54.IT技術とグローバル化(1):「フラット化する世界(1)」 
      
(2007年2月17日記載)


 トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」を読んでいる。IT技術の進歩が、グローバル化を促進し、「丸い」地球が「フラット」な世界に変えられていく状況が、主としてアメリカで起きている様々な事例に基づいて述べられている。今回は、上巻の内容の一部を紹介し、フラット化してゆく世界とはどんなものか、ながめてみることとしよう。

第一部 世界はいかにフラット化したか

第1章 われわれが眠っているあいだに

1.グローバリゼーションの三つの段階

表1 グローバリゼーションの三段階
段階 時代 変化の推進力 主体 参加者
1.0 1492−1800 物理的な力 国家 西洋諸国
2.0 1800−2000 ハードウェア 多国籍企業 先進諸国
3.0 2000年以降 IT技術 個人 全世界

 世界は、今、右の表に示すように、グローバリゼーションの第3段階に入っている、というのが著者の主張である。その概要を右の表1に示す。

(1)グローバリゼーション1.0 コロンブスが航海に乗り出し、旧世界と新世界のあいだの貿易が始まった年(1492年)にグローバリゼーションが始まった。この年から、1800年頃までが、最初の時代であり、これをグローバリゼーション1.0と呼ぶことにする。この時代、グローバリゼーションを推進する原動力は、物理的な力(馬力・風力・蒸気動力等)であり、ヨーロッパの「国家」がその力を用いて、世界を統一しようとした。
(2)グローバリゼーション2.0 次の段階は、二度の世界大戦と大恐慌により中断されたが、1800年頃から2000年頃まで続いた。最初に、共同出資によるオランダやイギリスの会社と産業革命が先鋒をつとめた。ハードウェアの分野での飛躍的進歩(最初は、蒸気船や鉄道、飛行機・自動車等の輸送手段、次には、電信電話・コンピューター・ネットワークといった通信手段)が原動力となり、欧米先進諸国の多国籍企業が主体となって、市場と労働力を求めてグローバル化を推進した。
(3)グローバリゼーション3.0 2000年前後から、パソコンと光ファイバーを活用したIT技術により、まったく新しい時代に突入した。これが、グローバリゼーション3.0である。個人や小集団が、IT技術によって、まったく新しい力を獲得したのである。そして、今迄は「丸かった地球」を「フラットな世界」に変えつつある。そして、先進諸国の個人のみならず、かっては共産圏に属していた東側の諸国や、アジアの発展途上国の国民も、この輪の中に入ってきたのだ。
 (注:アフリカやイスラム諸国については、ほとんど触れられていない)。

2.グローバリゼーション3.0のいくつかの例

 世界がフラット化しつつある例としていくつかのケースが紹介されている。

        表2 米国における所得税申告業務の    アウトソーシングの状況
2003年 2004年 2005年 将来
インドで処理された件数 25,000件 100,000件 400,000件 簡単なものは全て?

(1)公認会計士 会計監査の厳格化に伴い、2000年には86万人だった会計士の人口は2005年には、105万人に増えており、今後も増加が予想されている。数量的には大きく伸びている会計士業界だが、その業務内容は大きく様変わりしつつある。基本的な個人確定申告や法人税務申告が、いまやインドに「アウトソーシング」されつつあるのだ。その状況を右の表2に示す。
 定型的な業務はデジタル化されてアウトソーシングされ、アメリカにいる会計士は、節税手段や事業拡大手段等をクライアントと今迄以上に密接に相談する等、方向転換が出来ないと生き残れない恐れが出てきているのだ。
(2)コールセンター アメリカのコールセンターは、発展途上国に流出している。インドやフィリピンを利用すれば、15〜35%、メキシコなら15〜20%もコストを削減出来るそうである。バンガロールにあるインド企業“24/7カスタマー”では、雑然と並んだ小部屋に、デル、マイクロソフト等の旗が掲げられていて、その部屋の中で若いインド人が電話の受け答えをしているそうである。
 また、日本の会社は、コールセンターを中国の大連にアウトソーシングしている。大連には、日本語を学ぶ学生が多数いて、日本のアウトソーシングにとって、うってつけの場所となりつつある、との事である。
(3)オンライン家庭教師 アメリカでは、1990年代後半からオンラインによる家庭教師ビジネスが始まった。現在は、幼稚園から高校生まで190万人が、オンラインで家庭教師をうけており、これは、アメリカの家庭教師事業全体の6%に過ぎないが、今後、益々増加が期待されている。そして、通信インフラの整備により、インド人がインドにいながら家庭教師を勤める、という事例が急増している。米国のオンライン家庭教師は、1時間40ドルから100ドルであるが、インドのオンライン家庭教師は1時間15ドルから25ドル、しかも、彼らの大半は、担当教科の修士号を持っているとの事。

2.グローバリゼーション3.0のもたらすもの:

 世界のフラットがこのまま続くなら、グーテンベルクによる活版印刷の実用化や、近代的主権国家や産業革命の発生と同じような根本的変化として、記憶にとどめられるであろう。今、進んでいる変化は、政府や企業や人々のコミュニケーションや組織間の結びつきのあり方を根本から変革し、社会契約の本質にまで影響を及ぼしつつある
 こうした変化に呑み込まれないように、あるいは置き去りにされないように、変化を吸収してゆくのが、我々の時代に課せられた大仕事なのである。

第2章 世界をフラット化した10の力

 世界は、10の大きな政治的事件、イノーベーション、企業といった要素の収束によってフラット化された。その10の力について以下にまとめる。

1.フラット化の要因1: ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代


(1)1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊し、やがてソ連帝国にとらわれていた人々をすべて解放した。これにより、それまでは、「東側の政策」「西側の政策」という形で分断されていたものが、「グローバルな(全世界的な)」政策、ということで、一本化されるようになった。ベルリンの壁の崩壊により、他人の知識の宝庫を多くの人が利用する道が開け、優秀な技術やアイデアが、グローバルに素早く広まるようになった。
(2)1977年にアップルU家庭用コンピュータが売り出されて、パソコンが普及し始め、1985年にウィンドーズの最初のバージョンが発表された。そして、ベルリンの壁の崩壊から半年たって、1990年5月22日、Windows 3.0 が発売されて、IBMパソコンの使い勝手が飛躍的に向上した。これにより、文字・音楽・地図・写真、さらには、音声や映像なども、数字データと同じようにデジタル処理出来るようになっていった。
(3)ちょうどその頃、パソコンとモデムを買って電話に接続し、コンピュサーブやAOL等のインターネット・サービス・プロバイダーを利用すれば、電子メールが送れる、ということに一般市民も気がつきだした。

2.フラット化の要因2: インターネットの普及と、接続の新時代

(1)1990年代の初めにビントン・サーフとボブ・カーンがインターネットを「発明」し、デジタルデータを“パケット”情報として、ネットワーク上で送受信できるようになった。
(2)1991年8月6日、バーナーズ・リーが創った世界初のウェブ・サイトがアップされた。ワールドワイドウェブ(WWW)の仕組み、ブラウザを手に入れる方法、ウェブサーバーを設定する方法が、そのサイトで説明されていた。ワールドワイドウェブが誕生したことにより、コンピューター同士がネット上でコミュニケートできるようになった。ウェブとは、観念的な情報スペースであり、人々はウェブ上で、ドキュメント・音声・映像・等々のデジタル化された情報と出会うことが出来るのだ。そして、ネットを通じて、デジタル化された情報をお互いに交換できるのである。
 ウェブの共通言語としてHTMLが一般に広まり、ウェブページのアドレス指定の仕組みとしてURLが設計され、共通ルールとしてHTTPが考案された。
(3)この初期のウェブを閲覧するためのブラウザが多数市販されるようになったが、最初に広く普及したのは、1994年12月に発売された”ネットスケープ”である。発売後、1年以内に完全に市場を独占したが、重要なのは、それを誰もが「無料」でダウンロードできたということである。個人であれば、満足がいくまでいつまでも無料で使用できた。企業の場合は、90日間試用して評価することが出来た。1995年8月9日、ネットスケープの株式は公開され、インターネットが爆発的に広がるきっかけとなった。
(4)1995年8月25日、Windows 95 の英語版が、世界12ヶ国で先行発売された。このOSには、最初からインターネットを使うためのツールが内臓されていた。ブラウザ(インターネット・エクスプローラー)だけでなく、すべてのアプリケーションソフトが「インターネットのことを知り」相互にやりとりが出来る機能を持っていた。これによりインターネット・ブームに火がつき、あらゆるものが(本や商取引や娯楽までもが、デジタル化されネットワークで閲覧出来るようになっていった。
(5)インターネットが活発化すると、あらゆるものをデジタル化して電子メールで送ればよい、ということになり、ネットワークの通信料は爆発的に増大した。その結果、ウェブ・サービス会社や光ファイバーの需要が天井知らずに伸びるはずだ、という思惑が生まれ、“ITバブル”が発生した。
(6)初の商業ベースの光ファイバーシステムが設置されたのは1977年で、その後、ゆるやかに銅の電話線に取って代わっていった。光ファイバー・バブルが発生する引き金となったのは、IT関連株のにわか景気と1996年の電気通信法の改正が重なったことである。地方通信会社と長距離通信会社が相互の事業に参入するのを認める法律改正により、地方の新規通信キャリアが電話サービスのみならず、データ通信やインターネットサービスも打ち出し、それぞれが通信インフラを所有しようとした。その結果、光ファイバーが需要をはるかに超えるスピードで敷設されていった
(7)B2B市場や電子商取引は計画通りに伸び、eベイ、アマゾン、グーグルといった予想もしなかったウェブサイトが爆発的に成長したものの、それでも使用可能な通信能力のほんの一部が消費されているにすぎなかった。だが、こうして
過剰投資された光ファイバーケーブルが、世界のフラットに大いなる貢献をしたのである。

3.フラット化の要因3: 共同作業を可能にした新しいソフトウェア: 

(1)パソコンと電子メールが組み合わさることによって、社内のワークフローが大きく変わった。社内の部課のあいだで同じハード、ソフト、電子メール・システムを使っていれば、必要なデータをデジタル化することにより、途中で人手を介さず迅速に情報をやり取りが出来、生産性も上がる。
(2)さらにこうしたやりとりが、ネットワークを介して異なる企業間で行えるようになった。しかし、そのためには、どんなコンピューターやソフトウェアを使っていても、書類やデータのやりとりや共同作業が出来る、相互利用が可能な態勢が整えられる必要があった。
(3)まず、SMTPによって、種類の違うコンピュータ同士でも、電子メールのやりとりが出来るようになった。しかし、それだけでは不十分で、HTMLという言語やHTTPというルールだけでなく、TCP/IPというプロトコール(デジタルデータをパケットに分割してネットワーク上でコンピュータからコンピュータに送り、そしてそのパケットをまとめて元のデータに組み立て直す)も設定された。
(4)さらには、どんな形で情報が含まれていても、フォーマットされたデータやドキュメントを、二台のコンピューターで機械的にやり取りできるように、XMLという新しい記述言語とそれに付随するSOAPという新しい通信プロトコールが開発された。XMLとSOAPの開発には、IBMやマイクロソフト等の多くの企業が貢献し、どちらもインターネットの標準規格として認められた
(5)これによって、ワークフローはまったく新しい段階に入った。XMLとSOAPを使って送り状を書けば、人間が指示しなくても、企業間に既存の了解がなくても、コンピュータが送り状を送信してくれる。つまり、人の手を借りずにコンピュータ同士が標準化されたプロトコルによってインターネットで話が出来るところまで、ワークフローは進化したのである。
(6)現在、あるアニメーション映画は、上記のプラットフォームを利用したグローバルなサプライチェーンを通じて製作されている。録音はアーティストの多いニューヨークやロサンジェルスの近くで行う。デザインと監督はサンフランシスコで、ライターは自宅のパソコンからネットを使って仕事をする。キャラクターのアニメはインドのバンガロールで描かれていて、サンフランシスコで編集される。これにより、短時間でアニメを製作出来るのだ。
(7)“eベイ”というインターネット・オークションの専門会社がある。この会社では、“ペイパル”という電子送金システムを使っている。これは、電子メール・アドレスさえ持っていれば、相手がペイパル口座を持っていなくても、互いに送金できるのである。ペイパルでは、支払いは次の三つの方法で行われる:@支払い金額をクレジットカードに請求する。A当座預金から引き落とす。B個人の小切手が入金されたペイパル口座から差し引く。
  注:eベイについては、右参照: http://www.nri.co.jp/opinion/it_solution/2000/pdf/IT20000104.pdf
(8)AJAXという新しいコーディング手法の出現により、ビジネスウェブと呼ばれる新しいサービスが生まれつつある。ビジネスを運営するのに必要なツールにウェブ上でアクセスしてウェブ上で使い、ビジネスデータも自分のコンピュータではなく、ウェブ上に保存する。たとえば、“セールスフォース・コム”という会社が、こうしたサービスを提供している。ユーザーは、ソフトウェアは所有するものではなく、レンタルするものになったのである。
  注:ビジネスウェブについては、右参照: http://www.digiken.com/kenkyu/jihou/pdf/012/001-5.pdf 
(9)ビジネスウェブを使ってオーガニック・ビタミンを販売している新規企業がある。この会社は、ヤフーの検索の力と、セールスフォース・コムの広報業務の処理能力を借りて大手ドラッグストアのチェーン店と競い合っている。誰かが、“オーガニック・ビタミン”という言葉を検索すると、この会社のバナーがポップアップする。そして、管理部門の運営にはセールスフォーム・コムを使っているのである。
  注:セールスフォース・コムのHPは、右参照: http://www.salesforce.com/jp/ 
(10)ビジネスウェブがマイクロソフトにとって大きな難問になる事は間違いない。マイクロソフトはもっとソフトを買わせたいが、ビジネスウェブを利用すれば、企業は個別のシステムを使う必要がなくなる。マイクロソフトも、対抗上、ウィンドーズ・ライブとオフィス・ライブという新しいサービスを開始した。最も人気のある製品二つを実質的にビジネスウェブ・バージョンにする、というものだ。
 
ワークフロー・プラットホームは、ヘンリーフォードが製造業に与えたのと同等の影響を、サービス業に及ぼすであろう
  注:オフィス・ライブのHPは、右参照: 
http://office.microsoft.com/ja-jp/officelive/default.aspx 

4.フラット化の要因4: アップローディング: コミュニティの力を利用する


(1)
おたく”のコミュニティが、共同で新しいソフトウェアを設計し、それをアップロードして無料で世界中に配る、という新しい流れが生まれてきた。これを「コミュニティ開発ソフトウェア」という。フラットな世界のプラットフォームのおかげで、“おたく”たちは、ウェブ上でニュースやオピニオンまで提供している。いわゆる、ブログと呼ばれるものだ。
(2)百科事典の項目まで書き、昔ながらの大部な紙の百科事典はもとより、エンカルタのような電子百科事典すら押しのけようとしている。それが、“ウィキペディア”と呼ばれるものである。
(3)個人やコミュニティが、営利企業や旧来のヒエラルキーから受身にダウンロードするのではなく、コンテンツに関して共同作業をしながら、自分達の製品をアップロードして、それもしばしば無料でひろめるという新しい方法が見出された。“アップローディング”により、いまや我々は、ただの消費者ではなく生産者にもなれるのである。たとえば、「ビットトレント」というウェブサイトがある。これは、ユーザーが自分のオンライン音楽ライブラリーをアップロードし、それを他の人々がダウンロード出来るウェブサイトである。
 注:ビットトレントについては、たとえば、右参照: ビットトレントとは  
(4)コミュニティ開発ソフトウェア運動は、オープンソーシング・コミュニティとも呼ばれている。企業やコミュニティが、ソースコードをオンラインで公表すべきである、という考え方からうまれた。そうすれば、みんなで改良できるし、何百万人もがダウンロードして利用できる。このオープンソーシング・コミュニティには、二つの“派閥”がある
 @知的財産共有コミュニティ: 市販されているか否かにかかわらず、あるソフトのソースコードを使って改善、改訂、補正されていった場合、そのソフトを最初に作成したコミュニティに著作権があることを認める、という一派。
 Aフリーウェア運動: コミュニティが開発した無料のソースコードをもとに、派生的な製品を作った場合、その内容をコミュニティ全体に無料でフィードバックしなければならない。
 注:オープンソースについては、たとえば、右参照: オープンソースとは 
(5)「アパッチ」という無料のウェブ・サーバーがある。1995年から、NCSA(イリノイ大学に設置され「米国立スーパーコンピュータ応用研究所」の略)のウェブ・サーバーをベースに8人のエンジニアが改良を加え、1999年に、もとのNCSAプログラムを完全に書き換えて、「アパッチ」という名前で公開した。今では、IBMもアパッチ・グループに加わり、非営利事業のアパッチ・ソフトウェア財団を作って、諸問題の解決にあたっているそうである。
 注:アパッチについては、たとえば、右参照: アパッチとは 
(6)「フリーウェア運動」は、1984年に、GNUという無料OS製作と共に始まった。創始者のストールマン(元ハッカー)は、フリー・ソフトウェア財団を設立し、GPLというライセンス方式を定めた。そして、1991年、この方式に従って、ウィンドウズに対抗するOSのリナックスが公表された
 フリーウェア運動は、マイクロソフトその他のソフトウェア企業にとって、深刻な問題である。今では、どんな種類のソフトウェアでもオープン・ソーシングの形で存在する。マイクロソフトのオフィスや、アドビのフォトショップを買いたくない時には、OpenOffice.orgGimp で驚くほど高品質の無料ソフトを入手できるのだ。
 注1:日本語版のオープンオフィスは、たとえば、右参照: オープン・オフィスへの入り口 
 注2:日本語のGimp は、たとえば、右参照: GIMP2 for Windows 
(7)2004年11月、オープンソーシング・ソフトウェアを支援するNGOのモジラ財団が、無料のウェブ・ブラウザー、ファイヤーフォックスを公表した。この無料ブラウザは、1ヶ月で1,000万件以上がダウンロードされ、一年後(2005年11月)には、ブラウザ市場の10%を獲得した。そのほとんどが、マイクロソフトのインターネット・エクスプローラから奪ったものだ。
(8)世界がフラットになると、ソフトウェア産業に激しい淘汰が起こる。マイクロソフトやSAP等の旧来の商用ソフトウェア、セールスフォース・コムに代表されるビジネスウェブ・モデルのレンタル・ソフトウェア、コミュニティや個人が作るフリーウェア、こういった様々な形式のソフトウェアがすべて足場を確保する新たな均衡状態が、いずれ生まれるであろう。
(9)ワンマン・オンライン・コメンテーターであるブロガーは、急速に増加している。7秒ごとに1箇所づつ増えており、5ヶ月で倍増する勢いだそうである。次の世代は、オンラインと共に成長するのであり、我々のように大人になってから使い方を身につけるわけではない。2003年12月のアメリカでの調査によれば、6歳から17歳までの子供200万人以上が、自分のウェブサイトを持っており、幼稚園の年長組みの29%が、自分の電子メールアドレスを持っているそうである。
(10)ブログの音楽版は「ポッドキャスティング」と呼ばれ、まだ始まったばかりだ。あっというまに普及したアップルの iPod が、この現象の中心になっている、とのこと。
 注:ポッドキャスティングについては、たとえば、右参照: ポッドキャスティングとは 
(11)アップロードされたコミュニティ開発の別の例として、ユーザーが記事を書くオンライン百科事典のウィキペディアがある。これは、ボランティアとして始まったプロジェクトが2年後に資金が尽きた時に、そのまま滅びてしまわないようにと、2001年1月にアップロードされ、ビジターが編集、加筆、修正できるようにしたものである。それが大成功を収め、2005年11月29日現在、英語版で、84万項目を超えている(マイクロソフトのエンカルタの項目数は、3万6千であり、ウィキペディアの4%強に過ぎない)。
 注:ウィキペディアについては、たとえば、右参照: ウィキペディアとは 
(12)ただし、
ウィキペディアに記載されていることが、常に正しいとは限らない。個人に対する誹謗中傷に使われる場合もあるからだ。したがって、このコミュニティは、必ずしも正しいとは限らない、という前提で使わなければならない

5.フラット化の要因5: アウトソーシング: Y2Kとインドの目覚め

(1)インドは、ネール首相の頃から科学・工学・医学分野の教育に力を入れており、インド工科大学(IIT)は、高い教育水準を誇っていた。しかし、卒業生は、インドではその知識を生かすことが出来ず、インドを離れ無い限り、その知識を生かすことが出来なかった。しかし、1991年、インドは経済を開放して外国が投資できるようにし、国内の電気通信産業を分割して競争原理を導入した。さらに、外国の投資を誘うために、バンガロールに衛星通信設備を容易に設置できるようにした。その結果、外国の企業は、インド国内の通信回線を使わずに、本国とのやりとりが可能になった  
(2)1994年、
インド系アメリカ人医師が中心となって、ヘルススクライブ・インディアが発足した。アメリカにいる医師が診断結果を読みあげると、ボイスカードを備えたパソコンが、その音声をデジタル化する。そのデータを衛星通信でインドのバンガロールにあるヘルススクライブ・インディアに送る。そこでは、主婦や学生がその音声を文字データとしてコンピュータに入力する。それをテキストファイルに変換してアメリカに送り返すと、医療記録や請求書のデータとして使うことが出来る。インドとの時差を利用すれば、今までは、二週間近くかかった作業を、わずか二日間でを完了させることが出来るようになった。
(3)1990年代末には、二方面からインドに幸運の光が射し込んだ。一つは、光ファイバー・バブルにより、アメリカとインドのデータ通信が飛躍的に迅速簡単になったということ。もう一つは、いわゆる「2000年問題(Y2K問題)」の発生で、インドのソフトウェア技術者への需要が急速に膨らんだということである。Y2Kに対応する作業は単純で引き受けた企業の競争力の向上に役立つようなものではない。そのため、欧米の企業は出来るだけ安くやってくれるところを探しており、インドがその需要に応えることができた、というわけである。つまり、Y2Kのおかげで、インドのIT産業が世界に認められた、というわけである。
(4)2000年初頭には、Y2K関係の仕事は下火になったが、その代わりに「電子商取引」が登場した。この結果、アメリカからインドにアウトソーシングするという新たな協力体制が、爆発的にひろがった。つまり、ITバブルで敷設された光ファイバー・ケーブルがインドと世界をつなぎ、バブル崩壊でそれをほとんどただ同然で使えるようになるとともに、知識労働をインドにアウトソーシングするアメリカ企業が飛躍的に増えた。  

(5)
ITバブルはグローバリゼーションの一面にすぎず、それが破裂してしぼんだ時には、グローバリゼーションを失速させるどころか、ターボチャージ並みに加速させた。ビザをとってアメリカで働いていたインド人は、高度な工学の学位を身につけていた。彼らが、ITバブルの崩壊でレイオフされてインドに戻っている時期に、アメリカでは、IT関連業務のコスト削減が緊急の課題となってきた。そして、コスト削減の手段としてインドに戻ったインド人技術者を使うことを思いついた。インド人が素晴らしいのは、人件費が安いだけはでなく、ハングリーで、なんでも覚えようという気概があることだ。
(6)Y2Kの作業を通じて、インドのIT企業はアメリカ企業のビジネスプロセスに通暁するようになり、自前で各種のソフトウェア・サービスやコンサルティングを提案できるようになっていった。そして、アメリカ企業のビジネスプロセスのアウトソーシングを受け入れることによって、アメリカの会社とインドの会社の結びつきは益々深まっていった
(7)つまり、Y2Kは、IT技術を身につけていた(あるいは、これから身につけようとしている)インド人に大きな活躍の場を与えるきっかけを作ったのだ。

6.フラット化の要因6: オフショアリング: 中国のWTO加盟

(1)2001年12月11日、中国はWTO(世界貿易機関)に正式加盟した。中国のWTO加盟は、アウトソーシングとは別の形での共同作業、つまり、オフショアリングを強烈に加速することとなった。つまり、Y2Kがインドと世界にアウトソーシングの新段階をもたらしたのと同じように、中国のWTO加盟は中国政府と世界にオフショアリングの新段階をもたらした。中国では、人件費も税金もインフラに関するコストも低い。多数の企業が生産を中国に移し、それをグローバルなサプライチェーンに組み込むようになった。
 @アウトソーシングとは、社内業務の一部を切り取って他社に委託し、その結果を、社内の全体的な業務に組み込む。
 Aオフショアリングは、工場の作業全体をそっくりそのまま、外国に移転する。
(2)オフショアリングの過程がいったん始まると、他の企業も中国にオフショアリングしないと(低コスト・高品質のプラットフォームを利用しないと)太刀打ちできないようになった。中国には、人口100万人以上の都市が160ある。中国には様々な熟練の程度の低賃金労働者が大量にいると共に、膨大な消費市場も存在する。したがって、アメリカで労働集約型の生産をしているのなら、失血死する前にやめて、オフショアリングするべきなのだ。
(3)中国がオフショアリングとしての魅力を示せば示すほど、マレーシアやタイやベトナム、アイルランド、ブラジル、東欧諸国等々の他の発展途上国や先進国も魅力を示そうと努力せざるをえない。このままでは、工場がどんどん、中国に移転してしまうからだ。自国でもオフショアリングを引き受けれるようにするために、税金面や教育面での優遇、助成金など、安価な労働力以外のもを提供することによって、競争力がグローバルに平均化し、世界は益々、フラットになってゆく。
(4)中国は「底値をめぐる競争」だけで、世界の投資をひきつけているわけではない、ということに注意すべきだ。アメリカのNPO調査機関の研究によれば、1995年から2002年にかけて、中国での生産性は年間17パーセント向上し、この期間に中国の製造業部門で1,500万人が失業したそうである(アメリカで、この間に失業したのは200万人)。中国では、製造部門の労働人口が減り、サービス部門が増えている。発展途上国での典型的なパターンがここでも起きている。
(5)中国の指導者層は、西欧先進諸国よりも熱心に、数学・科学・コンピュータといった技術を若者に学ばせている。また、国内での通信インフラの整備にも余念がない。こうした努力により、現在の「中国で作る」という段階から、「中国で設計する」、そしてさらに、「中国で構想する」というところまで発展させようとしているのだ。政治的な不安定によってその過程が妨げられない限り、中国は、大きなフラット化要素であり続けるであろう。
(6)日本企業は、製造と中級の製品の組み立てラインを中国に移し、国内(オンショア)では「より付加価値の高い製品」を作る方向にシフトしなければならなくなった。つまり、日本と中国は「同じサプライチェーンに属するようになりつつある。2003年、中国はアメリカを超えて日本にとって最大の輸入相手国となった。それでも、日本政府は、「中国プラスワン」戦略を推奨している。中国が政治的混乱でフラットでなくなった場合に備えて、中国以外のアジアの国にも軸足をおくように、という戦略である。
(7)企業が海外工場に投資すればするほど母国の輸出が増え、ひいては、母国の雇用の確保にもつながる、ということが最近わかってきた。フラットな世界を利用して、市場に近いところで生産し販売することが可能になった。アメリカ市場に近いところでは給料の高いアメリカ人を使い、中国市場に近いところでは賃金の安い中国人労働者を使う、という具合に使い分ける共同作業によって、アメリカ企業の競争力が高まり事業の拡大を可能にする。アメリカ商務省によれば、アメリカ企業が所有する海外工場の製品の90%近くが海外の得意先に売られており、アメリカに輸入されるのは10%強にすぎないそうである。
(8)
中国の最大の課題は、「共産党による一党独裁」を乗り越える「政治改革」を混乱なしに成し遂げられるか否かである。アメリカやヨーロッパは(そして、日本も)、中国を精一杯活用でき、なおかつ最悪の事態にはショックを吸収できるような、新しいビジネスモデルを開発しなければならない。

7.フラット化の要因7: サプライチェーン: ウォルマートはなぜ強いのか

(1)ウォルマートは現在、世界最大の小売業者だが、製品は一つも製造していない
。“作っている”のは、超効率的なサプライチェーンだけだ。品物を作るのは簡単だが、サプライチェーンを作るのは非常に厄介であり、とくに、フラットな世界でグローバルなサプライチェーンを開発するには、次の二つの大きな難題がある。
 @グローバルな最適化を達成しなければならない。安いパーツが得られてもそれを地球の隅々まで、タイミングよく送り届けることの出来る配送システムも必要である。こうした要素すべてのバランスをとりつつ、最も信頼できて、かつ、最もコストの低いシステムを作り上げなければならない。
 Aサプライチェ−ンを、予測が困難な需要に対応できるように調整しなければならない。そのためには、在庫を「情報」に変えなければならない。
(2)急速に変動する需要に対応する戦略として「仕入れ引延ばし」という方法がある。最新の販売情報をPOS等でリアルタイムに把握し、発注や最終組み立て等の指令を、ぎりぎりまで引き延ばす。そのことによって、不良在庫の発生を防ぐ。
 たとえば、デルは客の注文を受けてからパソコンを組み立てる。したがって、完成品の在庫は1台も無い。基本的パーツをそろえ、客の要望に応じて付加価値をつけて、最終製品に仕上げてゆく。こういったことが短期間で出来るのも、迅速機敏なサプライチェーンがあるからである。
(3)ウォルマートは、コストを下げ続けるために、仕入先と販売情報を共有し、双方平等な立場で価値を生み出すべく努力する体制を作り上げた。POSから得られる販売・在庫データを仕入先にオープンしたことが、ウォルマートをいまのような大企業に成長させたのだという。競合他社は販売情報を秘密にしていたのに、ウォルマートは仕入先を対立相手とは見ずに、パートナーとして接近し、信頼をかちえていった。
(4)しかし
ウォルマートが生み出した「低価格の世界」は、消費者には福音であったが、労働者には過酷な世界であった。コスト削減の圧力を吸収するために、給与や手当ての引き下げを行った企業もあるし、あるいは、仕事を中国に取られた企業もある(2004年に、ウォルマートは、サプライチェーンを通じて中国メーカー5,000社から180億ドルを仕入れた)。
(5)ウォルマートは、サプライチェーンを改善するための「非情な効率の追求」だけではなく、そのサプライチェーンに関連して働く人々に対して「非情な時代」をもたらした。ウォルマートは大企業の中では給料も安いし、福利厚生もかなり落ちる。ウォルマートには、消費者に福音をもたらしながら、労働者にもその恩恵がもたらされる方法を考え出して欲しいものである。


8.フラット化の要因8: インソーシング: UPSの新しいビジネス

(1)
巨大運送会社UPSは単に荷物を配達しているだけではない。様々な規模の企業のグローバルなサプライチェーンを同期化しているのだ。たとえば、東芝のノートパソコンが故障したので、東芝に電話して修理を依頼したとする。すると、東芝はそのノートパソコンをUPSの支店に持ってゆくように指示をし、そうすると、そのノートパソコンは東芝に届けられてそこで修理され、送り返される、と説明される。しかし、実際はそうではない。ノートパソコンを受け取ったUPSは、自社の修理センターでそのノートパソコンを修理して、送り返しているのだ。
(2)貴方が、ナイキのホームページにアクセスしてオンラインでシューズを注文したとしよう。この注文は、じつはUPSを通じて処理される。UPSが管理する倉庫からUPSの社員が、そのシューズを取り出して検品し、、荷造りをし、そしてUPSが配達してくれる。こういった一連のプロセスは、「インソーシング」と呼ばれる新しい形の共同作業で、水平に価値を生み出す
(3)フラットな世界にとっては、サプライチェーンは重要であるが、どの企業にもウォルマートが作り上げたようなサプライチェーン網を築く経済力があるわけではない。そこで生まれたのが「インソーシング」である。グローバルにビジネスを展開している企業は、商品の販売・製造や原料の調達をもっと効率よく出来る場所がいくらでもあることに気がついた。しかし、それをどうやって利用すればよいかわからないし、複雑でグローバルなサプライチェーンを管理する資力もない。あるいは、そのような管理はやりたがらない場合も多い。そこに、UPSのような昔ながらの運送会社が、新たなビジネスチャンスを見つけたわけである。
(4)1996年、UPSは「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューションズ」という事業に乗り出した。それ以来、10億ドルをかけてグローバルなロジスティックス・貨物取り扱い業者25社を買収し、サプライチェーンの全てにサービスできるようにした。このビジネスが飛躍的に伸びたのは、2000年前後だった。UPSのエンジニアが相手企業の内部に入り込んで、製造・梱包・集配プロセスを分析し、再設計して、グローバルなサプライチェーン全体を管理する。工場、倉庫、消費者間の流れと、修理のための輸送まで、すべてをUPSが管理している。さらに必要とあれば、消費者からの集金も引き受ける。
(5)UPSは、ワークフローとネットスケープというフラット化要素も十二分に利用していた。1995年以前は、UPSの顧客向け追跡調査は、すべてコールセンターで処理されていた。しかし、1990年代後半になると、顧客がインターネットを使って追跡できるようにした。この結果、顧客からの問い合わせにかかるコストは、以前の1件当り2ドル10セントから、5〜10セントへと劇的に減少した。
(6)インソーシングは、第三者によるロジスティック管理なので、UPSの社員は顧客のインフラに深く入り込み、顧客と親密な共同作業を行わなければならない。これが、インソーシングとサプライチェーンとの大きな違いである。UPSは、インソーシングにより、誰もが自分のビジネスをグローバル化し、あるいはグローバルなサプライチェーンの効率を大幅に改善できるプラットフォームを創りあげた。そして、2003年だけでもインソーシングによってUPSの売り上げは24億ドル伸びた。

9.フラット化の要因9: インフォーミング: 知りたいことはグーグルに聞け

(1)1998年、検索エンジンを提供するグーグルという小さなベンチャー企業が設立された
。この検索エンジンのテクノロジーは素晴らしく、ヤフーやAOLといった大手ポータル・サイトに採用されることとなり、大きく躍進した。2004年夏には、グーグルの株式は新規公開された。その時点ですでに、約500億円の資産を有し、年間売上1,500億円をあげる企業に成長していた。そして、2006年1月には株式時価総額が15兆6千億円に達し、米ハイテク業界ではインテルを抜いて、マイクロソフトに次ぐ第2位に浮上した。
(2)グーグルは、フラットな世界に「検索」という共同作業をもたらした。これを、「インフォーミング」と呼ぶことにする。「インフォーミング」は、今迄述べてきた、アップローディング、アウトソーシング、インソーシング、サプライチェーン、オフショアリングの個人版といえる。「インフォーミング」により、個人は自分用のサプライチェーンを創りあげて展開する能力を持てるようになった。
(3)2004年後半、グーグルはミシガン大学とスタンフォード大学の図書館のコンテンツをすべてスキャンするという計画を発表した。iPod を使えば、みずから音楽エディターになって、好きな歌だけを取り込む事が出来る。TiVo があれば自分がテレビ・エディターになれる。もはや、図書館や映画館へ行ったり、全国ネットのテレビを見る必要はない。「インフォーミング」によって、知識を探索し、それを編集・選択し、自分用の「サプライチェーン」を設立できるのだ。いずれ、ありとあらゆる機器でいつでも世界の物事をすべて見つけ出す力を、個人が持つようになるであろう。
(4)インフォーミングは、友人、仲間、共同作業者を探すことである。国や文化の境界を越えたグローバルなコミュニティの形成を促進する。どんな話題、プロジェクト、テーマでも、ともに作業を行う人間を探すことができる。これには、とりわけヤフーグループのようなポータルサイトが役に立つ。人々が時間や地理に関係なくインターネット上でプライベートに、あるいはパブリックに集まれるような、フォーラム、プラットフォーム,一連のツールを、ヤフーは提供している。消費者はいつでも、自分達にとって重要な話題をめぐって集合できる。オフラインで前から存在していたコミュニティ(地元の少年サッカー・リーグ、同窓会等々)もオンラインに移って、7双方向の環境で栄える。
(5)個人がこうした力を持ったことは、実は「両刃の剣」である。それは、これまでは突き止めることが不可能か難しかった一般市民の情報を、他人が簡単に掘り起こすことが可能になったのである。グーグルは、その人が何を検索しているかを把握している。TiVo は、その人がどのテレビ番組やコマーシャルを一時停止したり保存したり巻き戻したりしているかを把握している。さらに、我々は、オンラインサービスを受ける際に、「会員情報」として、住所・氏名・性別・生年月日・職業等の個人情報を「登録」している。こういった
個人情報が、「悪意」を持った第三者に利用されることはない、と果たして保証できるのであろうか?。フラットな世界では、誰もがこうした「恐怖」から逃れることは出来ないのだ。

10.フラット化の要因10: ステロイド: 新テクノロジーがさらに加速する

(1)10番目のフラット化の要因
として、今迄述べてきた共同作業のすべて(アウトソーシング、オフショアリング、アップローディング、サプライチェーン、インソーシング、インフォーミング)の形をとり、その全てを「デジタル、モバイル、バーチャル、パーソナル」なやり方で行うことを可能にしたテクノロジーをあげる。それを、「ステロイド」と名づけることとする。
(2)1番目の「ステロイド」はコンピュータである。コンピュータの進歩については、いまさら述べるまでもないであろう。
(3)2番目の「ステロイド」は、ピアツーピア・ネットワークを可能にした、インスタントメッセージとファイル共有テクノロジーの飛躍的進歩である。ピアツーピア・ネットワークを一般化したのはナップスターである。ナップスターの登場により、それぞれのコンピュータに保存された曲を互いに聞けるようになった。1年と経たない間にビジターが6千万人を超える人気サイトとなったが、違法コピーであるとして訴訟を起こされ、一時サイトを閉鎖た。2003年には、合法的なダウンロードサイトとして運営を再開したが、いまは、オリジナルのナップスターは死んでしまった。しかし、ファイル共有テクノロジーは残り、日々高度なものになって、共同作業を大幅に強化している。
(43番目の「ステロイド」は、IP電話の普及に関連がある。VoIPという「ステロイド」によって、音声をインターネットで送受信できるようになった。VoIPは、電気通信産業に革命を起こした。音声の送受信はいずれ無料になるであろう。電話会社が競争し、課金できるのは、追加機能だけになるであろう。先駆的なVoIP企業スカイプがそのことを証明している。
 注:スカイプについては、たとえば、右参照: 
スカイプとは 

(5)
4番目の「ステロイド」は、テレビ会議であり、これは今後まったく新しい段階に到達するであろう。遠く離れた相手とまるで、同じ会議室で話しているかのように会議を進めることが出来る。そのようなシステムが今は実現しているのだ。
 注:テレビ会議については、、たとえば、右参照: ここまで進んだテレビ会議システム 

(6)
5番目の「ステロイド」は、最近のCG(コンピュータ・グラフィックス)の進歩と関連がある。テレビゲームの進歩から、第三世代ユーザーインターフェースとも言うべき新しい方式が生まれつつある。人間とアプリケーションが、今までとはまったく違った形でやり取りできるようになるであろう。
(7)6番目の最も重要と思われる「ステロイド」は、最新ワイヤレステクノロジーと機器類である。これからは、ワイヤレスが通信の自然な状態となる。今までは、人はオフィスで働いていた。しかし、これからは、どこへ行こうが、今いる場所がオフィスになる。日本ではワイヤレスがものすごく浸透し、どこにいても携帯電話が使えるし、携帯電話からインタ0ネットに接続できる。現時点では、ワイヤレス・テクノロジーが提供するものが、完全に相互利用できる段階には至っていない。しかし、間もなく、「私をモバイルにして」革命により、人々はどこからでも、どこへでも、何を使っても、仕事や連絡ができるようになり、世の中は完全にフラット化するであろう。

まとめ


 以上、上巻のほぼ3分の2の内容を紹介してきた。
 ITの進歩は、まさに、とどまるところを知らず、といった勢いで進んでおり、それによって、グローバル化も推し進められ、世界は著者の指摘するように、どんどんフラットになってゆく。この趨勢は、もはや押し戻すことはもちろん、止めることも出来ないであろう。その行き先に何があるのか、そして、我々の生活はどうなるのか、「フラット化する世界」について、その紹介を今後とも続けてゆきたい。

今回の続編: 55.フラット化する世界(2)  57.フラット化する世界(3)  58.フラット化する世界(4)

格差に関するコラムは以下の通り。

33.データから見る格差 34.新しい階級社会の誕生 35.様々な格差
36.老人格差 44.ワーキング・プア 53.所得格差と国際比較
59.教育格差と格差の世襲 60.教育格差の現状 61.教育格差と国際比較
62.教育格差と大学格差(1) 63.教育格差と大学格差(2)
64.団塊の世代と団塊格差  65.団塊ジュニアとその格差 
66.団塊ジュニアの結婚格差と少子化問題
79.所得格差と格差拡大税制

格差問題の背景としてのグローバル化と日本型雇用の崩壊に関するコラムは以下の通り。

46.経済のグローバル化 47.正社員システムの崩壊  48.年功序列賃金の崩壊?
49.労働組合の衰退 50.多様化する雇用形態 52.いじめられるサラリーマン
54.フラット化する世界(1) 55.フラット化する世界(2) 57.フラット化する世界(3)
58.フラット化する世界(4) 22.雇用状況の変遷

戦後60年の歩みに関わるコラムは以下の通りです。

 18.年表で見る「戦後経済史」    19.貿易相手の変遷  21.経常収支の変遷 



参考文献:
 1. 「フラット化する世界(上)(下)」、トーマス・フリードマン、日本経済新聞社
 2. 「文系のための「Web 2.0」入門」、小川 浩、青春出版社
 3. 「グーグル Google」、佐々木 俊尚、文春新書
 4. 「Web 2.0 でビジネスが変わる」、神田 敏晶、ソフトバンク新書 
 5. 「週間東洋経済 2006年12月9日号」 



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