86.北欧諸国の教育・福祉制度 
      (
2008年2月14日記載)

 北欧諸国の状況について、2回続けて、日米英独仏の5ヶ国と比較しながら、分析してきた。その中でも、北欧諸国の福祉政策について触れてはきたが、今回は、その福祉政策に焦点を当てて分析してみる。そうすれば、少子高齢化が世界一のスピードで進む日本にとって、今後の対応策のヒントが得られるかもしれない。

1.学校教育

 北欧諸国は、教育に力を入れている。基本的に高等教育も含めて全ての教育費は無料である。北欧諸国の学校教育の状況を以下で分析する。

(1)学校教育費対GDP比率(図1)

 OECDの2004年のデータから、学校教育費とGDPの比率をグラフにして右の図1に示す。緑の棒グラフが公的負担分、赤の棒グラフが私的負担(個人が負担している教育費)分を示す。
 なお、ここでいう
学校教育費とは小学校入学から大学卒業までの学校教育にかかる費用のことであるが、塾、家庭教師などの学校教育以外の費用は含まれていないので、教育費の総てではない。

1-1)学校教育費全体


 公的支出と私費負担の合計額でみると、9ヶ国の中ではアメリカが7.4%で一番である。(OECDがデータを発表している29か国中では、アメリカは第2位である。詳しくは右をクリック:学校境域比の対GDP比)
 9ヶ国の中で、2番目から5番目までは、北欧4ヶ国(デンマーク7.2%、スウェーデン6.7%、ノルウェー6.6%、フィンランド6.1%)が続く。
 ③フランスが、フィンランドと同じ6.1%で5位に入っている。次が英国で6.0%、ドイツはそれよりも低くて5.2%である。
 9カ国の中で、
学校教育費対GDP比率が最も少ないのが日本である。ただし、塾や家庭教師等に対する支払も加えたならば、日本の教育費の比率は増え、順位はもっと上がる可能性がある。

1-2)公的支出(図1の緑の棒グラフ)

 公的支出の対GDP比率で見ると、北欧4ヶ国がいずれも6%以上で、9ヶ国の中では、トップから4位までを独占している。(デンマーク6.9%、スウェーデンとノルウェーが6.5%、フィンランドが6.0%)。(公的支出の対GDP比率が世界一なのは、アイスランドで7.2%、デンマークは世界では2位)。
 9ヶ国の中では、続いてフランス(5.7%)、アメリカ(5.1%)、イギリス(5.0%)、ドイツ(4.3%)の順である。
 そして日本はここでも、9ヶ国の中では最下位である。日本の比率は、3.5%で9ヶ国中でトップのデンマークの6.9%のほぼ半分である。

(1-3)私的負担(図1の赤の棒グラフ)

 ①ところが、私的負担の対GDP比率で見ると、日本は1.2%で、アメリカの2.3%に次いで9ヶ国中2位である。(私的負担のNo.1は、韓国(2.8%)。なお、韓国は、学校教育費全体では、アメリカに次いで第3位である)。
 ②
一方、北欧4ヶ国の私的負担の対GDP比率は、0.1%(ノルウェー、フィンランド)、0.2%(スウェーデン)、0.3%(デンマーク)と極めて少ない。つまり、学校教育費のほとんどは公的に負担されており、私的負担分はほとんどない、という事である。(この点は、次項で分析する)。
 ③
英独仏3ヶ国の私的負担分は、0.4%(仏)、0.9%(独)、1.0%(英)となっており、日本より少なく、北欧4ヶ国よりは多い。

(2)学校教育費の公的負担割合(図2)

 次に、図1のデータから、学校教育費全体のうち、公的負担が占める割合をグラフにして右の図2に示す。


 ①北欧4ヶ国は、いずれも公的負担の割合が95%を上回っており、9ヶ国中ではトップから4位までを独占している。(ノルウェーは98.5%、フィンランドは98.4%、スウェーデンは97.0%、デンマークは95.8%)。つまり、北欧諸国では、学校教育費のほとんどが公費で賄われている。
 
9か国中で、5位はフランスで93.4%。英国(83.3%)とドイツ(82.7%)は、フランスよりも10%以上少ない。
 ③日本はそのドイツよりもさらに10%近く少なく、74.5%である。前にも述べたが、この学校教育費には、塾や家庭教師等に対する私的負担は含まれていない。もし、それらも含めたならば、日本の公的負担の割合は更に低下し、アメリカよりも少なくなるかもしれない。
 
9ヶ国中最下位で、日本よりも公的負担の割合が少ないのが、アメリカで、68.9%である。

(3)フィンランドの教育制度

 ORCDが実施した学習到達度テスト(PISA)で、フィンランドは世界一の評価を獲得した。PISAとは、各国の15歳を対象とした国際テストで、2000年から3年毎に実施されている。その国際テストで、フィンランドは常に上位を独占しているのだ。一方、日本は順位が低落傾向にある。それが、日本が進めてきた「ゆとり教育」への批判につながっているわけだが、ここでは、フィンランドの教育制度をながめてみよう。
 注: PISA等については、「61.教育格差と国際比較」を参照ください。


 ①フィンランドの小学校は7歳から始まる。6歳から始めるべきだという意見もあるが、できるだけ長く子供の時間を過ごすほうが、子供の発育を促す、という研究結果が出されている事から、7歳から始めている、と言われている。
 ②教育費はすべて無料(高校以上の教育も含めて)
であり、これにより、すべての子供に均等な教育を受ける機会を保証している。また、9年間の義務教育期間は、給食費もすべて無料、教科書も支給される。
 ③
中学卒業後は、高校へ進学するか、職業学校へ進学するかを選択する。そして、高校卒業後は、進学検定試験を受検しなければならず、その成績と入試の成績で、大学または職業大学校へ進学する事ができる。
 ④
大学はすべて国立で20校ある。職業大学校は公立である。学生は同じ自治体に住んでいても親から独立して離れて暮らすのが一般的で、住居手当、勉学手当てを国から受ける事ができる
 ⑤生涯学習も非常に盛ん
で、誰でも働きながら、または引退後に学ぶことが出来る。

(4)スウェーデンの大学制度

 1980年代後半からスウェーデンの大学教育は大幅に拡張され、学生数は90年に比べて倍増した。そして、学生の中には、30代・40代の社会人とも思える人が多数混じっている。ここでは、スウェーデンの大学制度を眺めてみよう

図3 スウェーデンでの大学入学ルート

 ①大学入学には、右の図3に示すように3種類のルートがある。
 ⅰ)
高校を卒業後すぐに入学するルート(日本での通常ルート)
 ⅱ)
高校卒業後、一旦就職して、それから入学するルート。
 ⅲ)高校の成績が悪かったり、高校の学習と異なる分野へ進学したいという場合、市の成人高校で学習し直してから入学するルート。

図4 学生の年齢分布

このため、左の図4に示すように、30歳を超える新入生が17%以上を占めている。
 ②
このように高校卒業後何年たってからでも大学進学が可能な理由として以下の二つが上げられる。
 ⅰ)まず、経済的な不安が無い、という事が最大の理由であろう。
  A.大学の学費は完全無料で、そのうえ、生活自立のための給付金(月4万6千円)と低利ローン(月8万8千円)が支給される。
  B.
家賃払いに対する補助金や子持ちの学生に対する追加給付金もある。
 ⅱ)
次の理由としては、入学試験がない、ということが考えられる。
  A.入学選抜では、高校及び成人高校での成績や日本のセンター試験のような学力試験が考慮される。
  B.それらの成績が長期に保存される事に加え、25歳以上であれば、4年以上の職業経験が選抜の際に加味される。
 ③
スウェーデンの大学では、職業訓練的な要素が重視される。卒業生は取得した「専門分野別の学位」に基づいて就職活動を行う。雇う側の企業も彼らが大学で何を学び、どのような技能を身につけたかを重視して採用する。(大学の勉学に用途就職分野とが関連しない日本とは極めて対照的である)。卒業生は即戦力であり、企業にとっては社内研修が減り、コストダウンにつながる。
 ④
スウェーデンの学部教育とは、日本の学部課程と修士課程の両方を指す。この学部教育の最初の3年間が「学士号」相当部分、後の部分が「修士号」相当部分、である。日本で行われている2年間の教養期間は存在しない。
 ⑤
就職活動において、出身大学による格差はそれほどない。ただし、ストックホルム商科大学は、例外である。この大学は、経営学と経済学に特化したエリート大学であり、卒業生のほとんどは、金融機関や監査法人、コンサルタントなどの大手企業jに就職する。そのため、入試の競争率も高い。

育児支援制度 

 北欧諸国の合計特殊出生率は、日米英独仏の5ヶ国と比べた場合、米仏よりは低いが、日独よりは高く、それなりの高水準を維持している(詳細は、「85.北欧諸国と日米英独仏の比較」を参照)。その理由としては、充実した育児支援政策の存在が挙げられる。北欧諸国の育児支援制度は、出生以前つまり妊娠中からケアが始まる。ここでは、フィンランドととノルウェーの育児支援制度を眺めてみよう。

(1)フィンランドにおける育児支援制度

 ①フィンランドの産休は105日、育児休暇は158日で、合計263日(労働日)の「産休・育児休暇」が取得できる。この「産休・育児休暇」は父親でも母親でも、どちらかが取得できることになっているが、このほか出産に関しては父親休暇があり、父親は6日~30日までの休暇をとることが出来る。(フィンランドのリッポネン元首相が在任中に父親休暇をとり、当時の英国のブレア首相もそれに倣った、という有名な逸話が生まれた)。これらの休暇中は、所得の約66%が保障される。
 ②
出産時には、当座の育児に必要な衣類などのパッケージ(または、現金給付)が国からプレゼントされる。今日のフィンランドでは、殆どの父親が出産に立ち会うようになっている。
 ③
また、出産・育児休暇後は、子供が3歳になるまで、無給だけれども職を失わずに休暇を延長することが出来る。そして、その期間は、自分で保育するので「家庭育児手当」を受けることができる。
 ④
保育については、1996年の保育法の改正で、全ての6歳児は保育の権利を持つことになったので、保育を望む親には自治体が保育を提供する義務が生まれた。このため、保育はほとんど公立保育所で行われている

図5 ノルウェーの育児支援制度

 ⑤また、保育所の監督下に「家庭保育制度」があり、一人の保育者が自分の子を含めて4人まで自宅で保育することが出来る。さらに、2000年からはすべての6歳児に対して「就学前教育」が行われることとなった。親は、この「就学前教育」を保育所で受けるか、小学校で受けるかを選択することが出来る。
 ⑥保育時間は原則として10時間
で、不規則な勤務時間の仕事をする親のために24時間保育も用意されている。
 ⑦保育の料金
は、両親の収入と家族構成によって決められるが、最高月額が2万5千円程度である。さらに、すべての児童が16歳に達するまで、親の所得に関係なく児童手当が支払われる。


(2)ノルウェーにおける育児支援制度(図5)

 2007年現在、ノルウェーで認められている育児休暇期間は最大で54週間(右の図5参照)。この出産前の給与の80%が支給される。(もし、100%の支給を求めた場合には、休暇期間は44週間に短縮される)。この休暇期間中の給与は、国民保険から給付され、企業の負担はほとんどない。代理要員を採用する必要がある場合、その費用の大半は国が負担する。
 ②
ノルウェーには6000以上のデイケアセンター(保育施設)があり、1~5歳の子供の約80%をカバーしている。政府の目標は、100%のカバーだが、一方で、デイケアセンターを使用せずに在宅で育児を行った場合の補助金制度を充実させている。
 ③
1~3歳の子供をデイケアセンターに預けずに在宅で育てる場合は、最大で年間約79万円強が支給されている。給付額は利用時間に応じて決まっており、デイケアを週32時間利用した場合でも、年約16万円弱が支給される。




図6 合計特殊出生率の推移

 ④ノルウェーの合計特殊出生率が高い理由は、充実した育児休暇制度だけではない。1980年代には出生率は落ち込み、81~85年の合計特殊出生率は1.68であった。当時の有給育児休暇は、母親の産前・産後に18週間で、父親と母親がシェアすることも認められていたが、休暇を取得する父親は殆どいなかった
 ⑤
それ以降、政府は毎年のように休暇機関を延長し続け、89年には52週間(給与全額支給の場合には42週間)にまで拡大。また、93年には、そのうち4週間を父親に割り当て、それを取得しなければ権利が消滅する新制度(パパクオータ)を作った。
 ⑥
このパパクオータの期間は、2005年には5週間に、2006年には6週間に延長された。休暇の消滅という半ば強制的な制度としたために、現在では90%以上の父親がパパクオータを取得している。(数年前に、現職の財務大臣が、パパクオータを使って4週間の育児休暇をとった事も普及に一役買った、と言われている)。

 ⑦こうした政府の努力により、ノルウェーの合計特殊出生率は、2006年には1.88まで回復した。(右上の図6参照)。それに対し、図6を見ればわかるとおり、日本の合計特殊出生率は、ほぼ一直線で低下している(2006年にやや上向いたのは、団塊ジュニアが出産時期に到達したためである、と考えられている)。

3.デンマークの雇用対策

図7 雇用保護規制の強さの比較

 デンマークでは、企業は比較的容易に解雇できる(右の図7参照)。それにもかかわらず、失業率は3%を切る低水準。デンマークの労働政策は、「フレクシキュリティ(Flexucuruty)」がキーワードとなっている。柔軟性(Flexubility)と保障・安全性(Security)から生まれた造語が、「フレクシキュリティ(Flexucuruty)」である。従来、柔軟な雇用方針と安定した雇用水準とは両立しない、と言われてきた。しかし、デンマークではそれが両立している。その秘密をここで探ってみよう。 

(1)雇用保護規制(図7)

 ①
正規雇用者に対する雇用保護規制の強さを数値化したものを右の図7で示す。雇用保護域清華最も弱い(それだけ企業が従業員を自由に解雇できる)国は、「市場主義」と「個人責任」の国、アメリカである。 
 ②
そして、図7からわかるように、デンマークも日本と比べると、規制の強さは半分くらいであり、日本よりもはるかに自由に従業員を解雇できる。
 ③
毎年、デンマーク人の11%が失職し、これとは別の20%がより良い職を求めて自発的に会社を辞める。全体としては、毎年デンマーク人の約3分の1が離職することになるが、この離職率はOECD諸国の中でも最高である。
 ④
このように解雇された労働者に対し、デンマークは、OECD諸国の中で最も手厚い失業保険を支給する。また、「積極的な労働市場プログラム」により、失業者の労働スキルのアップに努めている。(これらについては、次項以下で詳述する)。こうした施策により、労働者は解雇を恐れなくなり、柔軟な雇用ルールが受け入れられる背景になっている。

図8 失業手当の国際比較


(2)失業手当(図8)

 ①
OECDのデータをベースに、失業手当の国際比較を右の図8に示すが、それをみればわかるように、北欧諸国のうち、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの3ヶ国は労働者は、離職前の所得に対して、約70%の給付を受ける。それに対し、デンマークでは、約80%の給付を受ける。
 ②
これに対して、日本は、離職前の賃金の45~80%と幅があるが、最高額は日給7,000円である。そのため、離職前の所得に対しては、60%未満に留まる。この比率は、米国の倍くらいではあるが、英独仏よりは少ない。
 ③
デンマークの失業手当の給付期間は極めて長いために、求職活動を熱心に行わずにいる長期失業者に対して、もっと熱心に求職活動に取り組むように、給付条件を若干以前より厳しくした。それでも、給付期間は4年と長いために、さらに短縮すべきだという意見が多い。
 ④
スウェーデンでは、低所得労働者を対象とする失業給付の水準を、当初の80%から40週後には70%へ、60週後には65%へと減らすことにした。しかし、スウェーデンもデンマークも、そのような「厳しい」施策と同時に、低所得者を対象に減税を行い、失業給付よりも税引き後所得が魅力的になるようにした。

(3)政府の就業支援(図9)

図9 政府の就業支援の国際比較


 デンマークとスウェーデンを際立たせているのは「積極的な労働市場プログラム」だ。ここに両国ともそれぞれ毎年GDPの1.5%を投じている。そして、その他にも様々な就業支援を行っている。OECDのデータをベースに、政府の就業支援の国際比較を右の図9に示す。
 ②
図9を見ると、とくに、デンマークの支援の手厚さがわかる。政府支援の対GDP比率は4.5%強で、2位のオランダを1%以上引き離して、ダントツのトップである。
 ③
ここでも日本は、アメリカとほぼ同率の低さで、最下位を争っている。
 ④
デンマークの失業者の30%~40%が、以下のような形で、こうした支援プログラムの恩恵を受けている。
 ⅰ)専門学校や企業で実施される補助金による訓練プログラム、「フレックスジョブ」への補助金。
 ⅱ)新しい職種に挑戦する労働者のための再教育プログラム
 ⅲ)スキルの低い長期失業者を雇う企業に対する補助金。
 ⑤
そして、これら補助金の対象になった労働者が正規労働者の労働条件を引き下げないよう、厳しいルールが規定されている。

(4)フレキシキュリティを成功させるために

 ①
こうした積極的な労働政策の成果として、デンマークの失業率は1993年の10%から現在は3%未満にまで下がったし、長期失業者(期間1年超の失業者)の割合は、わずか0.8%である。
 ②
こうした状況とは対照的に、ドイツやフランスでは、労働者の現在の雇用を守ろうとする法律が妨げとなって、長期失業者の割合が大きくなっている(ドイツでは5%、フランスでは4%)。
 ③
フレキシキュリティのおかげで、労働者は解雇を恐れないし、転職を何回も繰り返す労働者はごく一般的である。このフレキシキュリティが成功するには、以下の三つの要素がうまくかみ合う制度が必要となる。
 ⅰ)雇用と解雇が容易な柔軟性のあるルール。
 ⅱ)失業者への手厚い失業給付。
 ⅲ)求職者と企業の欠員を仲介すると同時に、労働者のスキル向上につながる積極的な労働市場プログラム。

 ④
また、スウェーデンには「同一価値労働同一賃金」という理念が強く、仕事が同じなら、職場が変わっても労働条件に変更はない、という特徴がある。たとえば、公務で行っていた業務が民間にアウトソーシングされて、今までその業務を担当していた公務員が解雇されてその民間のアウトソーシング先に移った場合、労働条件に変更は無い。
 ⑤
日本が、このフレキシキュリティを取り入れるには、財政負担の問題や、「同一価値労働同一賃金」の問題等々、解決すべき課題がたくさんあるが、現在の閉鎖的硬直的な労働市場の改善に向けて、何らかの対策を講じる必要があるには論を待たない。

4.スウェーデンの年金制度

 日本では、年金制度が大きな問題となっている。しかし、スウェーデンでは、1991年から与野党で協議を続け、1999年に年金改革を断行した。そのスウェーデンの年金改革の歩みと、新しい年金制度を検討してみたい。

図10 スウェーデンの年金改革

(1)年金改革の歩み(図10)

 従来スウェーデンでは、日本や他の先進諸国と同じように、年金制度を世代間の助け合いととらえ、年金の財源を現役世代の保険料で賄う「賦課方式」を採用していた。ところが、この賦課方式には下記するごとく重大な欠点がある。
 ⅰ)少子高齢化が進むと、やがて年金財政が破綻する。つまり、子供の数が増え続けない限り、制度としてはもたない
 ⅱ)負担した保険料と将来受け取る年金額が直接リンクしない。少子高齢化が進めば、保険料が上がるか、年金給付が減るか、あるいはこの両方か、何らかの対策が必要になる。
 ②
日本に広がる年金不信にはこうした問題が根底にある。また、先進諸国の年金制度はどこも同じような問題を抱えている。
 ③
スウェーデンでは、こうした問題に対処するために、1991年11月に与野党の全てが参加した「年金ワーキンググループ」が発足した。(右の図10参照)。
 ④
ワーキンググループには各党の実力者が集まり、意見の違いを超えて合意形成を図った。また、このワーキンググループは、国会ではなく政府の下に置かれ、政治家の強いリーダーシップの下、議論を積み重ねた。
 ⑤
1994年1月、主要5党の合意によって、新制度の骨子が固まった。当初の7党から左右両極政党が抜けて5党となったが、その5党が占める国会の議席数は全体の88%に達していた。
 ⑥
その後、政権交代によって1996年月に予定されていた実施時期がずれ、さらに、1998年6月には一部修正があったが、1999年1月から、新制度が施行される運びとなった。



(2)スウェーデンの新制度(図11)

図11 スウェーデンの新制度と日本の制度の比較

 スウェーデンの新制度と日本の現行制度を比較したものを右の図11に示す。日本は、基礎年金と所得に比例した年金との2階建てのままであるのに対し、スウェーデンでは、賦課方式を維持しながら所得比例年金に一本化し、負担と給付の関係が分かるような方式にした。
 ②
賦課方式を維持しながら、負担と給付をリンクさせるために、スウェーデンで“発明”されたのが、「みなし積み立て方式」である。
 ③
この方式によれば、加入者が支払った保険料が個人の口座に毎年積み立てられた、と仮定して、その総額に一定の利回り(一人当りの賃金上昇率)をつけた額が、老後の給付総額となる。実際、口座に保険料が積み上がるわけではないので、「みなし積み立て方式」と呼ばれる。
 ④
この方式は、その後、ポーランドやチェコなどでも採用され、国際的に主流な方式になりつつある。スウェーデンでは、この新制度によって、負担と給付が概念上、一対一に対応するようになり、若者の年金不信が解消した、と言われている。
 ⑤
新制度では61歳以上であれば、加入者が受給開始年齢を自由に決めることが出来る。長く働けば働くほど、受給額が増える仕組みである。
 ⑥
新制度では基礎年金を廃止した代わりに、低所得者向けに全額を税金で賄う最低保証年金を導入した。65歳以上でスウェーデンに40年を超えて住んでいれば、これまで年金をまったく払わなかった人でも、2006年で毎月約12万円(税込み額)の年金を受け取ることが出来る。
 ⑦
みなし積み立て制度や所得比例年金への一本化によって、年金が国民にとってわかりやすい制度になった。その一方で、「自分の年金は自分で積み立てる」という原則が貫かれている。
 ⑧日本がスウェーデン方式をそのまま導入すれば、問題が解決するわけではない。日本では、年金問題が「政局」化してして、与野党対立の象徴のようになっている。このような状況のままでは、年金制度の抜本的解決は望むべくもない。

5.最後に

 今回は、北欧諸国の教育・福祉制度について、いくつかの国を取り上げて分析した。そして、日本の現状と対比して、日本のこれからを考えてみた。日本の少子化・高齢化は、今後、ますます進展することが懸念されている。そうした中で、現状の教育・福祉制度に大幅の改革が必要なのは明らかだが、どのように改革すべきかについては、なかなか議論が収斂しないままである。北欧諸国や他の先進諸国の例を見習いながら、日本独自の進むべき道を、これからも検討していきたい。


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参考文献: 1.「週刊東洋経済 2008年1月12日号」
          (第1項(3)以降の内容は、ほとんどこの雑誌からの引用である。
           また、図3から図11までは、すべてこの雑誌から引用した)。
         2.北欧社会福祉研究家による世界・北欧の福祉事情


北欧に関するコラムは以下の通り。

84.福祉国家の経済成長-北欧の挑戦と日本の凋落
85.北欧諸国と日米英独仏の比較


格差に関するコラムは以下の通り。

33.データから見る格差 34.新しい階級社会の誕生 35.様々な格差
36.老人格差 44.ワーキング・プア 53.所得格差と国際比較
59.教育格差と格差の世襲 60.教育格差の現状 61.教育格差と国際比較
64.団塊の世代と団塊格差  65.団塊ジュニアとその格差 
66.団塊ジュニアの結婚格差と少子化問題 79.所得格差と格差拡大税制
80.国民負担率と国際比較


格差問題の背景としてのグローバル化と日本型雇用の崩壊に関するコラムは以下の通り。

46.経済のグローバル化 47.正社員システムの崩壊  48.年功序列賃金の崩壊?
49.労働組合の衰退 50.多様化する雇用形態 52.いじめられるサラリーマン
54.フラット化する世界(1) 55.フラット化する世界(2) 57.フラット化する世界(3)
58.フラット化する世界(4) 22.雇用状況の変遷


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