[後日憚10] of [哀しみの追憶―後日憚―]


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後日譚―10―

 ロイがバスローブを羽織ってリビングに出てくると、大佐が暖炉に火を入れていた。
「大佐?」
 ロイが意外そうな声を出した。「……俺は夢をみていたわけじゃない?」
「少なくとも、昨日のことは現実だよ、ロイ。――申し訳ないことに」
 大佐が座ったまま、両手を広げた。
 ロイは素直にその腕のなかに身体を重ね、離すと微笑んだ。
「大佐……やはり、我々は夢を見ていたんです」
 ロイが言うと、バーク大佐が複雑な顔で、それでも嬉しそうに頷いた。
「悪酔いしたんだな。私たちふたりともが」

「ロイ、珈琲飲むか?」
 後ろに立っていたジムが問うと、振り返って軽く頷いた。
 ひどくきっぱりとした、珍しい笑顔に、ジムはふとさっきの夢の中のジェロームを思い出した。
 キッチンで卵をフライパンに落としたジムは、いやにしんとしすぎている気配が気になった。
 まさか夕べの名残でキスでもしているんじゃないかと、ジムはそっと覗いてみた。二人とも黙って暖炉の火を眺めている。
 ジムは下世話な自分を恥じ入りながら、またフライパンの前に戻った。
 三人分の珈琲だけではなく、ロイの朝食を作り直してワゴンに乗せたジムが、ボーイのようにそれを押してきた。
「さあ、ロイは朝飯だ」
 暖炉の前に、トレーごと下ろして床に並べる。
「野営だと思えば、行儀はかまわないだろ? 寒いからな。火の前で食べたらいい」
「うまそうだ」
 ロイが言った。「でも、相変わらず形の悪いオムレツだな」
「明日はあんたが作れ。大佐、明日も朝飯を食べに来てくださいよ。ロイのオムレツは絶品なんです。なんでか、同じベーコンでもロイが焼くと味が良くなる」
 ジムが言うと、大佐が笑った。
「お邪魔じゃないかね? せっかくの週末をふたりですごせることはそうはあるまいに」
 飲みかけた珈琲に、ロイがむせた。
「今さらなあ……」
 ジムが呆れたようにロイを横目で見て呟いた。「二人で霊体験までして、一晩過ごした間柄で、これ以上隠し事はないだろ、ロイ。俺たちが愛し合っていると大佐にばれても、こっちにも切り札がある。ねえ大佐。どっちかというと、落とし前をつけたいくらいだ」
 ジムが両手を合わせて、ばきばきと骨の音をさせた。
 バーク大佐が持っていたカップを取り落としそうになり、ロイが真っ赤になって俯いた。
「ジ、ジム……あれは……や、やめたまえ。上官を殴るのは重罪だぞ」
 大佐が口ごもり、ロイは頭に片手をあてて項垂れた。
「まあいい。ロイが戻ってきたからな。年寄りを殴るのは気の毒だ」
 ジムが明るく笑った。「でもその代わりに覚悟しておくんだな、ロイ。今夜は、あの世にいっちまったほうが良かったって思わせてやる」
「ジム……」

 目線のやり場に困ったように、赤面したのはバークの方だった。
 立ち上がって、ロイはベランダに逃げていった。
 寒いのも気にならないくらい、恥ずかしがっているのだ。それでこそ、俺のロイだ、とジムは珈琲に口をつけた。
「ジム、君はいつもそうなのかね?」
「俺は粗野な育ちなもんで。ロイには耐えられない言葉をつい、吐いて怒らせてしまう。分かってるでしょうが、さっきのはもちろん冗談ですよ、大佐。あなたを殴ったりはしません」
「いやそっちじゃなくて。その……、ロイをあんなふうに乱暴に扱うとは思ってもいなかった。君たちはもっと……、いや君はロイをもっとそっと包み込んでいるような気がしていた。騎士のように、守って大切に扱っていると」

 ジムは頭をかいた。
 そんなに乱暴にしたつもりはなかったのだ。









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