「一枚のハガキ」誕生記  (第7回 白鳥省吾賞 受賞者「上田 由美子」さんの紹介)

   詩画集『白い闇』 詩集『八月の夕凪』   YMCAの歌  詩集『蒼いざくろ』


 上田由美子さん(主婦・ 68歳・広島県)の父は海軍大佐だった。軍の幹部だった父は、1943年11月、南方のタラワ島で数千人の部下と共に戦死した。戦後、多くの部下を死なせた父を許せない思いでいた上田さんのところに、一通の手紙が届いた。父の元部下の方からの手紙だった。その方とお会いして父のお話を伺うと、

 「戦場の怖さから眠れないでいた部下に、君と俺とを隔てているものは、この軍服と階級章だ、と言って軍服を脱いでシャツ一枚になり、(人間は皆平等だと)一緒に座禅を組んであげていたことや、司令部を病院代わりにして、負傷兵の一人一人に声をかけて歩いていた と言う話を聞き、父の人間性、人間愛を知り、思いを新たにしました。」

 と話された。また、亡き母が残した父からのハガキをみて、この詩のモチーフが出来たという。

* 写真は白鳥省吾賞表彰式にて受賞の喜びをお話しされている、上田由美子さん。

 

     一枚のハガキ

 

   由美子ガ オクッテクレタ 雪ノ降ッテ

   イル絵ト 雪ダルマノ絵ノオカゲデ コノ南

   ノ島ワ トテモ スズシク アツサヲ忘レサ

   セテクレマス アリガトウ オ母サンヤ

   ミンナノ 言ウコトヲ ヨクキイテ リッパナ

   人ニ ナッテクダサイ ユミコニ アイタイ

   デス サヨウナラ    父ヨリ」

   

   六才の私に宛てた父からの遺言のような

   カタカナ書きの一枚のハガキ

   今から六十二年前の

   南の島「タラワ・マキン」の戦場で書かれた

   一枚のハガキ

 

   灼熱の陽差しの下 汗を拭いながら

   我が子に向かって話しかけていた父

   飛行機の爆音が静まった時か

   砲弾の攻撃が止まった時か

   六才の幼子を思うことで

   交錯する恐怖と絶望を掻き消したハガキ

 

   母国の雪景色を描いた

   その冷たい雪を体中に溶かしながら

   少しゆがんで書き記された ハガキ

 

   幾千人の兵士と共に玉砕した父

   赤々と燃えて 墓島と化してゆく南の島で

   指揮官として最後に思ったことは 何だったのか

   父や母の 妻や我が子のことだったのか

   いや その誰のことでもなく

   多くの命が 宇宙の一点に向かって

   ただ流れて消えてゆく

   虚しい思いだけだったのではないか

 

   長方形の紙の隅がくずれ インクが滲み

   筆致だけが強く浮き出ている

   私にだけ読みとれるもの

 

 上田由美子さんは、「昨今、憲法改正が話題になっていることに危機感を覚えて、反戦詩を書いています。」といわれた。また、「詩を書き始めて、未だ3年になるかならないかのよちよち歩きですが、絵画は20年近く描いており、個展を2回ほど開いております。絵を描くことが詩作に、私の場合は役立っているように思っています。/白鳥省吾賞をいただきましたことを機に、これから一つでも良い作品を生みだしてゆきたいと願っております。」(要約)と、お手紙をいただいた。

 知る人ぞ知る、白鳥省吾は我が国の代表的反戦詩人でもある。白鳥省吾の研究で著名な詩人の伊藤信吉氏は、秋山清、岡本潤との合著『日本反戦詩集』(1969年6月25日・株太平出版社)の中に以下の二篇を採録している。

 軍国日本の海軍を皮肉ってうたった「海上の憂鬱」の中では

 「ああこの時代錯誤の哄笑、軍縮申し合わせは一つの/良心であるか、/ムズムズと戦争がしたくなるのは誰だ。/緊張とナンセンスと虚無と浪費と/個々の人間の生活難とおおそして平和という奴。」(詩「海上の憂鬱」部分)

 と大胆に戦争を批判している。大正7年『詩歌』3月号に発表した「殺戮の殿堂」は、現在話題になっている「靖国神社」境内の「遊就館」を喩えたタイトルで、省吾の反戦詩の中でも代表作とされているものである。

 「ただ御國の為に戦へよ/命を鵠毛よりも軽しとせよ、と/ああ出征より戦場へ困苦へ・・・・・/そして故郷からの手紙、陣中の無聊、罪悪、/戦友の最後、敵陣の奪取、泥のやうな疲労・・・・・/それらの血と涙と歓喜との限りない経験の展開/よ、埋没よ、/中略/

おお殺戮の殿堂に/あらゆる傷つける魂は折りかさなりて、/静かな冬の日の空気は死のやうに澄んでいる/そして何事もない。/(詩「殺戮の殿堂」部分)

 私感であるが、受賞なされた「一枚のハガキ」は省吾のこうした反戦詩に通じるものがあると感じられた。

 上田由美子さんは「広島詩人協会」「中四国詩人協会」「広島県ペンクラブ」各会員。「第十六回日本海文学大賞」(北陸中日新聞主催)の詩部門にて予備選考を通過されておられる他、『中国新聞』の読者文芸欄で「中国詩壇賞」を4度受賞している。 「未だ詩集は出しておりませんが、皆さんに勧められます。今回の受賞を朝日新聞の県内版に大きくとり上げていただきました。大変ありがたく思っております。」と控えめにお話しされた。この記事は「asahi.com MY TOWN 広島」のホームペーシでも大きく掲載されている。

 このほか、詩「水の声」で「第7回・駿河梅花文学賞・秀逸賞」受賞、「広島県文芸祭コンクール」、「広島市民文芸祭コンクール」等々に数回入選し、幅広く活躍なされておられる。 2010年には「記憶の中の橋」にて「太田玉茗賞」に入選(佳作)している。

 

* 左写真 ご令嬢と一緒に記念撮影

* 右写真 ジュースで乾杯、記念祝賀会にて選考委員の方々と

* 本文は「朝日新聞」2006年2月8日「広島県内版」、「第7回白鳥省吾賞表彰式記念パーテイ」時の口述筆記、お手紙を元に上田様の了解を得て作成しました。

* 本人の希望により、敬称を省略させていただきました。文責は「白鳥省吾を研究する会」事務局にあります。

 

 


 詩画集『白い闇』 上田由美子著

 

 2007年3月1日、念願の詩画集『白い闇』を、詩人谷川俊太郎氏の帯文<私的な事実がもがきながら歌として甦る。花々にも水にも銀河にもひそむ「命の律動」が、上田さんに詩を受胎させたのだ。>をいただいて発行された。この著書は大変豪華な詩画集で、詩36編、絵画30点をカラーで収録してある。詩は勿論、長年描き続けている絵画の素晴らしさは他に類を見ない。

* 写真 詩画集『白い闇』 2007年3月1日「澪標」「NPCコーポレーション」発行。

 

 


詩集『八月の夕凪』 上田由美子著

 2009年5月30日、2冊目の詩集『八月の夕凪』が「コールサック社」より出版された。この詩集は現在「広島平和記念資料館」ミュージアムショップにて展示販売されている他、2010年「第20回日本詩人クラブ新人賞」「第60回H氏賞候補作」 「小熊秀雄賞」にノミネートされた。

 また、アメリカ大使館のルース大使から「世界に向けて核兵器廃絶のための努力をしたいので、あなたも努力して頑張って欲しい。」という私信が届き、大使館のライブラリーに蔵書されることになった。

 広島の夏は/街全体がこの時 停止する/晩景 色を伏せ/黙祷するかのように夕凪に従う

 この詩は詩集の帯文に書かれている「八月の夕凪」の部分である。

* 写真 詩集『八月の夕凪』2009年5月30日「コールサック社」発行。

 

<上田さんの詩編は生き残った被爆者たちの鎮魂の思いや核兵器廃絶への願いを正確に伝えている。「広島の夏を語り継ぐことの苦しさ」に耐えて、なおかつ書き記さなければならない使命感に貫かれた詩編だ。

 広島の夏の「夕凪」には、被爆者たちの霊が集まってくる。それが上田さんたち被爆関係者たちにはわかるのだ。そして神が降りてくるように「八月の鐘」が天上と同時に心の奥深くから鳴り響くのだ。上田さんの多くの詩編は、そのような天上から降ってくる被爆者や戦争で傷ついた者たちの魂の響きに呼応した旋律を抱え込んでいる。

 広島の夏の夕暮れの風が止まる「八月の夕凪」とは、原爆が炸裂した瞬間を広島に甦らせる瞬間であり、人類が決して忘れてはいけない祈りの瞬間であると明らかにしている。上田さんなど被爆関係者たちは核廃絶を願って一日一日を過ごしている。>

 

 これは、この詩集に添えられている「上田由美子詩集『八月の夕凪』栞解説文の抜粋である。これを書いたのはこの詩集の発行元「コールサック社」代表の鈴木比佐雄氏である。詩人鈴木比佐雄氏は詩誌『COAL SACK 石炭袋』の主催者でもある。また先に『原爆詩一八一人集』日本語版・英語版を発行している。この詩集に鈴木氏は白鳥省吾の詩「ボロボロの神」を収録している。上田由美子さんはこの詩集に「ガラスのかけら」「夾竹桃」の2篇の詩を寄せている。その関係から今回の出版となったものと思われる。

 また、心に染み入る詩集に出会った喜びを噛み締めている。

 2010年11月1日「広高交響楽団」のオーケストラをバックに、詩「八月の夕凪」を朗読したところ、会場は祈りの場と化した。

 


詩集 蒼いざくろ 上田由美子 著

 上田由美子さんの3冊目の詩集が「土曜美術出版販売」より出版された。

 上田さんは絵をよく描かれる。過去2冊の詩集同様今回の表紙絵もご自身で描かれている。

 詩集に添えられた御手紙には「赤と美しいい色に染めることも出来ないままに戦場で青春の命を消されてしまった兵士たちを象徴としています。きけわだつみの声の手記を熟読し彼らの声なき声を私の心を透して言葉にしたものです。/中略/長い間私の心の中で熟成発酵した言葉で綴りました。」と書かれています。

 上田由美子さんの3冊目詩集「蒼いざくろ」の帯文より紹介する。

人は二度死ぬ。/戦争の犠牲者のこしを忘れてしまった時こそ、彼らの本当の死が訪れる。

だからこそ書き続けたい。/闇の先に白く点る灯りのような「鎮魂の祈り」の詩を。

 

『Grandeひろしま』春号に詩「惜春」が掲載されている。

 惜春

人を認める優しさが 自分を救うと気づいた時

心にたれ込めていた薄墨色の雲から

青空が透けて見え始めた・・・・・・・・・・

 

* 詩はホームページの都合上縦書きのものを横書きにしております。

* 表彰式の様子はここをクリックしてください。


 YMCAの歌

  広島YMCA創立75周年記念事業としての「青少年育成と平和願望」の歌の作詞依頼が、上田由美子様にありました。

  上田様の作詞した「明日に向かって」は10月25日(金)の式典当日に発表されました。

  この歌は日本のYMCAをはじめ、米国、イギリス等全世界に発信される予定との事です。

  「広島YMCAは世界125ヶ国のYMCAの中で17ヶ国のYMCAと提携し、中でもハノーバー、ホノルルYMCAとは

   お互いの青少年交流を毎年交互に行い、フィリッピン、台湾、韓国YMCAでは8月にピースセミナーを開き、

   多くの青少年を招いており、被爆地として平和の大切さを学習して頂いております。」

   下に歌詞を紹介します。


 YMCA創立75周年記念ソング

 「明日(あした)に向かって」 作詞 上田由美子 作曲 玉理照子

  1.明日に向かおう青年よ 若者たちよ

    地上は国で仕切られようと

    空は広く限りなく

    無辺の世界 青の広がり

    YMCAわれらの仲間

    国を越え 海原を越え

    今日に繋がる 明日を見つめて

 2.愛を抱いて 回そう絆の糸車

   あなたも私も春の風も

   回そう絆の糸車

   祈りを秘めて それぞれに

   YMCA一筋の道

   神の眼差し 平和の祈り

   永遠(とわ)に求めて 人々のしあわせ

 

Hiroshima YMCA 75th Anniversary Song

     「Journey to Tomorrow」

Written by : Yumiko Ueda

Composed by : Teruko Tamari

 

   Youth,let`s Journey to Tomorrow,

 Though the earth is separated by countries,

   the sky is vast and boundless,

  Immense world, great blue horizon,

 We form the Fellowship of the YMCA

 Across the oceans, across the borders,

Seeking out Tomorrow, linking it to today

 

   Embrace love,spin the wheel to bond,

     You and I and the spring wind,

      spinning the wheel to bond

   Keeping solemn prayer in our hearts,

       each forging the YMCA road,

With the God`s loving guidance and prayer for peace,

Seeking eternal happiness,reaching to each and all,


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