堀越峠

堀越峠

岐阜県郡上にある標高560mの峠。八幡町と和良町をへだて、八幡(西側)からは急峻なつづら折れの道を駆け上がることとなる。

10月7日

この週末は日、月、火、水と四連休。秋はサイクリング日和だし、久々にどこかに行きたいと思っていた。ここ最近の休日は仕事の勉強をする訳でもなく、何をするでもなく、寝て過ごすだけ。このままでいいはずがない。日曜の昼間に掃除、洗濯などの家事を済ませ、その夜。地図をパラパラとめくるが、なかなかいい場所が見つからない。めぼしい場所は行きつくした感、どこに行ってもだいたい同じ風景を見てるようなマンネリ感。そんなモヤモヤを抱えつつ、地図を眺めていた。和良…。岐阜の山あいの集落。特にゆかりもないけど、ここにすっか。ほんとなんとなく。郡上八幡に車を置いて、周回コースだな。二日目以降は自動車で高山まで北上してもいいし、糸魚川まで足をのばしてもいい。宿泊代節約のために車中泊を活用しよう。早起きは苦手だから今夜出よう。ということで日曜21時に支度開始。ガソリンを入れたり、CDを借りたりして、23時に大阪発。音楽を流しながら夜の高速を順調に進む。X JAPANのForever Loveが印象的だ。長良川SAに2時過ぎに到着。郡上まで目と鼻の先。明るいし、アイドリング音がうるさいけど、しばし仮眠。

翌朝目覚めると体が痛い。エアマットの空気が抜けて、固いシートの上で直に寝てしまっていたからだと思う。早朝のSAで味噌カツ丼と豚汁を頼んだ。豚汁が赤だしで激しく動揺した。歯を磨いて、郡上八幡まで車を走らせる。郡上八幡は3年連続、4回目。いつもの市営駐車場に車を停めて、出発。

走り出しから堀越峠への上り坂。この日は10月なのに異常な暑さで30℃近くまで気温が上昇した。すぐに汗だくになった。水分をこまめに摂りながら上る。途中、郡上市街と郡上城が見えた。司馬遼太郎が日本で一番美しい山城と評したという。坂の勾配がきつく、近頃まともに走ってなかった自分には堪えた。あと腰の痛みがひどく、何度も立ち止まり、ストレッチした。車中泊の影響もあったのだろう。

スタートから7km。峠に着いた。峠の立札に自転車をかけて記念撮影。近くのベンチに僕は座り込んだ。顔が冴えない。このまま進むかを迷っていた。暑さ、体力、寝不足。思った以上に堀越峠の上りは堪えた。この先に進めばもう後戻りは効かない。およそ100kmのアップダウンの行程を走り切るしかない。現在の走行距離はたった7km。時刻はすでに昼前。おまけに天気がイマイチ。翌日以降は雨の予報となっていた。自転車に拘らず、車で旅行というのも?相変わらず優柔不断な性格だ。「自分(の気分)を乗せていかないといけない。ここで逃げるとあとに響くぞ」という言葉を頼りに一度は進む決心をし、和良へ下り始めた。しかし数分後、思った。あー見慣れた景色ではないか。初めて訪れる場所にも関わらず、既視感を感じた。僕は周回サイクリングを断念した。車の駐車場まで尻尾を巻いて逃げて、自動車で旅行する。暗澹たる気持ちを抱えたまま、今しがた汗水を垂らして上ってきた道を下った。下りはあっという間だった。

八幡町を流れる吉田川
つづら折れの上り坂
堀越峠

お昼時でおなかが減ったので、やや寄り道をして道の駅明宝へ車を進めた。いろいろおいしそうなものがあったが、結局明宝ハムのソーセージと飛騨牛の串焼きを食べた。車に帰って今後の予定を考えた。近くに大きな鍾乳洞があるということで寄るとして、宿はどこに取るか?車中泊はもううんざりだった。一人だとビジネスホテルが便利か。高山か別の場所か。宿が決まらなかった。30分考えても結論が出ないので宿を保留にして鍾乳洞へ向かうことにした。名もない山道を抜けたとても辺鄙な場所にあった。スピーカーから流れ出る音楽がレトロな観光地の様相を醸し出す。入場料は1000円。大仰なケーブルカーで高台の上の鍾乳洞入口へ。中は案の定、ひんやりとしていた。想像以上に広大で迷路の体を成していた。自然物とは思えない複雑な文様を見せる石灰岩。洞穴内に落差30mの滝もあった。来て良かったと思った。ああ旅の醍醐味はこれだ、ふと立ち寄った場所が意外に良かったりするとすごく嬉しい。自分で見つけるって事が大切なんだなって。

大滝鍾乳洞
ケーブルカー
入り口
自然の象形美
内部は迷路さながら
デコレーションケーキとのこと

そこからはとりあえず和良を目指すことにした。道の駅に着くと16時。思ったより時間を食った。店は閉まり、道の駅の施設内では地元の小学生が遊んだり、勉学に励んだりしていた。観光客ではなく、地元の子供たちの憩いの場。こういう道の駅は珍しいなと思った。一方まだ今晩寝る場所が決まらない。和良に宿はなかった。高山まで行く?遠いな。どうする?どうする?帰ろうか。ああ、いつものパターン。勇み足で出てきて結局これかよ。連休まだ二日もあるのに(まあ雨だけど)。帰ることにした。途中SAで仮眠し、各務原ではわざわざ高速を降りて、来来亭のラーメンを食した。やはりうまい。深夜に家に着いた。大学のころ、部のアンケートで「年をとっても一番長く自転車に乗っていそうなのは?」というアンケートで僕の名前があって、内心嬉しかった、誇らしかった。しかし、みなさんその予想はどうやらハズレですよ。僕はこのザマ。もう自転車は卒業かもねと思った。失意の中、残りの休みをダラダラ過ごし、貴重な四連休は幕を閉じた。

10月14日

岐阜遠征が失敗したその翌週末。僕の心はもう一度自転車でどこかに行きたい気持ちになっていた。後悔があったし、負けっぱなしは嫌だった。行先はどこでも。ただ負けない為に対策を立てることにした。車中泊対策に古いエアマットを捨てて、新しいマットを買った。耳栓とアイマスクを持参。さらに腰痛対策にリュックより負担が少ないウェストバッグを購入した。ロードバイクを購入してからフロントバッグが使えなくなったので、なにかくと窮屈で不便さを感じていた。もっと手軽に写真を撮ったり、地図を見たりしたかった。装備をガンガンに固めるのではなく、できるだけ普段に近いってのは趣味を楽しむ上で僕は重要なファクターだと思う。さて、あとは行先だが…。和歌山、滋賀、福井、そして岐阜。「仕事で失った自信は仕事でしか取り返せない」そういう言葉があった。僕が失った自信。あの峠の上で敗れた自分。そいつを取り戻すにはあの峠を越えるしかない。敢えて全く同じコースを、リベンジ。まるで一週間前をトレースするかのように日曜日の23時。僕は岐阜へ向け出発した。またしても長良川SAにて車中泊。対策のおかげで今回の車中泊は快適だった。

翌朝、天気は良かった。先週よりもずっと。またしても市営駐車場に車を停めてスタート。リベンジ開始だ。今回はコースを少し工夫した。前回は出鼻に堀越峠の上りでダウンしたので、周回方向を逆にし、時計回りにすることで堀越峠をラストに東側から上ることにした。東側は緩やかで体にやさしい。とりあえず明宝方面へ北進する。坂本峠まで緩やかな上りが続く。

清流吉田川
水が澄んでるなあ
山里をのんびり

日和良く、快適サイクリングだった。川は澄み、山高く。やはり岐阜はいい。道端に雰囲気の良い神社を見つけ、つい入る。入り口には柿がなっていた。苔が生した杉の大木。木造の舞台。年季を感じさせる小さな御社。どこの神社も境内に入ると空気が冷やかで外とは違う雰囲気がある。神界なのだろうか。

お約束の神社シリーズ
駐車場すらない小さな山社
旅の安全を祈願しました

川の水の美しさを感じたり、小さな神社に気付いて立ち止まったり。こういうことは自転車でしかできないよな。車では絶対できない。優劣はつけられないけど、自転車の旅はやはり終わることはない。これはこれでいい。いくつになっても。そう思った。

豊かな農村
吉田川も上流域に
坂本峠旧道は通行止め

スタート地点からずっと緩い上りが続き、坂本峠直前でやや急になったものの、短距離だったので難なく本日の最高所を越えることができた。今日は余裕だなと思った。峠を下ったところに道の駅パスカル清見があり、昼飯を食べた。道の駅は混んでおり、レストランに入るまでに時間を要した。飛騨牛すじ煮込み丼を注文。食後には飛騨名産のみたらし団子を食べた。

飛騨牛すじ丼

しばらくは馬瀬(ませ)川沿いを下る道が続く。馬瀬川はこれまた清流だった。キャンプ場があったのでいつか来てみたいなと思った。ゆっくり写真を撮りながら馬瀬の集落を堪能した。美しい山村風景だった。

馬瀬川上流
馬瀬の集落
白ヤギさん
馬瀬川を堪能

その看板は突如現れた。郡上市52kmという表示。まだそんなにあるのかと思い、時計を見ると時刻は15:00ごろ。ほんまに50kmもあるのかと信じられず、サイクルメーターで本日の走行距離を見ると50km程度。コース全体で100kmだからやはりあの残り距離は正しい。日没まであと2時間程度しかない。今回のコースでは等間隔に道の駅が4つあり、それぞれで休憩をとることでリズムを作ろうと思っていたが、もうその余裕すらなかった。3つ目の道の駅馬瀬では施設に入らず、ちらっと敷地内に立ち入った程度だった。

もう写真をとる余裕もなかった。暗闇の堀越峠を下るのは嫌だった。無我夢中で高スピードを維持した。大きなダム湖を抜け、和良村に入るころからはコンスタントな上りに転じた。道の駅和良には立ち寄る時間すらなかった。水分もろくに取らず、ひた走った。17時前。堀越峠。またしてもこの峠。東側は緩いとはいえ、体力も限界に近づいているこの段階での上りは堪えた。遠くで聞こえる鹿の鳴き声が不気味だった。交通量も少なくなり、車はスモールライトをつけている。焦る、焦る。日没まであと少し。この焦り、緊張感。そして自分の力でどうにかするしかないという背水のこの状況。苦しいながらもこれぞ自転車だと思えた。日没直前に峠を越え、急峻な坂道を下る。ここまで来ればもう勝ったようなもの。なんとか日のあるうちに車に戻ってくることができた。

堀越峠リベンジ成功
月明かり
郡上の町

体はへとへとだった。とりあえず風呂、飯。もはや行きつけとなったホーセンへ行くことにした。やはりここの温泉は最高。そして風呂上りにはお決まりの味噌カツ定食!それと鶏(けい)ちゃんという村起こしの料理。うまかった。酒が飲めないのは残念だけど。帰りは仮眠を織り交ぜながら、1時過ぎに家に無事帰宅できた。

味噌カツ定食
鶏ちゃん