「木の肌」誕生記  (第9回 白鳥省吾賞 受賞者「中下重美」さんの紹介)


  中下重美さん(本名)は1967年兵庫県に生まれている。一男一女の母親である。本を読んだり詩を書いたりする事が好きな、普通の主婦であるという。

 「私は日頃からものづくりに興味があって、・・・実に様々な分野でいろんなものを作っている人たちがいて、熟練の技を当たり前のように見せられると、すごいなあと思わず身を乗り出してしまうのです。そんな中、自分にとって最も身近な父の作業場を描きました。」

 「すると浮かんできたのは、どうゆうわけか母の姿でした。そういえば、母に言われて自転車の前かごに弁当を積み、父のいる現場へ持って行った事がありました。まだ十分に若かった父は、屋根の上で、おうっと一言だけ応えると、すぐに背を向けて、きりのいいところまで、トンカントンカンと続けるのでした。」

 この詩が出来た背景をお伺いすると、

「白鳥省吾賞に応募しようと思ったときに、それこそ私にとってあたりまえだった光景、忘れていた光景、二度と戻らない光景が、限りなく愛おしく思いだされました。」

 とお手紙に記されていました。以下に作品を紹介する。

* 写真は中下重美さん。

 「木の肌」    

ちくちくと肌を刺すような

つめたい空気張りつめる 雪の朝

作業場の片隅に身をかがめて母は

箒をつかっている

掃き寄せられてかんなくずは

一層かぐわしい木の香を放つ

 

天井まで届きそうな 実直な材木の群

なめらかに手に添う墨壺の優美な流線に

頑なな尺 のこの歯の鋭い光の並列

まだひっそりと主人の仕事を待っている

機能的であることは勿論 どこにも

不足なく無駄なく 使い込まれた道具は

美しくやさしく見飽きることがない

父の手によって生みだされた

しゃりしゃりと音をたてて砕けそうな

繊細な連なりのかんなくず

その木目がみせる一つと同じものがない

世界の刹那は このまま

人目に触れることもなく灰になる

十代の頃から父が向きあってきた

かすかに人のぬくみをもった

木の肌 父の匂い

暖をとるために燃やされてしまうのは

惜しいと 母でなくとも思う

毎朝繰返される母の日課

母はかんなくずを ほんとうに愛しそうに

丁寧に掃き寄せる

まるでそれが父の体の分身ででも

あるかのように

 

半分開いた戸口から

斜めに差す冬の陽が

厳しい寒気に紅みを帯びた木の肌を照らし

ゆっくりと昇ってゆく

細かい粒子が空気中を飛びかい舞っている

まばゆい朝の光が届くその先に いつも

丸い小さな肩をした母がいる

 

 表彰式当日、おりからの悪天候で強風が吹き荒れ、東北新幹線がストップしてしまった。受賞者を待ち受けている、「白鳥省吾賞」のスタッフ達は、新幹線の相次ぐ不通の知らせに困り果てていた。そんな時、最優秀賞を受賞したお二人が相次いで欠席されるという知らせが入った。一般の部最優秀賞受賞者の中下 重美様が東京駅から引き返せざるを得なくなった旨の電報が、式のお祝いの言葉とともに入った。幸い、前日にこちらに向かった「一般高校生の部」優秀賞の吉村金一氏お一人が時間に間に合った。

 新幹線の回復を願って、30分遅れで表彰式が始まったが、「一般高校生の部」優秀賞の葛原亮氏(東京)、「小中学生の部」特別賞の坂井泰法君(新潟)は2時間遅れで、表彰式後の記念祝賀会には何とか間に合った 。

 中下重美さんより「民衆詩の流れが現代に、今の世の中に通じている背景、私が書きたかったものがその流れにつづいている、つながっている事を知り、嬉しく思いました。人々の生活と共にある民衆詩が少しも古びないのは、当然と言えるのかも知れません。遠い存在の詩人が温かくより親しく感じられ、私も 「その講演」を聞いてみたかったと強く思いました。」とお手紙をいただきました。

 以下に中下重美さんのプロフィールを紹介します。 

 第十五回日本海文学大賞 詩部門佳作

 第八回難波利三・ふるさと文芸賞エッセー特選

 第十八回 日本海文学大賞詩部門第一次選考通過

 第七回「相知すだち文学賞」最優秀賞

 平成十九年度人権啓発問題文芸作品「のじぎく文芸賞」詩・佳作

 第七回「横光利一俳句大会」入賞

 第九回「サトウハチロー おかあさんの歌」コンクール 詩 最優秀賞

 第六回『愛の詩』・第八回「愛の詩」 佳作

 等々幅広く活躍なされておられる。

 

* 詩はホームページの都合上縦書きのものを横書きにしております。

* 表彰式の様子はここをクリックしてください。

* 本文はお手紙を元に中下様の了解を得て作成しました。

* 文責は「白鳥省吾を研究する会」事務局にあります。


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