[談議その2] of [おもちゃ談議]


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おもちゃ談議 その2

「お、なんだなんだ、楽しそうに」
 一度酔って、つぶれて寝ていたビリーが、性懲りもなく復活したらしく、レクを押し込むように、席に着いた。
「おまえ……、大人しく寝てろ」
 芯から迷惑そうにジムが言うと、ビリーは鼻先で笑い飛ばし、レクスターのビールを黙って奪って一口飲んだ。
「うるせーな。なんだって? ジムの恋人の話?」
 邪険な視線をジムに飛ばした後、ビリーは子供をあやすような調子でロイに水を向けたが、ロイは返事をせずにグラスを傾けている。
「違うよ、大人のおもちゃのはなし」
 レクスターがぐいっとビールを飲む。「大尉とね、どれがいいか話し合ってんだ」
 ビリーは目を丸くしてロイの方を窺った。
「あんた……、そんなもんで慰めてるのか? 寂しいなら俺に言えば……」
「ちがう!」
 ロイがきつい声でとめた。「レクの話を聞いていただけだ」
「うん、大尉は使ったことないんだって」
 ビリーは笑い出し、「見たこともないだろ? おぼこなあんたじゃ」と、大尉の頬を手で掠めた。
「ある」
 飲み物を口に入れかけ、笑っていた三人全員の動きが止まった。
「ロ、ロイ」
 ジムがいなすように肩に手をかけると、ロイは憮然とした表情でその手を払い、「見たことくらい、俺にもある」と、凄むように言った。
「ほんとか? どこで見た?」
 ビリーの大声に、全員が注目し、なんだなんだと集まってきた。
「あんたがいったいどこで大人のおもちゃなんか、見たっていうんだ?」
 大人のおもちゃ~? と、周りに集まった連中が口々に言う。
 うそだろ? 大尉が? などという声も聞こえる。
 ジムは慌ててビリーの腕を掴んだ。
「大尉は酔ってる。やめろ、ビリー」
 珍しく、ロイは本当に酔っているように見えた。無表情な仮面がはずれ、酷く険悪な顔をしている。
「おまえらも…。今夜の大尉はおかしい…」と言いかけたジムを遮って、ポールが身を乗り出してきた。
「で、どこで見たんです? 大尉」
 ロイはポールをきつい目で睨んだ。
「ショップへ行った」
 ショップだと、と、周りがざわめいた。
 え? 大尉がか? と、相変わらずそのフレーズがくっついている。
「ショップ……。あなたが? 何を買いに……」
「買いにじゃない、見学だ」
 ロイはだるそうに頭を倒し、それから周りに立っている男たちに目をやった。「みんな、行ったことがあるんだろう? 俺が行くのがそんなにおかしいか?」
「い、いや……おかしいなんて」
 ポールが笑った。「意外だっただけです」
 周りにいた男たちも、お追従のように頷いた。
「で、誰と行ったんだ? あんた」
 ビリーの問いに、ロイは隣のジムの顔を見上げた。
「うそつきなんだ、ジムは…。さんざん人をからかって……」
「曹長、曹長が大尉を連れていったんですか?」
 ポールが言うと、ジムはにやりと笑い、「社会見学だ」と、言った。
 いっせいに笑いが巻き起こり、「社会見学か」と、てんでに納得したような声を上げた。
「初心だなあ。やっぱり……」
 ポールが安心したように笑うと、ロイは笑われていることに腹を立てているらしく、「どうせ俺は初心だ」と、呟いている。
「で、何を買ってきたんだ? だいたい、あんたそんな相手、いるのか?」
 ビリーが言うと、ロイは何度も頷いている。
「みんな、もうやめろ。大尉をからかうのは」
 ジムが制した。
「おまえは黙ってろって。で、どうした? 店の奥に引きずりこまれて、お試しをされたか?」
 ビリーの言葉に、ロイは目をはっきりと開け、怯えたような顔をした。
「それは、……やっぱり本当なのか?」
「あ?」
 ビリーが一瞬身を引くと、ジムがとうとう笑い出した。
「あんな店に一人で行くと、店の商品を全部試されるまで、帰れないんだよな?」
 皆が笑い出した。
「そうそう。大尉、一人で行っちゃ駄目だ」
 リックがげらげら笑いながら、調子を合わせた。「あんなとこにはマフィアがいて、捕まったら異国に売られる……」
 やはりリックも親からそう脅されて育ったクチらしい。だが、ロイの上品な両親は、そんな言葉で息子を脅したりはしなかったのだろう。
「異国……」
 ロイが息を飲み、目の前のレクスターの顔を見る。
「た、大尉……」
「おまえ、売られそうになったもんな、レク」
 ビリーが肘でつつくと、レクは「う…ん…」と気まずそうにロイを伺い、小声で「ビリー、もうやめようよ」と、囁いた。
「じゃあ、あの店にあるのは全部使うためというのも……ほんとなのか?」
「ええと……使わなかったら…何にするんです?」
 ポールがおかしそうに言うと、ロイは急に口を閉じ、下を向いた。
「かざり……かと…」
 小さな声の言葉が、伝言のように、周りに伝えられると、皆ぽかんと口を開け、それからうへへ……、と、てんでに笑い出した。
「かざる……あれをですか? 部屋に?」
 ポールが信じられないように呟くと、大爆笑が店内に渦まいた。
「もういい……。せいぜい皆で馬鹿にしろ」
 ロイは絶望したような表情で俯いてしまった。
「ロイ、もう帰ろう。送っていくから。今日はいったいどうしたんだ?」
 ジムが肩に手をかけると、ロイは頷いた。
「すまん……ジム…」
「なにが?」
「ぜんぶ、本当…だったんだな……」
 ジムは真顔になって、俯いている恋人の金色の頭を見つめた。
「……いや、飾ったってかまわないんだぜ、ロイ」
 ジムが言うと、また全員が笑い出した。
「かっわいいなあ」
 リックが身を捩っている。
「どっちなんだ?」
 ジムが立たせようとした、頭の下から唸るような声がした。
「笑ってないで、はっきりしろ! あれは使うんだな?」
「使うんですよ、大尉」
 ポールが立ち上がったロイに、そっと手をかけた。「あなたもいつか、買ってみたらいい。恋人と楽しむために」
「買わない……」
 ロイの口調が怪しくなりだした。
 ジムがさっさとドアを開ける。これ以上いたら、何をしゃべるか分らない、とジムは焦り始めていた。
「あんなもの……使われたくない…」

 小声で呟いた口を塞ぎ、ロイを抱えるようにして、ジムは表に飛び出した。










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