ちょっとおしゃれでおいしい...金裕美韓国料理教室
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韓国料理研究家  金 裕美
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一冊の本
 2004年10月号 朝日新聞社



特集 亜細亜食堂

対談「水の料理」と「油の料理」
     
モンスーンの贈り物


韓国料理研究家、「金裕美韓国料理教室」主宰
金 裕美

料理研究家、「ウー・ウェンクッキングサロン」主宰

 ウー・ウェン

 構成=丸本忠之
 撮影=石動弘喜

 
味噌を煮込むか揚げるか
ウー 私たちが 『朝日新聞』 で連載していた 「モンスーンの食卓」 が本になりました。今回はレシピが先というより、どういう話がしたいかというところから逆に料理を選んでいったんですよね。
 この料理がどこから来たかとか、どういう背景をもってるかということを伝えたくてね。辞書には載ってないような生活文化がうまく出せたんじゃないかと思う。思い出に残る本になりました。
ウー 「モンスーン」 という言葉を聞いたとき、よく考えたらアジアの料理の源流は同じなんだなって。お味噌、お醤油を使うのは同じだし、お酒も同じ。当たり前のことなんだけど、アッと思いました。
 東アジアのルーツは一緒なんですよね。大豆文化、発酵文化がある。こんなにつながりがあるんだなと、私も再発見しました。同じルーツをもつものが、それぞれの国で形を変えて発達している。



ウー いま中国の黒酢がブームでしょ。日本の酢とは違うものみたいに思われてるけど、製法は同じ。ちょっとずつの違いがあって、そこが面白い。
 そうそう。例えば味噌の使い方でも、日本は香りを大事にするから、味噌汁が沸騰する前に火を止めちゃう。でも韓国では味噌チゲを作るとき、コトコトと煮付けて汁全体に旨味を出していく。
ウー 中国はまた違うんです。日本は100度になる前に火を止める。韓国は100度で長く煮る。中国の場合は味噌を油の中に入れて旨味を出す。油は沸点が320度と高い。高温なら短時間で旨味が出せる。ジャージヤー麺は炸醤麺って書くけど、「炸」は油で掲げるって意味なんです。
 同じ大豆文化でも微妙に違うんですよね。
ウー お醤油だって、日本は生のまま使うけど、中国では高温の油で変化させる。よく中華鍋の鍋肌から醤油を入れろっていうのは、鍋肌の温度が一番高いからです。香りの楽しみ方が日本と違う。
 韓国が大きく違う部分としては、コチュジャンがあることですね。17世紀に唐辛子が入ってきてから、韓国料理はだいぶ変わったんです。中国にも豆板醤という辛い味噌がありますね。
ウー 豆板醤も本当はソラマメだけで作って、辛くないはずなんです。蒸し暑い四川省の人たちが唐辛子を足したりしたんでしょう。もともとは味噌なのに、香辛料になってしまってる。
 キムチも日本のは旨味が少なくて、辛さだけが出てるのが多い。なぜ日本のキムチは辛いのか考えたら、南の釜山あたりから来た人が多いからじやないかと。キムチは発酵食品ですから、発酵が進まない北のものは味付けが薄い。でも、南では発酵を抑えるために味を濃くする。私は中部の出身ですが、私が食べても激辛と感じるようなのが日本にある。韓国の唐辛子は日本のより甘いんです。
ウー 中国も韓国と同じで、唐辛子そのものを食べる習慣がある。辛くできませんよね。日本の唐辛子は辛いし、あまり旨味を感じません。
お粥と薬は一緒に飲まない
 でも、昔と比べて日本のキムチはおいしくなった。私はずっと訴えてきたんですけど、キムチって発酵食品なんですよ。そこがなかなか分かってもらえない。スーパーで売ってるようなキムチはほとんど生ですから、旨味が少ない。乳酸菌が出てから旨味が生まれ、栄養も出るんです。
ウ一 発酵食品は体にいいですよ。中国では風邪をひいたら発酵食品を食べなさいと。饅頭とかね。蒸しパンみたいなものですが、あれは発酵させている。体が弱ったときにお米はダメ。酸性ですから。小麦粉はアルカリ性だから饅頭がいい。うどんも小麦粉だけど、発酵してないからダメなんです。
 医食同源ですね。韓国でもわざわざ薬を飲むようなことは少ない。食事をするのが薬なんだというのがあって。風邪ぎみだなと思ったら、もやしスープみたいな温かいものに、唐辛子をひとつまみ入れて飲む。汗もかくし、ビタミンCもとれる。
ウー 医者に行っても 「むくみがひどいのよ」 「じゃあ、冬瓜でも食べたら」 で終わり〈笑)。薬ももらえずに帰ってくる。中国人はそういう先生のほうが好きですね。13億人みんなが医者みたいなんです。知らない人から 「あなたの子供、顔色悪いよ。大麦の粥でも作ってあげたら」 といわれたり。いきなり「キンカンのお茶でも飲んだら」 とか。
 韓国もまったく一緒。食事を通して健康を維持する。なかには迷信もあって、スルメを食べ過ぎると血が少なくなるとか、ワカメスープを受験生に飲ませるとヌルヌルして滑っちゃうとか(笑)。
ウー それでも、医食同源への関心は高い。よっぼどの病気じゃないかぎり、薬は飲まない。
 モンスーンに共通する米文化でいえば、お粥もありますね。日本では病人食というイメージですけど、韓国では健康食です。最近はオフィス街にお粥専門店ができて、サラリーマンが朝食にする。何も入ってない空っぽの体をいたわってやる。
ウー 中国では朝も食べるけど、夜も食べる。今日はご飯は重いから、お粥にしようとか。今日は乾燥してたからお粥にしようとか。雑穀はお粥にすると吸収されやすくなるので、米じゃないお粥も多い。お粥をスープ代わりにして肉饅を食べる習慣もある。2種類の炭水化物を組み合わせるなんて、日本の方は不思議に思うかもしれないけれど。
 そこは韓国とも違いますねえ。やっぱりお粥膳だけです。お米を全部すり潰してポタージュみたいにしたもの、半分だけすり潰したもの、米粒が残っているもの、いろいろです。ゴマ粥、松の実粥、カボチャ粥とか、いろんな種類がある。
ウー 季節によって、冬は必ず小豆を入れたり、夏は必ず緑豆を入れたり。緑豆はビタミンCが多いし解毒作用もあるんです。ただ、解毒作用があるってことは、薬を飲むときに食べちゃいけない。
 韓国の宮廷でもそうですよ。薬を飲むときは、朝一番の空腹のときに飲むでしょ。日本の薬局で売ってるような食後に飲むタイプの風邪薬じゃなく、漢方薬なので。だから、それを飲んだあとの朝食はお粥を避けるんです。
どこそこの油が美味しい
ウー 医食同源の基本は旬食材を選ぶこと。子供が迷うと 「どちらにしようかな、神様のいう通り」ってやるでしょ。あれと同じ。私も迷ったら、お日様のいう通りに従おうと。自然と対抗したら絶対いけないと思うんです。
 自分の身体も要求しませんしね。元気のいいものはやっぱり分かる。冬に光ってるトマトを見て、食べたいとは感じないですよ。
ウー 冬になると菜っ葉の大きい野菜ばかりになります。でも、それが一番体を温めてくれるんじゃないか。根野菜なんかも、外より地中のほうが暖かいから、体にいいんだろうと。すごく単純な考え方なんですが (笑)。しばらくすると、春になる。冬は新陳代謝が不活発だから、体の中にたまってるものがある。春の野菜に苦みの強いのが多いのは、それを流し出すんじゃないかと。熊だって……。
 冬眠から覚めたらフキノトウを食べたりね。春は山菜とか、苦みが多くてアクの強いものが多い。
それまで休んでいた野菜や新芽が出るときって、栄養が一番たくさん入っているんです。
ウー 夏になるとナスとかキュウリとか水分100パーセントに近い野菜が増える。新陳代謝が激しくなる季節なので、それを食べて水分を補給し、悪いものが流れていくようにする。秋はキノコとか地味な野菜が出てくるけど、あれは冬眠状態になる前に体を一度きれいにするためなんじゃないか。
金 やっぱり旬ですよね。25年前に日本に来たとき、どこの店に行ってもナムルといえばモヤシ、ゼンマイ、ホウレンソウの3種類しかなかった。韓国では旬のものをナムルにする。菜の花だってさっと湯通して和えればナムルですよ。ワラビはアクが強いから、アクをとってから炒め和えにするとか。夏になれば豆乳スー
プ。水分をたくさん摂らなきやいけないので。他にも、ゴマスープやサムゲタンみたいなコトコト煮込んだスープを飲む。
ウー そういう知恵がいまも残ってるんですよね。
 残ってますね。野菜の少ない冬はビタミンCが不足しがちになる。昔は韓国にもお茶の習慣があったけど、仏教国から儒教国に変わる過程でなくなってしまった。それで、冬はキムチでビタミンCをとるように。そういう知恵が昔からあったんです。
ウー ビタミンですよね。中国料理に掲げ物が多いのも、それと関係があるんです。日本は水がきれいだから何でもそのまま食べられる。ビタミンをとるには、生で食べるのが一番いいんです。でも、中国は水が汚い。かといって、長い時間煮るとビタミンCがほとんどなくなってしまう。そこで、ビタミンを壊さないように短時間に殺菌する方法として、高温の油で掲げる調理法ができた。これは中国の調理法のなかでも、非常にすばらしい知恵だなと。
 水の問題は大きいですよね。
ウー 日本では 「どこそこの水がおいしい」 といいますよね。いくつか名水の場所をいえると思うんです。中国人はそれがいえないかわり、「どこそこの油がおいしい」とよくいいます。「ピーナツ油でマコモ茸を炒めるとおいしいよね」 「セロリを炒めるときはヒマワリ油だよね」 とか。食材によって油を選ぶんですよ。和え物を作るにしても、茹でたあとで熱い油をかけたりする。水をあまり信用してない (笑)。
 韓国は中国と日本の中間ですね。水はそれほど悪くない。油もゴマ油とかエゴマ油をよく使う。韓定食では、大きなお膳に並べて一度に出すんですね。そこで動物性の油を使ってると、すべての料理が揃うまでに固まってしまったりする。そこで冷めてもおいしく食べられるよう、ゴマ油を使うようになったといわれてます。でも、いまから考えると、ホウレンソウみたいな緑の野菜をゴマ油で和えると、栄養価がグッと上がる。すばらしい知恵ですね。
まずは日本料理を知れ
ウ− 私の主人は日本人で、子供も日本で育ってるから、うちの食事は日本料理が多いんです。料理学校へは行ってないんですけど、土井勝先生の 『基礎日本料理』 (柴田書店) という本で勉強して。
 土井先生は私も尊敬してます。
ウー それで気付いたのは、日本料理もきちんと作れば、けっこう野菜とれるんですよ。私が料理学校をやってると、日本人の生徒さんが 「中国料理は野菜をたくさん食べられていいわね」 というんです。でも、日本料理でもすこい量が食べられる。
 自分の国の良い部分はなかなか見えない。韓国でも、いま幼稚園児に 「あなたが好きな料理は?」って聞くと、ハンバーグ、フライドチキン、ピザ、スパゲティって答えます。キムチを食べられない子まで出てきてる。残念なことだと思います。
ウー 中国の出版社は私に「西洋料理の本を出してくれ」っていうんです。ちょうど日本の高度成長期みたいになってる。何でも外国のもののほうがいいと。社会が進歩している証拠だからダメとはいわないけど、まずは中国料理を見直してほしい。同じように、うちの生徒さんにも 「まずは日本料理を習いなさい」といってるんです。自分の国の料理が分からないと、他の国の料理が分かりませんから。
金 同じことを教えても、日本料理の基礎がある人のほうが理解が早いでしょう。家庭の問題もあるのかな。家庭科理が伝わりにくくなってる。

ウー 中国は一人っ子政策を始めて27七年目になりますから、みんな料理なんて作れない。なのに中国料理じゃなく、西洋料理の勉強から入ったら、大変なことになるんじゃないかなと。中国ではいま回転寿司ブームなんです。本当にいろんな国の料理が食べられるようになってきてる。だからこそ、自分の国の料理が大切になる。
 きっと一遍クルッと回って、自分の国の良さが分かるようになってきますよ。そのうち。中国でも日本でも韓国でも。そのためには家庭科理が大事です。そういう意味で、「モンスーンの食卓」 でも一般的な料理ばかり紹介してる。
ウー 自分のおばあちゃんが作って、お母さんが作った料理を、自分が作って子供に食べさせる。
 そうです。ただ、辛くてニンニク臭いという韓国料理のイメージを変えるために、一度ぐらいは宮廷料理を試してみてほしい。これは話の種に。辛くない料理がほとんどで、こんなにいろんな料理があったのかとピックリしますよ。
ウー 中国の宮廷料理は勧めません(笑)。だって台所ももたない騎馬民族が作った宮廷だもん。料理がおいしいはずがない。フランスの宮廷とは違う。中国料理はやっぱり家庭科理ですね。
 毎日食べても飽きないしね。どこの国でも、最後は家庭科理が一番でしょう。
金裕美、ウー・ウエン、藤井宗哲、山本彩香著
「モンスーンの食卓 春夏編/秋冬編−旬の食材で作る中国・韓国・沖縄・精進料理」
は朝日新聞社より発売中。




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