 ソフト化経済センター理事長

日下 先日、「社員の幸せを追求したら社長も成果主義も不要になった!」というトゥーワンの本を出版しましたが、すぐに三万部以上売れました。
 誰が買うのかというと、リストラされそうな人、された人。それからこのデフレ時代をなんとか乗り切ろうとどうすれば安売りのできる会社がつくれるかを考えている人です。その成功のヒントがここにあるわけです。
 先日、ある新聞記者が私のところへ来て、この本のことを取材していきましたが、質問の仕方がまったくピントはずれです。
 「これは例外的なものではないか」、「普遍性はあるのか。あるとすればどこにあるのか」、「成功した原因はなんでしょう」。こういった質問は実にくだらない。いかにくだらないかは、いまから平本さんがお話下さいます。
 皆さんに申し上げたいのは、会社を見る目、人をみる目、経営を見る目が全部間違っているということ。大学で教わったことは全部忘れて下さい。すでに忘れている人は大変幸せですが(笑)。その忘れた気持ちで平本さんのお話を聞いて頂きたいと思います。

潰されない会社を目指して
平本 私どもの会社というのは、どう考えても怪しい会社です。何故かといいますと、会社に利益を残さないで社員に還元してしまう。ボーナスは年三回。多い人で一回四〇〇万円、年九〇〇万円になることもあります。そしてめがねを非常に安く販売する。これはどこかで嘘をついているとしか思えないと思います。
 このトゥーワンはそもそも、長年勤めていためがね会社を解雇された仲間が寄り集まってつくった会社です。解雇された会社というのは、広島百万都市で六〇%の販売シェアを誇り、知名度は一〇〇%でした。
 そこで私は、皆から親父さんと呼ばれる社長の下で働いていました。親父さんは創業期からずっと頑張っていらして、社員の気持ちもわかり、人心掌握もできていました。いわゆる日本人の親子関係のような会社を目指していましたので、私たちもそれに乗っかって、会社を大きくしようと頑張っていました。
 親父さんは時々、「いまここに美味しいパイがあるとする。このまま食べるか、それとももっと大きくして食べるか、どっちがいいか」と皆に聞きます。
 すると皆は、佐高信さんがいうところの社畜状態でしたから、「大きくしてからがいいです!」なんて無邪気に答えていたわけです。
 そしていざパイを大きくし、「いまから食べるぞ」と思っていたところ、突然アメリカ留学から帰国し入社していた娘さんが社長業を継ぐことになりました。
新社長は、早速アメリカスタンダードといいますか、経営はこうあるべきという信念のもとに、ノルマをどんどんかけてきまして社員同士の競争が激烈になりました。
 もっとも、ノルマをかけられて苦しいと思う人がいますが、私の場合は楽でしたですね。私の業績はいつも二位をはるかに超えたナンバーワンでしたから。
 ところがある時、社長がこう切り出しました。
「この会社はあなたたちの会社ではない。お父さんから私が譲り受けた会社です」 
「いや、僕らは共同経営職としてここまで頑張ってきました」と私たち。
 それから内紛が絶えなくなり、ついに私たちは解雇されました。当時は解雇といったら次は勤め先がないという状況でした。私はめがね屋しか知りませんでしたから、仕方なく、その後やめた仲間とこのトゥーワンを起こすことにしたのです。
 私たち解雇されたメンバーとしては、どうしても潰されない会社をつくらないといけない。それが至上命題でした。というのは、相手は六割のシェアを握り、しかもそこの社長さんから徹底的に嫌われているわけですから、潰しにかかってくるのは目に見えていました。当然、受けて立たないといけないわけです。そのためには、徹底的に合理化して、本当にいいメガネを安く販売していく以外ないと決心しました。

徹底的な合理化―人事破壊
 一番最初に合理化したのが人事です。
 大雑把にいいますと、前の会社では年間約一〇億円の利益をあげていましたが、そのうち五億五千万円が税金にもっていかれ、二億五千万円が同族の所得になり、一億円が社長さんの取り分、そして残りの一億円が社員に配られていました。この形態をまず私たちは崩すことにしました。同族はいないし、社長の取り分もなしでいい。五五%の税金も納める必要がないようにしようと。うまくいけば一〇億円の利益をあげなくたって、二億円さえ利益をあげれば、社員の給料は倍になると考えました。それは日下先生がいうところの「人事破壊」です。
 皆さんの会社の社長さんとはまったく違うと思いますが、私たちは、めがね店の社長、専務さん、常務さん、部長さんの仕事をそんなに重要視していませんでした。そこで私たちは、社長、専務、常務、部長の仕事を全部なくし、「全員が働きましょう、そして稼いだ分を皆で分けましょう」ということにしたのです。
 これは私たちのように新しい会社なら結構やりやすいものです。日下先生がいわれるように、給料後払い制の会社は、若い時張り切らせておいて、いまから分け前をもらうという時に能力主義とかいって約束を守りません。それを前の会社で経験していましたから、私たちは人事破壊を徹底して行なうことにしたのです。

評価はアバウトがいい
 次は、情報公開に関する合理化でした。
 普通の会社では、個人の給料明細は誰からも見えないように封筒に入れていますが、その手間が惜しくて、全部ネット上で見てもらうようにしました。
 個人の評価も全部公開しました。この方法がもっとも会社の合理化に貢献したと思います。よく、「評価を皆に公開して揉めないのか、この評価は本当に正しいのか」と聞かれることがありますが、私は「この評価は間違っております」と答えることにしています。
 普通、評価を正しくしようとする場合、調整力で何点、アイデアで何点、部下の面倒見で何点というようにして、ものすごく時間とエネルギーが費やされます。それを私は簡単にやってしまうことにしました。本当にアバウトなんです。「これで間違っていたらいってください」と皆さんにお願いしてますが、誰も何もいってこないですね。
 評価をきちんと出そうとすると、非常にコストがかかります。殺伐となります。しかし評価がどうであれ、入社してすぐに八〇万円の賞与でしたら、皆文句はいいません。評価の低い人でも、奥様に内緒にしておけば、奥様は金額だけを
見て「スゴイ」と言う筈です。

社長の年収は一、二三一万円ぐらい
 私どもの社長の年収は一、二三一万円ぐらいを上限とし、社員の最高額を超えてはならないという決まりがあります。よく「一、二〇〇万円とか、きりのいいところにせんかい」といわれますが、これには理由があります。
ある時コンピューターをやっていて、国が定めている税金で、一、二三一万円を越えるとカミさんの特別控除がなくなるということを知りました。ということは、国はサラリーマンとしての最高給与は一、二三一万円ぐらいが妥当だろうと我々に教えているわけです。それでこの額を設定しました。勿論、新入社員から社長までは序列がありましてそれなりの給与区分があります。
 今年は、お蔭様で業績がよく、社員に給与を払った後の残が二、三五〇万円ぐらいあります。これを値下げの原資に回しますから、業績が上がればどんどん値下げが可能になる仕組みです。

「よい分散・よい集合」で危機を脱出
 業績としては、去年で八〇億円、今年もたぶんそれ以上の増収になると思います。ここまではうまくいってるように見えるかもしれませんが、危機はたくさんありました。
サラリーマンが会社を起こしますと、みなものすごく都合の良いことをいい出します。
 「サラリーマンの時と同じように安定して給料が欲しい」、「誰からも命令されず、儲かったら給料をいっぱい欲しい」、「ノルマは当然なくて、ライフスタイルに合わせて仕事をしたい」、「週休三日は欲しい」。
まったく自由奔放ですね。
その時にこれではうまくいかないなと思いまして、自分のライフスタイルに合わせた仕事を選べるようにしました(注)。これを「よい分散」と称しています。
同じ野球でも草野球をやる人、甲子園をめざす人、プロをめざす人がいるわけです。この人たちが同じ練習をしたら必ず崩壊するということでこの分散をしたわけです。ボランタリーチェーンをやる人には、仕入れなどは全部お手伝いしますし、週休五日でも六日でも結構ですといっています。
 それから仲間主義が悪い点は、互いに大目にみるところがあります。これはだんだんうまくいかなくなります。そこで仲間でも同心円で軸に近いところの仲間と、ちょっと外れたところの仲間とがあって、それがいったりきたりできるようにしておくべきであると考えました。この人と一生やっていくという関係よりも、フレキシブルに、自由に関係を結べるようにしたのです。これを「よい集合」と称しています。この「よい分散・よい集合」で、危機を脱しました。

(注)ライフスタイルに合わせた仕事の選択
 @トゥーワンを日本一にしたい人 (トゥーワンのレ  ギュラーチェーン)
 Aフランチャイズでトゥーワンを利用しながら店を経  営したい人(フランチャイズ制)
 Bトゥーワンの指示を受けるのは嫌だが、トゥーワ  ンから仕入れをする店を経営したい人(ボランタリー制)

「仲間主義」の会社
日下 社員になるには、七〇〇万円の出資が必要なんですよね。
平本 いえ、金のある人には、持ってきてくださいといいますが、ない人にはしっかり貯めて下さいといいます。新入社員が二〇歳で入って、三〇歳で一千万円貯まるはずです。その後、一千万円を原資にして新しい店をつくるか、我々と共同経営するか、自分で独自に他のめがね店をつくるか、なにしても結構ですよと。
日下 七〇〇万円は社内預金として預かるのですか。
平本 社内預金と株式があります。一応いまは社内預金です。
日下 それは辞める時に返すわけですね。
平本 返す予定ですけれど、会社が左前なら返さないこともあると宣言しています。銀行でもみんなが取りに行ったら、金を返してもらえないと思います。ですから社員から取り付けが来た場合は、私が体を張って「堪忍してくれ」というつもりですけどね(笑)。その前に私の分を先に全部取るといえば、「ここは建て直しを図ろうではないか」と社員からいってくると思います。
日下 共同体とか家族主義経営とか、それが看板ではなくて、本当に会計制度としてそうなるようにしてあるわけですね。
平本 そうです。
日下 エアコンをつけたいといってきた人がいて、誰も賛成してくれないなら自分が出資した七〇〇万円のなかから出すといったそうですが、それはどういう仕掛けですか。
平本 たとえば新しい店をつくりたいといった時、三人が賛成して、あとはみな反対したとしたら、賛成する三人の出資金でやれることを全部やっていこうということです。すべての人の賛同を得ようとすると小田原評定になります。
日下 分社が勝手にできるということですか。
平本 分社であろうが、独立であろうが、好きなようにできるということです。

相対評価の愚

日下 以前お聞きして感心したことの一つに、前の会社では競争制度があり、お互い皆敵同士になって大変辛かった。そこでこの会社では、断じてそういうことはしないといわれました。その辺のことを教えて下さい。
平本 相対評価というのは、相手をやり込めるということですよね。スポーツでよく「正々堂々と闘います」とかいいますが、あれはほとんど嘘です。とにかく相手の裏をかくためには、目はこっちを向けながら、球は向こうへ投げるとかですね。でもそれはルールがあるスポーツだからいいんで、会社でやりますと悲惨です。
店同士で競争させますと、こちらの店がどんなに暇であっても、忙しい相手の店に応援を出しません。一見すると店同士の競争はいいように思えますが、結局自分の店しか考えませんから、効率は非常に悪くなります。
いま私どものところで一三〇メートル離れた二軒の店がありますが、片方が忙しく、もう片方が暇なら、暇な店から忙しい店へみんなで手伝いにいきます。お客さんが大勢見えた時は、お客さんに「すみませんが、この店は狭いですから、向こうの店に行ってください」といいます。お客さんは店にノルマがあると思い、気を遣って、行かないでくれようとする場合がありますが、「お客さん、ぜんぜん気になりませんから」といいますと、みんさん、本当にびっくりされます。

「私のボーナスを使って下さい」
日下 平本さんのお話は、我々が忘れかけていた共同体精神というものを思い出させてくれます。ところで、平本さんだけではなく社員の中にも共同体精神を自然に持っていらっしゃる方がいると聞きました。「私のボーナスを使って下さい」といった女性がいるんですって。
平本 会社をつくって三年ぐらいたったときでしょうか、やっとボーナスを出せるようになったので、ある女性にボーナスを支給したんです。そしたらこの女性が来て、「このお金は平本さんたちが使って下さい」というわけです。そうもいかないといいますと、「それなら私が預かっておきます」と部屋を出ていきました。
それから大分経った後にテレビの取材があり、テレビ局の人がその話を入れたいといってきました。するとボーナスを拒否した女性が、「預かってはいたが、実は結婚して子供ができ、お金が必要になって全部使ってしまった。美談でもなんでもないです」と泣き出してしまったんです。そういうことがいえるのは本当にきれいな心根の人だなと思いました。

心変わりを防止するために
平本 どんなに優秀な経営者でも年をとれば、きっと強欲になります。ですから二期四年で社長は交代し権力が集中しないようにします。
チラシでも決算報告をしています。チラシは税務署の職員も見ますから、嘘を書けば税務署はすぐ飛んできます。私たちが会社に利益を残さず、社員への還元とお客様への値引の原資に回すということを、消費者の方にも税務署の方にも約束することになり、私どもの心変わりを防止する意味も込めています。
日下 トゥーワンは相互不信のグローバルスタンダードではなく、人情と合理性を兼ね備えた「ジャパンスタンダード」で元気にしている会社であることがよくわかりました。そして共同体とはいかにあるべきかを教えてくれました。