[後日憚8] of [哀しみの追憶―後日憚―]


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後日譚―8―

眠らせたくない。


次に起きたとき、ロイがどこかへ行ってしまいそうだった。
 起きあがった人間が、ロイである確証が得られない。
 第一、ロイはさっきから目を開けていた。
 開けているのに起きあがる気配も、自分たちとコンタクトを取る気配も見せないのが妙だった。
「精神も躰も疲弊してるんだ。君は信じないかもしれないが、夕べの体験を考えてみれば、ぼうっとなってしまうのも無理はない。一度は確かに心臓が止まったんだぞ。そのあとだって……」
「ぼうっとしてるだって? 魂が抜けてるようにしか、見えない!」
 ジムの大声に、大佐が立ち上がった。
 ジムに合図をして、ロイを座らせたままベランダへ出ていく。
 仕方なしにジムが後をついてベランダに出ると、外の空気は乾燥していて肌寒かった。


「ジム…」
 大佐が眉を寄せて海を見ながら言った。「ロイは断固として戦ったんだ。それなのに、君はロイがテリーに連れて行かれたというのか? それとも、乗っ取られたままだと?」
 ジムの険しい暗い目を、大佐が覗き込んだ。
「……何かを見たのか? さっき君は異常だった。眠ったように見えたときから。我々はまだ何か不可思議な力に操られているのかね?」
「俺の夢の中で、――テリーに育てられたロイが現れたんです」
 大佐は目を見開いた。
「どういうことだ? テリーが育てたって……」
「そいつが生まれても、ロイ自身がそうなったわけじゃない。自分を檻に入れて鍵をかけなきゃいけないくらいに、自分を押し殺すしかなかったんだ…」
 彼は違う人格だと言っていた言葉が、生々しく蘇った。
「檻? なんのことだ? 私にはさっぱり……」
「テリーはおしゃべり好きで、天真爛漫で、……夜は娼婦のように魅力的だった。違いますか?」
 大佐が黙り込んだ。
「小さい頃からマイクに遠慮して……。ロイは弱い自分を鍛え続けた。父親の望む男になろうと必死だったんじゃないかな。まあこれは単なる夢の話ですがね。ロイがそう言ってました」
「彼がまだ小さい頃、息子の身体が強い方じゃないと、マイクがいつも心配してたのは確かだ」
 大佐が言った。「でも彼は、だからといって無理をさせたりするような男じゃない。マイクは厳しく育てもしたが、溢れるほど愛情を注ぐことも忘れなかった。抱きしめて、いつもロイを温かく導いて……」
「多分ね。ロイの感受性の問題なんでしょう」


人の性格はさまざまだ。
 ロイは、子供が苦手な方だが、苦手なのは自分をうんと子供の目線まで落として接するから疲れるのだ。
 上から見下ろして導くという、マイクとは明らかに違う。それはおそらくテリーのやり方に近いのではないかと、ジムは思った。
 彼のことはまるで知らないが、もし子供が身近にいれば、子供同士のように、目線を合わせて接してやるのではないか。
 マイクの愛情は、ときにロイを追い詰めてしまうほど、はるか上から下ろされる類のものだったのではないか――。
「じゃあ、今ロイはその檻にいるというのかね?」
 大佐が、喉をがらがらいわせながら言葉を続けた。
「自分で鍵をかけてね。何もかもすっかり嫌になってしまったのかもしれない……」


 ジムは大股でキッチンに入ると、熱い珈琲を注いで戻ってきた。
 座ったままのロイの躰を横から抱きかかえるようにして支えると、カップを押しつけた。
「目を覚ませ。珈琲を飲んで、頭をすっきりさせろ、ロイ」
 ロイは口をつぐんだままだった。
 無理矢理飲ませると、むせて珈琲が飛び散った。
「嫌がっているじゃないか、ジム」
 大佐が眉を寄せたが、ジムは無視した。
「もう少し飲めよ。そして何かしゃべるんだ。俺の名前でも、大佐の名前でも何でもいいから。おはようって、言ってみろよ!」
 力ずくでロイを責めているかのようなジムを、止めようとしていた大佐の動きが止まった。
「……そうだ。ロイ、ひと言でいい。何か声を出してくれ。私やジムを見てくれないか?」
 ジムは珈琲が零れるのもかまわずに、なおもカップを押しつけた。
 ロイは、気の進まない様子ではあったが、ジムが傾けるカップを唇にあて、やっと自分の意志で一口飲み込んだ。更にもう一口、ジムは飲ませた。

 ジムは、カップを大佐に渡すと、ロイを強引に抱え上げ、担いでバスルームに連れて行った。

 荷物のように肩に乗せられても、されるままになっているロイを、大佐がおののいて見ているのが、ジムの目の端に映った。












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