[後日憚4] of [哀しみの追憶―後日憚―]


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後日譚―4―

 大佐が基地に呼び出され、完成間近の模型の前でジムとロイは真剣にその作業に没頭していた。
「なあ、俺があんたの恋人だってことは覚えてるか?」
「え?」
 驚いたような顔をして、ロイが顔を上げた。
「馬鹿。忘れるわけないだろう? さっきはちょっとぼうっとしてただけだ」
 ロイは、呆然と見つめるジムの頬に、キスをした。
「愛してる」
 更に唇にキスをしてくる。何度かそっとキスを繰り返しているうちに、
「だめだ…、我慢できなくなってきた……」
 ロイはそう言うと、ジムの唇を本格的に捕らえだした。

 いつのまにか、ソファでロイに押さえ込まれていた。
 お互いに衣服を剥ぎ、ロイは上からジムの身体に舌を這わせた。
 ジムは驚いていた。
 いつものロイには絶対にできない行動だった。子供のように無邪気にすら見えたその身体が、圧倒されるほどの色香を湛え、ジムの攻めに応じてさまざまな変化を見せている。
 その姿はまったく見知らぬ魅力溢れる男の姿として、ジムをしばらくの間、虜にした。
 バーク大佐を破滅に導きそうになった、テリーという男もこんなふうだったのだろうかと、ジムは思った。
 昼間と夜の顔がまったく変わってしまう魔力を持った男。
 それにしても、別人になってしまった恋人をどうしたらいいのか、ジムには何の手立ても思いつかなかった。
 このままのロイでいてくれれば、確かにジムの負うべき負担はかなり軽くなるような気はする。週末の楽しみも、おそらくもっと広がるに違いない。
「ジム、もっと……」
 はしないまでに、ロイがジムを求めている。
 ジムは息を飲んだ。
 夢にまで見た、快感に酔い痴れたロイの姿に、目眩がしそうだった。
 めくるめく甘美な世界――。
 今それがジムの全身を捕らえて離さなかった。
 ロイをうんと猥らにしたその姿に、今やロイがどこへいったのかという悩みすらどこかへ飛んでしまいそうだった。
 だが、夢中になってしがみついてくるその身体を抱いているうちに、ジムはふと、寂しさに襲われた。
 それが口癖であるかのような「いや……」という拒否の甘い囁きが、懐かしかった。
 身体はどんどんその快感を覚えていっているのに、いつまでも心がそれを認めようとしない、アンバランスな自分を持て余しているロイが。
 ジムがつい、熱中しすぎて負担をかけ、それに対してあとから冷たく怒るロイが。
 昨日、本当はなにがあったんだとジムは思った。
 大佐の話のとおりなら、テリーが乗り移ったままなのならまだしも分かる。
 けれどその人物を父として育った男になっているという複雑さが、ジムの理解を超えている。
 何度も死の寸前まで追いやられ、守っていたはずの躰に戻れなくなっているのだろうか?
 魂、という言葉が宵闇とともに、ジムの心に浮かび上がってきた。
 昼間は霊魂などといわれても一笑にふしていられるが、夜がその帳を落とし、世界のあちこちに浸透しだすと、俄かに人は見えないものに怯えだす。
 ロイは身体を離れざるを得なくなって、代わりにテリーの子供が侵入したとでもいうのだろうか? 
 テリーは一人で死んだのに? 
 そんな子どもがいったいどこに存在したというのだろう?
 組み敷いた身体の下で、疲れ果てたかのように目を閉じている見知らぬ人物の顔が、ジムには悲しく映った。
 ジム……という、ロイの囁きがどこかから聞こえてきたような気がして、ジムは身体を起こした。
「ジム……」
 目を閉じたロイの唇が、確かに自分を呼んでいるのを、ジムはまじまじと見つめた。
 元に戻ったと、嬉しさに乱暴に揺り起こすと、「なに?」とロイは躰を持ち上げた。「今、呼んだろう?」
「うん、呼んだ。夢の中で」
 しなだれかかってくる甘い言葉に、ジムは違う、と思った。
「ロイ?」と呼びかけてみると、「誰?」と不思議そうな顔をし、怒ったように唇を尖らせる。
「今のは俺のセカンドネームを呼んだんじゃないだろう? だれと間違ったんだ?」

 ここにいるのは、ロイの身体だ。
 あり得ない記憶だけが、形成されていこうとしている。

 だが、さっきの声は、絶対にロイだった、とジムは確信していた。





















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後日憚―哀しみの追憶―

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