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平成17年3月1日付弁論要旨(補充)(要約) (プレス向け)

第1 志賀の証言が信用できないことについて

1 志賀の証言は一貫性がなく曖昧で,証言内容はそれ自体が論理矛盾し客観的事実に反するうえ,同行していた末永の証言と重要な部分において一致しないものであり,真実性を欠き信用性がない。

2 検察官は,志賀が同種事案の検挙経験豊富な警察官であるというが,志賀の説明によれば同人が検挙した現認事案は,平成14年に27件,平成15年に17件,平成16年に12件(本件を除く)ということであるから年間平均18件であり,そのうち盗撮やのぞきの事案は年間平均6件にすぎない。しかも,その検挙事案のうち鏡を使用したのぞきの事案は3年間で3件にすぎないというのであるから,志賀の同種事案の検挙経験は極めて稀だと言うべきである。このように検挙経験に乏しいのは,後述するように鉄道警察隊が列車内や駅構内の安全警備を主たる任務とするからであり,その警備中にすりや盗撮の犯行現場にたまたま出くわして検挙する程度にすぎないからである。志賀は盗撮事案の取締りを専門にしていたわけでもない。それにもかかわらず,検察官は,志賀の証言に信用性がある理由として,志賀が同種事案の検挙経験豊富な警察官だとかこの種犯罪の検挙を職務とするベテラン警察官だとかやたらと強調し且つ頻繁に述べるが,もはや誇張の域を超える虚偽の表現でしかない。
そもそも,鉄道警察隊は,犯罪の予防や捜査を主たる任務とする警察署の司法警察職員とは異なり,鉄道施設における公共の安全と秩序維持を任務とする。そのため,鉄道施設における警ら以外に,鉄道施設(線路や保安設備)の警備,雑踏警備,列車輸送の警備,鉄道事故の防止等を任務とするうえ,事件や事故の現場で逮捕等の初動的措置を行った場合にはその処理は関係警察署へ引き継がなければならないとされている(鉄道警察隊の運営に関する規則(平成4年12月15日国家公安委員会規則第21号)第3〜4条)。
なお,鉄道警察隊の任務は鉄道事業に供される鉄道施設(列車や駅)内に限られているのにもかかわらず(上記規則),志賀と末永が,鉄道施設には該当しないデパートや駅ビルの中を特定の取り締まり目的もなくただ巡回していたというのは極めて奇異なことである。志賀は,同種事案の検挙経験が乏しいのにも関わらず,鉄道警察隊としての職責を忘れ,何でもよいから犯罪検挙し手柄を立てたいという強い気持ちを有していたものと思われる。

3 志賀の証言を裏付ける事情として,検察官は,末永が本件エスカレーター上で被告人の手元をのぞき込んでいる志賀の様子を目撃しており,その目撃内容が志賀の犯行現認状況と一致するからだと述べる。
  末永の具体的な目撃証言とは,階段のちょうど中間辺りで「志賀部長が被告人の体の右側から,その手元をのぞき込んで,その後,被告人の右手をちょっと押さえるというか,触っているようなところを見ました」というものである。しかし,この末永の証言は次のとおり客観的状況に反するものであり全く信用性がない。
  まず,末永が歩いていた階段上からこのような志賀の様子を目撃することは客観的に不可能である。被告人と志賀が乗っていたエスカレーターと末永がいた階段との間には手摺りよりも高い障壁があるうえ,階段はエスカレーターのステップよりもかなり低い位置関係にあり,特に末永が目撃した場所とされる階段の中間辺りでは上記障壁は階段を歩行する者の頭上を越える高さに及ぶ(障壁は階段を歩行する男性の頭上を越える高さで,手摺りパイプの位置の倍以上の高さに及んでいる。)。
  次に,末永が目撃したのは被告人の左側面である。ところが,志賀はその被告人の右側後方から被告人の手元をのぞき込み右ひじ後方をつまんだというのであり,末永の位置からは志賀は被告人の影になってしまい見ることができない。特に,志賀は,被告人の後ろにはエスカレーターの利用客が数人いたため被告人の直後に割り込むことができなかったと述べており,末永の位置からは,被告人の右側後方に位置していた志賀は,被告人の後ろの利用客の影になってしまい見ることができない。このように,階段とエスカレーターとの間の障壁の存在,階段とエスカレーターとの高低差,志賀と被告人との位置関係,被告人後方の利用客の存在等の客観的状況によれば,末永が志賀の様子を目撃することが不可能だったことは明白である。

4 また,検察官は,被告人がズボンの左ポケット内に鏡を携帯していたことが,志賀の目撃証言を裏付けると述べる。
しかし,ポケット内に鏡を携帯していたということは,被告人の日常の習慣を述べるにすぎず,志賀の目撃証言を裏付けるという論理にはなり得ない。被告人がポケット内に鏡を携帯していたことに志賀が気付いたのは,エスカレーターを降りて所持品の提示を受けたときである。しかも,志賀は被告人に対して鏡を出せと要求したわけではなく,ポケットの中のものを出せと要求した。このような表現になるのはポケットの中に何が入っているか分からなかったからであり,その言動は志賀が鏡の存在を知らなかったことを裏付けるものである。

5 さらに,検察官は,横浜の駅ビル内や駅構内及び品川駅構内での被告人の行動が不審だったということを強調し,そのことによって志賀の目撃証言が信用できると述べるが,そもそも,被告人の行動が不審だったというのはすべて志賀の目撃証言に基づくものであるから,その点に関する志賀の目撃証言が信用できることをまず立証しなければならない。しかし,既に弁護人が具体的且つ詳細に指摘しているとおり,志賀の目撃証言の内容は,それ自体が論理矛盾し,客観的な事実関係に反し,同僚の末永の証言と食い違うものである。被告人が不審行動をしていたという志賀の目撃証言が信用できないことについては,本年2月21日の弁論において詳述したが,その概要は以下のとおりである。

(1) 横浜駅ビル内の目撃証言について

@ 志賀が被告人の追尾を開始した理由は,被告人の行動態様が不審だったのではなく,服装等の外観にもとづく勘にすぎない。横浜シァルという若年の女性客の多い駅ビルではあまり見かけないスーツ姿の中年男性だったことが追尾開始の主な理由である。

A 志賀が正面から被告人の目を見たとする3階から2階へ向かう下りエスカレーター上からの目撃証言は虚偽である。志賀が初めて被告人を目撃したのは,2階の上りエスカレーター乗り口付近を通過する際にエスカレーター上の被告人の後ろ姿を発見したときである。反対の下りエスカレーター上から被告人を目撃したという志賀の証言は虚偽であり,論理矛盾する不合理な内容である。

B 上りエスカレーター上で被告人が前方の女子高校生をのぞき見るような行動をとっていたという目撃証言も虚偽である。志賀が上りエスカレーターへ乗り込んだ時点で被告人は同エスカレーターを降りて別のエスカレーターへ乗り換えた後であるから,志賀から被告人の様子を目撃することはできなかった。仮に,志賀の説明のように被告人がまだ同じエスカレーター上にいたとしても,そのとき前方の女子高校生はとっくに同エスカレーターを降りて別のエスカレーターへ乗り換えた後であるから,被告人がその女子高校生をのぞこうとする客観的な状況は存在しなかった。

(2) 横浜駅京浜東北線ホーム階段下における志賀の目撃証言

@ 被告人は,階段下の公衆電話のある場所で京浜東北線上り列車を待っていた。暫くすると列車が来たように思い階段の下まで様子を見に行ったものの,かん違いだったのでまた公衆電話の場所へ戻り,上り列車が来るのを待って階段を上った。このとき被告人がかん違いしたのは,ホームに下り列車が到着するアナウンスが聞こえたからである。被告人は午後2時22分発の上り列車に乗車したが,その直前の午後2時21分発の下り列車が同じホームへ到着している。

A 被告人が向かったのは,乗ろうとし実際に乗った京浜東北線の階段であるから,ごく当たり前の行動である。

B 大勢の京浜東北線の利用客がホームを乗り降りする中で,京浜東北線の階段のみに女子高校生がいたわけではない。どの階段にもホームにも女子高校生はいたであろうし,そのほとんどがミニスカートのようにスカートをたくし上げていたであろうことは容易に想像が付く。

(3) 品川駅山手線ホーム上の志賀の目撃証言

@ 志賀は,被告人が,裾が膝より少し上のスカートを着用した女性が階段を上っていく方向へ移動したことをもって,その女性のスカート内をのぞき又はのぞこうとしていたことは明白だと述べるが,階段を歩行しながらそのような裾丈のスカートの内部をどのようにしてのぞけるというのだろうか。女性の足元にしゃがみ込んでものぞきようがないほどに不可能である。むしろ,階段方向へ移動した行為をもって不審行動だと決め付けることが,志賀の思い込みの強さと深さを端的に物語るものである。

A なお,志賀は,このホーム上での目撃内容について,被告人がいた場所等の重要部分に関し,平成16年6月3日に行なわれた実況見分において具体的且つ詳細に指示説明した記載があるのにもかかわらず,第1回公判でその内容を訂正する旨を述べている。供述内容を都合のよいように変更するもので志賀の証言には信用性がない。

6 被告人が志賀に対して抗議したり抵抗したりしなかったことをもって志賀の目撃証言の信用性を裏付けると検察官は主張するが,論理に飛躍がある。
被告人は,エスカレーター上で志賀に対し「何をするんですか。何にもしていませんよ。」「違法なものはありません。」等と抗議している。しかし,これに対して志賀はどのような容疑なのか説明することもなく,現行犯逮捕した旨を告知することもなく被告人を交番へ連れて行った。その間,被告人はどのような容疑で交番へ連れて行かれるのか理解できず,さらにどのような理由で高輪署へ連れて行かれるのか理解できないまま,携帯電話の保存画像について盗撮を疑われているものと思い込んでいたので,公衆の面前で騒ぎ立て目立つことを恐れ,交番か警察署で質問を受けたときに説明すれば必ず疑いが晴れると自信を持って考えていた。なぜならば,携帯電話の保存画像には盗撮を疑われるようなものが一切なかったからである。盗撮画像ではないことが一見して明らかであったからこそ,携帯電話の保存画像について盗撮を疑うような取調べを受けた事実がないのである。
鏡によるのぞき見をした容疑で逮捕されたことを初めて知らされたのは高輪署において松田の弁解録取を受けたときである。被告人は志賀から逮捕事実の告知も受けていなければ逮捕理由の告知も受けていない。被告人としては,何をどのように説明していいのか防御の目標が定まらず,防御しようにも手の施しようがなく,その真意をあれこれ憶測しては不安に悩まされながら焦燥に駆られるだけである。逮捕事実の告知も受けず逮捕理由の告知も受けないまま,職務質問の延長状況にあると思っていた被告人が弁解防御しなかったからといって何の不思議があろう。逮捕の告知も受けず,手錠等による身体的拘束を受けた事実もなく,ただ警察官から言われるままに交番から高輪署へと任意同行に応じたものにすぎないのと同じである。現行犯逮捕もなく令状逮捕もないまま留置場に勾留されたものであれば被告人の身体的拘束は違法であり,結果得られた供述内容は本来証拠能力を有するものではない。
なお,被告人は携帯電話の保存画像をチェックした志賀に交番へ連れて行かれて高輪署で松田が弁解録取を取るまでの間,何ら具体的な質問を受けなかった。検察官は,被告人が交番において末永に対し被害者のスカート内をのぞき見る意図があったことを認めていたと主張するが,その点に関する末永の証言は信用性がない。仮に,被告人が交番で犯意を自白していたのであれば極めて重要な出来事であるが,末永作成の犯罪捜査報告書には全く記載がなく,志賀の検察官に対する供述調書にも全く記載がなく,むしろ,被告人は弁解したり言いわけしたりすることなくほとんど無言だったと記載されている。志賀は公判で全く証言しなかったのに,その後の公判になり,初めて志賀がこのような重要な事柄を説明し始めたというのは不自然極まりない。末永は,平成16年4月16日に自ら作成した捜査報告書の記載内容を公判での証言で多々訂正し,同報告書の記載内容と証言とではどちらが正しいか断言できなくなる始末である。初動捜査後は警察署へ引き継ぐ義務のある鉄道警察隊が交番で直接被告人を取調べたという説明も到底信用できない。
この末永の証言に信用性がないことについてはさらに後述する。

第2 被告人には動機がないこと
 
 検察官は,押収物の内容から被告人にはのぞき見や女子高校生やその制服に対する性的嗜好が強くあるから本件犯行の強い動機があったと主張するが,このような検察官の意見は極めて短絡的で危険な論理である。まるで被告人が違法な行為を繰り返していたかのように述べるが,すべてが市中で販売されている適法な商品であり相手の承諾を得た適法な行為である。むしろ被告人がそのような趣味嗜好について十分満足を得ていたことを知り得る重要な事実にすぎない。高輪署の警察官古旗が被告人を取り調べた際に,日常生活の中で風俗店へ行くことを勧めたのは,そのようなことで満足すれば犯罪に走らないという経験に基づく信念を有していたからである。とすれば趣味嗜好を十分に満足させていた被告人は犯行に及ぶ理由もなければ必要もない。それでも満足できずに社会的名誉や地位を失う危険を冒してでも犯罪を敢行したという特別な事情は何ひとつ見当たらず,検察官も一切言及できないままである。
 なお,携帯電話やデジタルカメラによる盗撮の容疑で起訴されたのであれば,押収された携帯電話やデジタルカメラによる撮影画像をもって被告人の趣味嗜好を論ずることもできようが,鏡によるのぞき見では全く態様も事情も異なる。動機を論ずるのであれば,何故発覚するリスクの少ない携帯電話やデジタルカメラを使用しなかったのかという理由についても言及するべきであるのに,検察官はこの点について全く言及していない。

第3 被告人の不利益供述について

1 交番での末永に対する供述については,そもそもそのような被告人の供述があったとする末永の証言に信用性がないことは既に指摘した。
  末永は,そのとき被告人が見ようとしたけどやめたと述べたと証言しているが,まるで松田作成の弁解録取の記載内容に合わせたような話である。末永は,何度も高輪署を訪れて松田と共に実況見分調書等を作成しているので,松田が弁解録取書に記載した内容を聞きそれを補強する目的で上記証言を突然始めたものであろう。被告人が鏡を出したかどうかという行動態様については全く述べないまま見ようとしたとだけ述べたというのはあまりにも不自然である。

2 検察官は,被告人が松田に対して,スカート内をのぞき見る意図で鏡を持っていたがスカート内はのぞいていないと供述したと述べているが,そのような供述はなく事実を歪曲する主張である。
 まず,松田作成の弁解録取書では,手に鏡を持っていたがスカート内に差し出した事実はないと被告人が供述したように明記されている。ところが,第8回公判において,松田は,鏡を包んだハンカチを差し出したと被告人が供述していたと説明を変更したうえ,包んだハンカチをめくることができなかったと被告人が供述していたという新たな説明を付け加えた。この松田の証言は,自ら作成した弁解録取書の記載とは一致しないが,古旗が最初に作成した員面調書の記載内容と表現方法まで一致するものである。古旗作成の調書内容に合わせて証言しようとする意図が明白で信用性は全くないとともに,弁解録取書も信用できないものであることが露見している。
 松田による弁解録取後に,古旗は被告人に対して不当な利益誘導等を用いて内容虚偽の調書作成に承諾させたため,弁解録取書の記載内容と古旗作成の員面調書の記載内容は相違する。このような記載内容の相違は,古旗による不当な取調べ状況があったことの証拠となるため,松田は古旗作成の員面調書の内容に一致させようと供述内容を変更し,古旗の不当な取調べがあった事実を誤魔化そうとするものに他ならない。当初作成の弁解録取書の記載内容が作文であるからこそ容易に変更を試みるのであろう。

3 古旗作成の2通の員面調書が,いずれも供述調書といえないような作文にすぎず記載内容が事実に反することについては既に十分詳論し,被告人に調書の閲覧も読み聞かせもせず録取内容を確認する機会を奪った違法性があることも指摘した(刑訴法198条)。ここではさらに調書の具体的な記載内容について検証し,論理矛盾すること甚だしいことを以下指摘する。
 まず,4月8日付けの員面調書では,被告人が鏡を包んだハンカチを両手で包み込むようにして持っていたが,体が硬直してハンカチをめくることができなかったという記載内容になっている。しかし,両手で持ったハンカチをスカートの裾下へ差し出すことは不可能である。また,両手の中にハンカチが包まれているだけの外形的事実しかないのであるから,そのような行為は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条1項に規定されている「人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」には該当しない。客観的外形的事象としては,ただ両手に包んだハンカチを差し出す行為にすぎず,外部からは鏡が包まれていることは全く知り得ないので,人に羞恥又は不安の感情を抱かせるに足る外形的危険性のある行為ではない。
 また,4月9日付け員面調書では,ハンカチをめくって鏡の向きを調整していたがのぞき見る前に捕まったという内容になっているが,ここでも両手で包み込むようにして持っていたという内容になっている。前記員面調書と同様,仮にそのような状況であれば,両手で持ったハンカチをスカートの裾下へ差し出すことはできない。
志賀や松田は,これら調書の記載内容をもって被告人が差し出し行為を認めていたと証言するが,上述のとおり調書に記載されているのは差し出し行為となり得ないような説明である。
検察官はこれらを一部自白の不利益供述だと述べるが,いずれも内容に合理性のないことが明らかな拙劣な作文でしかなく,志賀の目撃証言と異なること甚だしく,自白調書といえる内容のものではない。作成した古旗が供述を多々変遷させることに鑑みれば公訴事実を立証するのに役立つ証拠となり得ないことは明らかである。

4 検察官による弁解録取書について
 検察官は,ここでの被告人の供述内容が古旗作成の供述調書の内容に一致すると指摘する。しかし,むしろそのことこそ,被告人が古旗から言われるままに虚偽調書の作成に協力していた事情を知り得る重要な事実である。

5 裁判官の勾留質問に対する供述について
 被告人は裁判官の勾留質問に対して明瞭に全面的な否認をした。その際にハンカチに包んだ鏡を取り出した旨を供述したが,被告人としては,ハンカチの中に鏡が包まれていたかどうか明瞭の記憶がないまま,供述をした。後日よく当時のことを思い出すと,ハンカチの中に鏡は入っていなかったというはっきりとした記憶がよみがえった。エスカレーターを降りてから志賀の要求に応じてポケット内の所持品を出したとき,被告人はハンカチと鏡を順次取り出したが,鏡がハンカチに包まれていたままであれば別々に順次取り出すことはあり得ない。

第2 被告人の説明に信用性がある理由

1 人柄や経歴,職業等により,被告人は知人や世間一般から絶大な信用を得ており,経済評論家としての名声と社会的な地位を確立していた。そのような名声と地位をすべて失うリスクを賭して行ったというには,検察官が主張する公訴事実は想像もできないほど余りにも不用意且つ拙劣な内容と態様である。

2 被告人は,テレビ出演が増えるに従い,自分の服装や容姿について神経質なほどに気を配り,そのために鏡を携帯していた。男性がこのようなエチケット・ミラーと呼ばれる小型の鏡を携帯することは,テレビ出演をする者であれば被告人に限らず携帯していることが多い。

3 また被告人は常にどこでも人から見られているという意識が強かったから,公衆の面前も同様の開放されたエスカレーター上で,対向する利用客の視線を憚らずに犯行に及んだということは全くあり得ない。

4 被告人は,自己に不利益になりそうなことも含めてありのままを終始一貫して供述している。志賀や末永が目撃もしていないことについて,それが被告人にとって不利益に思えることについてもありのままに供述している。

5 4月12日に裁判官の勾留質問を受けたときより,エスカレーター上を撮影していた監視カメラを検証するよう強く要求していたことは,被告人が無実でなければできない言動である。罪を免れようとするのであれば,このような要求をすることはあり得ない。
  検察官は,カメラの設置角度により犯行現認場所は撮影範囲外であると述べるが,何の根拠もない虚偽説明である。カメラはエスカレーターの上下からそれぞれエスカレーター上の様子を監視する目的で設置されているものである。エスカレーター上の被告人や志賀の様子が撮影されていない訳がない。当初より否認している事案にもかかわらず,しかも被告人が執拗にカメラの録画映像を確認して欲しいと要求したのにもかかわらず,直ちに捜査に着手しなかったことは不自然である。

6 身近な親類縁者はもとより大学の教え子,財界人,衆参両議院の国会議員に至るまで多数の者が,何かの間違いではないのか,被告人が無実であることを確信しているので公正な裁判を求める,という内容の上申書を作成している。興味本位のマスコミ報道にもかかわらず,老若男女を問わず被告人の公私両面を知る者たちからこのような上申書が提出されるのは,被告人が順法精神を有する厳格な人物であることの証である。

7 なお,他に検察官が指摘する問題点については,被告人の供述の信用性を左右するようなものではないことは明白であるが,念のために以下若干述べるものとする。

(1) 検察官は,横浜駅地下街の書店(有隣堂書店)で子供の誕生プレゼントにする学習漫画の購入を思いつかなかったことは不自然だと述べる。
しかし,被告人は経済学者であり活躍中の経済評論家でもあり,経済問題に対する研究心や探求心が,私生活への関心を大きく上回っていなければそのほうがむしろ不自然である。専門分野の職に就いている者であれば,講演後の疲労,反省,研究心の高揚や興奮,新たな発想等のいろいろな思いで頭が満たされることは被告人ばかりでなく誰しもが経験しているところである。講演終了後は経済問題に対する関心で頭がいっぱいであったという被告人の説明には何の偽りもない。そのような被告人の具体的な職業や環境・状況等を無視した検察官による行動分析は暴論というほかない。
因みに,同書店の子供用学習書の販売コーナーの規模は極めて小さく,現実に目的の学習漫画は数冊置いてあるが第1巻から揃っていたわけではなくバラバラであった。そのような状況は平成16年4月17日に弁護人の調査により判明しているが,それを承知の上で被告人はありのままの事実を記憶のままに一貫して供述しているだけである。仮に,被告人が上記書店の前で書籍購入の予定に気が付いたとしても他の書店を探したことは明らかである。

(2)検察官は,不審者から追尾され不安に思った被告人が横浜で書籍購入を断念したことも不自然だと述べる。しかし,被告人は他人との争いごとを好まない温和な性格であり人一倍礼節を重んじる性格であるから,複数の屈強な男性から追いかけられた場合には一刻も早くその者たちから離れようとするのがむしろ普通の行動態様である。そのような被告人の性格は公判を通じて十分に立証されている。
また,検察官によれば,被告人は志賀や末永の追尾に気が付いていなかったと主張し,さらに当日の被告人は多忙ではなかったとも主張する。そうであれば,被告人が横浜の駅ビル5階の書店を足早に出てから直ちに1階のコインロッカーで預けたばかりのアタッシュケースを取り出してへ横浜駅へ向かった行動は説明が付かない。志賀が被告人を発見してから被告人が横浜駅の改札口を入場するまでの時間は僅か5分間程度である。

(3) 品川駅から被告人の自宅に向かう走行車両内で携帯電話の通話状況を警察官が実験したというが,その実験の結果判明した通話状況が悪い場所は,被告人が当初より説明している場所と全く一致する。上記実験結果は被告人の供述の信用性を裏付けるものである。
また,被告人が電話しようとした知人については,被告人から電話がないために,被告人が逮捕されたという午後3時から僅か9分後の午後3時9分に被告人の携帯電話へ着信した記録があり,翌日も午前10時36分と午後1時9分の2回の着信記録がある。警察官も同人への電話連絡が必要だった具体的な事情を直接知人から確認して4月21日付けの答申書を作成させ被告人の説明が正しかったという裏付けを取っている。被告人が電話をする必要に迫られていたことは紛れもない事実である。
以上のとおり,検察官の論告内容は,被告人の説明内容を弾劾する証拠もないままただ不自然だと強調するだけであり,その不自然だとする評価も具体性を欠く検察官独自のものにすぎない。
                                                             以上




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