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キャンディーバー その3

 玄関へ行ったロイが、困ったような顔で戻ってきた。
「どうした?」
「ハロウィーンだったの、忘れてたんだ。子供が大勢来ている」
「そうか。うっかりしてたな。今夜はハロウィーンだったっけ」
 ロイはジムの持っていた箱を取り上げ、中からビニールで包装されたキャンディーバーを三本取り出して並べた。
「なんで均等に同じサイズじゃないんだろう。これじゃ不公平かもしれないな」
「ど、どうするんだ?」
「何もないよりましだろ? これをナイフでカットして一口サイズにして銀紙にでも包んで子供達に渡せば……」
「だ、だめだ!」
 ジムは叫ぶようにいうと、テーブルの上に並んでいるキャンディーの上に、両手を広げて被さるようにした。
「……ジム?」
「さっきも言ったとおり、ハ、ハロウィーンったって、甘いものはやっちゃいけないんだ! こないだ、映画でやってたぞ。チョコレート工場のウォンカのオヤジだってそう言ってた。オヤジは歯医者で、ウォンカのガキの頃のものすごい歯の矯正具を見たか? 甘いものは虫歯の元だ!」
「……おまえ、いつから子供の歯を守る会の役員になった?」
「とにかく…」
 ジムはすっくと立ち上がった。「……分かった。俺が渡してくる」

 玄関のドアの前でさまざまな扮装をした子供が四、五人待っているのが見えた。
 てんでにお菓子の入った袋を持ち、早く持ってこないといたずらしちゃうぞ、などといって騒いでいる。
 ジムは掴んできたキャンディーバーを、見えないようにズボンのポケットに押し込むと、すました顔で子供達の前に立った。
「この家にはお菓子はないんだ。すまんな。他の家に行け」
 期待して待っていた子供達は、てんでに叫び始めた。
「なんで~? 待っててって、さっきのイケメンお兄さんが言ったぞ~」
「ないんだから、仕方ないだろう? ……イケメンなんてことば使うのか、最近のがきは」
「お菓子、ちょうだいよ~」
「ここのお兄さんは綺麗で確かにイケメンだが、おっかないんだ。ここには、お菓子なんか食べたこともない、あのお兄さんしかいない。だからお菓子はないんだ」
「おじさんのポケットに入ってるじゃん!」
 めざとくカラフルなバーの先を見つけ、わいわい騒ぎ出す子供たちを前に、ジムはポケットを押さえて叫んだ。
「これは違うんだ! さ、帰った、帰った」
「なんだよ~」
 ジムの大きな手に押しやられている一団の中の少女が、振り返って小首を傾げた。
 口が耳まで裂けたメイクをしているが、愛らしい近所の少女で、時折ジムとも話をするリンダだ。
「ジム、去年一緒に回ったのに、今年はいかないの?」
 ジムはやっとその存在に気付き、しゃがみ込んで彼女の両腕に手をかけた。
「ごめんな、リンダ。今年は忙しいんだ。また今度遊んでくれ」
 ジムは、ようやく子供達を追い返してドアを閉めた。

 ふうっと息を吐くと、なんで自分がこんな目に遭っているのかと、不愉快になってしまった。
 残念そうなリンダと一緒に、今年も菓子をもらいに回ってやってもよかったのだ。
 そもそもポケットに入っている品物はジムのものではない。
 もちろん、ロイがショッピングセンターから買ってきたものでも、間違えて持ってきたものでもないはずなのだ。
 どこをどう間違えば、買い物袋にあんなものが紛れ込むのかが、さっぱり分からない。
 このあいだ、ジムが戯れに玩具屋に行ってみようかと行って以来、どうもロイは情緒不安定気味になるし、ろくなことがない。
 玩具にたたられている、という気さえしてきた。ロイをさんざん嗤って、からかった罰なのかもしれない。

 やれやれと肩を叩きながらリビングに戻ると、ロイがCDをかけようとリビングの隅にしゃがんでいた。
「小さい怪物たちは帰ったか?」
「ああ。さて、食事にしようか。そろそろいい臭いがしてきた」
 ジムの言葉に、ロイは立ち上がって「いい頃合いだ」といいながら、CDのディスクのリモコンを押した。
 ピアノ曲の甘い旋律に幸せを感じた途端、バンバンと激しい音がした。
 同時に、テラス側の窓に、なんだか不気味な影が取り憑くようにへばりついているのに気が付いた。
 数人の子供がこちらを覗き込んで、ガラスを叩いている。

「お菓子か、いたずらか~!!」
「お菓子、お菓子~」
「……」
 ロイは呆然と窓を見て、ジムをふりかえった。
「さっきのお菓子、渡してないのか?」
「あ、いや、その……」
 ジムはポケットを押さえて、しどろもどろに目を白黒させた。ロイは黙ってキッチンに入り、棚をいくつか開けると、ナッツの缶を取りだして皿にあけた。
 それを小分けにしてラップに包むと、ベランダの窓を開け、子供達に手渡した。
「ナッツでもいいか? すまない。これしかないんだ」
「ナッツもいるけど、キャンディーがいい」
「あのおじさん、キャンディー隠してる!」
 ロイは振り返って冷たい目をジムに向けると、「ジム、渡してやれ」と言った。
「これはだめだ、ナッツをもらったんなら、さっさと帰れ!」
 ジムはドアを開けると、手を伸ばす子供たちを、アヒルを追うように押しのけて、ベランダから出て行くように追い立てた。
 その様子をロイは、ぽかんとした顔で見ている。

「……なんだ? お前らしくない。去年は一緒に出て行って、その辺からお菓子までもらって帰ったじゃないか」
「あいつらのためだ。キャンディーなんて、身体に悪い」
「おまえ、まさかそのキャンディーを独り占めにしたくて……?」
 じろりとジムを睨む目が光っている。
 こんな目をしている時のロイは、大抵ジムの望む状態ではない。
 なにかうまい言い訳を考えないと、ロマンチックがどんどん離れてしまうかもしれないと、ジムは猛烈に焦った。
 案の定、ロイは黙ってキッチンに戻った。
 不機嫌なのはもう間違いがない。
 それもとんでもない品物を子供達に渡さないために奮闘している、ジムへの抗議の顔だ。


 ああ、もうなんで俺がこんなに目……と、いかに考えても割に合わないこと甚だしいが、ロイが分かっていないのだから仕方がない。
 それとも、これは例のブツだから、と正直に教えてやった方がいいのだろうか? 
 だがそうと分かればロイはますます混乱し、不機嫌になって、ジムのせいではないと分かっていながらも、ジムがとばっちりを受けるのは間違いがない。

 なんでこうなるんだ、と泣きたい気分で、ジムもあとを追った。











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