[鍵3] of [鍵]

kagi_title.jpg

鍵 その3

 同じようにローブをまとったジムがベッドに乗り、横になったロイを囲うように腕と膝を立てて上から覗き込んでいる。
 シンシアは身を竦ませた。
 まさか、今から二人で……? 
 もちろん、そうに違いない。まだ夕方も終わっていないというのに、ふたりはシャワーを一緒に浴びて、こうしてベッドルームに入ってきたということは、これからただ眠るつもりなわけがない。
 案の定、ジムはそのままキスをし始めた。
 竦めた体を起こし、シンシアは目をドアにくっつけるようにその様子を覗き見た。
 肩のはだけたローブからむき出しになったロイの肌を、ジムの無骨な手が撫で回している。
 知っている……、とシンシアは唇を噛んだ。
 あの肩が、背中が、胸が、どれほど心地よく滑らかなのか。
 キスがどれほど甘いかを。
 ローブがさらにはだけられ、ジムがその上にのしかかるようにして、時折肌から離される唇の音がし始めた。
シンシアはますます息を詰め、隙間に目を近づける。
 自分の時にはあれほど激しい発作を起こして苦しんだというのに、大きな男の手に、なすがままになっているロイの白い躰がうらめしくなってきた。
 ロイの微かな声が耳を打った。まるで女性のような、その甘い吐息に、シンシアの鼓動が跳ね上がった。
 これ以上見たくない。
 でも今出て行くわけにはいかない。それならば見なければいいのに、誘惑がシンシアを襲う。
 それを引き剥がすように一度腰を床につけると、シンシアはふうっと息を吐いた。
「久しぶりだな」というジムの声がする。
「三ヶ月も配置訓練だったから。今回の氷の世界は堪えたよ」
 久々に帰ってきたという安堵が漂う声だった。相変わらず過酷なことをしているらしい。
「…ジム……先に食事にしよう」
 掠れ、甘えを含んだロイの声に、シンシアは赤面した。
 こんな声を出すなんて、想像もできなかった。
 普通にしゃべっているときでさえ、彼の声はセクシーだとシンシアは思っていただけに、媚びを帯びたそれはとろりと蕩けるクリームのように甘やかだった。
 やがて、ベッドが軋む音がした。
 手をつく位置を変えるたびにスプリングが軋むのか、苦しそうな、それでいて甘いロイの声が途切れ途切れに混じり、今二人が何をしているのか、シンシアは気になった。
 レイプもののさえない映画を見ただけだが、実際に愛し合うのに、同性同士がどんなことをするのか、シンシアは知識はなかった。
 だが、レイプができるのなら、愛し合うことだって当然できるに違いない、と思い付いた瞬間、シンシアの顔が真っ赤に火照り、心臓がばくばくと音を立て始めた気がした。
「ジム、食事……俺は腹が……減ってい……」
 ロイの抵抗の言葉が、途中で遮られ、またスプリングが軋んだ。
「い、やだといって……る、のにジ……」
「い、いやだといってるでしょ! な、なにをしてるの? まさかあの大男、ほんとにロイを……。うそ、こわれちゃうじゃない!」
 小さな声で毒づいて覗くと、不意にジムが振り向き、こちらをじっと見ていた。
 首をすくめてやや奥へ下がる。
 独り言が聞こえたのかもしれない。垂れ下がった洋服を顔の前に引っ張って身を縮めた。
 ジムを甘く見てはいけない。図体がでかく人のいい笑顔を見ていると忘れがちだが、彼は優秀な兵士なのだ。
 ジムの耳がいいおかげで、命拾いしたことがあるほどだとかつてロイに聞いたことがある。
 しばらく耳を澄ませるようにしていたのか、物音が途絶えたまま数秒が過ぎた。
「ジム?」
 不審気なロイの声に誘われるように、またベッドが軋みだした。合間にロイの切ない声が入り交じるのが、耐え難かった。
 床に尻餅を着いたような格好で、耳を押さえ、シンシアは激しく肩を上下させていた。
「つらいか? ロイ」
 囁くほどの声が聞こえる。
 シンシアは目を伏せたまま呟いた。
「つらいに決まってるでしょ? くそ男」
 顔を真っ赤にして、俯いたままのシンシアをよそに、ベッドのきしむ音と、ロイの悩ましい声が微かに響き、それは一向に止む気配がない。
 シンシアは、耐えられなくなってきた。
 いくら何でも酷すぎる。自分が勝手に侵入して覗きという行為を行っていることは、意識から吹き飛んで、シンシアは目の前の二人を憎んだ。
 不意に、もう耐えられない、という弱い響きを含んだロイの声がした。
 続いてジムの、慌てたような声が続く。
「ロイ? 大丈夫か?」
 シンシアは再び目を開け、気を取り直したようにドアに目をくっつける。
 ジムが心配そうにロイの顔を撫でているのが見えた。
 ぐったりしたように、枕に頭を乗せているロイがかすかに見える。
「だから、無理だって言ったのよ、死んじゃったらどうするのよ!」
 口の中だけでシンシアは毒づいた。すっかりピーピングトム(覗き屋)らしい仕草が身についていることに、気がついてはいない。
 ジムが立ち上がってガウンをひっかけ、ドアを開けて出て行ったらしい。
 大きな影が目線を遮り、ドアの開閉の音がした。
「今だわ!」
 シンシアはクローゼットのドアに手をかけた。

















硝子の破片

哀しみの追憶

後日憚―哀しみの追憶―

観客

おもちゃ屋探検

おもちゃ談議

キャンディーバー

Pは××のP

金の砂銀の砂第一部

金の砂銀の砂第二部

金の砂銀の砂第三部

僕が彼を憎んだわけ

ロイとジムの映画評