
| 支那事変に於ける化学戦例証集 |
粟屋憲太郎・吉見義明編・解説『毒ガス戦関係資料』(不二出版)P415〜より、「きい」の使用例を抜粋
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支那事変に於ける化学戦例証集 陸軍習志野学校案 序 本例証集は支那事変に於ける化学戦戦例中特異のものを収録し纏めて図解に依り簡潔に教訓を開明し以て軍隊の現況に即応する瓦斯用法特にあか筒の軽快機敏なる用法の具現実行に資せんとするものなり 叙述の推敲及検討共に其の余地少しとせざるも作戦に警備に戦力の補備増強を緊切とする現時局に対応し現地軍隊の参考とならば幸甚なり 若し夫れ戦場を異にし状況変化するに於ては本例証中一脈相通ずる運用の要諦を把握し発刺たる企図心と追随を許さざる創意とに依り以て防護の処隙に乗じ以て其の妙境に透徹せざるべからず 昭和十七年十一月三日
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(「目次」略)
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今や支那軍は皇軍の精鋭殊に其の優良装備に抗し得ず 我が真面目の攻撃に対しては巧に之を交通不便なる山地等に待避し 或は之を主要進路外に避け我が進攻作戦後其の主力を反転するに至るか 或は某正面に我が兵力の減少を来せりと見るや其の数を頼んで逆襲し 我が戦力の消耗を策しつつある傾向あり 之が対策としては我が進攻作戦に方りては其の企図秘匿を絶対の条件とし 一度之を決行するや卓抜なる企図の下に神速果敢なる機動を以て徹底的戦場捕捉の殲滅戦を遂行し 敵の抗戦意志を根柢より挫折すること緊要なり 此の際広大なる地域を有する敵に対し土地を占領するのみを以てしては其の成果僅少なること多かるべし 之が為化学戦力を行施するに方つては特に左記著意を緊要とす
一、編成装備 歩兵は発射(小)「あか」筒同発煙筒中「あか」筒等を随時携行し又各大(中)隊には「あか」筒投射機を装備す 其の他の部隊にも適宜自衛用として此等を装備携行せしめ以て個々の部隊に相当の突破力と自衛戦闘力を具備せしむ
二、企図の秘匿欺騙 大なる正面を以てする整正の攻撃を行ふに方りては特に企図の欺騙秘匿に勉め敵をして我が攻撃に先だち待避せしめざること最も緊要なり
三、攻撃要領 1.要線に沿ひ楔状攻撃によりて敵を戦場に捕捉するの態勢を占めたる後俄然正面より攻勢に前進す 2.或は道路に沿ひ陽に追撃し途中急遽側方に反転して路外の敵を掃滅す 3.或は一部隊を以て敵線内に突進的に攻撃せしめ玆に敵兵力を牽制消耗するのみならず適時有力部隊を以て側方より之に協力し細く殲滅戦を行はしむ 註 1.2.3共其の著想は支隊、兵団より軍に至る各部隊の指揮運用に適応すべく又特に一部の穿貫的攻撃に方りては化兵の利用により兵力の弱小を補ひ突破力を増強す 4.主力の進攻作戦に方り後方要地の守備兵力には特に致死剤及持久剤等を豊富に使用して敵の戦力を消耗せしむ
5.進攻作戦後の撤兵に方りては右項同様残置部隊をして敵兵力の牽制消耗に任ぜしむると共に主力は随時反転し之と協力して殲滅戦を遂行す (以下略) |
以下、具体的な戦闘事例より、「きい」に関する9事例を抜粋します。各事例には大きな「戦闘経過要図」が添付されており、むしろこちらが資料のメインなのですが、容量の関係からここでは省略します。
なお、以下の「例証集」は、コピーを重ねたものらしく、字が潰れて判読不能となっている箇所が多数あります。その部分は■で表示しました。
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二〇 きい剤を以て敵陣内の要点を毒化し敵に甚大なる損害を与へたる例
陳家河附近に蟠居せる敵は数次に亙る討伐に拘らず執拗なる遊撃工作を反現しつつあり 掃蕩隊(3/1i)は徹底的に之が■正を企図し敵陣地の爆破竝に要点撒毒を準備中なり
戦闘経過の概要 一、気象 晴天、東風三米気温四度 二、作業班の構成 将校一 下士官一 兵七 ニ組 四、使用数量 約二〇〇キロ
五、撒毒地域 幅ニ−三米 長約二、八〇〇米 六、効果及成果の測定
教訓 一、小量のきい剤と雖も用法適切なる時は支那軍に対しては価値甚大なり ニ、敵が撒毒地より後退の好機に乗じ積極的に之を補足殲滅すること肝要なり (『毒ガス戦資料』P453)
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二一 きい剤を以て共産軍の根拠地を毒化し殲滅的打撃を与へたる例
第○○師団は太行地区に於ける共産軍の撃滅を企画し二月初旬より攻撃を開始せり
戦闘経過の概要 一、師団特種作業隊は一月下旬より潞安に於て教育竝に作戦準備を実施中なりしが主力を以て○○聯隊に配属せられ両聯隊の掃蕩戦と密接に連緊し撒毒を実施し敵根拠地を完封せり
二、気象
四、使用場所 五、効果
教訓 陣地を有せず洞窟、村落等を根拠地とし政治工作を主とする共産軍に対しては此の種瓦斯用法は効果甚大なり (『毒ガス戦資料』P454) *江西省太行山脈 一九四二年二月八−一五日 第三六師団 |
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二二 きい弾、あか弾及あか筒を巧に併用して小部隊を以て敵陣地の中央を突破したる例 観音寺附近戦闘経過要図 於六月一日六時以降(図略) 一般の状況 速かに観音寺高地附近を占領して支隊傘かの■■を除く■■■■を有するⅡ/○○i (+1LM ⅡBA) 六月一日■■要図の■■に在りて攻撃準備をせり 戦闘経過の概要 一、気象 晴天 南西風三米 二、射撃放射及突撃の時間関係 教訓 敵陣地の■■的攻撃に方りては各種瓦斯を使用し兵力の弱小を補ひ突破力を増強するを要す 之かためきい弾を以て両側の敵を制圧し攻撃正面にてあか弾あか筒を使用して陣地を突破すること肝要なり (『毒ガス戦資料』P455) |
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二三 きい剤の凍結のため戦機を逸したる例
一、東崖底附近に蟠居せる共産軍を急襲突破して黎城方向に進出を企図せる ○○i 主力は二月十三日薄暮を期し当面の敵を攻撃す
一、聯隊の攻撃は予定の如く進捗せるを以て作業小隊は直ちに部落北端に進出し撒毒を準備せるも毒液(石油約三分の一を混入し莚を以て梱包し保温に努めつつ携行せり)は大半は凍結しありて撒毒不能となり且つ夜に入ると共に部隊主力は追撃を開始せる為遂に戦機を逸して撒毒を実施するに至らず
一、酷寒地に於けるきい剤の使用に方りては努めてきい一号丙を準備するを要す 止むを得ずきい一号甲又は乙を使用する場合にありては凍結の予防竝に撒毒地の選定(屋内等)に関し特に留意するを要す (『毒ガス戦資料』P456) *「ゆう」注 「きい一号」は「イペリット」、「きい二号」は「ルイサイト」を指します。 |
| 三八 きい剤の応用爆撒に依り陣地前の要点を封鎖して効果大なりし例
一、敵と近く相対峠して警備中なりし陳河家警備隊は数日来執拗なる敵の襲撃を受けつつあり ニ、警備隊長は交付せられありたるきい一号甲及押収手榴弾空壜等の応用材料を使用し爆撒の設備をなせり
戦闘経過の概要 一、気象 曇 南東風 約二米 二、使用資材 きい一号甲 約八缶
教訓 一 戦場所在の物件を利用する爆撒は小量のきい剤を以て軽易に使用を得るのみならず敵に与ふる精神的効果大なり ニ 爆撒は敵の通路上の要点(隘路渡渉場等)に設備するを要す (『毒ガス戦資料』P474)
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| 三九 きい弾射撃に依り遮蔽陣地に在りて猛威を逞ふしつつありし敵砲兵を沈黙せしめたる例
黄河右岸南村東方谷地に遮蔽陣地を占領せる敵砲兵に対岸の我が陣地に対し猛威を振ひ制圧意の如くならず
戦闘経過の概要 一、気象 晴 南西風 一、二米 二、使用資材 きい弾 二六発
教訓 遮蔽度大にして普通弾の効力を十分期待し得ざる敵に対してもきい弾は其の特色を発揮して之を制圧し得る場合多し (『毒ガス戦資料』P475)
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| 四〇 きい弾及あか弾を稍々大規模に使用し優勢なる敵の包囲攻撃を頓挫せしめたる例
蒋介石は長沙作戦間我が宜昌地区一帯の警備兵力が著しく減少しあるを知るや第六戦区長官陳誠に対し宜昌奪還を厳命せり
戦闘経過の概要 一、気象 七八九日 晴 北西風 約一米 二、使用資材 きい弾 約一、〇〇〇発
教訓 一、支那軍に対しては砲兵の瓦斯弾による迅速なる火力機動に依り広正面に亙り制圧効力を収め敵の企図を挫折せしむることを得 二、あか弾及きい弾を併用する場合は遠距離にきい弾を近距離にあか弾を使用するを可とすること多し (『毒ガス戦資料』P476) *湖北省宜昌付近 一九四一年一〇月七−一一日 第十三師団 |
| 四四 きい剤を以て敵進路上の要点を封鎖して部隊の撤退を容易ならしめたる例
師団は十月三十一日黄河北方に転進を開始せり
戦闘経過の概要 一、気象 快晴 南風 約二米 三、所要時間 約一時間 四、効果
教訓 戦場離脱のため要点に撒毒せば小量のきい剤と雖も効果大なり
(『毒ガス戦資料』P481)
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五六 きい剤の応用爆撒に依り敵遊撃隊の執拗なる通信線破壊の企図を挫折せしめたる例
某警備隊に於て敵遊撃隊が屡々我が電柱を切断するを以てサイダー瓶を利用する応用爆撒を設備せり
戦闘経過の概要 四月九日敵は暗夜に乗じて潜入し来り 電柱の切断中爆音と同時に頭上より毒を被り周到狼狽して潰走し爾来遊撃隊の此の種の企図は根絶せり
教訓 此の種爆撒設備は敵の潜入路附近の樹上又は地上等に巧に設備すれば効果大なるべし (『毒ガス戦資料』P495)
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(2005.10.17)
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