番外編:ゆうの「南京事件」ブックガイド



 「南京事件」について何を読めばいいのか、という質問を、掲示板でよく見かけます。私自身の体験から、その「ブックガイド」を試みますので、何かの参考になれば幸いです。

*本稿を書いてから、随分と日が経ちました。以下の本が「基本的文献」であることは間違いないのですが、その後に出版された本で追加掲載したいものも多数あります。いずれ全面改稿を予定しておりますので、ご承知ください。(2008.1.13)

2013.11.3 「全面改稿を予定」と書きながら、はや5年が経ってしまいました(^^ゞ。とりあえず、最小限度の修正・追記、その後古くなってしまった本の削除を行いました。





初級編


まず、誰しもがあげる「基本テキスト」が、以下の2冊です。

1.秦郁彦 「南京事件」 中公新書

2.笠原十九司 「南京事件」 岩波新書


 前者は「被害者数4万人」説、後者は「被害者数十数万人から二十万人」説です。なお秦氏は、近年は「新しい教科書をつくる会」のメンバーとして、もっぱら保守的な立場から論陣を張っているようです。

※2013.11.2追記 秦郁彦「南京事件」については、2007年に「南京事件論争史」の追加を中心とした「増補版」が発行されています。


 ただしこの2冊は、「教科書的記述」が中心となりますので、「南京事件」について「知識ゼロ」から出発する方には、ちょっと読みにくいかもしれません。 全く初めての方であれば、むしろ次の本で、「南京事件」のイメージをおおまかに作っておくことをお勧めします。

3.ジョン・ラーベ 「南京の真実」 講談社文庫


 現場からのルポ的報告ですので、面白く読めることは請け合います。ただしこの翻訳は、誤訳・俗訳のオンパレードで、原書もしくは英訳版を参照しておかないと、こわくて議論には使えません。(私はドイツ語は読めませんので、もっぱら英訳版を使用しています)



 さて、「南京事件」について「史実派」と「否定派」の間でさまざまな論争が繰り広げられていることは、ここをご覧になる方でしたら、既にご存知だと思います。

 「歴史認識」をめぐる議論は、通常は、「事実認識」自体は概ね一致した上で、その「評価」をめぐって行われるのが通例ですが、「南京事件」は、その「事実認識」のレベルで未だに「論争」が続いている、特異な分野です。

その「論争」を俯瞰するには、以下の本を読むことが、一番の早道でしょう。

4.南京事件調査研究会 「南京大虐殺否定論 13のウソ」 柏書房


  ただしこれは「肯定派」からのまとめですので、「まぼろし派」の主張にも触れておきたい、と思う方もいるかもしれません。「まぼろし派」については、とりあえずは以下の2冊が「代表的文献」です。

5.田中正明 「南京事件の総括」 展転社

6.東中野修道 「南京虐殺の徹底検証」 展転社


 なお、田中氏の主張のエッセンスは、松尾一郎さんのHP、「南京大虐殺はウソだ」中の「「虐殺」否定の17の根拠」で読むことができます。

 ただし私見ですが、「南京事件」の真相をてっとり早く知りたいと考えるのでしたら、この2冊を読むことは「時間の無駄」かもしれません。両者とも、誤った記述、いいかげんな記述のオンパレードですが、「初心者」がそれに気がつくことは、至難の技です。

 この2冊の「いいかげんさ」を理解するには、この本を読むのにかける労力の、少なくともその数倍の「労力」が必要でしょう。 私自身、「南京事件」研究の初期にかなりの「否定本」を読みましたが、その「いいかげんさ」を理解するまで、かなりの時間を要しました。(そのささやかな「成果」が、このHPです(^^))



  
中級編


ここまで進むと、そろそろ「一次資料」に当たりたくなってくると思います。


まず必読なのが、次の2つの資料集です。

7.偕行社 「南京戦史」「南京戦史資料集機廖崙邉戦史資料集供

8.洞富雄編 「日中戦争 南京大残虐事件資料集」第1巻、第2巻 青木書店


 前者は、旧軍人の親睦団体である「偕行社」メンバーが編んだ資料集。会の性格からわかるように、「南京事件」が中国側が主張するような大規模なものではなかったことを立証しようとしています。 松井大将、飯沼中将の日記など、主として日本側資料を中心に編まれています。

 なお、「資料集供廚ない「旧版」も、出回っています。購入する時には、「資料集供廚含まれているかどうか、十分に注意して下さい。

*「偕行社」では、「旧版」しか持たない方のために、「南京戦史資料集供廚里澆鯀刷しています。まだ在庫があるかもしれませんので、ご関心のある方は、直接「偕行社」までお問い合わせください。

 後者は、「極東軍事裁判資料」「テインパーリ「戦争とは何か」」「南京安全地帯の記録」「スマイス報告」等が掲載された、これまた「南京事件」を論じる方の必携資料です。

 ただしこの7、8は絶版であり、大きな図書館で読むか、古書店で購入するかしかありません。



さらに外国人が残した記録も、貴重な一次資料です。

9.「資料 ドイツ外交官の見た南京事件」 大月書店

10.「南京事件の日々 ミニー・ヴォートリンの日記」 大月書店


 前者は、主として、当時の南京ドイツ大使館から本国へ送られた報告集。後者は、「金陵女子大学」で避難民の女性を守った、ヴォートリン女史の日記です。

11.南京事件調査研究会編訳「南京事件資料集」 1アメリカ関係資料編 2中国関係資料編  青木書店


 当時のニューヨークタイムズ等の新聞記事、ベイツやウィルソンなどが書き残した記録など。私は2001年12月、青木書店に直接メールで注文して入手しましたが、現在でも在庫があるかどうか、微妙です。価格は29,870円(バラ売り不可です)と、決して安いとは言えませんが、それだけの価値がある資料集です。

 さて、日本側の一次資料としては、「幕府山事件」をめぐる、下記の本があります。

12.「南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち」 大月書店


 これは、化学工場の労働者であった小野賢二氏が、休日を利用して「歩兵第六十五連隊」の生き残りを訪ね歩き、日記資料を収集した、大変な労作です。「幕府山事件」に関心を持つ方は、必見です。

現在絶版ですが、「ネット古書店」等で、入手は容易です。

2005.1.9補記 2004年9月、「南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち」は、発行元大月書店にて復刊されました。




 
上級編


 「上級」を名乗るのは少々おこがましいのですが(^^ゞ、とりあえず、参考までに、私がよく利用する「ネット古書店」を紹介しておきましょう。(あまり「古本入手」の「ライバル」が増えても困るのですが(^^; )

日本の古本屋

amazon

(2013.11.2 amazonを追記しました)

 私は、入手したい本がある時は、とりあえずはこの両サイトで検索をかけます。

 一般的な傾向として、大量に流通している古本でしたらamazonの方が安く手に入ります。「1円」で売りに出ている古本も多数あります。(ただし1冊当り送料250円がかかります)

 稀少本に関しては、「日本の古本屋」の方が出品されることが多いように思います。なおamazonでは、稀少本がとんでもない価格で売りに出ていることがよくありますので、ご注意を。

 余談ですが、私には、amazon出品の古本を注文したが、いつまでたっても先方古書店から連絡がなく、やむえず直接amazonにメールして返金してもらった、という経験があります。出品者欄には必ず「過去12か月で○%の高い評価」の記載がありますので、注文の前に、ここはチェックしておいた方がよいでしょう。


 


 最後に、私の手元にある洋書をいくつか紹介しておきましょう。

13.ZHANG KAIYUAN ”EYEWITNESSES TO MASSACRE”


  「南京事件」をリアルタイムで体験した外国人たち、ベイツ、フィッチ、フォースター、マギー、マッカラム、ミルズ、スマイス、スチュワード、ヴォートリン、ウィルソンの、手記・日記が収録されています。

 翻訳のないものも多く、外国人たちの南京事件当時の行動を詳細に調べようと考えるのであれば、必携です。


14.”DOCUMENTS OF THE RAPE OF NANKING”


 国際委員会文書である「南京安全地帯の記録」(徐淑希編)がメインです。その他に、「ロバート・ウィルソン博士の家族への手紙」(翻訳なし)、「極東国際軍事裁判判決」、「パル判事の意見書」が収録されています。

 
15.JOHN RABE ”GOOD MAN OF NANKING”


  ラーベ「南京の真実」の英語版。邦訳にない部分もあり、正確な議論を行うのであれば、ぜひ手元に置いておきたい一冊です。



以上の洋書は、いずれもAmazon.co.jpで入手可能です。 

 

*以上、「ブックガイド」を行いましたが、これは、自分の本棚を眺めながら2−3時間で大急ぎで作ったものです。私の「南京事件」関連の100冊以上の蔵書(日中戦争関連を含む)のうち、本当に面白いものしか紹介していません。このコンテンツは、今後、予告なしに随時更新したいと思っていますので、ご承知ください。



2013.11.3追記

 「図書館」の利用法についても、触れておきましょう。

 まず基本は、国会図書館。わざわざ来館しなくても、会員登録をすれば、NDL-OPACから、インターネットで資料のコピーを請求できます。 (会員登録には来館が必要。関西の方は、関西館の利用も可能です)

 インターネット利用の場合、書籍であれば、「まずは「目次」を請求し、「目次」を見て欲しい部分を確認して請求する」のが基本です。時間はかかりますが、地方の方には便利でしょう。

 また著作権が切れた古い本については、デジタル化資料も要チェック。電子化されていれば、資料を請求するまでもなく、すぐに書籍を無料でダウンロードできます。

 なお、著作権法に触れる資料請求は拒絶されますので、ご注意を。例えば1冊の本の2分の1以上の請求はできません。注文履歴データが残っていますので、複数回に分ける手も使えません。

 また、1冊の本に多数の執筆者がいる場合、そのうち特定の執筆者の分も2分の1までしか請求できません。

 利用者の立場からすれば、雑誌論文であれば1論文まるごと請求できるのに、1冊の本に収録されてしまうとその論文の半分まで、というのも、おかしな話ではあります。私は、たった4ページの論文を請求したところ、著作権法上コピーできるのは半分(2ページ=1枚)までですよ、と言われて唖然としたことがあります(笑)。



 その他、地方の図書館について、私の手持ち情報も提供しておきます。

 奈良県立図書情報館 

 奈良市にある県立図書館ですが、関係者によほどの「マニア」がいたのか、「軍事」「戦争」関係資料の充実ぶりが半端ではありません。国会図書館にも置いていない本も多数あります。 しかも開架式ですので、直接手に取って本を選ぶこともできます。この分野に関心がある方には、超お勧めです(笑)。

 交通は、近鉄新大宮駅でレンタサイクル(300円)を借りるのが便利です。


 鶴舞中央図書館

 名古屋市は南京市と姉妹都市提携を行っており、南京市の金陵図書館との図書交換により、3000冊以上の中国語書籍を置いています。「南京」関係も結構多いです。



2013.11.3 追記2

 冒頭で「全面改稿を予定」と書いたのに、気が付いたら5年以上が経過してしまいました(^^ゞ  とりあえず、その後に出版された書籍につき、最小限の「補足」をしておきましょう。

 「史実派」側では、以下の2冊がお勧めです。

16.笠原十九司・吉田裕編「現代歴史学と南京事件」(柏書房)

17.笠原十九司「南京事件論争史」(平凡社新書)

 前者については、私のamazonレビューをそのまま転載します。


 「南京事件」史実派の学者・研究者の論稿を集めた本。学術的にも高いレベルにあり、この問題に関心を持つ方は必読。 特に、東中野修道氏の「国際法」理解を批判した吉田裕「南京事件論争と国際法」、北村稔氏の「南京事件=「国際宣伝処」プロパガンダ」説を批判した井上久士「南京大虐殺と中国国民党国際宣伝処」は必見。


 後者は、「史実派」側からの「論争史」のまとめです。「論争」の過程で登場した「南京」関係の書籍が多数紹介されており、「ブックガイト」としても役に立つかもしれません。


 「否定派」側からは、ネット等で「話題になった」という意味で、以下の2冊を掲げます。 

18.東中野修道他「南京事件「証拠写真」を検証する」(草思社)

19.「南京の実相」(日新報道)


 ただし個人的な「感想」を述べれば、どちらも「お勧めできる」レベルの本ではありません。

 前者はタイトル通り「証拠写真」なるものの検証ですが、あまり高いレベルでの「検証」ではないようです。

 そもそも、「南京事件論議」では写真の存在はほとんど問題にされていません。 個々の「写真」が真実であろうがなかろうが、「南京事件」論議の本体には影響しない、と考えていいでしょう。「南京事件」そのものについて知りたい方には、かえって遠回りかもしれません。

 後者は間違いなく「トンデモ本」です。拙サイトでも、「南京の実相」を読む以下の3記事で、本書の検証を行っていますので、ご参考まで。

(2003.2.21記  2003.5.5「洋書」追加  2013.11.2追記)


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