51.増え続ける中高年フリーター (2007年1月26日記載)

 「45.フリーターは減るのか?」において、厚生労働省の定義による「フリーター」と「若年無業者(ニート)」の合計で考えた場合、15歳から24歳までの年齢層では減少しているものの、25歳から34歳までの年齢層では、高止まりしていることが示された。一方、内閣府の定義による「フリーター」の分析を進めると、35歳以上の「中高年フリーター」が、着実に増加していることがわかった。今回は、増え続けている「中高年フリーター」の問題を取り上げる。
 注1 厚生労働省の定義 「フリーター」とは、学生・主婦を除く15歳から34歳人口のうち、パート・アルバイト等、あるいは無業者で仕事を希望する者のこと。また、「若年無業者(ニート)」とは、非労働力人口のうち、15歳から34歳で通学や家事を行っていない者のこと。
 注2 内閣府の定義 「フリーター」には、厚生労働省の定義によるフリーター加えて、15歳から34歳までの派遣社員・契約社員等の非正規雇用者も含める。また、「ニート」とは、未婚で通学も家事もしていない者。


T.中高年非正規雇用者について

 まず最初に、総務省が5年に1回行っている総務省の「就業構造基本調査」に基づいて、35歳以上の中高年の非正規雇用者の状況を分析する。

1.中高年非正規雇用者数の推移(図1) 

 35歳から59歳までの男女別の非正規雇用者数の推移を右の図1に示す(男性は左の目盛、女性は右の目盛)。この数字は、「パート」「アルバイト」「派遣社員」「契約社員・嘱託」「その他」に分類されている人数の合計である
 @非正規雇用は女性が圧倒的に多い。
 A男性は、1997年に一旦は減少したが、2002年には、116万4千百人となり、前回調査時(1997年)の68万8千人に比べて1.7倍に急増した。
 B内閣府のフリーターの定義によれば、女性は、未婚者に限定しているが、男性は、未婚・既婚を問わず、非正規雇用社員は、フリーターと分類される。
 Cしたがって、653万人という女性非正規雇用者の大部分は既婚者であろうから、「フリーター」がどれくらい含まれるかは不明である。
 Dしかし、男性非正規雇用者の116万4千人のほとんどは、「フリーター」の定義に合致すると思われるので、
男性の中高年フリーターは、100万人以上いる、と言えるであろう。







2.男性非正規雇用者の雇用形態別の分布状況(図2) 

  2002年における、15歳から34歳までの「男性非正規雇用者」(右の図2の「若者計」)の雇用形態と、35歳から59歳までの「男性非正規雇用者」(右の図2の「中高年計」)の雇用形態の分布を右の棒グラフで示す(目盛は左側)。
 また、男性中高年の年齢階層別の雇用形態の分布を右の図2の折れ線グラフで示す(目盛は右側)。

(1)若者計と中高年計の比較 

 @若者(15歳から34歳まで)は、「アルバイト」が148万人と圧倒的に多く、次の「契約社員」31万人の4.8倍である。
 A中高年(35歳から59歳まで)のトップは、「契約社員」(40万人)で、次は「アルバイト」(31万人)である。

(2)中高年の年齢階層別分布 

 @「契約社員」では、「55歳から59歳まで」の年齢層がトップ(13万人)で、次は「50歳から54歳まで」の年齢層(9万人)である。
 A「アルバイト」では、この順位が逆転している。(「50歳から54歳まで」が6万8千人、「55歳から59歳まで」が6万5千人)。








3.男性中高年の年齢階層別非正規雇用者の分布(図3) 

 2002年における、男性中高年の年齢階層別非正規雇用者数の分布を右の図3に示す。
 @「40歳から44歳まで」の年齢層で、一旦、減少しているが、それ以上の年齢層では、順次増加している。

 Aとくに、「50歳から54歳まで」の層が、急激に増えている。(「45歳から49歳まで」の層から、4割近く増えている)。
 B「50歳から59歳まで」を合わせると、58万8千人となり、男性中高年の非正規雇用者の半分を占めている。
 C100万人以上いるとみられる中高年フリーターの半数は、50代である。
 D@とCの結果を合わせると、
高齢化すると共に、フリーターが増えていく、ということであり、これは、高齢化社会の将来に暗い影を落としている。

U.中高年フリーターの今後について

 次に、内閣府の「国民生活白書」のデータに基づき、中高年フリーターの将来予測をしてみよう。

1.高齢化するフリーター(図4) 

 年齢階級別の「フリーター」数の推移を右の図4に示す。
 @調査を重ねる毎に、フリーターの数が、すべての年齢層で、着実に増えている。
 A1998年まで、「20〜24歳」だった分布の山が、2001年には、「25〜29歳」にシフトしている。
 B年齢的に「フリーター」の定義から外れる「35〜39歳」の「後期フリーター」も着実に増えている(1989年と1992年には、26万人と横ばいであったが、1995年以降は増えており、2001年には、46万人となった(1.8倍に増えている)。
 Cつまり、フリーターの数が増えているだけではなく、高齢化している、と言える。

2.困難さを増すフリーターからの脱出

 何らかの理由で、非正規雇用者(フリーター)となった場合、そこから脱出するのは、実は、それほど容易ではない。
 その理由は、以下で説明する(1)と(2)の状況があるからである。

(1)狭まる正社員への道

 左右の二つの図を見ていただきたい。
 @左の図は、大学の新卒者が、正社員として採用される割合が、着実に減少している事を示している。2002年では、新卒者の3分の1が、正社員になっていないのである。 
 A右の図は、何らかの理由で、離職した後で、正規雇用者として再雇用される割合がかなり低いばかりでなく、その割合が年々低下していることを示している。ただし、2005年には、若干の改善が見られるので、今後は多少は良くなるかもしれないが、割合そのものは、「正規→正規」でも40%未満である。
 Bこのように、社会人となるスタート時点で、正規雇用者になる道が狭くなりつつあり、さらに、一旦、非正規雇用となると、その後は、なかなか正規雇用者になれないのである。

(2)年齢階級別有効求人倍率の推移(図5) 

 右の図5に、東京労働局が発表している年齢階級別有効求人倍率の全国平均の推移を示す。なお、右の図5は、毎年1月のデータをプロットしたものである。
 @有効求人倍率は、年々改善されているが、「年齢計」で見た場合、1.0を上回ったのは、2005年12月からである。
 A年齢階級別にみても、倍率が1.0を上回っているのは、2005年以降の「〜24歳」と「35〜44歳」だけである。
 B「25〜34歳」では、2006年になって、ようやく1.0になった。
 C45歳以上では、有効求人倍率は1.0を切ったままであり、年齢を重ねるほど、倍率は低い。

 Dこのように、有効求人倍率からみると、中高年が、職に就けるチャンスは厳しい、
と言わざるをえない。







3.フリーターの滞留率(図6)
 

 現在のフリーターが5年後もフリーターのままでいる割合(「フリーター滞留率」と呼ぶ
ことにする)を、年齢階級別に示したのが図6である。このグラフは、UFJ総合研究所の推計結果から作成したものである。
 注:図の見方:「30〜34」の「女」の「滞留率」が70%、ということは、5年後の「35〜39」になっても、70%はフリーターのままである、ということである。
 @20代のフリーターの半分以上は、5年後にもフリーターのままである。
 A30代前半の場合は、7割以上が5年後にもフリーターのままである。
 B35歳以上の「男性中高年フリーター」の場合には、8割以上が、5年後もフリーターのままでる。
 Cさらに、年齢を重ねるほど、滞留率が高まり、45歳を超えた「男性中高年フリーター」は、もはや、フリーターの立場から脱却出来ない
 D女性の滞留率が男性よりも低いのは、結婚によって、フリーターから脱却できる可能性が加わるからである。

V.中高年フリーター人口の長期予測

 上記で述べてきた内容をベースに、今後の中高年人口の予測をしてみよう。

1.中高年フリーター人口長期予測(その1) 

 図4の「年齢階級別のフリーター数」と、図6の「年齢階級別フリーター滞留数」をベースに、35歳から59歳までの「中高年フリーター」の人口の将来予測を行った。なお、この内容は、UFJ総合研究所の調査レポート05/02(2005年4月4日)「増加する中高年フリーター」に基づくものである。

(1)前提条件 

 予測の前提条件として以下をおく。
  @予測開始の2001年度において、40歳以上の中高年フリーターはゼロである。
  A予測期間中に35歳以上になって、新たにフリーターとなった者の数は含めない。
  B15〜34歳の若年フリーターについては、以下の3つのシナリオで考える。
   (@)基本シナリオ: 2001年の417万人から横ばいとなる。
   (A)楽観シナリオ: 2001年の417万人から毎年5%ずつ減少する。
   (B)悲観シナリオ: 2001年の417万人から毎年5%ずつ増加する。

(2)予測結果(図7) 

 上の前提で計算した結果を右の図7に示す。
 @基本シナリオ: 2011年には、132万人、2021年には、205万人と予測される。
 A楽観シナリオ: このケースでも、2011年以降は、100万人を上回って上昇を続ける。
 B悲観シナリオ: 2016年には200万人を、2021年には300万人を突破する。

2.中高年フリーター人口長期予測(その2) 

 第T項の1.で述べたように、2002年には既に、男性の中高年フリーターが100万人を超えている。
 また、35歳以上で、リストラや倒産により、新たにフリーターに転落(?)する人もいる。こうした事実を反映すれば、中高年フリーターの予測数は、図7の数字に、少なくとも100万人を足さなくてはならない、と言える。つまり、
 @基本シナリオ: 2006年で、200万人超、2021年には300万人超、と予測される。
 A楽観シナリオ: 2011年には200万人を超え、その後もじりじりと増え続ける、と予測される。
 B悲観シナリオ: 2016年で、300万人、2021年では400万人を超えると予想される。

 結局のところ、
中高年フリーターの数は、2011年には、200万人を超え、2021年には、300万人に達しているであろう、と予測されるのである。

W.中高年フリーターが日本経済に及ぼす影響

 既に、「16.フリーターと日本経済」において、フリーターが日本経済に及ぼす影響について分析したが、ここで、再度、中高年フリーターに関して分析を加える。

1.正社員とフリーターの年収と生涯賃金 

 平成16年(2005年)版の厚生労働省「賃金構造基本調査報告」に基づいて、正社員(常用労働者)とフリーター(パートタイム労働者)の平均年収と生涯所得を計算する。
 注:「基本調査報告」での常用労働者を「正社員」に、パートタイム労働者を「フリーター」に置き換えている。

(1)正社員とフリーターの年収カーブ(図表10) 

 右の図表10に示すように、
 @男性正社員は40代後半にかけて700万円弱まで順調に増えていく。
 Aそれに対して、男性のフリーターは30代で頭打ち傾向となり、200万円を超えることはない。
 B女性では、正社員が30代後半にかけて400万円近くまで増えていくのに対して、フリーターは、30代になるとほとんど賃金が上がらなくなって、120万円前後で頭打ちとなる。
 Cここでのフリーターは、パートタイム労働者だけであるので、派遣労働者や契約社員等を含めれば、平均年収はもっと上がる、と考えられる。
 Dしかし、それでも、フリーターの平均年収は、正社員の半分にも満たないであろうと考えられる。









(2)正社員とフリーターの生涯賃金カーブ(図表11) 

 右の図表11に示すように、標準労働者(正社員)の期待生涯賃金(2003年価格)は、
 @男性で、約2億3,500万円
 A女性で、約1億8,600万円である。
(注:標準労働者とは、高校卒業後すぐに正社員として就職し、60歳まで同じ会社に引き続き勤務する人のこと)。
 これに対し、高校卒業後、正社員として就職せず60歳までパート・アルバイトを続ける人(フリーター)の期待生涯賃金(2003年価格)は、
 B男性で、約6,500万円(これは男性正社員の28%にすぎない)、
 C女性で、約5,000万円(これは女性正社員の27%)である。

 つまり、生涯、フリーターであり続けた場合、その人の生涯賃金は、正社員として働いてきた人の3割以下なのである。もちろん、生涯、フリーター、という人は少ないであろうが、一旦、フリーターになると、今までの分析が示すように、なかなか、そこから脱出出来ない。その結果、正社員で働き続けた場合と比べて、半分以下の年収になってしまい、生涯では、さらに大きな差がついてしまううのである。





2.男性中高年フリーターと正社員の比較

表1 男性中高年フリーターと正社員の比較(単位:万円/年)
年齢階級 平均年収 公的負担額 可処分所得
正社員 フリーター 正社員 フリーター 正社員 フリーター
35〜39 576.9 159.2 118.2 25.3 458.6 134.0
40〜44 637.3 158.1 134.5 25.1 502.8 133.0
45〜49 671.0 165.9 143.9 26.1 527.1 139.8
50〜54 665.5 178.3 142.3 27.2 523.3 151.1
55〜59 634.4 180.0 133.7 27.4 500.7 152.7
中高年計 15,925.5 4,207.5 3,363.0 655.5 12,562.5 3,553.0

 35歳から59歳までの男性について、平均年収、公的負担額、可処分所得を、年齢階級別に右の表1にまとめて示す。

(1)平均年収と稼得賃金 上の図表10からもわかるように、35歳から59歳までは、男性正社員にとって、もっとも年収が多い時期である。ところが、フリーターの場合には、それほど、年収が増えるわけではない。
 そのため、この期間に稼ぐ賃金は、正社員が約1億6千万円なのに、フリーターは、わずか、約4,200万円で、正社員の4分の1である。

(2)公的負担額 個人が支払う所得税、住民税、社会保険料(年金と健康保険)の合計を公的負担額として、正社員とフリーターで比較すると、35歳から59歳までの合計で、表1で示すように約5倍の開きがある。その差額は、25年間で一人当たり約2,700万円であり、100万人の男性中高年フリーターが正社員でないために生じる公的負担額の減少は、25年間で27兆円であり、1年間で1兆円を超える
 したがって、男性中高年フリーターが、200万人いれば、1年間で2兆円以上の公的負担額の減少となるわけであり、国や地方の財政に大きなマイナスの影響を及ぼす。

(3)可処分所得 正社員とフリーターの賃金格差は、実際に自由に使えるお金である可処分所得(所得金額から、公的負担額と雇用保険料を差し引いた残り)の差となって、消費や貯蓄の格差をもたらす。40代から50代でみると、男性正社員の可処分所得は500万円を超える。一方、男性フリーターの可処分所得は150万円そこそこであり、正社員の3分の1にも満たない。これを、25年間でみると、正社員とフリーターの差額は約9千万円となり、100万人の男性中高年フリーターが正社員でないために生ずる可処分所得の減少は、25年間で90兆円、1年間で3兆6千万円にものぼる
 したがって、男性中高年フリーターが、200万人いれば、1年間で7兆円以上の可処分所得の減少となるわけであり、消費や貯蓄を抑制し、経済成長率を下押しする可能性がある。
 @消費の減少が及ぼす影響 200万人の男性中高年フリーターが、正社員として働けるならば可能な消費を諦めざるをえないことによって、2021年の名目GDPは、1.2%下押しされる、と試算されている。
 A貯蓄の減少 右の図表17は、平均的なライフサイクルから貯蓄(金融資産)がどのように形成されるかを示している。30歳代から資産形成が進み、50歳代後半から60歳代にかけて、退職金の支給等により貯蓄が積み上がってゆく。 ところが、中高年フリーターの場合は、その重要な時期に貯蓄をする余裕が無いために老後に必要な生活資金のたくわえが出来ない






 B貯蓄ゼロの世帯の増加 右の図表18は、世帯主年齢別に貯蓄無し、と答えた世帯の割合の推移を示したものである。どの年代でも、2004年には、貯蓄無しの世帯割合が急増しているのがわかる。本来であれば、1千万円前後の貯蓄が積み上がる30歳代、40歳代になっても貯蓄がまったくないグループが形成されつつある。これに、中高年フリーターの増加、という結果が加われば、将来、貯蓄のまったくない高齢者が大量に出てくることが示唆される。
 C生活保護世帯の急増? 生活保護世帯は、2004年に100万世帯を突破して以来、増え続けている。中高年フリーターの場合、高齢者になっても、もらえる国民年金は月額で6万6千円(単身)に過ぎない。また、保険料が未納のために、年金をもらえない高齢者が多数出てくる事も予想される。このため、生活保護を受給しなければ暮らしてゆけない高齢者が急増する恐れがある。
 D生活保護費の急増? 2005年度の生活保護費は、国と地方を合わせて2兆5千億円を超える見通しである。中高年フリーターが増加し、生活保護を受給せざるをえない高齢者が増えてゆけば、国や地方の生活保護費負担は膨れ上がり、財政運営に大きなマイナスの影響を与える恐れがある。

W.最後に

 フリーターは、最初は若者の問題として取り上げられた。しかし、平成不況が長引いて、その後、「雇用増無き」景気回復が続くとともに、フリーターは高齢化していき、いまでは、「中高年フリーター」の存在が新たな社会問題となりつつある。「中高年フリーター」は、税金や社会保険料等の負担が出来ず、さらに、高齢者になってからは、生活保護を受けないと暮らしてゆけないグループとなる可能性がある。そのため、国家財政にとっても、由々しき問題である。
 また、今回は分析出来なかったが、「男性中高年フリーター」の増加は、「非婚化」の増加を招く可能性が高く、少子化がさらに進むことが心配される。
 今後、若者のフリータ−のみならず、「中高年フリーター」の問題についても、分析してゆきたい。

参考文献: 1.「雇用破壊 非正社員という生き方」、鹿嶋敬、岩波書店
        2.社会実情データ図録: URLは、
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/index.html
       
3.「大予測」、日本の未来研究会、講談社
        4.「週間 東洋経済 2007年1月13日号」
        5.「週間 SPA! 2007年1月23日号」
        6.UFJ総合研究所の調査レポート05/02(2005年4月4日)「増加する中高年フリーター


フリーター関連のコラムは、以下の通りです。

 
10.フリーターとニート    13.フリーター問題を考える  14.欧米のフリーター事情  

 
16.フリーターと日本経済   45.フリーターは減るのか? 

フリーター問題の背景にある日本型雇用の崩壊を以下のコラムで分析しました。

 46.日本型雇用の崩壊(1):経済のグローバル化  47.(2):正社員システムの崩壊 

 48.(3):年功序列賃金の崩壊? 
 49.(4):労働組合の衰退 

 50.(5):多様化する雇用形態   52.いじめられるサラリーマン   



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