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鍵 その1

 旅行にでかけるために、久しぶりにトランクを開けたシンシアは、目を見張った。
 内側に貼られた布地のポケットから、1本の鍵が出てきたのだ。
 思わず手のひらに乗せ、それを見つめた。
 銀色の無骨な鍵。
 どこの鍵かは分かっている。
 ビーチハウスのものだ。まるで倉庫の鍵みたいだと笑った記憶すら甦った。
 結婚していた時に住んでいた、今はかつての夫がひとりで住んでるはずの家……。
 未だにロイは、あの家にいるのだろうか?
 あれからすでに1年半。半年前、偶然にもまたロイと再会した。
 ワシントンDCでの、ある政府関係のパーティーでのことだった。
 すっかり落ち着きを取り戻し、出会った頃の、いやそれ以上に磨きがかかったかのように色気すら感じられるロイ・フォードの佇まいは、シンシアに改めて彼の魅力を見せつけた。
 もう一度彼の愛を勝ち取ってみせる、と誓ったのは嘘ではない。
 シンシアは調査能力を私的に使い、彼の身辺を調べた。
 その結果、やはりジム・ホーナーとロイ・フォードはある一線を越えてしまったらしいことを悟ったのだ。嘘だと思う気持ちと同時に、やはり、という確信めいたものがあった。もちろん、離婚当時は違ったのだろう。違うと自分でも判断したのだ。
 でも今は……。
 シンシアはジムに近づき、二人を引き裂く手段を――かなり姑息な手段を実行し、ジムはどうしたらいいのか分からずシンシアのいうままに従った。
 ふたりの、いやロイ・フォードの将来を思うならば身を引けと、シンシアははっきりいえば脅迫したのだ。 
 だが、ロイはひるまなかった。
 ジムが離れていきそうになった原因がシンシアにあることを悟り、ロイはシンシアの前に立った。
 そして、ロイは結婚生活を壊した原因を、自らの口で語ったのだ。
その原因となった出来事はシンシアにはショックだった。
 まさか、この世にそんな惨い行為が存在するなどとは、考えても想像すらつかなかった。ましてや彼女の愛した、王子様のようなロイがそんな目にあったとは……。
 自分になぜ当時、こうして話してくれなかったのだ、とシンシアはロイを責めた。
 そうすれば、自分だってロイを見守って行けたのにと。長身の胸を拳で叩き、泣きながら悔しさをぶつけるシンシアを――ロイは抱きしめ、穏やかに彼女に謝った。
 ロイの告白はショックだった。
 ましてや、この毅然とした男から、そんなことを聞かされるなど、これまでのロイからは考えられないことだった。
 そのときは、打ち萎れたようにして家に戻った。
 だが、ロイの告白は心に澱のように残り、自分が仕事として扱っているレイプ事件などを調査するたびに、ロイのことを考えた。

 何気なく、シンシアが男が男を強姦するなどということがあるのかしら? と弁護士事務所の同僚で、今は恋人になりつつあるスペンサーにいうと、彼は一本のDVDを持ってきた。
 シンシアは弁護士で、女性が受ける暴力の被害やトラブルを専門としている。
「自分で見てみるといい。趣旨替えをして、女性のトラブルじゃなく男の被害でも扱うのかい?」
 シンシアはおそるおそる、その映画を見た。
 ポルノかと思ったが、それは一人の刑事が過去に逮捕した仕返しに、レイプされるというもので、殴られて気絶した間に行為が行われた。
 かなり古い映画のせいか、その描写はほとんどなかったが、そのあとの刑事の悲嘆が詳細に描かれ、震える躰で少女のようにさめざめと泣く姿に、シンシアは胸が詰まった。

 捕虜として数人に死ぬ寸前まで、拷問のようにいたぶられたとロイは言っていた。この映画どころの傷ではなかっただろう。
 そのことでロイは長く悩み、苦しんでいたのだ。
 だから妻すらも抱くことができず、彼女を抱こうと努力する度に酷い発作に襲われた。
 あの、高貴なイメージをまとった彼がどれほどの痛みと屈辱を受けたかと思うと、シンシアを苦しめた、あのロイの激しい葛藤が何となく分かるような気がした。
 DVDがトレーから吐き出され、それを手に持ったまま、シンシアはふと動きを止めた。
 もうひとつ、ロイが言った言葉があった。
『まさか、あなたがジムに抱かれているんじゃないでしょうね?』
 売り言葉のように怒鳴ったシンシアに、ロイが言った言葉。
『そうだよ……ジムは俺の恋人だ』


















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ロイとジムの映画評