晩春
  
    原節子、笠智衆

※ストーリーの結末を載せていますので、映画をご覧になっていない方は、ご了承下さい。

  周吉と紀子  写真

記号[☆:スタッフ・キャスト :始めに ←:終わりに]
(1949)(白黒)(松竹大船)(キネマ旬報第1位)(第4回毎日映画コンクール日本映画大賞)
監督…小津安二郎(第4回毎日映画コンクール監督賞)
製作…山本武
原作…廣津和郎『父と娘』短編
脚本…野田高梧/小津安二郎(第4回毎日映画コンクール脚本賞)
撮影…厚田雄春
美術…濱田辰雄
調音…妹尾芳三郎
録音…佐々木秀孝
照明…磯野春雄
編集…浜村義康
音楽…伊藤宣二
装置…山本金太郎
装飾…小牧基胤
衣裳…鈴木文次郎
現像…林龍次
出演…笠智衆(曾宮周吉)
………原節子(紀子)(第4回毎日映画コンクール女優演技賞)
………月丘夢路(北川アヤ)
………杉村春子(叔母/田口まさ)
………青木放屁(勝義)
………宇佐美淳(服部昌一)
………三宅邦子(三輪秋子)
………三島雅夫(小野寺譲)
………坪内美子(きく)
………桂木洋子(美佐子)
………清水一郎(「多喜川」の亭主)
………谷崎純(林清造)
………高橋豊子(しげ)
………紅沢葉子(茶場の先生)

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 紀子3部作(晩春『麦秋』『東京物語』)と言われる作品の第1作。

 鎌倉(北鎌倉駅、鶴岡八幡宮、円覚寺)・東京(丸の内)・京都(八坂の塔、清水寺、竜安寺)の名所、能・茶会などの文化や登場人物の描写が見事で芸術性の高い作品だ。
 特に、原節子の美しさが際立っている。

 娘(紀子)の結婚話をめぐって平穏だった父娘の生活に波風が起きる。
 娘は父親が再婚したいために自分を嫁に出したがっているのだと思い、父親に裏切られた思いで苛立つ。
 父親は娘を便利よく使ってきて申し訳なかったとの思いと、娘の幸せを願って誤解されていることを承知の上で、寧ろそのことを利用して嘘をつき娘を結婚させようとする。

 紀子の結婚が決まり父娘の最後の旅行も終え帰り支度をしているときに胸の内を告白する紀子に、それではいけないのだと諭す周吉。
 お互いを思う心情が見事に描かれている。

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そのシーン。

帰り支度をしている父娘が映し出され、
紀子…「あっ お父さん それ取って頂戴」
と、言う。
周吉が、
周吉…「うん」
と、言いながら紀子に渡し、
周吉…「早いもんだね
 来たと思うと もう帰るんだねぇ」
紀子…「ええ」
周吉の方を向き、
「でも とても愉しかった
 京都」
と、にっこりして周吉の方を見る。
周吉…「ふう〜ん
 来てよかったよ」
と、周吉もにこやかに紀子の方を見る。
周吉…「まあ 贅沢いえば限がないが
 奈良にも一日行きたかったねぇ」
紀子…「ええ」
支度を続け紀子に、
周吉…「ほい これ」
と、紀子の冊子を渡す。
支度を続けながら、
周吉…「こんなことなら 今までにもっとお前と
 方々行っとくんだったよ
 これで もうお父さんとはお終いだね」
にこやかに支度をしていた紀子の手が止まり表情が曇る。
周吉…「帰ると 今度は忙しくなるぞお前は」
俯いている紀子。
紀子の方を見て、
周吉…「叔母さん待ってるだろう」
感情を隠して微笑む紀子。
周吉…「明日の急行もいい按排に座れるといいがねぇ」
俯いている紀子。
紀子の様子に気付くが、にこやかに紀子の方を見て、
周吉…「まあ どこにも連れてってやれなかったけど
 これからは連れてってもらうさ」
支度を続け、
「佐竹君に可愛がってもらうんだよ」
と、言い紀子の方を見る。
周吉…「どうした」
じっと一点を見ていたが周吉の問いに俯く紀子。
周吉…「どうしたんだい」
心配そうに紀子を見る周吉。
俯いたまま、
紀子…「あたし」
周吉…「うん?」
周吉の方を向き、
紀子…「このままお父さんといたいの」
紀子を見る周吉。
思いつめた表情で紀子。
紀子…「どこにも行きたくないの」
告白する紀子。
「お父さんと こうして一緒にいるだけでいいの
 それだけで 私 愉しいの」
視線を逸らし、
紀子…「お嫁に行ったって
 これ以上の愉しさはないと思うの」
両手を組み合わせ、
紀子…「このままでいいの」
周吉…「だけどお前 そんなこと言ったって」
周吉の方を向き、
紀子…「いいえいいの お父さん奥さんおもらいになったっていいのよ
 やっぱり私 お父さんの傍にいたいの
 お父さんが好きなの」
視線を逸らす周吉。
周吉を見ながら、
紀子…「お父さんと こうしていることが
 あたしには一番幸せなの」
周吉をしっかり見て、
紀子…「ねぇ お父さん」
紀子を見る周吉。
紀子…「お願い
 このままにさせといて」
と、甘える紀子。
紀子…「お嫁に行ったって
 これ以上の幸せがあるとは あたしは思えないの」
顔をしかめ周吉。
周吉…「だけど それは違う!」
優しく、
「そんなもんじゃないさ」
穏やかに、
周吉…「お父さんは もう56だ
 お父さんの人生は もう終わりに近いんだよ」
俯く紀子。
周吉…「だけどお前たちはこれからだ
 これからようやく新しい人生が始まるんだよ
 つまり〜佐竹君と二人で作り上げて行くんだよ」
紀子…「…」
周吉…「お父さんには関係のないことなんだよ
 それが人間生活の歴史の順序というものなんだよ」
紀子…「…」
周吉…「そりゃ〜あ 結婚したって始めから幸せじゃないかもしれないさ
 結婚していきなり幸せになれると思う考えが 寧ろ間違ってるだよ」
俯き涙を流している紀子。
周吉…「幸せは待っているもんじゃなくって やっぱり 自分たちで作り出すもんだよ」
紀子…「…」
周吉…「結婚することが幸せなんじゃない
 新しい夫婦が新しいひとつの人生を作り上げてゆくことに幸せがあるんだよ」
紀子…「…」
周吉…「1年掛かるか 2年掛かるか 5年先か 10年先か
 勤めて初めて幸せが生まれるんだよ
 それでこそ 初めて 本当の夫婦になれるんだよ」
紀子…「…」
周吉…「お前のお母さんだって 初めから幸せじゃなかったんだ」
視線を逸らし想いだすように、
「長い間には色んなことがあった
 台所の隅っこで」
視線を紀子へ戻し、
「泣いているのを お父さん幾度も見たことがある
 でもお母さん よく辛抱してくれたんだよ」
更に頭を垂れる紀子。
周吉…「お互いに信頼するんだ
 お互いに愛情を持つんだ」
紀子…「…」
周吉…「お前がこれまでお父さんに持っててくれていたような
 温ったかい心 今度は佐竹君に持つんだよ」
紀子…「…」
周吉…「いいねぇ」
紀子…「…」
周吉…「そこに お前の本当に新しい幸せが生まれてくるんだよ」
優しい眼差しで、
「分かってくれるね」
頷く紀子。
周吉…「分かってくれたね」
紀子…「ええ
 わがまま言ってすみませんでした」
周吉…「そうかい 分かってくれたかい」
紀子…「はい 
 本当にわがまま言って」
周吉…「いやぁ〜 分かってくれてよかったよ
 お父さんもお前に そんな気持ちでお嫁に行ってもらいたくなかった
 まあ 行ってごらん お前ならきっと幸せになれるよ
 難しいもんじゃないさ」
紀子…「ええ」
周吉…「きっと佐竹君といい夫婦になるよ」
視線を逸らし、
周吉…「お父さん 楽しみにしてるからねぇ
 そのうちには今晩こんな話をしたことが
 きっと笑い話になるよ」
頷き、
紀子…「すみません」
涙を浮かべて周吉の方を見て、
紀子…「いつもご心配掛けて」
優しい眼差しで、
周吉…「いやぁ〜 なるんだよ 幸せに
 いいねぇ」
笑顔を見せ、
紀子…「ええ きっとなってみせますわ」
周吉…「うん なるよ きっとなれるよ
 お前ならきっとなれる」
泣き出す紀子。
周吉…「お父さん 安心してるよ」
周吉の方へ笑顔を見せる紀子。
周吉…「なるんだよ 幸せに」
紀子…「ええ」
帰り支度を続ける紀子。
そして、周吉も。
 これが周吉の台詞の中にあった「人間生活」ということなのだろう。
 どんなに感情が揺さぶられるようなことがあっても、時は刻まれる。
 次の一歩を踏み出さなければいけないのだと。

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 長い二人暮しの中でお互いに離れがたい感情を持っている父娘。
 父は娘の幸せを願い、再婚に対して不潔だとの思いが強い娘に、敢て再婚すると思わせて嫁に出そうとする。

 縁談を受けることになっても、このまま父の傍にいたいと胸の内を告白する娘。

 父娘のそれぞれの思いが胸に響く。

 小野寺(三島雅夫)に不潔だと言う紀子や、杉村春子が財布を拾うコミカルなシーンなど、どのシーンも好きだ。

 娘を嫁に出した後に周吉が溜息をつき、淋しそうにリンゴの皮を剥くシーンは脳裏に焼き付いて離れない。
 繋がっていた皮が床に落ち、肩を落し俯いている周吉の姿に胸が張り裂けそうになった。
 周吉の終焉が見えたからだろう。

※脚本家の野田高梧とは、『箱入り娘』(1935)以来で、これ以降、遺作の『秋刀魚の味』(1962)まですべて二人で執筆した。
原節子と杉村春子は、これが小津作品初出演であった。
※茶会の撮影は、北鎌倉の「好々亭」の離れでおこなわれたといわれているそうだ。
また、杉村春子が財布を拾うシーンは鶴岡八幡宮の境内。
この作品には円覚寺が映っているが、小津監督はここに「無」と刻まれた墓に眠ることになる。(2003.12.15貴田庄著『小津安二郎をたどる 東京・鎌倉散歩』青春出版社 参考)

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〜写真〜


『晩春』原節子


『晩春』原節子、宇佐美淳


『晩春』原節子、三宅邦子


『晩春』原節子


『晩春』原節子


『晩春』

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1995
 

[日本映画オールタイ ム・ベストテン]映画100年特別企画
/
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位

@東京物語(小津安二郎) A七人の侍(黒澤 明) B浮雲(成瀬 巳喜男) C人情紙風船(山中 貞雄) D西鶴一代女(溝口 健二) E飢餓海峡(内田 吐夢) F羅生門(黒澤 明) G生きる(黒澤 明) H丹下左膳餘話・百万両の壷(山中 貞雄) I幕末太陽傳(川島 雄三)

@小津安二郎 A黒澤明 B溝口健二 C大島渚
C成瀬巳喜男
D
-
E市川崑 F川島雄三 G内田吐夢 H山中貞雄
H木下恵介
H岡本喜八
H鈴木清順
I
-

@森雅之 A三国連太郎 B笠智衆 C三船敏郎 D高倉健 E市川雷蔵 F石原裕次郎 G松田優作
G勝新太郎
H
-
I志村喬
I阪東妻三郎
I大河内傳次郎

@原節子
@山田五十鈴
A
-
B高峰秀子 C田中絹代 D若尾文子 E京マチ子 F岸恵子 G藤純子 H香川京子 I久我美子
I吉永小百合
※キネマ旬報 臨時 増刊 1995.11.13号
1995年の[日本 映画オールタイム・ベストテン]映画100年特別企画は、映画100年を総括する特別企画として、評論家・作家・ジャーナリストなど104人の選考委員の 全体点数(各個人選出ベストテンの第1位を10点、第2位を9点、以下第10位を1点)を集計、合計数の多い作品 から抽出するという方法で、映画史を通 じての日本映画ベストテンを発表した。

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2000
 

[20世紀の映画スター ベストテン]
/
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位



@三船敏郎 A石原裕次郎 B森雅之 C高倉健 D笠智衆 E市川雷蔵 F勝新太郎
F阪東妻三郎
G
-
H渥美清
H中村錦之助
H森繁久弥
I
-



@原節子 A吉永小百合 B京マチ子
B高峰秀子
C
-
D田中絹代 E山田五十鈴 F夏目雅子 G岸恵子
G若尾文子
H
-
I岩下志麻
I藤純子



@ゲーリー・クーパー Aチャールズ・チャップリン
Aジョン・ウェイン
B
-
Cマーロン・ブランド
Cアラン・ドロン
Cジャン・ギャバン
D
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E
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Fハンフリー・ボガート
Fスティーブ・マックイーン
G
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Hショーン・コネリー
Hポール・ニューマン
I
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@オードリー・ヘプバーン Aマリリン・モンロー Bイングリッド・バーグマン Cヴィヴィアン・リー Dマレーネ・ディートリヒ Eグレース・ケリー Fフランソワーズ・アルヌー ル
Fベティ・デイビス
Fジョディ・フォスター
Fグレタ・ガルボ
Fアンナ・カリーナ
Fジャンヌ・モロー
Fロミー・シュナイダー
Fエリザベス・テーラー
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※2000.6.1  朝日新聞記事
映画誌『キネマ旬報』が、映画評論家や俳優、脚本家ら74人に回答を求めて「20世紀の映画スター」を選出し、ランキングを発表した。

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小津安二郎
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