「ヨクナル号」奇蹟の復活
ヨクナル号

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 昭和10年頃、曲面や曲線を多用した流行の 「アール・デコ」デザインを身に纏った1台のラジオが、京都で颯爽と発売されました。その名も「ヨクナル号」! 正式な名称は「アリアA-2號 京都ラヂオ商聯盟 ヨクナル號」といいます。メーカーは東京のミタカ電機(株)です。

 このラジオに関する資料が現在までの処一切無く、メーカーのミタカ電機や、発注団体の
京都ラヂオ商聯盟も、既に存在しない為、詳しい事は何一つ判りません。恐らく京都ラヂオ商聯盟がミタカ電機にOEM発注して、「ヨクナル号」と言う独自の名称を付け、歳末セール等の際に、聯盟加盟のラジオ店で独占的に販売した物と思われます。秀逸なキャビネットデザインは、京都ラヂオ商聯盟側で独自にデザインしたものかも知れません。回路自体はありふれた「並四ラジオ」で、価格を抑えようとした為か、同じ並四でも当時でもかなり旧式です。
 ミタカ電機は戦前の東京の大手メーカーで、アリア(ARIA)はブランド名です。テレビの発売に出遅れて倒産してしまったそうですが、アリアブランドのトランジスターラジオも残っている事から推測して、少なくとも昭和30年代までは存続していたのだと思います。
 
 颯爽と登場し、スタイルの良さで、たぶん所有者を満足させていた「ヨクナル号」ですが、速い技術の進歩により、いつしか旧式となってしまいました。何度目かの故障の時、所有者は修理するよりも新型機への買い換えを決め、用なしになってしまった「ヨクナル号」は、物置きの奥に仕舞い込まれました。
それでも廃棄しなかったのは、物を大切にする時代だったので、いつかは修理する事も考えたのかも知れません。しかし長い長い年月が経ち、誰からもすっかり忘れ去られた「ヨクナル号」は、物置きの奥でネズミの巣となり、朽ち果てるに任されていました。そして何十年か後のある日、物置きの整理で引き出された「ヨクナル号」は、僅かの幸運で廃棄処分を免れ、中古の測定機器をオークションに出品している人の手に渡り、ボロボロに変わり果てた姿のままオークションに出されました。
 そして、「汚くてボロボロのラジオを、ピカピカに蘇らせよう!」と思って、わざわざ「汚くてボロボロ」のラジオを探していた人の目に留まり、奇蹟の現役復活を目指して徹底的な修復が始まりました。


 では詳しくご紹介致します。写真はクリックすると大きくなります。ピンク色の部分は修復前、クリーム色の部分は修復中、水色の部分が修復後です。下から二番目のマスに、このヨクナル号の動作中の動画があります。

ヨクナル号外観
ヨクナル号 外観                     
 左の側面にまで回り込んだスピーカーグリルが、最大の特徴です。コーナー部は左だけでなく右も曲面で仕上げられ、更にダイヤル窓も楕円形で、当時流行の 「アールデコデザイン」を強く意識した、優美で秀逸なデザインです。塗装も上下に焦げ茶を配した2色塗り分けで、更に横方向に2本の細いラインを入れた、 凝った塗装です。四角いだけの「標準十号」や「末期型123号」に比べて、遥かに凝ったデザインですし、使われている木材も厚く、質の良いキャビネットです。
 どんな形でも自在に作れるプラスチックと違って、木で曲面のコーナー部分を作ろうと思えば、熱を加えながら曲げなければなりません。しかも左右2箇所で行なわれていて、作るのにかなり手間の掛かったデザインと言えます。
 縦に並んだ2つだけの操作つまみは、上が同調(選局)で下が再生(感度調整)で、標準十号と同様、音量調整はありませんが、再生つまみで最小音量〜最大音量まで、スムーズに調整出来ますので、これが実用上の音量調整となってます。電源スイッチは当時の慣例で左側面にあります。



第1段階「惨状」
  オークションで入手したヨクナル号は、判っていたとは言え、その汚さとボロボロさは、そのままゴミ箱に放りたくなる程でした。
ヨクナル号元の姿
届いた時のヨクナル号                  
 
「汚くてボロボロ」だった時の様子です。触るのも嫌になる程の汚さで、部屋に持ち込む事が出来ず、写真は庭で撮りました。塗装は細かく剥離し、煤けてしまっていますし、ダイヤルは、窓のセルロイドが真っ黒に汚れて全く見えず、真鍮製の飾り金具も真黒に変色してます。スピーカーグリルの布 (サランネット)は破れて内部が見えてます。小さめの操作つまみの周囲は、操作時に手が触れる部分と触れない部分で、色がはっきり分かれていますが、これはこのラジオが長く使われていた事を示しています。つまみのネジは錆ついていて、どうしてもつまみを外す事が出来ず、その為シャーシを取り出す事も出来ませんでした。

ボロボロヨクナル号
届いた時のヨクナル号(背面)                    
 悲惨な状態の内部
です。濃灰緑色だったシャーシは錆が全面を覆い、右端の自動車みたいな形の電源トランスも、同様に錆びています。真空管は4本全てが失われ、スピーカーさえも無くなっています。キャビネット右側面に付いているのは、電源スイッチです。左の円筒形の物は同調コイルで、太い直径としっかりした巻線で、この惨状の中でも「まだ使える!」と主張しているかの様です。
 恐らく、旧式化したヨクナル号は故障した際に、スピーカーや真空管等の使える物が抜き取られて、残りの「残骸」は、物置きか天井裏にでも放り込まれたのだと思います。そして長い長い放置期間中、小動物(ネズミ?)が巣として住み着いていたらしく、シャーシの一部は尿で激しく錆び、キャビネットにはアンモニアが染み込んでいて、その強烈な臭いはなかなか抜けず、修復に取り掛かれませんでした。
 (この写真は、オークションの時の写真を、出品者の御了解を得て使用しています)

錆だらけシャーシ
取り出したシャーシ                    
 つまみの錆びたネジをドリルで削り取って、何とか
シャーシを取り出しました。
 シャーシの手前部分がラグビーボール型に大きくくり抜かれているのは、キャビネットに取付けられたスピーカーにぶつからない様にする為です。右に楕円形のダイヤル盤があり、その奥の大きな煙突みたいなのは、同調コイルです。左端は電源トランスで、かなり錆びていて、
重ねられた鉄芯は錆びで少し膨らんでいます。オークションの際も、出品者が「使えないと思います」と言っていました。もしこれが使えないと、同じ規格の代替品は入手が困難ですので、ヨクナル号の復活は時間が掛かる事になります。
錆シャーシ上面
シャーシ上面                  
 アップで見ると、汚さがはっきり判ります。
 斜めに2つ取り付けられているのは、電源チョークトランス(左)と段間のステップアップ(昇圧)トランス(右)ですが、どちらも断線していました。当時のエナメル線は腐食し易くて切れ易かったそうですが、2つが同時に切れる事は考えられませんので、どちらかが切れた時に、修理せずに買い換えられて放置され、もう片方は放置中に腐食で切れたのだと思います。結局このトランスの断線が、このラジオにとっての致命傷だったのでしょう。2つのトランスが斜めに取り付けられているのは、互いの磁力線が結びついて干渉ノイズを出さない様にする為です。
 左端の黒い電源トランスと斜めのトランスの間の、短いコードが見えているのは、スピーカーへの出力端子です。

錆シャーシ内
シャーシ内部                  
 内部も汚いですが、想像していたよりはまともで、原形をはっきり留めていました。つまみが外れなくて引き出せなかった事が幸いして、部品を剥ぎ取られる事が無かったからだと思います。とは言え、その汚さは気持ちが悪くなりそうな程で、エンパイアチューブ(配線の絶縁チューブ)が、ニスの変質とタバコの煙のヤニで、ベタベタになっています。写真の上の辺りは、鉄がアンモニアで激しく錆びています。
 右上の斜めに取り付けられた四角い物は、大容量コンデンサーを集めた集合コンデンサーで、その右上の層になっているのは、再生調整(感度調整=事実上の音量調整)用の小型バリコンです。

キャビネット
キャビネット内部                  
 キャビネット内部です。左のダイヤル窓付近から、小動物の尿だと思われる、液体が流れた染みがはっきり着いています。この小動物の尿によるアンモニア臭は強烈に鼻を突き、なかなか脱臭出来ませんでした。スピーカーが取り付けられていた、丸い穴の開いた板(バッフル板)は、剥離が始まっていますし、これも強烈なアンモニア臭がします。でもこれが残っていたので、新しい板で全く同じに形取って作り直す事が出来ました。
 キャビネット自体の作りは丁寧で傷みは少なく、コーナーの曲面部分も丁寧で良質な「仕事」が為されています。

 


第2段階 修復作業
  そのままで使える部分はありませんので、完全に解体して汚れと古い塗装を落し、綺麗に塗り直して、その後に配線を復元する事にします。
白木
キャビネットの塗装を剥がします              
 
キャビネットのニス塗装は、全面的に細かく剥離しているので、一旦全て剥がしました。電動の紙ヤスリ掛け機を購入したので、割と効率良く剥がせて、白木状態になりました。グリル部分の下に「ARIA」のロゴがあるので、その部分だけテープで覆ってます。

塗り直し
塗り直し               
 
消臭液とアンモニア臭に効果があると言われるミョウバン水を、3週間にわたって内部に何度も何度も噴霧器で吹き付けては乾燥させ、強烈だったアンモニア臭をやっと脱臭する事が出来ました。
 その後砥の粉を塗って目留めをし、上下の部分は濃い色、それ以外は薄い色のスプレーニスで、複数回の重ね塗りをしました。


シャーシ錆剥がし
シャーシも塗装を剥がします                  
 シャーシから部品を全て取り外した後、シャーシも古い塗料と錆を全て剥がします。錆も可能な限り落しましたが、錆の進んでいた部分は、表面が月面の様なアバタ状になっていて、小さな穴が開いてしまっている場所もありました。新聞紙には、塗料の黒い粉以外に、錆の赤い粉も溜まっています。

シャーシ塗装
塗り直したシャーシと電源トランス                 
 
シャーシの色は、自衛隊の車両みたいな濃い灰緑色で、ちょっと重暗い感じの色でした。再塗装は「ピカピカに蘇らせる」と言うコンセプトに似合った、もっと明るく楽しい色にしようと思い、錆び止め塗装の後で、パステル調のグリーンに塗りました。
 同じく濃い灰緑色で、鉄芯が錆びて膨らんでいたトランスは、チェックの結果、巻線が全て生きていて、正常の電圧が出て使える事が判りました! 出来るだけ錆を落し、針金で膨らみを締め付けて、シャーシと同じく錆の上から塗れる錆び止め塗料を塗った後、薄紫色に塗りました。


コンデンサー内部
集合コンデンサーの解体            
 機能が完全に喪失してる集合コンデンサーは、内部を取り出して空にして、新しいコンデンサーを入れます。蓋を剥がすと、非常にグロテスクで気持ち悪い物質が詰まっていました。これを全てかき出します。特に悪臭がする訳ではありませんが、正体不明の物質である事の恐怖感と、見た目の気持ち悪さで、「やりたくない感」一杯です。
 電解コンデンサーかと思ってましたが、中から出て来た物から推測すると、ペーパーコンデンサーの様です。

コンデンサー2
集合コンデンサーの復元                 
 中身を全てかき出して綺麗にし、ブリキのケースは銀色に塗り、中に現代の小型化したケミコンを入れ、端子板を工夫し、蓋をして黒く塗りました。容量も 10μF、10
μF10μF、5μFに増強しました(元は2μF、2μF、1μF、2μF)。
 ケースには「ARIA」のブランド名が入っています。上部の2212の数字は、内部のコンデンサーの容量です。中程の4つの端子が、それぞれのコンデンサーの+端子で、ケースそのものが4本共通の−となってます。

 
ダイヤル機構
ダイヤル機構                 
 ダイヤルは円板を使った減速機構付きで、下方の軸を回すと、約6分の1の減速率で黄色い大きなプラスチック円板が回り、これにバリコンが繋がります。多少のガタはありますが壊れてはいませんので、錆を落して油を注しました。楕円形の大きなリングは、目盛板の枠です。

コイル
大きな同調コイル                 
 大きくて立派な同調コイルは、直径が5cmもあり、後の時代には巻線の上に重ねて巻かれる再生コイルは、この太い筒の内側に一回り細いコイルを重ね、二重構造になっています。巻かれている線も太くてしっかりしていて、見るからに高品質で性能も良さそうです。オークションの写真でこのコイルが見えた時、これだけのコイルが使われているなら、きっと他も何とかなるだろうと感じて、購入を決めました。写真は123号のコイルと比べたもので、3倍位の大き さです。

ヒューズホルダー
ヒューズホルダーの修復                
 硬い樹脂製のヒューズホルダーの底板は、解体作業の途中で割れてしまいました。最近は押し込み型以外のヒューズホルダーは、手に入り難くなっていますので、割れた部分をエポキシ樹脂で復元して修復しました。白く見える部分がエポキシ樹脂です。この上から、電源トランスと同じ紫色に塗ってますので、継ぎ足し補修しているようには見えなくなってます。実際にはこの上に鉄製のカバーが被さります。

スピーカー
スピーカー                
 スピーカーは失われているので、用意しなくてはなりません。勿論この当時の並四ラジオのスピーカーは、全てマグネチック・スピーカーです。マグネチック・スピーカーの入手は、現在では非常に困難で、廃棄ラジオから取り出すしかありませんが、以前オークションで入手しておいた物がありますので、それを使う事にしました。「WESTON」というブランドの製品で、フレームが紙製ですので、戦時中かその直前の頃の製造です。勿論これを持っていたから、スピーカーが欠品でもこのラジオを購入した訳です。
 マグネチック・スピーカーは音質が劣るので、現代のダイナミック・スピーカーでもテスト動作させてみたのですが、マグネチックスピーカーより効率が悪く、小さな音しか出なかったので、やはり本来のマグネチック・スピーカーを使う事にしました。

真空管
真空管               
 真空管も全て失われているので、用意しなくてはなりません。真空管ソケットに型番が刻印で表示されていましたので、使用する真空管はすぐ判りました。検波がUY-27A、低周波電圧増幅がUX-26B、電力増幅がUX-12A、電源整流がKX-12Bです。検波用にはこの当時、既に高性能な四極管UY-24Bが実用化されていましたが、価格が高いのでここでは使われず、すべて従来からの安価な三極管(整流は二極管)だけで組まれています。27Aと12Bはこの当時でも既に旧式な品種で、切れた時や修理の際には、後継互換品の56と12Fに交換される傾向にありました。
 写真は今回使用する物で、使用電力や手持ちの関係で、
左から検波用(傍熱型 三極管)UY-56(ゴーロク)、低周波電圧増幅用(直熱型三極管)UX-26B(ニーロクビー)、電力増幅用(直熱型三極管)UX-12A(イチニエー)、半波整流用(直熱型二極管)KX-12F(イチニエフ)です。12Fは大抵の品は3本脚ですが、ここでは初期の4本脚の物を使っていますが、勿論どちらでも同じ様に使えます。
 
真空管は各社が同じ型番を製造していますので、他社製品でも型番が同じなら全く同じに使えます。ミタカ電機に限りませんが、当時の多くのラジオメーカーは、真空管は自社製造していませんでしたので、真空管はトップメーカーのマツダ(東芝)から仕入れて装着していました。写真の真空管のメーカーは、56と12Fがマツダ、26BがELX、12Aがベストです。26Bと12Fは日本独自の品種で、国産品しか存在せず、特に26Bは貴重品ですが、56と12Aは米国も製造していましたので、入手は比較的容易の様です。
外観修復
修復が終ったキャビネットとシャーシ               
 以上で個々の部品の修復と用意が整いました。シャーシに部品を全て取り付け、
真っ黒に汚れて中が見えなかったダイヤル窓のセルロイドは、洗剤で洗って磨き、ダイヤル窓の飾り金具も、銅色に塗りました。この時点では、スピーカーグリル部分のネットは未だ張ってなくて、写真に写っているのは、布をカラーコピーした紙です。真空管の手前には、新品に交換した2つのトランスが、元と同じ様に斜めに取り付けられています。そのすぐ左は、スピーカーへの出力端子です。
 ピカピカに塗り直されたキャビネットや、電源トランス、真空管のガラスがキラキラと光って、ボロボロだった時の面影は全く残っていません!
 この後、いよいよ内部の配線に取り掛かります。



第3段階 配線と仕上げ
  修復が終って鳴る様になった「ヨクナル号」の様子を、詳細にご紹介します。
シャーシ内
シャーシ内の配線             
 シャーシ内の配線です。6個の抵抗器と2個のマイカコンデンサーは、元からの物を使っています。円筒形のペーパーコンデンサー(斜めの集合コンデンサー のすぐ下、赤線入りの物)は、内部に現代の物を詰めた「外観復元品」です。配置や配線は概ね元通りですが、123号の時ほど「元通り」ではなく、トランスの古い巻線や古い抵抗器に張力が掛からない様に、立ラグ端子を3つ追加しています。左端の電源トランスは、塗装の時の保護紙が巻いたままになっています が、これはむき出しの巻線を少しでも保護する為です。電源トランスのすぐ右に、電圧調整用に現代の小さい抵抗器を取り付けています。

初段付近
シャーシ内のアップ             
 シャーシ内の入力端子付近のアップです。一番右の板状の部品は、下の回路図でC1のコンデンサーで、マイカコンデンサーの一種だと思いますが、こんな形の物は初めて見ました。一緒に抱き合わされている細い抵抗器も、余り見掛けないサイズです。
 元のまま再使用の抵抗器や、外見復元の円筒形コンデンサーに御注目下さい。
 配線手法は、当時風にすずメッキ銅線にカラーの絶縁チューブを被せた物と、現代のビニール線との混在で、123号の時ほどには「当時と全く同じ」にこだわってはいません。これは上で書きました様に、現代の立ラグ端子を使っているので、その時点で既に「全く同じ」ではないので、それ以外の処で全く同じにしても、余り意味がないと考えたからです。

テスト動作中
ラジオとして蘇った瞬間!           
 配線が終った後、慎重に配線図と照らし合わせてチェックをし、スピーカーとアンテナ(窓の向きや建物の構造にもよると思いますが、アルミサッシの窓枠金具に繋ぐと、大変感度の良いアンテナになります)を繋いで、スイッチをONしました。真空管が温まった数秒後、推定60年振り位に放送が鳴りだしました。 「残骸」に過ぎなかった「ヨクナル号」が、「ラジオ」に蘇った瞬間です! 
 そして動作テストです。並四ラジオは基本的に調整の箇所はありませんが、ヨクナル号の様に部品が古い場合は、バリコンやダイヤル機構にガタがあると、感度や音質、周波数等が不安定になったり、変動する事があります。それ以外にも、真空管も製造後70年以上経った物や中古品がほとんどですので、時間が経つとノイズが出たり、逆に安定するまでに時間が掛かる物が在ったりしますので、細かい修正や調整が必要です。
 このヨクナル号でも、バリコンの構造が多少歪んでいて、周波数が大きくズレていましたが、歪みを直した結果、正常になりました。

標準十号裏から
内部
 シャーシのサイズは、最小限にして左に寄せた標準十号や123号とは異なり、キャビネットの幅一杯を使っていて、一見スペースに余裕がある様に見えますが、右半分はスピーカーのマグネットがギリギリまで迫っていて、実際にはシャーシ上には余裕はほとんどありません。この事は、こうしてシャーシをキャビネットに収めて、初めて気付きました。
 電源トランスの下の横型の物は、ヒューズホルダーのカバーです。

ダイヤル機構
ダイヤル機構                 
 ダイヤルは円板を使った減速機構付きで、下方の軸を回すと、約6分の1に減速されて黄色い大きなプラスチック円板が回り、これにバリコンと指針が繋がってます。但しこの組み合わせだと当然の事ながら、つまみの回転とダイヤル指針の回転は、向きが逆になります。つまり、つまみを右に回すと、針は左に回ります。未修復で所有している初期型123号も同じ仕組みなので、当時はこの仕組みは多かったのかも知れません。最初はちょっと違和感がありますが、慣れれば 問題ありません。
 このダイヤル機構は特に壊れてはいませんでしたので、掃除して油を注しただけですが、こういう仕組みは本来、バリコンの軸芯と正確に合ってないと動きが重くなります。バリコンとダイヤル機構のどちらも取り付け位置の遊びが大きめなので、取り付け位置決めは結構難しいです。

ダイヤル窓
ダイヤル
 ダイヤル窓は戦前のラジオではお決まりの、黄色っぽいセルロイド製ですが、楕円形デザインや飾り金具、更には表現が工夫された目盛り盤等、ヨクナル号のデザイン表現の粋が結集されています。この飾り金具は真鍮製で、真っ黒に変色していましたので、汚れを落して銅色に塗りました。
 ダイヤル盤は半透明のプラスチック製で、裏側から豆電球2球で照らす透過式です。右側の豆電球は、あの「惨状」の中でも奇蹟的に生きていましたので、そのまま使っています。真空管、ヒューズ、豆球等の「切れる消耗品」の内で、唯一の「生き残り品」です。
 ダイヤルの表示は当時としては珍しい周波数表示に加えて、通常の1〜100の100分割表示の「ダブル表示」です。指針の回転範囲は左真横〜右真横の180度ですが、楕円の目盛を上手く工夫して、もっと回転範囲を大きく感じさせるデザインになっています。そして真ん中にブランド名の「アリア」が記されています。指針は柱時計の針の様な、切り込みの入った凝ったデザインです。尚この頃のラジオの周波数帯は、現在より少し狭い550kHz〜1500kHzです(現在は530kHz〜1605kHz)。
 ただ非常に残念な事に、表示と実際の周波数は逆になっています。表示では左一杯が周波数最小で、右一杯が周波数最大ですが、動作はこの逆で、左一杯で周波数最大、右一杯で周波数最小となっています。これは恐らくバリコンが修理の際に交換されていて、その際に逆回りの物を使った為だと思います。取り寄せた際に間違ったのか、或いは在り合わせで、同じミタカ電機の他の製品から流用したのではないでしょうか。当時は右回り機と左回り機が混在していました。
 操作つまみは、このダイヤル窓の少し下にあります。

つまみ  
操作つまみ
 古いラジオでは、本来のつまみが失われている事がよくある様ですが、このヨクナル号はネジが錆ついて取れなかった事が幸いして、元のつまみが残っていました。そのつまみは頭の丸いチョコレート色のつまみで、曲面デザインのキャビネットに似合った形です。しかしデザイン優先なのかサイズは小さめで、操作する時に指がキャビネットに触れ易く、到着時の写真の様に、つまみの周囲が円形に変色する原因となりますので、操作の時には注意して回したいものです。
 ネジが錆びていて、取り外す時に止むを得ずネジを削っていますので、一旦は一回り太いM4のネジを入れましたが、不具合があったので、現在ではインサートナットを挿入した上で、新しいM3のネジを入れました。

側面
コーナー部分と電源スイッチ
 スイッチはレバーを上下させる「トグル・スイッチ」です。元の物は壊れていて使えませんでしたので、新しい物を取り付けました。部品店で同じ様な形の物を色々探しましたが、レバーが一回り大きい物しかありませんでした。
 コーナーの丸くなった部分のサランネットには、裏にヘギ(駅弁の底に使われている様な極めて薄い板)があててありましたが、入手が難しかったので、止むなくボール紙で代用しました。いずれにしても、この部分には裏に何かをあてないと、綺麗に丸くなりません。この丸いコーナーと側面にまで周り込んだスピーカーグリルは、ヨクナル号の最大の特徴ですが、スピーカー自体は正面を向いて取り付けられていますので、側面方向にも音が出る様に工夫されている訳ではありません。
 サランネットは、標準十号や123号と同じく、織模様のある金色のサランネット専用布で、かなり以前に買っておいた物ですが、もうあと1台分しか残っていません。

交換後のスイッチ
小さめのスイッチに交換
 その後、手持ちの部品の中に、元の物と似た小さいレバーのスイッチがありましたので、交換しました。元のスイッチは、細い棒の先端に丸い球が付いてる形ですが、最近はそういう形のスイッチは見掛けません。交換したこのスイッチも、交換する以前の一回り大きい物も、レバーの形は「雨粒型」です。

 

背面と蓋
背面と裏蓋
 残念ながら裏蓋は失われていましたので、それらしい物を作りました。他のラジオの写真を参考に、この頃によく見られる、花の様な模様の通気穴を開けました。
 左下には5連の差し込み端子板があります。左から、蓄音機(レコードプレーヤー)用ピックアップ入力+、同−兼アース、アンテナ3、アンテナ2、アンテナ1です。 アンテナは1に繋いだ時が一番感度が良いのですが、放送局が近いと音が大きすぎて、再生つまみでは音量を絞れない場合や、混信する場合に、2や3に繋ぎ替えると改善されます。ピックアップ端子には、現代のCDプレーヤーも繋ぐ事が可能(勿論モノラルで)ですが、繋いでもスピーカーがマグネチックスピーカーなので、音質は悪いです。
 真ん中は銘板、右はヒューズホルダーです。
 
回路
回路図
 例によって手書き回路図です。回路図はどこにも残っていませんでしたので、実際の部品を辿って復元しました。

 簡単に説明しますと、左端のコイルとバリコンで同調した後、27A(実際は56を使用)でいきなりグリッド再生検波(検波:高周波=電波の中から音声信号を取り出す事)します。グリッド検波は増幅作用もありますので、1本の真空管で大きな検波信号が得られ、様々な検波方式の中で一番高感度ですが、
音質は犠牲になります。でも当時は真空管の価格が高かった為、「真空管の数が少なくても、大きな音で聞こえる事」が重視されましたので、ほとんどの製品がこの方式です。
 プレートからコイルの上の巻線に戻る回路が再生回路で、検波後でも幾分残っている高周波成分をコイルに戻して、再度検波をやり直します。これが再生で、つまり正帰還(PFB)です。再生を掛ける事により非常に感度が高くなりますが、戻し過ぎると「ピギャー」と発振してしまうので、豆コンで調整します。並四ラジオではこれが事実上の音量調整になります。この再生による音量調整は、音量が絞り切れなかったり、すぐに発振してしまったりと、使い難い事が多いのですが、ヨクナル号ではコイルと豆コンの設計が良くて、スムーズな音量調整が出来ます。

 検波され取り出された音声信号は、26Bで電圧増幅した後、巻線比1:3の段間トランスで更に電圧を上げた後、12Aで電力増幅されスピーカーを鳴らします。この26Bと12Aは、非常に旧式で低能率の直熱三極管ですが、値段が安かった為に、広く用いられていました。
 当時既に、検波には高性能な四極管24Bを、電圧増幅には傍熱三極管56を使った製品が出回っていましたが、このヨクナル号では、依然として旧式な球を使用しています。恐らく、凝ったデザインのキャビネット採用でコストが嵩んだ分を、内部は旧式の安い回路にして吸収して、製品の価格上昇を避けたのではないかと思います。
 当時の回路は、使用する真空管が同じなら回路も各社ほぼ同じで、ヨクナル号のこの回路も標準回路そのものですが、一点だけ独自の工夫が見られます。それは、本来は26Bと12Aの陰極(フィラメント)部分には、それぞれにコンデンサーを入れるべきなのですが、ここではC4一つだけを上手く工夫して共用している点です。当時は容量の大きいコンデンサーは体積も大きくなる為、出来るだけ数を減らしたかった為と思われます。


 電源整流は12B(又は12F)による半波整流で、π型のリップル・フィルター(C7・60Hのチョーク・C6でπ字型になっているので、π型フィルターと言います)辺りは現在の回路と全く同じです。フィルターコンデンサーの容量が2μFと小さい為、抵抗器で代用せず、きちんとチョークコイルが使われています。チョークの値は、元はたぶん30H位だと思いますが、交換の際に値段が同じだったので、倍の60Hの物を使いました。修復に際しては、C6、C7のコンデンサーを十分に大きい値(10
μF)に変更していますので、効率が上がり電圧が200Vとなり、26Bや12Aの最大定格180Vを越えてしまいました。その為電圧を下げる為に、12Bのプレートに※の抵抗を入れました。この抵抗は本来ならC7の前かC6の後ろに入れるのが最適で、ついでに10μFのコンデンサーも入れて、リップルフィルターにすれば、ブーンと言うハムノイズも軽減出来て良いのですが、かなり配線をやり直す必要が出て来るので、※の場所で妥協しました。
 パイロットランプは、2個の内の片方は、「ダイヤル」欄で書いた様に元のままの物で、もう片方は新しい物で、2.5Vの電圧に対して3V130mAの物を使っています。明るさは新旧2つとも同じです。
ここから先は、更に色々細かい点をご紹介します
銘番

銘番と製造番号
 アルミ製(ブリキ製かも知れません)でサイズは52mm×36mmで、シャーシに鳩目留めされていましたが、修復はビス留めになりました。
 表記は上から 

 ヨクナル號受信機
 A-2號
 京都ラヂオ商聯盟
 製作番號 3 FA1190
 電源周波数 50-60〜 (〜は交流を示す記号)
 電源電壓 100V
 全負荷電流 0.17A
 東京 ミタカ電機株式會社 名古屋

と書かれています。製造番号が1190と言う事は、京都で少なくとも1200台程度が販売されたと言う事になります。戦災を免れた京都ですので、どこかの民家にまだヨクナル号がひっそり眠っているかも知れません。製造年月日は残念ながら記載欄自体がありません。

ロゴ
ロゴ
 スピーカーグリルの下に、メーカーであるミタカ電機のブランド名「ARIA」と、ミタカ電機の英文名称の頭文字「MEC」の、金文字ロゴが入っていま す。この部分だけは元の塗装を剥がさずに残しておいたのですが、文字はかすれて薄くなっていました。これを復元して再プリントする方法を考えてみたのですが、いい方法が思い浮かばず、結局手書きになりましたので、余り綺麗に書けていません。

電源コード
電源コードとプラグ
 電源コードとプラグは、現在の新しい物に交換してありますが、形はこのラジオの頃と同じ、袋打ちコードと丸型プラグを使いました。これはどちらも今でも手に入る物です。丸型プラグはパナソニック(松下)の「ポニーキャップWH4000」です。袋打ちコードは電線専門店で以前に購入した物ですが、検索すると今でも販売店が見つかります。元はもう一回り太い蛇の様なコードでした(届いた時の写真に写ってます)。
 左の青くて細い線はアンテナ線です。並四ラジオにアンテナ線は必須で、4〜5m程度のアンテナ線を繋がないと、余程近くて強力な局以外は聞こえません。

このラジオの動画
洋楽ポップス
Jポップス

放送を受信中のヨクナル号の動画です。(You Tube)

ラジオの精
ヨクナルちゃん
 雪乃町公園は本来はイラストサイトなので、ヨクナル号のイメージキャラを描いてみました(*^-^*)  ラジオの妖精のヨクナルちゃんです。


 こうして、ネズミの尿にまみれ、錆びて朽ち果てるのを待つだけだった「ヨクナル号」は、颯爽と鳴っていた頃の姿を取り戻しました! 感度・音質共思ったより良く、特に再生量の設計が良い為か、使い勝手も良好で、名前の通り「ヨク鳴って」います。
 これでこのヨクナル号ラジオのご紹介は終りです。ご質問や更に詳しい事については、雪乃町公園掲示板にお書き込み下さい。

雪乃町公園管理人:うつりぎ ゆき

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