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キャンディーバー その2

 ロイはジムの手からキャンディーの箱を奪うと、「ちょっと行ってくる」とドアの方に向かった。

「ま、まて。ロイ、どこへ……」

「店に返して来る。なんだか分からないが、間違いなのは確かだ。開けてないし、正直に返せば……」

「だ、だめだ!」

 信じられないでもないが、ロイは本気でこれをお菓子だと思っている――らしい。
 思わず大声になったジムの言葉に、ロイはびっくりしたように目を見開いた。「正直に…ったって、持ってきちまったものは間違いない。これは窃盗、万引きだと騒がれても仕方がないことだ」
 ロイは呆れたように、ジムを見た。
「馬鹿な。いつの間にか紛れ込んでいたから返すって言われて、そんなふうに疑ったりは……」
 ジムはつかつかとロイに歩み寄ると、問答無用でキャンディーバーを奪い取った。

「最近はやたら万引きが多いって、ニュースでやってたぞ。店の者も必要以上に警戒して、盗ってもいないのに盗ったという、濡れ衣事件も多いらしい」
「でも、この場合は……」
「盗んだが、後悔して返しに来た。俺ならそんな風に解釈して、一応礼を言って受け取るが、今後その客の動向はチェックするな。あんた、あの店に行くたびにそんな目で見られてもいいのか? それに店長の機嫌によっては、とりあえず警察に通報するかもしれん。……うん、あの店のブルドッグみたいな店長なら、しかねん。絶対警察行きだな!」
 低い、威圧感のある声で真面目に言うジムを見つめながら、ロイは眉を上げた。「……いくらなんでもそんな…」
「いや。たとえそうじゃなくても、店先で店員と押し問答していれば、客は勘違いをする。あんな真面目そうな男の人があんなお菓子を…変態かしら、とかなんとか話しながら、野次馬根性丸出しの顔であんた達を取り囲むぞ」
「……」
 ロイは半ば呆れながら、だが真剣そのものの目をしたジムを見て呟いた。
「そう……いうことになるんだろうか」
「そうさ! 世間ってのはそんなもんだ! 潔白に生きてきたあんたには分からないだろうが、誰もが自分を理解してくれてるわけじゃない!」
 ジムはますます声を張り上げて力説した。
「考えてもみろよ、レシートにも記載されていないんだ。証拠は何もない。店側だって、そんなものが一個紛失したことにも気づきはしない。あんたが袋に詰めているところが仮に防犯ビデオに映っていたとしても、知らないから挙動不審でもない。そもそも、強面の海軍士官がそんなものを持ち去ったなどと誰が思う? このまま黙って、知らん顔していた方が賢いってもんだ!」

「こわもて……?」
 強調したい部分ではないところにロイが引っかかりを感じたように呟くと、ジムは実直そのものの真面目くさった顔で頷いた。
「あんたは綺麗だが、自分の表情がいかに怖いか、自分では知らないんだな。立派に強面だよ。見る者によっては得体が知れないと映るかもしれん」
 ロイは瞬時考えていたが、窓の前に立つと、じっと自分の顔を見つめた。

「俺は…得体が知れないほど、険悪な顔をしているのか…」
 言い過ぎたと思いはしたが、ロイが返品を諦めたようなので、ジムは安心して立ち上がった。
 キャンディーバーを持ったまま、冷蔵庫からビールを出す。
 二本のうちの一本をロイに渡すと、彼は一度オーブンを覗き込んでからテーブルに座ってタブを開けた。
 それでもジムの手元にあるカラフルな菓子が気になるらしく、横目で見て言った。
「でもそんなもの、食べないから置いておいてもどうしようもない。第一、やっぱり黙って盗ったみたいでなんだか気持ちが悪い。近所の子供にでもやったらどうかな」
 ジムは思わずキャンディーを胸に押し抱いた。
 やはり、ロイはこれをお菓子じゃないなんて、みじんも疑ってはいないようだ。「そ、それはまずいよ、ロイ」

「なぜ?」

 手を延ばして、無理矢理ジムからキャンディーバーの箱をロイは取り上げた。なぜだか焦っているようなジムに不審な目を向けている。

「だ、だってほら、最近は甘いもの嫌がる親も多いし。勝手にそんなもの渡すと受け取った子供も怒られたりするんじゃないかな。虫歯撲滅運動とかな。あんたのお袋さんは最先端を行ってたってわけだ」

 ロイは小首を傾げて箱を見ていたが、納得したように首を縦に振った。

「……そうだな。知らない人間に食べ物をやるのはよくない。こいつには申し訳ないが、捨ててもいいかな」
「あ、ああ。そうしたほうがいいな」
 ジムは、ほっとしたように笑った。
「でも、気が進まない。…食べ物を捨てるなんて……」
 ロイはまだ、こだわっているような顔で箱を見ている。


 玄関で呼び鈴が鳴り、ロイが歩いて行くと、ジムは急いでキャンディーバーを掴んであたりを見回した。


 ロイはけっこう、頑固者だ。
 さっさと処分しないと、またおかしなことを言い出すかもしれない、と焦っていたのだ。

 うっかりとしたところには捨てられない。

 ゴミ箱にこんなものを……と、ロイがゴミ業者に苦情を言われたら大変なことになるし、子供が勝手にゴミ箱から持ち去らないとも限らない。

 ああ、なんで俺がこんなに焦らなきゃいけないんだ、とジムは部屋をうろうろしたが、結局自分で持ち帰って処分することに決めた。

 いや、なにも焦って捨てなくても、いずれ先ではこれをロイに使うことができる日が来ないとも限らないではないか、などと不毛なことまで考える。


……まあ、無理かもしれないが、と自分を落ち着かせながら、ジムは取りあえずそれを握ったまま、ビールを飲んだ。










硝子の破片

哀しみの追憶

後日憚―哀しみの追憶―

観客

おもちゃ屋探検

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キャンディーバー

Pは××のP

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僕が彼を憎んだわけ

ロイとジムの映画評