[ペイジ] of [硝子の破片]


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第三章 ペイジ

 SEALの出動はそう頻繁にあるわけではない。
ほとんどは訓練、訓練の連続で、それは毎日の隊員達の仕事でもある。
 一番大事なのは、いつ何時でも訓練と同じように行動することだ。そのための準備は果てしなくエンドレスだ。
 訓練を積めば積むほど、本番で生きながらえる確立が高くなるのだ。
 意識はなくても身体が動くほど、身に染みさせろ、ジムはそう言って、常に隊員たちを励ました。
 訓練の時間は、ジムが最も楽しめる、好きな時間でもあった。

 ロイは、SEALの活動の中でもリーダーには不可欠な、特殊な技術のエキスパートとなっていくために、連日猛勉強をしているようだった。通常の訓練が終わった後、講習へ出かけたり、遅くまで勉強している様子がジムにも感じられた。 
統率力や判断力だけでなく、ロイの才能が広範囲にわたっていることに、ジムはさまざまな場面で気付かされた。
一度、隊員の一人が犯罪に巻き込まれかけて、行方が不明になったときは、軍の警察の役目を帯びている連中に示唆して、自らも彼の周りを調べてまわり、軟禁されていた兵士を無事に発見したことがあった。
「どういう発想で、あそこにいると分かったんです?」
ジムの質問に、ロイはなんということもない顔で答えた。
「データーではじき出したら、かかわりが見えただけだ」
 そのそっけない回答に、ジムは思わず苦笑した。
「情報部が来てくれと言い出しますよ」
 ジムの言葉に、ロイは笑った。
「俺はチームが一番好きなんだ。頼むから追い出さないでくれ」

「ロイ、ちょっと来てくれんか」
 デスクの内線で呼び出され、ロイはチームの最高責任者、バーク大佐のオフィスへ行った。
 訓練用の戦闘服のまま、ノックをして入ると、バークのデスクの前にあるソファから背の高い男が立ち上がった。痩せて頬がこけているように見えるのに、身体が異様にがっしりしており、長身のロイよりもさらに上背がある。
 薄ら笑いを浮かべたような顔が、あまり親しみを感じさせないタイプに見える。
「調査室のペイジです」
 手を差し出す男の口からミントの強い香りが漂った。大量のガムを噛んでいるのだろうか、と思うほどの匂いに、ロイはちょっと眉を顰めながら握手をした。
「普段あまり表には出ないし、知る者も少ないと思うが、海軍の正式な機関だ。情報部とは別に、様々な裏の調査を得意としている」
 バークの言葉に、ペイジは笑った。
「裏の調査とは、ちょっと聞こえが悪いですな」
「ああ、そういう意味じゃない」
バークはなぜか、不機嫌そうに言った。
「ふうん。あなたがフォード大尉ですか。少し想像と違っていました」
 ペイジはじろじろと頭からつま先までロイを眺めながら言った。
 先日、訓練場を覗いていたのはこの男ではなかったか、とロイは相手を黙って見た。自分を見ていたかどうかまでは知らないが、こうして訪ねてきたことを思えば、ロイ・フォードがどの男であるかを、すでに知っていたのではないか。
「ああ、失礼。特殊部隊の副隊長などといえば、強面の猛者のイメージが強いですからな。お見受けしたところ、体力より頭脳労働のほうがお似合いに見えますな。金髪にブルー、いやグリーン……? 瞳の色が独特ですな。美しすぎて、まるで女性士官が入ってきたと……」
「ご用件を伺います。まだ、訓練中ですので」
 ロイが、ペイジのおしゃべりを遮った。
 慇懃な態度でありながら、言っていることは無礼きわまりない。しかも、それを承知の上でしゃべっているような気がしたのだ。
 ペイジはちょっと、気を悪くしたような表情を浮かべ、すぐに薄ら笑いに戻った。
「では、用件を直裁に申しますと、あなたに我々の元へ来ていただけないかと、そうお願いにあがったわけで……。つまり、ヘッドハンティングですな」 
「私を調査部に?」
「あなたにぴったりの仕事かと」
 バークがデスクに座ったまま、憮然と見つめている。
 やはり、前回ロイが行方不明者を捜し出したことが影響しているのだ。それを聞きつけてこの男は現れたに違いない。
 ロイは微かに眉を上げて、目の前の男を、見上げた。                                      
ペイジはいつの間にかロイの目の前に、壁のように立っていた。
話をするには近ぎる、とロイは思い、無意識に一歩後ろへ下がった。ミントの匂いににむせかえりそうな気がする。
「能力がおありのようだ。我々は少ない人数で動いています。あなたのような優秀な人材が欲しいんです」
「申し訳ありませんが……」ロイは丁寧に言った。
「私はSEALに志願して、まだ数ヶ月しかたっていません。他の所での希望はありませんので」
 ペイジはまた、ロイの方へ近寄り、じっと顔を見ている。
ロイは表情を消し、さりげなくまた一歩下がった。
 詰まりすぎる間合いは、人に不安を呼び起こす。
 話をする間合い、戦うときの間合い。たとえ親身な相手であっても、立ち位置には無意識のルールと距離があるはずだ。
 だが、このペイジにそれはないらしい。
 ページはさらに微かに間合いを詰めた。
 ロイは、もう動かずに目の前の顔を見上げた。
「どうしても、駄目ですか?」
「答えは変わりません」
 ペイジは、まじまじとロイを見つめた。その瞳の奥に、単なるヘッドハンティングに来たのとは違う感情が見えているような気がして、ロイは探るように見つめ返した。
 バークが立ち上がって、窓を背にしたデスクから出てきた。
「ペイジさん、申し訳ないが、本人もこう言っているし、我々も彼が抜けたら困る。お気持ちはありがたいが、諦めてください」
 ペイジはバークの顔を見て、ため息をつくように眉を上げた。
「そうですか。非常に残念ですが……。まあまたチャンスもあるでしょう」
 挨拶をして出て行ったペイジの閉めたドアを、ロイは何となく見つめていた。

 バークも同様にそばに来て見ていたが、自分よりもはるかに長身のロイの肩を叩いた。落ち着いた年配のこの男は、息子を見るような目をして、ロイに笑いかけた。
ロイの父親、マイク・フォードの親友である大佐は、子供の頃から親しんだ人物だ。特に父親を亡くしてからは、ロイの親代わりを自認している。
「引く手あまたってことは、悪いことじゃない。だが、いけ好かない男だな」
 ロイは微笑んで、バークに頷いて見せた。
「安心しました。大佐もそう感じておられたのなら」
「それにしても、あのまま話をしていたら、君は壁まで逃げそうだったな」
「苦手なタイプですね――といっては悪いが……。申し訳ありません。人見知りする方なので」
バークが笑い出した。
「まるで、キスを嫌がる女の子みたいだったぞ。あのまま押し倒されるんじゃないかと、私は本気でどきどきした」
 大佐の冗談に笑って見せながらも、ロイは微かに眉をひそめた。




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