桐生典子  Noriko Kiryu

1956年新潟県生まれ。青山学院大学卒業後、『わたしのからだ』で作家デビュー。


眠る骨抱擁


  

眠る骨  ★★★☆☆

2004/06発行  新潮社

 結局行くことのなかった中学の同窓会をきっかけにして初恋の相手・大澤に再会することとなった早紀。25年の空白を埋めるかのように幾たびの逢瀬を重ね、2人の思い出の場所がある森へ向かいます。その思い出の場所で待っていたのは大澤の突然の死です。このまま森の中で朽ちて土に還りたいという大澤の願いを受け入れた早紀に訪れる悪夢を描いたサスペンスです。

 一人の人間をめぐって金や愛で複雑に絡み合っていく人間模様をグロテスクに描いたサスペンスはたくさんあり、この作品もそれに含まれるものです。今回中心となっている大澤は死体であり、それを知っているのは早紀とみちるだけという設定です。2人しか死を知らないためにストーリー全体にうずまくグロテスクさはより増幅されたような印象を受けます。その中で一番の影響を受けるのが早紀の結婚生活です。死体が朽ちていくのと同時に壊れていく様子や、夫・誠の精神状態は不気味なものにうつります。ひさびさに面白いサスペンスを読んだなとは思ったのですが、ちょっと物足りなさを感じました。ある人物にはラストまで異常性をもったキャラクターを演じて欲しかったのですが、最後には普通の人になってしまったのがその理由です。でも、私の思惑通りに進んでいたら違うストーリーに転がってしまいそうですので我慢するところなんだろうな。

2004/06/21up

  

抱擁  ★★☆☆☆

1999/06発行  幻冬舎

 今まで何不自由なく生きてきた美人建築家・和美の人生は重い心臓病にかかってしまった事がきっかけで大きく狂いだします。心臓移植によって社会復帰したものの、あらぬ中傷により職も恋人も失うことになります。そんな失意のどん底にいる和美の夢に現れるのが19歳の心臓提供者・有沙です。有沙の心臓がもつ記憶が和美を導く先にまっているものは・・・。

 東野圭吾『変身』のように心臓移植によって変化していく女性の姿を描いた作品なのかと思ったらぜんぜん違いました。ストーリーの流れは心臓移植で別の記憶がプライドを挫かれた女性を別の人生へと誘うものです。主人公の和美は美人、頭脳明晰、当然ながら恋人もいるという挫折を味わったことのない女性。そんな和美にとって初めての挫折となった大病は無事に克服され残りの人生をより優雅に生きていく予定だったのですが、本当に和美を苦しめるものは違うところに待ち構えていました。病気の克服が導いてきたのは快気祝いの花束ではなく、何でもできる和美への嫉妬や憎悪です。雪江の言葉をみると和美は才色兼備な自分のことを鼻にかけて傲慢に振舞っていたようなのですが、いかんせん伝聞系なので本当にそこまで恨まれるようなキャラクターだったのかは読者の想像力に依存するところが大きい。とりあえず傲慢だったであろう女性が再生していくのが激しい憎悪の中で生きてきた有沙の心臓がもつ記憶によるところというのが皮肉な運命なのかもしれません。主人公のキャラクターが薄すぎて感情移入がかなり難しかった。心臓移植というモチーフも渡辺淳一『白い宴』とどうしても比べてしまうのだな。

2004/11/25up

 

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