[フック船長] of [僕が彼を憎んだわけ]

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フック船長

 ライアンはなんでそんなふうなんだ?
 ライアンはロジャを惨めにしただけだった。泥棒で嘘つきで、罪を償うこともせず、それを他人に押しつけて逃げた卑怯者。
「おじいさんに、本当のことを言うな」
 おっかぶせるように声がした。
「もう罰は終わったんだから、それを言えばおまえはもっと罰を受ける。だから黙っているんだ。いいな? ロージャ」
 その言葉を聞いて、ロジャの顔色が変わった。これはある意味、ライアンがロジャに与えた罰だ。それは単純な体罰よりもよほど効果があった。こんなことは許されない。今後も一緒に暮らしていくなら、ライアンにそんなことを許してはならない。
 ロジャは立ち上がった。
 すっかり元の自分に戻るために。もっとひどい罰を受けるために。そしてそれは、間違って大事なライアンをぶった祖父をひどく後悔させるに違いない――

 納屋の戸を開けたのは、祖父ではなくロジャでもなく、サンディ・ウイリアムズだった。
 祖父の元へ行き、「やったのはぼくだ! ライアンをぶったのは間違いだ!」と叫んだロジャに祖父が罰を与えようと教卓用鞭を振り上げた瞬間、いきなり入ってきた男がロジャを奪った。
「くそじじいめ。俺の息子に勝手に触れるな!」
「パパ!」
 ロジャは、その浅黒く日焼けした首筋に顔を埋めた。
 祖父は狼狽えながらも威厳を取り戻そうと必死になり、おまえの息子達は盗人で嘘つきだと罵った。
「ライアンは?」父親は無視して息子に尋ねた。
「裏庭だよ。納屋に閉じこめられてる。鞭でぶたれた」
 罰を与えただけだ、と祖父は枯れた声で叫ぶように言ったが、サンディはそれも無視した。
「裏庭だよ、パパ。すごくぶたれたから座れなくて立ってる。ジョン、泣いていたよ」
「ジョン?」
「ツバメ号のジョンだ。ぼくがロジャだから」
 ああ、そりゃいい得て妙だと父は笑い、ロジャを抱いたまま裏庭に下り、納屋のドアを蹴破った。 

「パパ?」
 部屋の隅からライアンの声がした。 
 破れたドアから日差しが入り、その部分と影の部分は同じ空間とは思えないほどの違いを見せていた。
 父親は黙って彼を抱きしめた。
「なんてざまなんだ? おまえはウイリアムズ家の王子様のはずだろう?」

 サンディは、長男のズボンを掴んで尻たぶをあらため、斜めにかけたままだったカバンから軟膏を取りだして、傷にすりこんだ。ライアンは、微かに呻いたが痛いとは言わなかった。
「戻ってきたんだね、パパ」
「金持ちになってな。ベイビィ」
 座り込んだ父親の膝に俯せに顎を乗せ、ライアンが聞くと、サンディは優しい手つきで髪を撫でた。
「海賊の宝が見つかったんだよね、フック船長」
 ロジャはその広い背中によじ登り、肩車の体制をとった。
「そうだ。金塊が見つかったんだ。でも、仲間が多かったんでな、みんなで分けたから億万長者ってわけにはいかんが、それでもしばらくは遊んで暮らせる」
「おじいさんに払うぶんはある?」
 ライアンの静かな声に、サンディは頷いた。
「おまえたちが世話になったここ数年分の代金だったら、ちょろいもんだ。借りは返さなきゃな。ついでに家を一軒買っても、まだおつりがくる。なんか欲しいものがあるなら、なんでも買ってやるぞ」
「ぼく、ゲーム機。ニンテンドーのやつ。ソフトもね!」
 はしゃぎながら、ロジャは無精髭を手で探ってみた。単純にパパが戻ったことが嬉しかった。
「おまえは? ベイビィ」
「新しいピアノの本」
 なんだ、それ百冊くらいセットで売ってないのか? とサンディは大口を叩いて笑った。
「だけど、けっきょくはなんだったんだ? 泥棒ってほんとうのことじゃないんだろう? ライアン、天使みたいなおまえがそんなことするわけない」
 ライアンは父親の顔を見上げた。口を開く前に、ロジャは慌てて父親の背中から叫んだ。
「盗んだのはぼくなんだ。ドリンコートじじいがいっぱい持ってるガラクタを売って、ゲーム機を買いたかったんだ」
 サンディは眉を顰め、あの骨董品をってことか? と呟いた。「そおりゃ一財産あるぞ、おまえ。目の付け所は間違ってないが、さばくのは大変だ」
「一個だよ」
「なんだ、たった一個か。それっぽっちで騒ぎやがって。けちなじじいめ」
「パパ……なんか、間違ってるよ、その言い方」
 ライアンが父親を窘めた。「おじいさんは、一応被害者なんだ」
「大体の成り行きは分かったぞ。で、ライアンがそれを庇って代わりに罰を受けたのに、なんでおまえがぶたれかけてたんだ?」
 ぶたれかけてた? とライアンがちらりとロジャを見た。
「どうしても見たかったんだ。自分のお気に入りのライアンを、間違ってぶったって分かったときのドリンコートじじいの顔を」
「ロージャ……」
 ふん、とロジャは鼻を鳴らして、凝視しているライアンから視線をはずした。
 で、そのドリンコートってなんだ? と聞いた父親にライアンが「小公子。ロジャがつけたんだ」と呟くと、サンディは子供じみた動作で腹を抱えて笑い転げた。
「あいつがドリンコートで、ライアンがジョンか。だとしたら俺はなんだ?」
 パパ? とロジャはちょっと唇を舐め、頷いた。
「フック船長」
「おまえ、なかなかだぞ、息子。勉強もちゃんとやってるらしいな」
「本を読んでくれたのはライアンだよ」
 まだひいひい笑っている父親をほっといて、ライアンがロジャに囁いた。
「悪ぶってても分かってる。おまえはちゃんと正直に言おうとしてくれたんだ」
「じじいをぎゃふんと言わせたかっただけだって、言ったろう?」
 分かっている、と頷くライアンをちらりと見て、ロジャは眉を顰めた。
 ――だからぼくは、ライアンが嫌いなんだ。
「おい、小僧」と、父親が涙を拭いながら言った。
「次からはもう少し、賢く立ち回れよ。それにどうせ罰を受けるならせこいことするな。結果が同じなら、でっかくやれ」
 ああ、パパ……と、ライアンがため息をついた。


























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