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キャンディーバー その5

 ロイは今日の行動を振り返っていた。



今日の昼過ぎ、ロイは数日分の食料の買い出しに出かけた。
 ジムへの夕食の材料も、そのときに買ってきた。
 大型ショッピングモールのスーパーで、必要な品物を買い込み、車に積むためにトランク側に立った途端、後ろから肩を叩かれた……。


振り返ると最上級に機嫌がよさそうな笑顔をふりまいて、ビリーが立っていた。
 ビリーこと、ロジャ・ウイリアムズ中尉はいつでも上官であるロイ・フォード大尉をかまいたいと思っているらしいことは、長いつきあいでロイも分かっていた。

なぜそんなに彼が自分をかまいたいのかまでは知らないが、やることが子供じみたことが多く、先日ロイが酔った勢いで大人のおもちゃ屋に行ったことをしゃべってしまったことで、それはことのほかこの男のツボに入ったらしい。


休暇明けには早速ばかでかい、気色の悪い張り型がロイのロッカーに入っていて、柄にもなく悲鳴をあげさせられた。
 まともにかまってしまっては相手の思うツボであり、そんな時は大抵得意のポーカーフェイスでなにごとにも動じない態度をみせてはいるものの、全く困ったヤツだと思ってはいる。
『あいつはMR.ビーン並の予測のつかない動きをするな』とジムが言ったことがあるが、MR.ビーン役の俳優は十歳のいたずら好きな男の子を想定して演じているという。
 そう考えると、ビリーのやることもいたずら小僧の域を出ないものではあるが、彼のやっかいなところは、一瞬で十歳の子供から欲情に血走る目をした狼に変身するところだ。
 絶対に隙を見せてはいけない。ジムはいつもロイにそう言っており、最近ではジムもビリーも互いに相手を牽制し合っている。
 それがこの男とつきあうときの決まり事だというのは良く分かってはいるが、ロイは意外にもビリーという男が嫌いではない。
 嘘つきではあるが、裏表はいっさいないからなのか、仕事では頼りになるからなのか、それとも単に根っこの所で気が合っているのかは分からないが、絡んでくるとうるさく思うものの、よい関係でいたいと思っているところがある。


だが、いうにことかいていくら酔っていたとはいえ、先日のように大人のおもちゃ……しかもそれの意味や使い方すら、――使うものとすら思っていなかった――あまり把握していない、という初心さをモロ出しにしてしまった以上、しばらくはこれをネタにからかわれ続けるのは仕方ないかもしれない、とロイは覚悟してもいた。


「ビリー…おまえも買い物か?」
 ロイが愛想笑いもせずにビリーに背を向けて荷物をトランクを開けると、ビリーが気をきかせて紙袋のひとつを抱え上げて、車に乗せた。
「この間のこと、怒ってるのか?」
 ほくほくしたような声でビリーは言った。
「べつに」
 ぶすっ、という音がしそうなほどの愛想のなさで、ロイがトランクを閉めた。
 目線をビリーに向けないまま運転席側に歩いていく。
「悪かったよ、俺、あんたがあんまりかわいくてさ」
「どうせ俺は、世間知らずだからな」
「いやほんとに。悪かった。ごめんな」
 気持ちが悪いほどの素直な謝罪をして、ビリーは手を振りながら店舗へ戻って行った。スキップでもしかねないほど、彼が浮かれているのは後ろ姿だけでも手に取るように分かった。
「……ビリー?」  

 不審な顔で見送るロイは、やがてふっと息を吐くと、運転席に乗り込んだ。
 ビリーのような男のことは考えても無駄だ。
 悪く思ってはいないにしても、理解できない人種であることに間違いはない。


 そんなことを考えながら帰途についた……。
 キャンディーバーがどこかで紛れ込んでいたとしたら、あの時しか考えられない。


 



 ロイの金色の髪が宙に舞い上がり、街全体を支配している潮風が頬を嬲るように通り過ぎる。
 ビリーの住居はバージニアビーチの賑やかな一角からすこし外れた場所にある。
 アパートの前に車を止めると、待っていたかのようにビリーがビルから出てきた。
 吸血鬼のようなマントを着て、牙までつけている。これからパーティーにでもいくつもりなのかもしれない。
 ビリーはロイが手にしているキャンディーに目をやり、感心したように頷いた。
「それを持ったまま来てくれるとは…。そんなにお気に召したのか?」
 ロイは手の中のバーに目をやり、ビリーに投げつけた。こんなものを握りしめてハンドルを操って来たほど、頭に血が上っていた。
「おまえってやつは、なんでこんな馬鹿なことを……」
 ビリーは臆面もなくロイの目の前に立つと、しげしげとキャッチしたバーを眺めた。
「一番でかいの……か。あんたなかなかやるな」
 ロイはその空間を振り切るように身を捩って、数歩離れた。
「大尉、試してみたか?」
 にやにやと牙を剥きだす顔が不気味で、怒りが削がれてしまった。
 かまうだけ相手の思うつぼだと気づき、ロイは車に手をかけた。
「なあ、気に入ったんなら俺がつきあって使ってやってもいいぜ。いつでも言ってくれ。ようすを見に、あんたの家にいくとこだったんだぜ」
 ビリーはくすくす笑っている。だが、ロイが本気で怒ったかのように肩を硬直させて車に乗り込んでしまうと、首をすくめた。


「大尉! 今夜はハロウィーンだぜ!」
 険悪な顔をして振り向くロイに、吸血鬼が言った。
「お菓子かいたずらか~!」
「おまえは菓子をもらうまえに、いたずらする悪ガキだ!」












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