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キャンディバー その1

 ジム・ホーナーはアメリカ海軍特殊部隊、ネイビーシールズの曹長だ。
 紆余曲折を経て、やっと結ばれた恋人は、彼にとっては命よりも大事な人だ。

 自分たちのチームの隊長、ロイ・フォード大尉である。

 濃い金粉を撒いたような、綺麗な金色の髪をした、青緑色の宝石のような瞳をした、ロイは、その美貌を自覚もせず、年中仏頂面の愛想のない性格だが、最近はだいぶ柔らかいところも出てきた。

 なによりも、彼がベッドの中でずいぶんと素直にジムの愛を受け付けるようになってきていることが、ジムを浮かれさせていた。

 それでも、本来上官でもあり、扱いにくい複雑な性格であることから、なるべく穏便に週末を送りたいと、ジムは思ってもいた。




 今日のジムの足取りは弾んでいる。

 ジムは、今夜ロイの家に、ディナーに招待されたことが嬉しくてたまらなかった。

 ジムにとって、ロイが彼のために何かをしてくれるというだけで最高に幸せだし、もちろんそのままロマンティックになだれ込み、仕事の緊急呼び出しがない限り、週明けまでお泊まりできる…(ジムがロイの機嫌を損ねない限り)はずなので、ジムは浮かれたようにるんるんと弾んだ調子でベランダを歩いていた。



勝手知ったる者の常として、与えられた鍵を使って、玄関ではなくベランダの硝子のドアから中へ入った。

リビングを抜けると、キッチンの中で果物を剥いているロイの後ろ姿が見えた。「ヴァージニアワインのいいのが入っていた。酒屋のオヤジから勧められたシャンパンも」

ジムは向けて手にした瓶を上げて見せた。
「そうか。今肉をオーブンに入れたばかりだから…、もうしばらくは冷やしておこう」

ロイが瓶を受け取ってバケツにアイスキューブを入れると、ワインをその中につっこんだ。
どうやら恋人の機嫌も上々と、ジムはほっとしながら食卓に腰かけた。

目の前の、大きな白い皿に盛られたオードブルを、一切れつまんで口に入れる。ロイは料理がうまい。手の込んだものを、手早く作る。食材も吟味してくるから、問題なくおいしいのだ。
オードブルをつまみながら、ワインを飲んで、食事をすませたら、シャワーを浴びて……。

ジムの計画は、着々と進んでいた。幸せな夜が過ごせそうだ。
 台の上にはまだ、ロイが買ってきて整理されていないショッピング専用紙袋がふたつほど乗っていて、中身が零れていた。
「お、うまそうな林檎だ」
 ジムは袋に手を突っ込んだ。
「食べるんじゃないぞ。料理に出すから」
「分かってるよ。ちゃんと腹を減らしておくよ」
 がさっという音とともに、ジムの手には色鮮やかな品物が握られていた。
 ジムが引っ張り出した物を見て、ロイが不審気な顔をした。
「それはなんだ?」
「何だ…って、あんたが買ってきたんだろう? 珍しいな、お菓子を買うなんて」「お菓子……?」
「キャンディーバーだろう?」
 ロイは眉を寄せてジムからカラフルな箱を受け取ると、じっと眺めた。
 剥き出しの箱は三本入りパックらしく、バーは赤、オレンジ、黄色に白い縞が入っており、カラフルでかわいらしい。
 『キャンディバー』と書かれ、正面の透明フィルムから、ひねったろうそくのような本体が覗いている。
 ジムが冷蔵庫からビールを取って、一足先に飲みながらロイの手元を見つめた。「どうした?」
 ロイはレシートを引っ張り出し、じっと中身を照会している。
「おかしい。俺はこんなものを買った覚えはないし、レシートにも記載されていないから代金も払っていない」
「なにかのはずみで袋に入ってしまったんだろ」
「そんな馬鹿な……」
 ジムはふふっと笑って、そのキャンディーの箱を手にした。
「キャンディーバーなんて、あんた子供の頃にも食べてないんじゃないか?」
 ロイは立っていって、オーブンの様子を伺いながら頷いた。
「うん。食べなかったな。母が買ってくれなかった」
「子供の頃からお菓子はなしか?」
「いや、母がパイやクッキーとかを作ってくれていたから。もともと甘いものはそれほど好きじゃなかったし。でも、子供心にあの綺麗なものを食べてみたいと思っていた頃も、あるにはあった」
 ジムは箱の匂いを嗅ぎ、フィルムから中を透かして見ながらふと眉を寄せた。「…なんか、これって……」
 言いかけて、ジムは口を押さえた。
 先日、ロイと一緒に見物に行った『玩具屋』に、たしかにこんなものがあった気がする。子供がいる家に転がしていたら、間違いなく舐めるな、と考えたこともはっきりと思い出した。キャンディー型の張り型だ。


 S、M、Lサイズセットと、小さく箱の横に明記してある。よくよく見ると、菓子メーカーではない、男性ならどこかで耳にしたような、特殊玩具を製造している会社名が記してあるのが分かった。
 わざわざお菓子のように愛らしいのは、女性でも抵抗なく使用できるように、とかなんとか説明がしてあったはずだ。
 間違いない、これは…と、ジムはロイを横目で見ながら呟いた。
「でも、いったいどこでこんなもの……」

 この人が、こんなものを自分で買うわけがない。
 そもそも、スーパーなどには売っているはずもない。


 ジムはなんだか嫌な予感がした。









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ロイとジムの映画評