[ネイビーシールズを見た午後] of [ロイジム映画評]


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ネイビーシールズを見た午後

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 エンディングが終わり、あ~とジムはため息をついた。
 ロイのビーチハウスの、広いリビングにあるテレビで、たった今、映画を見たばかりなのだ。
「なかなか、おもしろかったな。うちの退役隊員の将校殿が、アクションやディテールを指導したそうだ。その甲斐あって、まるで特殊部隊宣伝映画みたいによくできてたな」
 満足げなジムの言葉に、ロイが、つまらなそうに頷いた。
「空、陸、海とすべてを駆使して敵地に挑むってあたりまで、盛り込んでるからいささか、忙しすぎる感は否めなかったけどな。最後は7人で乗り込んで、あのチームには補充はいなかったのか?」
「いやまあ、そういうな。ぞろぞろ出したんじゃ、誰が誰だか分からんだろう? 映画の手法ってのはそんなもんさ。この入隊お勧め映画のおかげで、sealsに入隊しようかって人間が増えたかもしれん」
 ロイは、傍らの珈琲を手に取った。
「そのためには、まず海軍入隊が先だ。それから志願して、こんな映画につられるんじゃなかったって、目にあって……」
 ジムは苦笑した。
「漫画や、映画の影響は大きいんだ。どんな理由であるにしろ、トライする人間が増えるのは悪いことじゃない」
「まあ、空中降下や、潜るシーンはよかったな。今はもっと、便利なものを利用しているが。少々古い映画のせいか、アナログな部分があるのが気になったが……昔はあんなもんだろ」

 ロイの酷評を受け流し、ジムは、しみじみと呟いた。
「しかし、あの曹長の恋人は気の毒だったなあ。結婚してたら、彼が死んだとき、旗がもらえたのに。最初の教会での呼び出しのおかげで、結局夫婦にはなれなかったままだなんて、哀れを誘う」
 葬儀の時に、棺に掛けられる星条旗は、親族にのみ渡されるからだ。
 結局、結婚式を挙げられなかった恋人の女性には、その権利はなく、両親が受け取ってしまったシーンで、彼女は恋人の死の痛みよりも、その理不尽な運命を恨んででもいるかのように、亡くなった恋人の親友の大尉にそのことを質すのだ。
「旗なんかもらったって、仕方ないだろう?」
 ジムは、う、と喉を詰まらせて珈琲を飲み下し、目の前の恋人を眺めた。
「そりゃ、そうだが、――身も蓋もない言い方だな。……彼女にとっては、恋人の形見みたいなもんだ。あのシーンは、結局妻になれなかった女性の悲哀がよく出ているじゃないか。あんた、ああいうシーンをそんなふうにしか見てなかったのか?」
 ロイは口をへの字に曲げた。
「未亡人にならなくてすんだ」
「……ロイ…あんたって……」
「そもそも、おまえはやたら感動しているが、最初に死ぬのは曹長だぞ。それから狙撃手が死んで、火器兵が死んで……。うちでいえば、火器兵はレクで、狙撃手はジャック……」
 ロイは、言いかけた名前にはっとしたように、押し黙った。
 ジャックは、すでに墓に入っている。
 その墓には、遺体はない。
 隊長であるロイを庇って、自らが犠牲になった、心優しい男――。
「ロイ、今の狙撃手はミッチだ。……ジャックはその……気の毒だったが……」
 ロイはしばらく唇を噛んでいたが、やがて眉間に皺を寄せて低い声で続けた。
「それに、隊長の大尉は重症だ。腹部と足に被弾して、水に浸かって、あの大尉も潜水艦の中で死ぬぞ。さんざん走らされ、泳がされて、出血多量のはずだろう?」
「……言われてみると不愉快だな。曹長と大尉が死ぬんじゃ、話にならん」
 ジムは、笑いをかみ殺しながら頷いた。
 ずっと苦虫噛み潰したような顔で、映画を見ていたロイは、おもしろくないと思っているに違いないと、勘違いしていたからだ。
 勘違いどころか、自分たちが隊長であり、大尉であり、曹長であるために、すっかり感情移入してしまっているのだろう、とジムは思いながら、普段クールなばかりのロイの反応が、かわいくて仕方がない。

「大体、隊長があんなにいい男だなんて、おかしいだろう? リアルじゃない」
珈琲をひと息で飲み干して、ロイが呟いた。

「………そ、そうかなあ? あれ以上の綺麗な隊長を、俺は知ってるぞ」
目の前にいるじゃないか、と思いながらもジムは余計な言葉を口にはしなかった。ロイはちょっと遠くを見るような目をして、まじめに考えている。

「カーター少佐か? 確かにいい男だけど、少佐はもっと凛々しさがある。主役の俳優はいい男だったし、兵士の役は似合うが、現実にはないだろう」

「いや、他にも……、いるだろう?」
ジムは期待を込めたような目をして、目の前の人に鏡でも見せてやろうかと思いつつ、聞いてみた。
だが、ロイはあっさりと首を振った。

「俺は知らないな。他のチームの隊長は、みんなごつい」
とうとう、ジムは笑い出した。

「あんたって人が、よ~く分った気がするよ」

「あのチーフが死んだとき……」
 ロイが寂しげな顔で俯いた。「あの大尉は、つらくて写真立てもスタンドも倒して、部屋をメチャクチャにしてしまっていたな。一人になってから、暴れたんだろう。悔しさと悲しさで」

「……もし、俺が死んでも、あんたはあんなふうに取り乱したりはしないだろう?」

  不意に顔を上げたロイの表情は険悪だった。ひと息に、悪魔でも取り憑いたかのようだ。
「しない!」
「……しないか? やっぱり……」

  ジムががっかりしたように、顔を覗き込む。
「しない! 俺はなにがあっても、平然と過ごしてやる! いいか? おまえが死んだりしたって俺はなにも、なにも……」
 ジムがリモコンでDVDのチャプターを検索して、曹長の殉職のシーンを画面に映した。
 ロイはリモコンを取り上げ、振り回すようにして停止を押すと、怒ったように席を立った。

「ロイ?」

 ベランダに出て、ロイは海側に――さっきの映画の曹長の死を悲しんで、海を見ていた大尉のように――潮風に顔を当ててベランダに肘をついて立っていた。「俺は、死なんよ。ロイ。少なくとも、あんたより先に死んだりはしない……」

  ロイは返事をしなかった。
 ベランダに置かれた手に、映画の女性のように手を重ねると、ロイは唇を噛んで、海を眺め続けていた。
「……もう二度と……あんな映画なんか、見ないからな」
 ジムは微笑んで頷いた。

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後日憚―哀しみの追憶―

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