[永遠に] of [哀しみの追憶]


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第十三章 永遠に

 ロバートは安心してロイを抱き上げた。
 もといたソファに戻して寝かせると、毛布をかけなおして、そのそばに座り込んだ。
 いつのまにか包帯がほどけて取れてしまったロイの足の裏からは傷が開いたのか、血がひどく流れていたが、顔色がすっかり戻り、穏やかな息をしていた。
 消毒をしなおし、新しい清潔なガーゼを当ててやっても、ロイはこんこんと眠っているようだった。
 金色の髪が、柔らかく額にかかっていたが、ロバートはもうそれを見ても、ときめいたりはしなかった。

 ロバートはひどく疲れてはいたが、気持ちは軽くなっていた。
 部屋が冷えてきていた。
 暖炉の火をもう少し強くしなければと、薪をくべ始めると、後ろで声がした。すまない、と言ったように思ったが、良く分からなかった。振り返ると、白いぼんやりとした姿が、眠っているロイのそばに立って、その頬にキスをしているように見えた。
「さよなら…」
 ロイが目を閉じたまま、夢のように呟いた。
 テリーはロイを開放したらしい。
 ぼんやりとしたものは、まっすぐにロバートのもとへ歩いてきた。
 ロバートはもう、恐れなかった。人の形をしたものは、やがて小さく縮んでいき、すうっとロバートの胸の中に入ってきた。
 感触など何もしなかったが、ロバートは今、自分の中にテリーが入ってきたことを確信していた。

 朝まで、そこにしゃがみこんだまま、ロバートは窓の外を眺め続けた。
 だがどんなに目を凝らしてみても、二度とテリーの姿は現れなかった。

 ……お前の美しい姿だけを覚えておこう。
 輝くような濃い金の髪と、桜貝のような唇。青緑の宝石…。滑らかな肢体を。その中にそっと息づくおまえ自身を。未来に向かって歩いていた、眩しいばかりのお前の姿を。
 体中から血を流して、二度と彷徨うことのないように。
 そして、二度とこの世に呼び戻すような愚かなことはするまい。
 ロバートにできることは、それしかなかった。ずるく小心な私に愛想をつかすかもしれないな、とロバートは一人嗤った。
 でも、それがロバート・バークという男だ。

 サマンサという妻を持ち、海軍特殊部隊の責任者。大佐という襟章を後生大事に身につけている平凡な男……。
 それがお前の愛した男の本当の姿なのは、お前にだって分かっていたはずだ。
 そして、テリー・ランドという男の魔力に生涯取り付かれ、恋をし続けている男だ。
もうすぐ年寄りの仲間入りをし、退役軍人となって祖国を見守ることになるだろう。思えば大して年は違わないのだ。テリーだって一緒に老いていく。
 だが、それでもお前はいつまでも美しさを失わない。
 私が生きている限り…、とロバートは胸に手を当てた。
  
 愛しいお前……。ロバートは心に呟いた。
 
 テレンス・ランド。
 私の中に永遠に閉じこめられた、私の恋人……。














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