[影]of [金の砂銀の砂]

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 夕方から訪れてくれる仲間達のおかげで、ロイは賑やかな面々に囲まれることが多かった。
 サンクスギビングデイの連休は、ジムも一日中いてくれ、それが終わっても毎日病室を訪れては、いろいろと話をしてくれる。ジムはいつも面会時間のぎりぎりまでいては帰って行く。

 最初の手当をしてくれた医師から、担当を引き継いで現れたのはハルトマン医師だった。
 彼は特に軍関係者の入院の責任者でもあり、それは当然のことでもあったが、巡回にきた彼の姿を見たとき、ロイの眉が知らずのうちに潜まった。
「久しぶりですね、フォード大尉……いや、もう少佐になられたのだったかな?」
「お世話になります」
 医師は、いつものように艶のいい褐色の肌にうかべた冷淡な表情をして、ロイの診察にあたった。
「眠れないとか、そういう症状がありますか?」
「いえ、特に……」
「そう、だったらいいが。食事を少し残し気味なようですね」
「痛みがあって食欲がなかっただけで。次回からはちゃんと食べます」
「ふむ。まあ今回は単純な負傷のようだから」といいかけて、医師は口をつぐんだ。前回、この医師はロイという患者に手を焼いたのだ。
 驚くほどの痛ましい深手を負った患者は、眠れず、食欲がなく、体力が落ちるばかりで傷の治癒もままならなかったために、彼は強引に睡眠剤を施し、悪夢に悩んでいたロイに醒めない地獄の苦しみを与えたことは自覚がない。
 悪い人間ではないし、正しい治療を行っているのだろうが、彼から発散される冷徹な雰囲気と共に、患者の側の言い分をいっさい聞いてくれなかったやり方に、ロイは拒否反応がある。彼がペイジと友人であるというのも、原因のひとつには違いない。
 その上、病院にいると、自分の身体が自分のものではないように扱われる気がするのは、神経が尖ってしまうからだろうか。
 痛みを抑えるために、容赦なく寝間着の裾をかき上げられ、痛み止めを押し込まれるのすら、ロイには耐えられない。特に今回は動きがとれないために、どこもかしこも当然のごとく勝手にいいように扱われ、患者には羞恥心などないといわんばかりの態度に思えて仕方がない。
 けれどもそれも耐えるしかない。
 食事を残してしまうことが問題ならば、無理にでも全部を食べるしかない。
 静かに、問題などまるでないようにふるまい、与えられた薬を飲んで一刻も早く退院したい――
 足首は全治三ヶ月、と診断されており、痛みがなくなるまでは絶対安静だとも告げられていた。
 激痛の時期も多少過ぎ、ホイットモアが元気な顔で訪れ、昼間から他愛のない話をしたり、読みたかった本を読む気分を取り戻すこともできるようになってきた。そういうことが、当初暗くなりがちだった気分を浮上させてもくれ、ハルトマンも「順調ですよ」と微笑んでくれることすらあった。
 一週間ほどもそうしていた頃、午前中の回診が終わって、静かな病室にひとりの影が現れた。
 少し疼痛がしてうとうととしていた眠りから覚めると、ロイは視線を感じて首を巡らせた。戸口に誰かが立っている。
 蛇のような、感情の読めない瞳がじっとロイを見ていた。
 思わず悲鳴すら上げそうになって、ロイは半身を起こした。

 見たことのある目だった。
 記憶と共にそれはロイの中に沸き上がるように、恐怖となってロイを包んだ。
 枕元に転がっていたブザーのボタンを探し、それを押してもう一度戸口に目を向けると、もう姿は消えていた。看護士の詰め所は廊下の突き当たりにある。
「どうしました?」
 すぐに大柄な看護士長が現れて、青い顔をしているロイを、労るようにいった。
「今、そこに――」
 なに? と大きな身体を巡らせて、女性の士長は辺りを窺い、「誰もいませんよ」と微笑んだ。
「誰も通りませんでしたか?」
「面会時間は午後からです。誰かよその患者さんが間違えて来たのかもしれませんね」
「ちがう、患者なんかじゃない……」
 やはり夢だったのだろうか、とロイは自分の動揺を証明するかのように震える手を見た。
 ショッピングモールで、じっとねめつけるように見つめていた瞳と同じものが、確かにそこにいた気がしたのに――
「確かにそこに……背の高い、蛇みたいな目の……」
「フォードさん、大丈夫ですか? 先生をお呼びしましょうか?」
 ロイははっとして、訝しげな目で見ている看護士に謝った。
「すみません、寝ぼけ…ていたようです」
 言いつのって変になった、と思われるのは避けなければいけない。
 ロイ自身にもはっきりとはしなかったが、病院がいやだと思っていたせいで、幻まで見たのだろうか? おそらくそういうことなのだろう、とやっと緊張していた身体をベッドに伸ばした。
 よりにもよってあの男がタイミング良く、こんなところに現れるわけがない、とやっと思えてきた。
 それでもその日から、廊下に足音がするたびに、ロイは眠りを覚まされるようになった。深夜、看護士たちが履く靴音とは違う音が響くたびに、どきどきと心拍すら上がる気がした。少し過敏になりすぎている、と自分を戒めながらもロイは落ち着かない気分を抑えることができなかった。
 そしてとうとう、ある晩またその顔が現れたとき、ロイはベッドから落ちかけるほど取り乱した。
 点滴のスタンドがひっくり返り、大きな音をさせて倒れたために看護士がかけつけ、夜勤だったハルトマンまでが顔を出した。
「どうしたんです?」
「ここの……ここの警備はどうなっているんです? 夜でも人が出入りできるんですか?」
「表玄関は閉めますが、急患もあるし、夜間出入り口や救急車搬入口は開いてます。また誰かが現れたんですか?」
 医師の顔が、冷たく観察するような瞳を湛えているのに気づいて、ロイはうなだれ、首を振った。
「……聞いてみた…だけです」
「悪夢を見たんですか?」
「いいえ。水を……取ろうとしただけです」
 これはトラウマなんかじゃない、とロイは自分にいい聞かせた。入院すれば、誰だって多少の憂鬱はあるはずだ。
 ロイは左腕を顔に乗せ、瞼を閉じてじっと堪えた。痛みなら我慢できる。けれども、自分が精神的に弱い、と判断を下されるのがなによりも怖かった。
 青ざめ、とてもそうは見えない様子に、医師は看護士に何事かを指示した。
 その晩は鎮静剤を打たれてしまい、ロイは悪夢に追われながらも眠った。
 追ってくる悪魔の顔の、蛇のような目が赤く光り、身動きできないロイを捕まえようとしていた。

 カーターは、無人になったビーチハウスに住み続けていたが、ワシントン滞在中もかかってきていた不動産屋数軒に、会いに行った。
 うちの一軒は、希望とは違うアパートになるが、手頃な部屋にも思え、そこで手を打つことにした。ロイがいない間の留守を預かってはいるが、彼が戻ったらすぐにでも引っ越した方がいいだろうと、思ったからだ。
 手付け金を払い、いろいろと煩わしい手続きなどをすませてから、病院へ顔を出した。
 少し遅くなって見舞い可能な時間ぎりぎりになってしまったので、ホイットモアの病室には寄らず、まっすぐにロイのところへ向かう。
 すでに病棟の廊下を歩くのは、医療関係者ばかりという静かな時間を迎えていた。
 部屋のドアは僅かに開いており、ノックをする前に患者の姿が見えた。
 窓際のベッドの上に、鈍角にベッドを起こして寄りかかったまま、ロイは窓の外を眺めている。いつも誰かが来ていて、楽しげに話を聞いていたロイとはまるで違う、疲れたようなようすに、カーターはノックするのも忘れてしまった。
 元気に回復しているのだと思っていたのは間違いかとすら思った。
「眠れてないんだろ?」
 ジムの低い、労るような声がした。
 ジムがいるのだ、とノブに伸ばしかけた手を引っ込め、扉の前に立ったまま逡巡する。いたってかまいはしないが、ふたりが親密に話をしている様子に割り込んでいくのは躊躇われた。
 ロイは黙っている。
「落ち着かないんだろう? ここはいい記憶のない場所だからな」
「病院は嫌いだ……」
 子供のように心底嫌だというニュアンスを込めて、ロイが呟いた。「ここにいると、気が変になりそうだ。ハルトマン医師が……」
「ヤツがどうした?」
「ジム、医師をヤツだなんていいかた……」
「あいつは……以前あんたが入院してたときにちょっと俺たちと揉めてな。それで、少しこだわりがあるのかもしれん。あいつがなにかしたのか?」
「医師となにがあったんだ?」
 いや、大したことじゃないとジムはごまかした。
 カーターもそれに関しては覚えている。
 ロイを薬で意識を奪っていた彼に「二度とあんたには預けない」というような啖呵を切ったこと、それからロイの血だらけの写真を送ったのもおまえか、と突き詰めたことがあった。
 やり方はともかく、普通の罪のない医師なのだろうが、あの頃はカーターたちも頭に血が昇っていたのだ。まさかそれでロイにつらく当たっているなんてことはないだろうが、あちらだって人間なのだ……と、思うと確かにジムのいうとおりまずいことになったと思う。
 それでなくとも過敏な神経をしているロイが不安になるような態度を、無意識にとっていないともいえない。
「なにもされてはいないよ、ジム。ただ、何となく研究対象を眺めているように、俺を見ている気がして……」
「ロイ。俺が今度の長期訓練へ行くのをやめようか? その間、休暇をとってあんたの面倒を見るということでずっとそばにいてもいいが」
「そんなことをしたら、ビリーの負担が大きすぎる。すまない。ちょっと愚痴が出ただけだよ、ジム」
「……こんなときに留守にすることになるなんてな……」
 無念が滲むようなジムの声に、敢えて明るく振る舞っているらしいロイが応えた。
「大人しくここで過ごすから。みんなにもらった本やゲーム類が山ほどある。なんとかハザードというのが、死ぬほど怖いらしいから、それにチャレンジしてみるよ。……実はやり方が分からなくて、主人公が行ったり来たりするばかりで、ちっとも先に進まないんだけど」
 誰があんたにゲームなんか持ってきたんだ、とジムの笑う声がした。
 

 間もなく面会時間は終わりですよ、と看護士から声をかけられて、廊下に立ったままだったカーターは頷いた。
「ロイ、また明日来る」
 中から、優しげな声が聞こえ、しばらく間があった。
 すぐに館内放送で、面会時間の終わりが告げられた。
 その声に促されるようにジムが出てきた。
 出てきたジムがカーターを見て口を開きかけるのを人差し指で制し、エレベーターへ並んで向かった。
「元気がないみたいだな?」
「病院は鬼門ですからね」とジムが浮かない顔でいった。「しかも、外科の担当医は相変わらずあいつですから」
 うーん、とカーターは眉を顰めた。
「オークリー先生だったはずだが?」
「入院となると、ハルトマンが出張ってくるんですよ。あいつに対してはロイは信頼がないってのに」
「元気に振る舞っていたのに、知らなかったよ」
 ちょうど看護士の詰め所を出てきた士長に挨拶をし、様子を訪ねると士長はちょっとため息をついた。
「なんだか、軽いノイローゼ気味にも見えますね。寝ぼけて誰かがいる、というようなことを何度か口走られたので、先生が心配しています」
 それを聞いて、ジムはがっくりと肩を落とした。
 あまりよく眠っていないみたいなので、お薬の力を借りてでも、という看護士長の言葉に逆らうこともできず、ふたりは礼をいって病院を出た。
「まいったな」とジムがいった。「俺がずっといてやれたらよかったんだが」
 カーターはジムがいっていた、長期休暇をとって、という話を思い出しながらいった。
「病院が嫌なら、なんだったら退院させてもいいんじゃないか? 私が看る」
「でも、デイン。それは……多分大変ですよ」
「うん。でも大丈夫だよ。人の看病は慣れてる」
「……無理はしなくてもいずれ退院するんだから……」
 ジムはあまり賛成ではないように見えた。
「冬の休暇もまだとってないし、必要なら、少し長めにもらうことだってできるはずだ。そう交渉してみようか」
「いや。やはり無理は禁物だ。病院にいるのが一番いいはずです。俺たちが三週間後に戻ってくる頃には、ちょうどロイも退院でしょう。そうすれば、おそらく俺もしばらく休みがあるはずだ」
 なんとなく言い張るようなジムの口調に、カーターはそうだなと頷くしかなかった。ジムが留守の間、ロイを独占されるようで嫌なのかもしれないと思ったからだ。
 もちろん、カーターにはそんなつもりはない。
 このジムの、ロイへの対応を間近に見て、ふたりの邪魔をするつもりはなかった。
 けれども、あの、なんとも頼りなげな寂しそうな様子が、カーターの脳裏を離れなかった。 
 

 コネリーはこれ以上はないだろうというほど、不機嫌な様子ではあったが、とりあえず大人しく訓練についている。
 研修に出されたタイミングが悪かったために、不在を補ってフォードが出動した、というバークの話に一応納得しているのだろう。立場上、納得がいかなくてもそれを口にするわけにもいくまい。
 三人の救助のおり、カーターが大人しくしていたせいで、リーダーらしく振る舞えたことも一応の自尊心を保てているらしい。正面切って文句をいうことはなかった。
 隊員たちも、それとなく今後の動向を探るがごとく、黙って彼に従っている様子に、とりあえずは安心した。
 ただ、自分の身代わりで出かけてくれたロイに見舞いすらも来ず、自分にも花屋からばかでかい花籠が届いただけです、とホイットモアが不愉快そうにいっていた。

 勤務時間が終わってからもバークと打ち合わせをして、カーターがビーチハウスに戻ると、灯りが点いていた。
 いつかのように、ジムの車が駐車しているそばにロイの車を止めて中へ入る。いい匂いが部屋中に漂っていて、夕食の支度ができているらしい。
 キッチンから、ジムは「おかえり、デイン」と声をかけてきた。
「買い物をしていたら、買いすぎてしまって。一緒に夕食はどうかと思って待ってました」
「ロイの病院へは?」
「今日は午後から休みだったんですよ。明日から洋上訓練が始まるんで。ずっと話をしたりして、さっき戻ったばかりです」
 じゃあ、ほとんど入れ違いのタイミングだったのだろうとカーターは頷いた。家に戻る前に、彼もバークと共に寄ってきたばかりだったのだ。手を洗って食卓に座りながら、買ってきたパンの袋をテーブルの隅に押しやる。帰宅が遅くなったので、軽食ですますか、と思って買ったものだ。
「明日から留守の間、デイン、ロイをよろしく頼みます」
 うん、と返事をし、テーブルに並んだラム肉を煮込んだポトフに手を伸ばす。
「君も心配だろうが、訓練中気をつけてな」
「まあ、前から決まっていたことですからね。仕方ない」
 ジムの――ロイのチームは海兵隊特殊部隊と合同で、空母で洋上に出て、海中海上作戦の訓練を行うため、明日出発する。
 カーターは冷蔵庫に立ってビールを二本取り出し、一本をジムに渡した。
「すっかり馴染んでますね。もう、家捜しをやめてしまったわけじゃないでしょうね」
 ジムが軽く睨んだ。
「いや、実は希望の場所あたりに小さいが、アパートがあるといわれてね。とりあえず短期契約でもいいというので手続きはすませてはあるんだ」
 そこへ移ってからでもまた気に入った物件をゆっくり探せばいいし、ひょっとしたらすぐにどこかへ異動になるかもしれないという危惧もあったからだ。
「だったら、俺が帰るまで引っ越さないで、ちゃんとロイの面倒を見てくださいよ」
「アパートに移ったって見舞いには行くよ」
 ジムは黙ってカーターを見つめている。
「なんだ? なにかいいたいことでもあるのか?」
「……ドクターリュウタロウ・ナカニシに相談したんです。早めに退院できるかどうか。あの人は一番ロイのことを分かってくれてるんで。当初の痛みはかなり減ってきたみたいなんで、通院することができるなら、退院してもいいだろうという了解を、ハルトマンからもらってくれました」
「……退院? ロイのことか?」
 ジムは頷いた。

「ベッドが足りないから、通院できる者は退院するか転院して欲しいと、ロイにはハルトマンが伝えてくれたようです。あれで悪い人間じゃないんだな。彼自身も病院の雰囲気がロイに良くはないと気にしてはいたようで。それで、ロイはフリーの介護士を頼むことにしたようです。通院や、身の回りの世話をしてくれるようにね。リュウタロウも毎日顔を見せてくれるはずですから」
 カーターは驚いてスープを掬ったままのスプーンを宙に浮かせたまま、手を止めた。
「俺はひと月近くいない。ロイは夜はひとりだ。だから、あなたがいてくれないと困るんです。ほんとは外科的には早すぎる。なんといっても腕もああだから、杖も使えないし、不自由な身体だ」
「私にロイを任せると? じゃあ休暇を取る必要があるかな?」
 ジムは首を振り、「だから介護士を雇うんですよ」と笑った。
「大袈裟にして、あなたに迷惑をかけるくらいならロイは退院でなく、転院を選ぶでしょう。でも、ここに戻ってきた方が、絶対回復が早いはずだとリュウタロウもいっている」
 そうか、とカーターはスプーンを下ろした。
「三週間だったな。その間、ロイを独占するわけだ。君は分かっていってるのか?」
 カーターが退院を提案したとき、乗り気ではなかったようなのにと不思議でもあったのだ。だが、カーターの挑発にジムは乗らずに、素直に頷いている。 
「おまえは私を舐めているのか? 戻っても、自分がもうお払い箱かもしれないとは考えてないんだな。私がここにいるのが嫌なことくらい、察してるぞ」
 ジムはスプーンを口に含み、顎に垂れたスープを手の甲で拭った。
「そうなったらそうなったときだ」
 呆れて、カーターはジムの顔を凝視した。
「なんでだ? ロイの気持ちもわかりにくいが、おまえの方がよっぽど理解に苦しむ。好きな人が幸せなら、それがおまえの幸せだとでもいうのか? 私には理解できん」
 手に持っていたスプーンを放り出し、ジムはビールを流し込んだ。
「振られることと、死なれることは同じようなもんだと思いませんか?」
 人の質問を質問で返すなど、やはりジムらしくないと思いつつ、カーターは首を振った。
「まるで違うだろ」
「そうかな。――あなたに今こんなことをいうのは申し訳ないが、死んだ人も、恋情を失った人も、もう自分を見てくれやしない。地上で動いている姿が見えても、触れることもできない。失った、という意味では同じようなもんです。だとしたら、ロイが俺を見なくなることになっても、手の施しようはない」
 それは確かにそうかもしれない、とも思う。
 自分の世界の一切からいなくなってしまった人物は、存在しないも同然だろう。
「おまえが意外に悲観的だということを忘れていた。だったら、本気で覚悟しとくんだな。毎日あいつを口説いてやる。足が不自由な身だからな。押さえ込むのも簡単だろう」
 ジムは、屈託のない笑い声を上げた。
 ここ数日、病室でどんなふうにロイと過ごしたのかは知らないが、余裕の態度と取れないこともない。そう考えるとしゃくにさわった。

「かわいくないな、ジム」
 ジムはまじめな目を向けて、穏やかにいった。
「あの人が死んだと思ったとき……魂がないロイでもいいから戻って欲しいと思ったんです。俺のことなど見てくれなくてもいい、そこにいてくれればいいと……。それから、強引にあの人を俺のそばに置こうとして無理をさせたことも後悔しました。ロイはロイであればいいんだ。俺はそんなロイを見ているだけでもいい。実際、仕事を休めない以上、俺にできることはない」
「……なんというか、芯からペシミストだな、ジム」
「俺も知りたいんですよ、デイン」
「うん?」
「ロイが何を考え、どうしたいのか。それをあの人自身が知ることを」
「私を好きなのさ」
 まじめに話していることは分かっていたが、カーターは敢えておちゃらけた返事をした。
「もし、そうなったとしたら、あなたはロイをどうするんです? あなたの本心はどうなんです?」
「君と決闘でもするか? プロレス技なら勝てるかもしれん」
 あくまでも、それを冗談で押し通すために、カーターはそういってジムを小突いた。






硝子の破片

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後日憚―哀しみの追憶―

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おもちゃ屋探検

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Pは××のP

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金の砂銀の砂第三部

僕が彼を憎んだわけ

ロイとジムの映画評