74.医療制度の国際比較(2) アメリカの医療制度(1) 
               (
2007年7月9日記載)

 日本では、医療制度改革が行われている。その目指す方向は、医療費の抑制を狙ってアメリカ型医療に転換させる、という方向のようだ。市場原理に則った医療を目指して、病院を民営化し、混合診療を認めようとしている。しかし、その方向は本当に正しいのだろうか?前回のコラム(「73.医療制度の国際比較(1)医療費」)でも指摘したように、アメリカの医療費は世界で一番高い。それにもかかわらず、人口の16%(4千万人)以上が、無保険者で適正な医療を受ける事ができない
 そこで、今回は、アメリカの医療制度をを取り上げる事にした。
 アメリカの医療に関するデータは意外と乏しく、かつ年代の古いものが多い。どうも、日本では、アメリカの医療とか福祉は研究の対象としては好まれていないらしい。そのデータ不足につけこんで、厚生労働省あたりは、アメリカ医療の「光」だけを強調し、なんとか、日本の医療に「市場原理」を導入しようと画策している節がうかがえる。
 アメリカの医療制度の「光」の部分(最先端の高度な医療が受けられる等)は素晴らしいが、その分、実は大きな「影」の部分が存在する。ここでは、その「影」の部分を中心に分析する。

           表1 各国の医療制度の特徴
日本 アメリカ
 ・国民皆保険  ・公的医療保障は、高齢者、障害者、低所得者のみ
 ・社会保険方式  ・メディケアは社会保険方式、「保険料」と「税」の組み合わせ
 ・「保険料」と「税」の組み合わせ  ・メディケードは「税」により低所得者をカバー
イギリス ドイツ
 ・全国民を対象  ・国民の9割を対象(自営業者・高所得者は任意加入)
 ・保健サービス方式  ・社会保険方式
 ・「税」方式  ・「保険料」のみ
スウェーデン フランス
 ・全国民を対象  ・全国民の99%を対象
 ・保健サービス方式  ・社会保険方式
 ・「税」方式  ・保険料が8割強、その他、一般社会拠出金等

1.各国の医療制度の特徴

 アメリカの医療制度を述べる前に、日・英・米・仏・独・スウェーデンの6ヶ国の医療制度の特徴を、まとめて右の表1に示す。

 @日本、イギリス、スウェーデンの3ヶ国は、全国民を対象とした公的保険制度を持っている。
 A日本は、社会保険方式で、財源は「保険料」と「税」の組み合わせとなっているが、イギリスとスウェーデンでは、「税」を財源としている。
 Bアメリカ、ドイツ、フランスの3カ国には全国民を強制加入させる公的保険は存在しない。
 Cドイツには、自営業者と高所得者以外(全国民の約9割)を対象とした「社会保険方式」の公的保険があり、「保険料」のみを財源として運用している。
 Dフランスにも、ほとんどすべて(99%)の国民を対象とした「社会保険方式」の公的保険があり、財源としては、保険料が8割、残りを拠出金当で賄っている。
 Eアメリカでは、詳細は後で述べるが、メディケアとメディケードという公的保険によって、高齢者・障害者と低所得者はカバーされている。しかし、一般国民は、自己責任で民間の保険に加入しない限り、無保険者となってしまう。

2.アメリカの医療保険制度

 アメリカの医療保険制度と2001年現在の加入状況について、右の図表2に示す。(この図表は、参考文献1から引用)。

(1)メディケア(約3,800万人) 

 @1965年、ジョンソン大統領によって次に述べる「メディケイド」と共に導入された、65歳以上の高齢者と一定の障害者を対象とする公的医療保険制度である。
 A高齢者人口の96%くらいが加入しており、高齢者に限っていえば、ほぼ皆保険が実現していると言える。しかし、保険給付に関しては多くの問題がある。
 BパートA(病院保険:入院医療をカバー)とパートB(補足的医療保険:外来医療をカバー)の二つの部分から構成されている。これは、アメリカの医療保険が、病院と医師とで別々なのが一般的であるために、メディケアもそれにならったからである。
  注1: パートAは、入院、ナーシングホーム、在宅医療、ホスピスなどを対象とする。
  注2: パートBは、
医師サービス、在宅医療、病院外来などを対象とする。
 CパートAは、社会保障税を財源とする社会保険である。
料率は所得の2.9%でこれを労使で折半する。自営業者は2.9%全額を拠出しなければならない。(この保険料を負担できない高齢者は無保険者になってしまう)。
 DパートBは任意加入の医療保険であり、保険料と連邦政府負担を財源とする。保険料はパートB総費用の25%を支弁するとされ、2001年の保険料月額は45.5ドルであった。任意保険とはいえ、メディケア加入者のほとんどが加入しているそうである(1998年で96%)。

(2)メディケード(約3,200万人)  

 @低所得者を対象とする医療扶助制度であり、自己負担はない。州政府が実施主体であるため、受給用件、給付内容、支払い方式のいずれにおいても詳細は各州ごとに異なる。ただし、財政面で連邦政府が5割から8割を補助している関係上、各州は連邦政府のガイドラインを遵守しなければならない。
 Aメディケードの受給資格を得るには、日本の生活保護のように、低所得の上に資産を使い果たすなど、厳しい基準がある。そして、この基準は年々厳格化される傾向にあり、収入が連邦貧困線(1997年基準で年収1万6,400ドル以下)を下回る最貧層においてすら、受給資格を付与されない者が増加しているという。

(3)民間医療保険(約1億9,900万人) 

 @アメリカの医療保険は、上記2種類の公的保険もあるが、中心は、ビジネスとしての民間医療保険である。メディケアやメディケードの対象とならない国民は、自己責任で民間の医療保険に加入しなければ、無保険者となってしまう。
 Aアメリカの企業(とくに大企業)は、従業員の福利厚生の一環として、企業が団体保険を紹介、提供しているうえ、保険料の一部を負担している。
 Bしかし、雇用主が医療保険を提供することは、法律で義務づけられていないので、中小・零細企業などでは、手間や保険料負担を敬遠して、保険を提供しないケースも多い。アメリカ政府の統計によれば、「従業員25人以下」の企業の7割は、保険を提供していない
 注: 民間医療保険のうち、マネジドケアに属するものについては後述するが、詳細は別の機会でまとめる。。

表2 無保険者
人種別割合(%)
ヒスパニック 32.4
アフリカ系 20.2
アジア系 18.4
年齢別割合(%)
18歳以下 11.6
18〜24歳 29.6
25〜34歳 24.9
35〜44歳 17.7

(4)無保険者(約4,120万人) 

 @メディケアやメディケードの対象とはならないが、民間の医療保険にも加入しない(できない)人達は無保険者となってしまう。この無保険者の人種別割合と、年齢別割合を表2に示す。
 A表2をみればわかるように、人種別では、ヒスパニックがとくに高い割合を占めており、不法移民問題ともからんで、新たな「人種差別問題」とも捉えられている。
 B無保険者になる主な理由として、以下の事が考えられる。
  (@)保険を買えるだけの余裕がない: 家族を対象とする保険の代金は、だいたい、年間100万円程度は必要だ。保険を提供してくれる企業の従業員でもなければ、この保険料はかなりの負担である。このため、家賃や子供の教育費などを優先して、保険に入らない(入れない)、というわけだ。
  (A)メディケイドに加入できる資格はあるが、言葉の壁や不法滞在がわかるのを恐れて、申し込まない: 移民や不法労働者に多い。
  (B)健康を過信し、手取り収入増を求める若者意識: 医療保険料を負担してくれる会社に勤めているにもかかわらず、保険に加入しないで、その分、給料を多くして欲しい、と願う若者が多い。これが、18〜24歳層が多い一つの理由である。

3.受診から料金支払いまで

 アメリカ人が病気または怪我で病院に行った場合、どのように扱われるであろうか?
 その手順は、日本とはかなり違う。そこで、典型的なケースで調べてみよう。


(1)保険加入者の場合 

 日本では、患者が自分の判断で行きたい病院を選ぶことができる(これが「フリーアクセス」と呼ばれるものであり、日本の医療の優れた点として、国際的に高く評価されている)。しかし、アメリカでは、必ずしもそうではない。「マネジドケア」と呼ばれる方法が一般化しており、その場合には、以下のようになる。

 @大体の場合、その患者が加入している保険会社が指定している病院で、指定している医者(主治医)からしか診察を受けることができない。選べる病院が複数あったり、選べる医者が複数いたりする保険もあるが、そのような保険の保険料は極めて高く、一般の人は加入しない(あるいは、経済的に加入できない)。
 A標準的な治療方法で治癒できる場合は、問題ないが、そうでない場合には、特別な治療を施して良いか否か、担当医者がその患者が加入している保険会社に事前に許可を求める。許可が出て、初めて、特別な処置に移る。許可なしでは、特別な処置は行えない。保険によっては、高額な自己負担を払えば、特別な処置を受けることのできる保険もある。
  (ただし、最近は、この事前許可の条件が緩やかになり、医者の裁量で判断できるようになりつつあるらしい)。
 B特別な処置には、専門病院への転院や専門医師による診察・治療も含まれるが、それらの専門病院・専門医師も、保険会社が指定する中から選ぶのであって、患者や、最初に担当した医師(主治医)の自由意志で選ぶ事はできない。
 C手術で入院という場合、保険会社が決めた期間で退院させられる。それ以上入院していれば、法外な入院料が個人負担となるから、普通の人は払いきれないので、退院せざるをえない。(「入院料」については、前回のコラム(「73.医療制度の国際比較(1)医療費」を参照)。
 D退院後、あるいは、治療終了後、料金を支払うことになる。日本では、病院と薬局との2箇所で、個人負担分を支払うわけであるが、アメリカの場合は複雑である。
  (@)請求書: 病院と医者、あるいは、X線技師等がそれぞれ、別々に発行するのが一般的である。アメリカでの治療費は、「病院の施設代」と「医師の技術料」の二本立てである。アメリカの医師は、日本の医師と異なり、専門医が病院から独立して仕事をしていて、治療や手術を行う病院と雇用関係がないケースが多い。このため、病院と医師が別々に患者に請求するわけである。
  (A)請求書の送付先: 上記の請求書が、患者本人にくるか、保険会社にいくかは、保険契約の内容による。患者の個人負担分についても、保険契約の内容による。

(2)無保険者の場合 

 日本でも、国保料が払えない「無保険者」が問題になっているが、日本の場合は、たとえ、無保険者でも「医療」を受けることはできる。これは、医療法で医者に「医療」を提供することを義務づけているからである。
 しかし、アメリカでは、そのような法律はないので、無保険者は大変である。

 @アメリカの民間病院では、無保険者の診察は、まず拒否される、と考えて間違いはない。なぜなら、アメリカでは、緊急事態以外の場合は、患者の診察を拒否できるからだ。「無保険者の診察は赤字を増やすだけ、診察はしたくない」、というのが私立病院経営者の本音だ。
 A無保険者が頼れるのは、公立病院のER(緊急救命室)である。しかし、ERの実態はある意味で悲惨だ。「手術を担当するのは研修医であることが多く、看護士も手薄。重症でも、一日中待たされたあげく、亡くなるケースもある。それだけ、多くの無保険者が殺到している」、これは、ニューヨーク市内の公立病院のERで勤務したことのある医師の証言である。
 B無事、治療を受けて病気や怪我が治っても、治療費の支払いが大変である。まず、治療費は、病院や医者の“言い値”で請求されることが多い。じつは、保険会社の役割の一つに、病院や医師と交渉してできるだけ医療費を安くする、ということがある。ところが、無保険者には、そうした“後ろ盾”がないために、病院や医師のいいなりにならざるをえない。
  (日本では、治療費は、中央社会保険医療協議会が「診療報酬体系」として決めている。これが、「公定価格」としての役割を果たしており、全国どこの病院でも、治療費は同じである)。
 C患者の多くは低所得者で、簡単に払えない場合が多い。医療費を支払うために、車、土地、家を売るのが通例だ。親戚縁者にも頼み、それでも払えない場合は、自己破産を宣言する。アメリカでは、医療費を払えないために自己破産するケースが多いそうである。

(3)未払い医療費問題 

 日本でも、未払い医療費が問題になっているが、アメリカでは無保険者が大勢いる為、より問題は深刻である。

 @無保険者が増えると、彼らが払いきれなかった未払い医療費も増加し、行政や病院に大きな負担となっている。
 AワシントンDCの学術団体「医学研究所」が、2004年1月に発表したデータによると、アメリカ全国の医療未払い費用は、2001年で総額360億円。このうち、85%が税金で補填されたそうである。
 B病院側も未払い治療費に対しては、経営への影響を最小にするために、「取立て会社」に依頼するなど、その回収に努力している。「取立て会社」でも手に負えない場合には、病院側は患者を訴える、ということもある。場合によっては、その患者が逮捕されることもある。
 Cマサチューセッツ州の場合、無保険者の治療費は「フリー・ケア・プログラム」と呼ばれるマサチューセッツ州の「未払い医療支払い基金」に請求される。このプログラムは、収税や保険会社、ERを持たない営利病院などの拠出金によって運営されている。

表3 医療費抑制の試み
 出来事
1965 メディケア、メディケイド創設
1972 PSRO設置
1973 HMO法
1982 PSROをPROに改組
1983 DRG/PPSが導入される
1989 RBRVSが導入される

4.医療費抑制の試み(1980年代まで) 

 アメリカの医療費支出は、対GDP比でみても、国民一人当りでみても、世界一であり、しかもその上昇率も極めて大きい。アメリカでは、増大する医療費を抑制すべく、様々な試みが行われている。メディケア、メディケード創設後、1980年代までの医療費抑制の試みを右の表3に示す。

 @1965年にスタートしたメディケアは、最初は対象人口1,500万人34億ドルであったが、1983年には約30倍の1,000億ドル、1995年には、対象人口3,500万人2,000億ドルまでに急騰した。
 Aこうした医療費支出の急増で、メディケアは財政見直しが求められており、支出抑制のため、1972年メディケア支払い審査機関PSRO(professional Standard Review Organization)(医療標準に基づいて、医療機関からの支払いが適正か否かを審査する組織)を設置した。
 B1973年、民主党は、国民皆保険を要求したが、当時のニクソン政権は、その対案としてHMO法を成立させた。当初の狙いは、3年間で全米各地に1,700のHMOを設置して国民の90%を加入させ、無保険者問題を改善する、というものであった。しかし、HMOの加入者数は伸びず、無保険者問題も医療費の高騰問題も解決できなかった。
  注: HMOについては項を改めて説明する。
 CPSROによる審査は緩やかで、医療費の抑制には役立たなかった。そこで、1982年PSROをPRO(Peer Review Organization)に改組して、診断内容や診断行為の妥当性、適切性を厳しく審査するようにした。「医療警察」とまで呼ばれたPROの審査は凄まじく、例えばニューヨーク市では、入院の14%が支払いを拒否され、わずか数ヶ月で平均在院日数が13日から8.7日にまで短縮される結果を招いた。
 D1983年、メディケアからの入院医療費の支払い(パートA部分への支払い)について「DRG/PPS(Diagnostic-related Group/Prospective Payment System):診断群別定額支払い方式」が導入され、出来高払い方式であるCPR(Customary Prevailing Reasonable)から定額制に移行することになった。
 Eそして、1989年には、メディケア医師診療報酬支払い(パートB部分への支払い)にも「RBRVS(Resource-based Relative-value Scale):診療行為別相対価値尺度」と呼ばれる診療報酬点数表が導入されて、こちらもCPRから定額払いとなり、とくに、専門医の料金が引き下げられた。

マネジドケアの発展(1990年代以降):

 @メディケアの支出抑制策は、企業への費用転嫁をもたらしたと言われている。その理由は、
  “メディケアからの収入減に直面した病院が出来高払いの民間医療保険に上乗せ請求する―> 保険支出増加に直面した保険会社が保険料を引き上げる―> 企業の保険料負担が増大する”、という経路で医療費負担が転嫁されたという。
 Aそこで、1990年代に入り、企業が従業員用に加入している「労働者向け団体医療保険」を中心に、マネジドケア型医療保険(HMO等)が急速に伸びていった。
 B右の図表3に、全米およびマサチューセッツ州におけるHMOの浸透率の推移を示す。この図をみればわかるように、1990年から1998年までの間、HMOの浸透率はほぼ倍増した。(この図表は、参考文献1から引用)。

6.マネジドケア型保険の仕組み

 マネジドケアとは、医療提供の効率化を目的とする技術および組織を意味する。
 技術としては、今まで述べてきたDRG/PPSやRBRVS、あるいは、人頭払い方式(実際の受診回数や治療費とは無関係に、一人当りの支払額を定める方式で、定額支払い制の一つ)等がある。
 組織の仕組みについては、そのイメージを右の図表5に示す。

 @保険に加入している患者が治療を受ける場合、第3項(1)で述べたように、自分の加入している保険の範囲内で、治療を受けることができる(逆の見方をすれば、保険者は患者の受診行為に制限を加えているわけである)。
 A医師や病院も、その患者が加入している保険の範囲内で許された治療を行う。つまり、保険者によって、医療行為が管理されているわけである。
 B保険者は、保険の加入者から保険料を徴収し、医師や病院からの医療費の支払い要求を受けてその費用を医師や病院に支払う。そのばあい、医師や病院が行った治療行為が保険の範囲内であるかどうかを厳しくチェックし、範囲を超えている、と判定された治療行為については支払いを拒否する
 Cこうした方法によって、医療費がFFS(Free Fee for Service:非マネジドケア、出来高払い制)よりも安くなるように、患者の受診行動と医師の医療行為の双方を管理しているのが、マネジドケアの実態である。

7.マネジドケア組織の概要

 マネジドケア組織は、保険者・医療提供者・加入者を取り結ぶ関係に応じて、いくつかの形態に分類される。
 代表的なマネジドケア組織であるHMO、PPO、POSについてその比較図を右の図表20に示す。(この図表は、参考文献1から引用)。

(1)HMO (Health Maintenance Organization:健康維持組織)(全体の23%)

 @保険者と医療提供者とをなんらかの程度で結合した組織で、加入者に対する保険業務と医療提供の双方に責任を有する。
 A加入者は、HMOが提供する契約医師リストの中から自分の主治医(プライマリケア医)を選択し、まず、最初に必ずこの主治医の診療を受けなければならない。
 B加入者が専門医受診や入院等をするためには主治医の紹介が必要であり、紹介無しでは行えない。
 CHMOには、通常は次の五つのモデルがある。(これらのモデルについては後述する)。
 @.スタッフモデルHMO 保険者が医療施設を所有し、医師を直接に雇用する形態。
 A.グループモデルHMO 保険者が単一のグループ・プラクティスと診療契約を結ぶ形態。
 注: グループ・プラクティスとは、複数の医師が結成する診療組織のこと。個々の医師はグループ・プラクティスに雇用されることが多く、ゆえに診療報酬もグループ・プラクティスからの給与の形をとる。
 B.ネットワークモデルHMO 保険者が複数のグループ・プラクティスと診療契約を結ぶ形態。
 C.IPAモデルHMO 保険者がIPAと人頭払い方式で診療契約を結ぶ形態。
 注: IPA(Independent Practice Association:独立した開業医組織)とは開業医からなる組織で、医師と保険者を仲介する機能を果たす。IPAは、個々の医師を雇用せず、医師への支払いは人頭払いでなされる。
 D.混合モデルHMO 保険者が複数のHMOモデルを営む場合。例えば、ある州でグループモデルHMOを営みながら、別の州ではIPAモデルHMOを営むような場合である。

(2)PPO(Preferred Provider Organization:特約医療組織)(全体の48%) 

 @保険会社や事業主と優先的診療契約を結んだ医療提供者組織であり、保険者としての機能を有していない。この点が、HMOとの根本的な違いである。
 APPOに参加した医師・医療機関は、割引出来高払い方式で保険者と診療契約を結ぶ。IPAの場合は保険者からの支払いが一旦IPAにプールされるが、PPOはそうではない。
 BPPOの中には、たんなる契約関係だけで公式の組織を持たないものもあり、組織を持つPPOと区別して、PPA(Preferred Provider Arrangement:特約医療協定)とよばれる場合もある。
 C加入者は、なるべく当該PPOを利用するよう求められるが、高額な自己負担を払えばPPO外で受診することもできる。また、PPOには主治医の制度が無いので、専門医に直接受診することができる。

(3)POS(Point-of-Service:ポイント・オブ・サービス)(全体の22%) 

 @基本的な仕組みはHMOと同じであるが、一定の自己負担を払えば、PPOと同じく専門医に直接受診することもできる。HMOとPPOをミックスした保険商品。

(4)HMOとPPOの比較表 

 上記で説明してきたHMOとPPOの比較を一覧にして下の表4に示す。

表4 HMOとPPOの比較表
HMO PPO
スタッフ型 グループ型 IPA型
保険機構 組織内にある 組織外の機構と契約
病院 HMOが所有 組織外の病院と契約 PPOが選定して加盟誘導
病院の費用支払い HMOが所有予算によって運営 HMOが人頭制で前払い 契約保険機構がPPO経由で、報酬をその都度支払う
医師 HMOが雇用 医師を一つのグループに組織化して契約 IPAと契約 PPOが選定して加盟誘導選定して加盟誘導
医師の費用支払い 給料として支払われる グループに人頭制で前払い。グループは医師に給料を支払う IPAに人頭制で前払い。IPAは、出来高報酬を医師に支払う PPOを経由で、報酬をその都度支払う
病院・医師への規制 加盟者に対する医療提供のみ 規制無し
加入者への受診規制 HMOの医療機関に限定 契約によっては他の受診も適用
保険料 定額保険料 HMOより高い定額保険料
受診時自己負担 自己負担無し 自己負担有り

8.マネジドケアの問題点 

 マネジドケアは医療費を削減する切り札として登場した。最初は、その期待通り、医療費の伸び率をある程度抑え込むのに成功したが、やがて、その効果は薄れ、元の木阿弥となってしまった。ここでは、マネジドケアの問題点について考えてみる。

(1)医療機関選択、アクセスの制限、専門医受診の制約 

 @HMOの問題点は、加入者に医師および医療機関選択の自由が制限されることである。加入者は、まず、主治医の診察を受けなければ、専門医の受診もできない。
 Aつまり、加入者は、契約時に示される医師リストの中から、自分の「かかりつけ医」を選び登録する。何かあった時は、まず登録した医師を訪れることが必要であって、救急病院への搬送による救急入院、専門医の受診など、あらゆる場面でこの登録した医師の許可、紹介が必要となる。
 B専門医を紹介するたびに登録医に収入減などのペナルティを科すようなデザインがされていることも、患者はもとより医師の側にも混乱と苦悩をもたらしている。とくに、良心的な医師であればあるほど、自分が最善と思う医療を提供できない、というジレンマに悩むこととなってしまう。
 C保険会社は、登録医に対して、患者にできるだけ保険を利用させないようにする役割を期待している。そのため、登録医は保険給付の入口の番人として、ゲート・キーパーと呼ばれる場合がある。ただ、昨今は、ゲートシャッターとさえ呼ばれている。これは、登録医が、患者の身近な専門医をわざと紹介しなかったために時間がかかりすぎて手遅れになってしまった、という事例などから生まれた呼び方でもある。

(2)過小診療(人頭払い制の制限)と「さくらんぼ摘み」 

 @人頭払いという月額定額払いでは、過小診療という弊害が生じている。保険会社と契約した登録医は、検査、治療をはじめ、すべての費用をその人頭払いの中から充当しなければならない。このため、手のかかる厄介な患者がくると、医師の支払いが増え、赤字になってしまう。このため、医師はできるだけ、費用を削減するために最小限の診療行為のみで済まそうとする。
 A保険会社でも、保険料を下げるためにリスクの低い契約者ばかりをあつめようとし、本来、保険でカバーされるべき病弱な人は保険に加入できない、という現象が起きている。このように、保険会社が契約者を選別することを、「クリーム・スキミング(Cream Skimming:いいとこどり)」、あるいは、おいしいお客だけをちぎって食べるという意味で「さくらんぼ摘み」と言われている。

(4)さるぐつわ条項(ギャグ・ルール) 

 @医師が保険会社と契約する際に、「医師が患者に保険会社の給付しうる内容以外の治療方法の選択肢を説明することを禁じた条項」が盛り込まれている。これが、「さるぐつわ条項」と言われるもので、「インフォームド・コンセント(informed Consent:治療法についての医師の説明に基づく患者の同意)」とは無縁のものである。
 Aこの問題を最初に暴露したケンブリッジ市立病院のヒンメルシュタイン医師は、契約していたUSヘルスケア社から契約を解除されてしまった。しかし、タイム誌が、その事実を彼の顔写真入りで全米に報道したことにより、USヘルスケア社には国民の批判が殺到した。その結果、USヘルスケア社は、再び彼を契約医師に加えざるをえなかった。彼を解約した代価はUSヘルスケア社のほうが非常に大きかったのである。

(5)診療抑制に熱心であった医師へのボーナス制度 

 @検査や治療など様々な医療の結果、医療給付が一定目標を下回った場合や、専門医への紹介が少なかったりした時に、その登録医にボーナスが支払われる制度がある。
 Aこれは、患者の診療を抑制して保険料の支払いを抑えるためのものであるが、あまりにも営利主義的な制度である、ということで、近年社会的な批判が強まっている。

(6)請求事務に追われる医師 

 @各医療機関は、第三者機関を介さずにそれぞれの保険者と個別に契約し、値引率をはじめ様々に異なった条件下で個別に請求業務を行わなければならない。その請求事務量の多さは、医師の最大の悩みとなっている。
Aたとえば、ケンブリッジ病院では、職員の4人に1人は請求業務に携わっているという。また、ボストン郊外のある診療所では、3人の医師が勤務しているが、そのうちの1人は、1週間のほぼ半分を保険の請求事務にあてているとのことである。

9.医療費を巡るパワーゲーム

 @医療の市場には、右の図表7に示すように、以下の4人のプレイヤーがいる。(この図表は、参考文献1から引用)。このプレイヤーが、医療費を巡って、「市場原理」に則りパワーゲームを演じているのが今のアメリカ医療の実態である。
  @.Purchaser(保険購入者、企業など):
  A.Health Plan(HMOなど民間保険会社):
  B.Provider(病院や開業医):
  C.Consumer(消費者、患者):
 A1990年代前半は、Purchaserの力が強かった。マサチューセッツ州の企業は「医療保険購入者同盟(MHPG:Massachusetts Healthcare Purchaser Group)を作って保険会社に保険料の引き下げを強烈に迫った
 Bそこで、Health Plan(保険会社)は安い保険料でも儲けられるように、マネジドケアのような医療費抑制型の保険を開発し、同時に、Provider(病院・医師)に診療報酬のディスカウントを迫っていったのである。保険会社は、病院との交渉を有利に進めるために、吸収合併などを積極的に行って規模を大きくしていった。
 C病院・医師の側は、患者も失いたくないので、規模の拡大したHMOなどの提示する診療報酬の値下げを飲まざるをえなくなった。その結果、病院経営は苦しくなって、倒産するところもあり、マサチューセッツ州では、1990年代の10年間で、病院が93から71に約25%、ベッドが23万3千床から16万8千床に約30%も減少してしまった。
 D病院のベッド占床率も60%くらいに下がり、病院によっては、経営改善のために、空き病室を開業医のオフィスや花屋さん、美容室などにテナントとして貸して収入を得ているところも出てきた。
 Eしかし、1990年代の中頃から病院側も、グループ化によって規模を拡大し、HMO等に対して価格交渉力を高めてきた。この結果、今度は逆にHMO側が、診療報酬の引き上げ等に応じざるをえなくなり、赤字に転落して倒産するところも出てきた。
 Fこうして、医療費を巡るパワーゲームは、ビジネスとしては様々な展開を見せているのではあるが、肝心なもう1人のプレイヤーである患者には、市場原理が働かず、患者は完全に置き去りにされているのである。したがって、
市場原理に基づく医療供給体制では、患者の立場が無視されるために、患者は受診制限とか、いろいろな困難な状況に襲われるのである。

10.最後に

 アメリカの医療制度の現状と問題点について、とくに、マネジドケアの抱える問題について分析してきた。
 アメリカの医療は、「国民の権利、というよりは、お金持の特権となっている」、という指摘もあるように、お金さえあれば、世界で最高レベルの医療が受けられる、という「光」の部分がある反面、4千万人を超す無保険者や、受診制限に悩む一般患者等を抱えた「影」の部分も持つシステムである。
 次回は、今回分析できなかったアメリカの医療の質の問題や、アメリカの医療費がなぜ世界一高いのか、といった問題を分析していきたい。

参考文献: 1.「市場原理のアメリカ医療レポート」、三浦清春、かもがわ出版
         2.「介護地獄アメリカ」、大津和夫、日本評論社
         3.「苦悩する市場原理のアメリカ医療」、アメリカ医療視察団、あけび書房
         4.「超・格差社会アメリカの真実」、小林由美、日経BP社

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日本の医療に関するコラムは以下の通り。

38.日本の医療(1)制度と問題点 39.日本の医療(2)医療機関と医者
40.日本の医療(3)医療従事者と患者 41.日本の医療(4)医療機関の経営状況(1)
42.日本の医療(5)医療機関の経営状況(2) 43.日本の医療(6)医療保険制度
67.医療崩壊の現状(1)病院勤務医の急減  68.医療崩壊の現状(2)看護師争奪戦
69.医療崩壊の現状(3)医療難民 70.医療崩壊の現状(4)介護難民
71.自治体病院と地域医療 72.厚生労働省の失政
73.医療制度の国際比較(1)医療費 75.(3)アメリカの医療制度(2)
76.(4)アメリカの医療制度(3) 77.(5)医療資源
78.(6)医療資源と利用状況


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