[鍵4] of [鍵]

kagi_title.jpg

鍵 その4

 ほんのわずか、ドアを細めに開けて、シンシアはベッドの方を窺った。
 ロイは横たわったままだ。おそらく、力尽きたに違いない――もっともだと内心同情すら覚える。きっとジムは、気付けに水でも取りに行ったのだろう。
 思い切ってドアを開けかけたとき。
「…ジム?」
 ロイの声にぎょっとして、シンシアは思わず手を引っ込めた。
 すっかり気を失ったわけではなかったらしい。
ロイは微かに頭を上げ、ドアのあたりを見て、それから力尽きたように枕に頽れた。なんだって、しっかり気を失うなりなんなり、しないのだと、シンシアは唇を噛んだ。
そもそも、愛の交換の果てに、失神するような目に遭わせるなんて、ジムという男はどんなやつなんだ、と気のいい男の笑顔を思い出す。
パワーだけはありそうだから無理もないが、あれでは女性はもたないに違いない、そんなポルノ小説まがいのタフガイなど、自分はお目に掛かったことなど……と余計なことまで考えて、がっくりとひとり肩を落とした。
 まるで道化のような自分に、すっかり嫌気がさしている。

 ドアからふたたびジムが現れ、シンシアの前を通っていく。
諦めるしかないらしい。シンシアはまた、クローゼットに尻餅をついた。
 水の入ったグラスを渡され、それを飲むロイの姿がやっとはっきり見えた。上掛けがずれ、もはやローブすら身につけてもいない、あられもない格好ではあるが、シンシアの大好きな肩と胸のラインは相変わらず美しかった。
 ジムはベッドにあがってその様子を見ていたが、飲み終わったグラスをサイドテーブルに置くと、ロイに微笑みかけた。
「すまん。大丈夫か?」
「…久しぶりだったから……でも大丈夫だ」
「続けてもいいか?」
「――ま、まだ?」
 と、ロイの声と同時に、シンシアも呟いた。
こんなことで気があってどうする、と自分をつっこむ。
かつて短い間愛し合っていた頃なら、手を打ち合って笑い転げるほどのタイミングだ。もちろん、今笑い転げるわけにもいかないし、そんな場面でもない。
 まだ続けるつもりらしい、と知って、シンシアは呆然と座り込んでいた。
いつになったら帰れるのだろう。

 思えば馬鹿なことをしている。
いつまでもいつまでも、結局は自分はロイに未練があるのだ、と思うと、それを断ち切るように展開される目の前の光景すら滑稽に思えた。
「ジム、頼むから食事にしよう……」
 悩ましいロイの声に急き立てられるように、シンシアは前のめりにドアに頭を寄せた。
帰宅したばかりだったはずだ。
疲れた身体の汚れを落として、私服に着替え、本当ならゆっくり食事をするつもりだったのは間違いない。おそらくロイの方は。でも、ジムは違ったのだろう。
食事にしよう、といった後、抵抗するような言葉をいくつか吐いていた声の調子が変わってきはじめたのが分かる。すぐに単語が意味不明の短い母音になって、吐息に混じり始めた。
 ああ、感じているのだなとすぐに感じられるほど、それは切ないほどに甘い声だった。
「……なんて声なの? いったいどんな表情なのよ?」
 もはや悔しさと悲しさと、何だか分からない感動とがない交ぜになって、シンシアは涙ぐんだ。視界がぼやけて小さな孔からの景色が歪んだ。
 あのロイが、乱れている。あれほど嫌がった行為に、感じてすらいる、と思うと、良かったようなつらいような、それを与えることができなかった自分が歯がゆくなって、涙が頬を伝った。
 それを与えているのは、よりによってあのグリズリー男なのだ。
 ひどいわ、ロイ……。
 ごつん、とドアに頭がぶつかり、思わず手を額に当てる。
「あいた」
 シンシアは、思わず漏れた声を押し戻すように、唇を手で塞いだ。

















硝子の破片

哀しみの追憶

後日憚―哀しみの追憶―

観客

おもちゃ屋探検

おもちゃ談議

キャンディーバー

Pは××のP

金の砂銀の砂第一部

金の砂銀の砂第二部

金の砂銀の砂第三部

僕が彼を憎んだわけ

ロイとジムの映画評