[後日憚11] of [哀しみの追憶―後日憚―]


HOME > 後日憚 > 後日憚11

gojitsutan_title.jpg

後日譚―11―

「大佐、あの人の心には闇があるのかもしれません」
 思いのほか真剣な言葉に、大佐ははっとしてベランダにいるロイに目をやった。
「そこはあの人の最後の砦だ。最終的にそこに行ってしまったら、ロイの人生は終わりです。そんな時には殴ってでも俺は引き戻す。さっきはそこへ行きかけていたと、俺は思っています」
 バーク大佐は、ジムの顔を穴が開くほど見詰めていた。
「テリーに育てられたロイは、なんの影もなく健やかに成長していた。魅力的でしたよ、大佐」
 大佐はまだ暖かい珈琲を、自分とジムのカップに注いだ。
「テリーはチャーミングな男だった……。みんなが彼のそんな部分を愛していたんだ」
 それは、ロイの評価にはない言葉だ。愛らしい、という部分を人に見せることはまずない。
 クールビューティー。
 部下たちなら、そういうだろう。
 ロイが愛らしさを階間見せるのはベッドの中だけで、おそらくジム以外知るものはいない。
「……確かにあなたの言うとおり、違うロイは明るくて輝いていて。でもやっぱりいつものあの人の方が、俺は何倍も……」
 ジムは思わず声が詰まった。
 それを聞くと、バーク大佐は頷いた。
「ロイはロイだ。彼はすこぶる魅力的な男だよ。テリーが皮のままかじれる林檎のようだとするなら、ロイはパイナップルみたいなもんだ。固い皮は容易には中の甘さを知らしめない。――私がもう少し若かったらな。君に負けないほど、パイナップルの皮を剥くぞ」
 大佐はいたずらっぽく微笑んだ。
「知らないんですか? パイナップルでも、あのウロコみたいなのを指でちぎってしゃぶれるのがあるんです。皮を剥かなくても簡単にね」
 大佐がジムを睨んだ。
「ちぎって、つまんで簡単にしゃぶれると、それは自慢してるのかな? ジム」
 ジムは声をたてて笑った。そんなものに例えられたと知ったら、固い皮に触れさせてももらえなくなるだろう。
「ちぎってつまめる程度まで、大変な時間がかかったんですよ、大佐。夕べ外されてたんだ、少しは自慢したってかまわないでしょう?」
 ふうん、と大佐は感心したようにジムを見ていたが、不意に意地悪そうな笑みを浮かべた。
「明日の朝、朝食を食べに来るのは面倒だな。着替えを取ってきて今日はここに泊めてもらおうかな。君がパイナップルを皮のまましゃぶるのが見られるかもしれない」 
 飲みかけた珈琲をジムが吹きだした。
「汚いなあ、ジム」
「た、大佐……」
「今夜は三人でカードでもしよう。もちろん寝るときは、客間でかまわないよ。年寄りだからね、わたしは。もっとも世間ではまだ熟年だ。体力では負けん」

 立ち上がってベランダへ向かう大佐は、スキップでもしそうに楽しげに見えた。
「お~い、ロイ、今夜はカード大会を開こうじゃないか。上等のシャンパンを差し入れするよ。寒いだろう? 入ってきたまえ」
 カード……ですか? と訝しげにリビングに戻ってきたロイと、上機嫌な大佐を、ジムは恨めしそうに見て呟いた。
「開き直って、徹底的に邪魔しようとしてるな? あのじじい」
「今夜は私がご馳走するよ。腕によりをかけて、ロバート特製のローストビーフを作ってやる。そうだサマンサ自慢のチリも持ってこよう。あいつも来たがるかもしれないが、今夜は男だけの娯楽タイムだ」
「……晩飯まで一緒にするつもりか」
 ジムは呆れた。
それから不意に笑い出すと、二人の元へ歩いていった。
「だったら、カードは賭けにしますよ、大佐。有り金持ってきてくださいよ!」

 ジムの声を聞きながら、ロイが不適な笑いを浮かべた。
「ポーカーだと、俺から身ぐるみ剥がされますよ、大佐。俺の表情はぜったいに読まれない」
 ううむ、と大佐はすでに表情を消したロイを、忌々しそうに見つめた。
「その時は、ジムにその表情をつまんで、ちぎってしゃぶってもらおう」

 じろり、とロイに睨まれて、ジムは笑いながら肩をすくめた。

                               終わり










硝子の破片

哀しみの追憶

後日憚―哀しみの追憶―

観客

おもちゃ屋探検

おもちゃ談議

キャンディーバー

Pは××のP

金の砂銀の砂第一部

金の砂銀の砂第二部

金の砂銀の砂第三部

僕が彼を憎んだわけ

ロイとジムの映画評