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  『理由』は、超高層マンションで起きた殺人事件を描いた、宮部みゆきの直木賞受賞作である。
 平成八年九月二日から翌年九月二十日まで「朝日新聞 夕刊」に連載され、単行本(平成十年六月 朝日新聞社)刊行にあたって加筆された。ちなみに、このHPでの引用、引用文のページ数等は、同書に拠っている。


【虚構の舞台】
 事件の舞台とされる超高層マンションは、「ヴァンダール千住北ニューシティ」のウェスト・タワーである。
 ヴァンダール千住北ニューシティは、三棟からなっており、十五階建ての中央棟を挟んで、東西に二十五階建ての建物がある。言うまでもないが、ウェスト・タワーは、その西棟である。
 また、「ヴァンダール千住北ニューシティ」の位置は、「荒川区栄町三丁目と四丁目にまたがるようにして存在している。」(P.14)と書かれている。
 ところで、マンションの名称にある「千住北」であるが、これは「北千住」を強く意識させるものである。しかし、北千住は、荒川区ではなく、隣接する足立区の地名である。ちなみに、「千住北」という地名は存在しない。
 「ヴァンダール千住北ニューシティ」を、殺人事件の起こったウェストタワー2025号室の所有者・小糸信治の姉小糸貴子が訪ねる場面がある。
翌週の日曜日、貴子はヴァンダール千住北ニューシティヘ行ってみることにした。住宅情報誌に載っていた住所を手がかりに荒川区の地図を調べると、地図の上にも載せられているほど大規模なマンションだということがわかった。
 その日は晴天で、北千住の駅のホームに降りると、ヴァンダール千住北ニューシティの東西のタワーが、何か非現実的な門の門柱のように空を区切って立ちはだかっているのが見えた。
   (略)
 確かに豪華は豪華だ。しかし、貴子は気に入らなかった。周囲の町の景色のなかから異様に浮き上がって見える、ヴァンダール千住北ニューシティの立ち姿が。マンションの敷地をぐるりと囲んでいる灰色の塀が。ヴァンダール千住北ニューシティから北千住の駅まで、特別にあつらえましたとでもいうようにきちんと舗装された化粧タイル貼りの歩道が。
   (略)
 ヴァンダール千住北ニューシティヘ向かう道路の両脇には、モルタルの古い一戸建てや、錆びた外階段に鉢植えをぶら下げた共同アパートや、作業着や軍手を並べたトタン屋根の店や、草ぼうぼうに茂った空き地が見える。ヴァンダール千住北ニューシティは、景気の急落に翻弄され疲れ果てた工場町が見る夢のなかの理想の姿のように、低い屋根と電信柱の連なりの上に、あくまでも清潔にそそりたっていた。(P.63〜4)

 北千住駅から“荒川区の”ヴァンダール千住北ニューシティまでの街の風景が描かれている。精密な町並みの描写と、現実の地理との明確な相違との共存は、作者のこの虚構にかけた思いの強さを示唆しているようである。ちなみに、この虚構の意味については、「宮部みゆき『理由』に見る都市の表象」で論じた。


【舞台のモデル】
 「ヴァンダール千住北ニューシティ」には、モデルとなったとされている超高層マンションがある。
には、
 
 【アクロシティ】(南)1992年に完成した億ションといわれる超高級マンション群の名称。
人工ストリーム(小川)に囲まれたその建物は風格が漂う。32階建てのタワーズや15階建て5
棟、低層棟、スポーツセンター棟などからなる。有名人も多く住まい、国松警察庁長官が狙撃され
た現場として全国に知られた。また、宮部みゆきの推理小説「理由」の舞台のモデルともされる。
とある。

 アクロシティは、荒川区南千住六丁目にあり、平成四年十月に竣工している。平成八年から連載が開始された『理由』の、モデルとなった可能性は高い。


【『理由』の舞台を歩く】
 北千住の駅からアクロシティまでを歩いてみた。
 さらに、小岩駅前から南に延びるフラワーロードにも足を延ばした。『理由』には、「ヴァンダール千住北ニューシティ」の附近に「さかえフラワーロード」と呼ばれる商店街があることになっている。
 有吉は現在は荒川区を離れ、埼玉県三郷市に暮らしているが、当時は通称「さかえフラワーロード」 と呼ばれる地元の商店街で飲食店を経営していた。「さかえフラワーロード」は、二車線の道路を挟んで三十二店舗の各種小売店が建ち並ぶ屋根付きの商店街で、近隣の町からの買い物客を集め、現在も非常に賑わっている。(P.15)

 しかし、「フラワーロード」という名の商店街は、足立区にも荒川区にも存在せず、江戸川区の小岩駅前のロータリーから南に延びる商店街が、そう名付けられているからである。
 行程を地図で示す。
※地図データより

 






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