[後日譚2] of [哀しみの追憶―後日憚―]


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後日譚―1―

 大佐の話は考えられないものだった。
 一連の出来事は、ジムを複雑な気持ちにした。
 いろいろな長い話の中で、結局大佐がロイをやってしまったらしい、と理解するのに困難はなかった。
 たとえ身体の中にいた人物が誰であってもだ。
「すまん、ジム。でも君に隠しておくわけにはいかん。夕べは本当にどうなってしまったか分からなかった。
 どこへぶつけようもない怒りを押さえ込んでいたため、ジムは大佐の「すまん」の意味がぴんと来なかった。

 亡霊がロイに獲り付き、ロイを乗っ取ってしまいそうだった、などという話は、明るいキッチンの日差しの中では、バーク大佐自身にも信じがたいのか、自分の話をジムが信用していないのが分かっているかのように、大佐は腑抜けた顔をしていた。
 だが、なにやらやたらロイを心配していたようすからしても、ただごとではなかったのは確かなのだろう。
 パタン、と音がし、ロイがバスルームに入った気配がした。シャワーが捻られ、水音がする。
 二人は黙ってその音を聞いていた。とりあえずロイが起き上がったことで、大佐は幾分ほっとしたようだった。
 気まずく押し黙ったまま、二人とも珈琲を三杯もおかわりし、また新たに珈琲が香ばしい香りを漂わせた頃、ロイが濡れた頭のままできちんと服を着て現れた。
「……おはよう、ロイ」
「おはよう」
 二人が声をかけると、ロイは戸惑ったような微笑を浮かべた。
 ロイは、何事もなかったかのような顔ですまして椅子に座ると、黙って卵をつつきだした。
 食欲がないのか、つついている割にはあまり口に入っているようには見えない。

「ロイ、私はもう帰るが、大丈夫か?」
 大佐が言うと、ロイは微かに微笑んで頷いた。
 玄関まで見送りに来たジムに、大佐が言った。
「まだ調子が戻っていないようだ。様子を見ていてくれ。何かあったらすぐに戻ってくる。君がいれば心配ないとは思うが」
 あまりに真摯な表情をしているので、ジムは思わず頷いた。
「何かあればすぐに……」
「たのむ」と言うと、大佐は自分の車のほうへ歩き出した。
 ふたりきりになっても、ロイは何も言わなかった。
ソファにぐったりと座り込み、何事かを考えているようだった。
「夕べあったことは聞いたよ」
 ジムがそういって隣に座っても、ロイはジムを見ようともしない。横顔に、青緑の瞳が戸惑ったような光を宿らせて見えた。ジムが抱き寄せると、ロイは黙って頭をもたせかけ、そのままじっとしていた。
「言葉を忘れたみたいだな。どうした?」
 それでも返事をしないロイに、ジムはだんだん苛立ってきた。
「ロイ、いい加減にしてくれ。腹をたてるわけにはいかんと我慢してるが、俺だって愉快な気分じゃないぞ」
 ロイは、まるで初めて見る人物のように、ジムに視線を向けた。
「…誰?」と、唇が動いた。だが声は出ていなかった。
「誰?」
 もう一度、今度はしっかりした発音で、ロイは確かにそういった。 

「そんなわけはない」
 まるでミサイルのような勢いで戻ってきたバーク大佐は、ジムの説明に顔色を変えた。「……私がわかるか? ロイ」
 大佐がそう言うと、ロイはこくんと首を縦に振った。
「ロバート・バーク大佐」
 大佐は、ソファに座ったロイの顔を凝視した。
「……彼は…誰だ?」
 大佐がジムを指さすと、ロイはしばらく考えたような顔をして、「ジム」と言った。
「分かるのか?」
 ジムが後ろから覗き込んでいた顔を、大佐に向けた。「ああ、良かった。記憶でもなくしたかと思った……」
 大佐は返事をしなかった。
「君の名前は?」
「ランド」
「……なに? なんと言ったんです?」
 ジムの声を無視するかのように、大佐は立ち上がった。
 黙ってベランダに出ると、じっと考え込んでいる。ジムがその後を追うと、大佐が呟いた。
「そんなわけはない。彼はもういない。ロイの身体にいるはずがない」
「なんです?」
 ジムがリビングを振り返ってロイを見ながら言った。「ランドって、何のことです? なんでロイがその名前を……」
「……そんなはずはない!」
 バーク大佐は吐き捨てるように、もう一度言った。
 ジムがリビングに戻ると、ロイは立ち上がって不思議そうに辺りを見回していた。
「どうした?」
 ロイは戸惑ったような顔をしていた。
「ないんだ」
「なにが?」
「たくさん作ったはずなのに、ひとつも残ってない。誰かが持って行ったんだろうか?」 
 なんのことだか分からずに、ジムはバーク大佐と顔を見合わせた。
















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