北への回路  (第18回 白鳥省吾賞 受賞者 前田 新氏の紹介)


 前田 新(まえだ あらた)氏は第18回白鳥省吾賞最優秀賞「 北への回路」誕生秘話を以下のように話された。

  第18回白鳥省吾賞をいただき感激の極みであります。微力ではありますが、この賞を契機に白鳥先生の崇高な詩精神を体して一層詩作活動に精進することをお誓い申し上げます。

  さて、はじめて栗原市をお伺いしましたが、高齢かつ身障者の私を、懇切にしかも心温まるおもてなしをいただき、なんと心やさしい人たちなのだろうと皆さまのお人柄に深く感動いたしました。美しい自然と文学の精神を大切にする、北の文化の原郷、栗原市に改めて尊敬の念を深くしました。

 この度、白鳥省吾賞に応募をいたしました動機は二つありました。

 一つは、私は福島県の会津の地に生まれ、父親を戦争で失いまして、地元の農業高校を卒業すると家業を継ぎ、農業を生業に生きてまいりました。詩や雑文を教師の影響で中学生のころから書いてきまして、高校のころに同人誌を仲間とつくり、高校卒業後、昭和36年に「日本農民文学会」に加入いたしました。そのときの「日本農民文学会」の会長が白鳥省吾先生でした。

 20代の半ばから地方議員(町議)になり、土地改良区や農協の役員の一方で農民運動に奔走し、会津地区の会長などとして壮年期を過ごしましたが、還暦の翌年に脳梗塞で倒れ、重度2級の障害者になり、それからささやかながら文学活動を再会して、平成19(2008)年に小説で「第51回農民文学賞」を受賞しました。現在まで詩集や小説評論など20冊ほどの拙著を発行しておりますが、その端緒になったのが「日本農民文学会」への加入であり、会長としての白鳥先生との邂逅であります。昨年『詩と思想』の紙上で賞の存在を知り、懐かしさと「民衆詩派」とよばれた詩人の詩活動の再評価の意味を含めて、賞の意義に共感し応募しました。

 二つには、3.11の大震災のあとに、福島県におきましては、東京電力福島第一原発事故が発生しまして、未曾有の天災と同時に人災によって放射能性物質に汚染されるという被害に遭遇しました。以来まもなく6年になりますが、およそ1.600ヘクタールの広大な地域が中間貯蔵施設として、半永久的に無人の地帯になります。一方、メルトダウンをした原子炉内部は、いまだ放射線が強くてその実態も解らないという状態であります。危惧されていたことが現実のものとなって、私はこれまでの価値観や文明論では、後の世代に取り返しのつかない「負の遺産」を残すことになる、経済合理性を前提とした現代文明論の再考をという思いに至りました。

 かつて、詩人の清岡卓行さんが白鳥先生の「民衆詩派」の詩運動を、「新しい照明のもとに大きくクローズアップされることがあるだろう。それは民衆詩派とよばれる詩運動は、民衆の立場から、民衆の思想と言葉によって書かれる詩であるから」と言っています。その時から半世紀が過ぎましたが、私は今こそ、現代詩は「民衆詩派」の活動の功罪に学んで、東北の地から新しい民衆詩運動の声を上げる時だと痛感しております。白鳥省吾先生の御功績とそれを顕彰する「白鳥省吾賞」は、そのもっとも強力な 磁場であり、拠点であります。そのモチベーションを拙詩「北への回路」に込めました。

 ★プロフィール

   前田 新(まえだ あらた) 80歳 福島県会津美里町在住   

 ★受賞歴

 1959年 「働く者の詩」年度奨励賞受賞

 1965年 『文化評論』新人賞入選

 1968年 詩集『少年抄』福島県文学賞準賞受賞

 1985年 詩集『貧農記』福島県文学賞正賞受賞

 2009年 小説『彼岸獅子舞の村』日本農民文学賞受賞

 2016年 評論『戦後70年と松川事件』松川賞受賞

 2017年 詩「北への回路」第18回白鳥省吾賞最優秀賞受賞

★出版その他

 詩集9冊、評論集2冊、エッセイ集1冊、歴史評論集2冊

★活動

  日本現代詩人会、日本民主主義文学会、日本農民文学会、福島県現代詩人会、会津詩人協会、「詩脈」「腹の虫」「いのちの籠」「萌」各会員 

  「詩人会議」会友、「会津ペンクラブ」顧問


 以下に最優秀賞受賞作「北への回路」を紹介 します。編集の都合上、すべて横書きにしています。


 【最優秀賞】 「北への回路」前田 新

 

 秋から冬へ

 ゆるやかに星座を回して季は移る

 夜毎、漆黒の闇に

 銀河は仄白い光を放って懸かり

 耳を澄ますとそこには

 幽かな羽ばたきの音が響いている

 あれは銀河のなかを

 北へ飛び去って行った

 キグヌス(白鳥座)の羽音なのだろうか

 

 死者は皆、ふりそそぐ磁気に導かれて

 魂の磁場へ還る

 私が聞く幽かな羽音は

 列をなして天空を飛ぶ

 見覚えのある死者たち

 魂のなかに組み込まれる

 北への回路を

 ひたすら飛んでゆく

 死者たちの透明な飛翔を

 私は幽かな羽音をたよりに

 目を凝らして仰ぎ見る

 

 その時、私はふと

 私のゲノムの記憶が共鳴するのを感じる

 はるかな時間軸を遡ってゆく北の回路は

 縄文の思想に帰着する

 そこに搾取と収奪はない

 そこに益権をめぐる争いも

 征服のために人を殺すという論理もない

 

 人もまた自然のなかの

 あらゆる生命体の一環に過ぎない

 北の思想の磁場には

 それがいまも、コアとして存在する

 私が聞く幽かな響きは

 そこへ還れという銀河系の意思

 私はそれを

 未来への啓示として聞く 

 

 表彰式の様子はここをクリックしてください。


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