35.格差社会(3)様々な格差 (2006年10月6日記載)

 今回は、現在、表れている格差を、様々な角度から分析してみたい。
 第T項では、最近発売された週刊東洋経済の記事から、勤めている企業による「生涯給料の格差」と、去年の週刊ダイアモンドの記事から、企業による「平均年収の格差」とを取り上げる。
 第U・V・W項では、「新平等社会」(山田昌弘、文藝春秋)の記述に基づき、「結婚格差」・「家族格差」・「教育格差」の問題を分析する。

T.業種間・企業間の給料格差

1.生涯給料の格差

 週刊東洋経済の2006年10月7日特大号に業種別1000社の生涯給料ランキングが載っていた。これは、厚生労働省の「平成17年賃金構造基本統計調査」を基に、業種ごとに賃金関数を推計し、1歳ごとの年収カーブを算出。そして、そのうちの22歳から59歳までのモデル賃金の合計を生涯給料としたものだそうである。それをグラフ化したものを下の表1に示す。
(1)業種別平均:。 緑の棒グラフは業種別平均である。放送業(対象企業数11社)が、4億4千3百万円弱と、2位の石油・石炭製品(対象企業数13社)の2億9千百万円強を大きく引き離し、ダントツのトップである。
 34業種の最下位は、1億7千4百万円強の水産・農林業(対象企業数11社)であるが、この金額はトップの39.4%であり、金額の差は、2億6千8百万円もある。
(2)業種別トップ 赤の棒グラフは、各業種別で生涯給料がトップである企業の生涯給料額を示す。個別企業では、電気機器(企業数306社、業種別では16位)に属する「キーエンス社」の6億1千5百万円強がトップである。最下位は、パルプ・紙(企業数28社、業種別では23位)に属する「王子製紙」の2億5千3百万円弱である。これは、トップの41.1%であるが、金額の差は3億6千2百万円強にものぼる。
(3)平均とトップの比率: 青の折れ線グラフは、業種別平均値とトップとの比率である。もっとも比率が大きいのは前出の電気機器の2.82であり、もっとも比率が小さいのは電気・ガス業(企業数25社、業種別では6位)の1.15である。

2.企業別平均年収の格差

 週刊ダイアモンドの2005年11月5日特大号に、上場企業の有価証券報告書に記載されている平均年収に基づいて、企業別の平均年収ランキングが載っていた。その中のベスト20社と、ワースト20社をグラフ化したものを表2に示す。
(1)ベスト20社 緑の棒グラフは、ベスト20社の平均年収である。トップは、フジテレビジョンの1,567万円、2位は、朝日放送の1,526万円である。20位も放送業界のテレビ東京であり、1,135万円である。
(2)ワースト20社 オレンジ色の棒グラフは、ワースト20社の平均年収である。ワースト・ワンは、小売業のカルラ社の210万円である。ワースト2位は、サービス業のカラカミ観光で249万円、ワースト20位は、小売業の江戸沢で299万円である。なお、21位の会社の平均年収は301万円と、300万円を超えている。
(3)比率 青の折れ線グラフは、ベストとワーストをランク別に比較した値である。トップと最下位を比べると、7.46倍である。つまり、上場企業の有価証券報告書によれば、平均年収で、最大7.46倍の開きがある、ということである。
 生涯給料では、最下位の金額ははわからなかったが、この平均年収の調査で、従業員の平均年収で300万円にも満たない会社が、20社あることを考えると、22歳から59歳までの生涯給料が1億円そこそこの企業があることも充分予想される。

3.企業間の格差

 上記の分析でわかることは、比較的恵まれている正規雇用社員の間でも、その平均値を見る限り、勤務している企業によって、大きな収入格差がある、ということである。大雑把に言えば、年収で約7倍、生涯給料で約6倍の開きがある。企業によって、これだけの開きがある、ということは、果たして妥当なのであろうか?

U.結婚格差

 「新平等社会」(山田昌弘、文藝春秋)では、「1975年以降日本では未婚化(初婚年齢が高くなり未婚率が高まる)が生じ」ているが、その根本的理由として、以下の3点を挙げている。
 @ 女性は、結婚後、男性(夫)に家計を支える責任を求めるという傾向が強い。
 A 若い男性の収入はオイルショック(1973年)以来相対的に低下、そして、近年(1995年以降)は不安定化している。
 B 結婚生活に期待する生活水準は、戦後一貫して上昇している。
つまり、
 1.結婚に当たって、女性は経済的責任を男性に求める。
 2.しかし、女性を満足させる経済力をもつ未婚男性の数は1975年以降徐々に減っていく。
 3.一方、期待する生活水準は上昇する。
 4.その結果、男性に高い経済力を期待する女性、及び経済力が低い男性に未婚者が増えていき、未婚化が進む。
ということである。
 ところが、この結論は、自治体や新聞社に発表できなかったそうである。「収入の低い男性は、女性から選ばれにくい」と、受け取られかねない内容が、いけないそうである。
 しかし、右の図表7−3に示すように、データは、「収入の低い男性は、女性から選ばれにくい」という事実を示している。
 図表7−3は、2003年に青森県と東京都で若者(25〜34歳)を対象に、未婚女性の結婚相手に対する収入期待と、未婚男性の収入とのギャップがどれだけあるかを掴むために行った調査をまとめたものである。
(1)収入にこだわらない 青森・東京とも、「結婚相手の収入にこだわらない」という女性は3割前後いる。この数字は、「家計を支える責任は夫にある」という質問に反対する割合とほぼ符合する。
(2)青森県の場合 過半数(50.2%)の未婚女性は、年収400万円以上の男性と結婚したがっている。これに対し、未婚男性の97.4%は、年収400万円以下である。これでは、未婚率が高まるのもやむをえないであろう。
 もっとも、既婚男性でみても、年収400万円以上の男性は19.9%と既婚男性全体の5分の1以下であるから、未婚女性の希望が高すぎる、とも言える。
(3)東京都の場合: 65%の未婚女性が、年収400万円以上の男性と結婚したがっている。さらに、生活費が高いためか、600万円以上の年収を希望している未婚女性が38.6%もいる。一方、年収が400万円以上の未婚男性は、全体の23.5%であり、年収が600万円以上となると3.5%しかいない。青森県ほどではないにしても、希望年収と実際の額とのギャップは極めて大きい。 東京の場合、既婚男性の59.6%は年収が400万円以上であり、青森県と比べると、相当な格差があることがわかる。
(4)未婚率低下の対策 今、一番の問題ともいえる「少子化」対策の一つが、未婚の男女にまず結婚してもらうことである。つまり、未婚率を低下させればよいわけであるが、そのための対策はあるのであろうか?
 右上の図表7−3を見る限り、未婚男性の年収が増えないことにはうまくいきそうもないようである。しかし、最初に述べた三つの根本的理由の傾向を逆転させれば、ある程度は可能であろう。とくに、@の「女性が男性に家計を支える責任を求める」という意識を変えることが出来れば(つまり、夫婦二人の収入で家計を支えていくという意識になる)、可能性はある。実際、少子化対策に成功した先進国では、育児期の女性も働いて夫婦二人の稼ぎで豊かな生活を支える、というパターンが定着している。 。
 
V.家族格差

 日本の人口は、いよいよ減少段階に入った。少子化、高齢化がすすんでいるためである。人口減少とともに、大きく変わったのは家族構成である。高齢者二人だけの世帯から、高齢者の単身世帯へ、そして、未婚の若者が親元を離れて単身世帯へと、いまや、家族のあり方も様変わりしつつある。
 「新平等社会」(山田昌弘、文藝春秋)の記述をベースに家族格差を考えてみたい。
 左の図表8−1に、生涯未婚率の予測統計と、世帯数の推移の予測を示す。今のままでは、未婚率は上昇を続け、2035年には、女性の5人に1人が生涯未婚であり、男性はそれを上回るであろうと予測されている。
 図表8−1に示すように、単身世帯数が増えるとともに、世帯総数も増大する。しかし、2025年頃には、世帯総数も減少に向かう。このことは、家族にも大きな格差を生むこととなる。以下、家族格差について分析する。

1.今までの家族像
 
 戦後から1990年頃までの日本では、大きく言って以下二つの家族のタイプを考えればよかった。

(1)農家に代表される自営業家族 この家族では、定年に無関係に働き続けることができ、高齢となった場合には、家業を息子夫婦に譲る代わりに、扶養してもらうことが出来た。従って、年金も「小遣い」程度でよいわけであり、国民年金はこのことを前提として設計された。。。
(2)「サラリーマン+専業主婦」型の家族: この家族の場合、サラリーマンの男性は定年まで雇用が保証され、給料を運用することにより、住宅などの資産を形成することが出来る、という想定がなされた。そして、夫の退職後は、子供は独立しているので扶養してもらうわけにはいかず、老夫婦二人で独立した家計を維持しなければならない。このため、国民年金よりは手厚い厚生年金が用意されている、というわけである。
 しかし、バブル崩壊とともに、この二つの家族像は、もはや標準的なモデルにはならなくなった。
 商店街は寂れて「シャッター通り」となってしまった。
 そして、リストラによって、サラリーマンの地位も不安定となり、非正規雇用社員が増大してきたからである。

2.今後の家族格差

 上記のことは、家業として行われていた自営業存続の保証や、サラリーマン男性が一生にわたって安定して収入を稼ぐ保証が無くなってきつつある、ということを示している。その結果として、今後、以下の三つの問題が生じる心配がある。

(1)高齢者の格差拡大 以前は、無年金者や低額の国民年金受給者であっても、子供夫婦に扶養されているケースが多かったので、所得格差があっても、あまり大きな問題とはならなかった。しかし、零細自営業は後継者が不在で、高齢者はそのまま取り残されるようになってきた。
 また、「サラリーマン+専業主婦」型家族でも、二極化して行く。今後、リストラなどで、正社員として長期間勤められなかった男性が増えていくであろう。そうすると、厚生年金の受給資格がなく、自力で資産を形成できなかった高齢者が増えることとなる。
 こうして、自立できない高齢者が増大する可能性が高い。
(2)子育て世代の二極化 従来は、子育て世帯と言えば30代夫婦を指したものである。20代後半で結婚し、30代前後で二人の子供を産んで育てる。しかし、近年では、以下の三つの点でこのパターンが揺らいでいる。
 @結婚・出産年齢の二極化 晩婚化により30歳以上で初産という夫婦が増える一方で、「できちゃった婚」等により10代後半や20歳そこそこで出産・」結婚する若者が増えてきている。
 同じ子育て中でも、「出来ちゃった婚」等による経済基盤の弱い父母と、収入が多い30代後半の父母とに、二極化しているとも言える。
 A夫婦の就業形態の多様化 出産後も正社員として働き続ける女性が増えてきた反面、リストラ等で男性社員の雇用も不安定になってきている。このため、夫婦の就業形態が多様化してきた。その就業形態別の世帯年収比較を右の図表8−3に示す。夫婦がともにフルタイムで働いている世帯と、夫婦がともにパートタイムであったり、どちらかが無業であったりする世帯との年収格差は極めて大きい。
 B親(子供からみれば祖父母)の利用可能性 親が近所に住み、資産も所得も十分あれば、子育て夫婦は親からの有形無形の援助を期待できる。それに対し、親が遠くに離れて住んでいたり、自分達の生活に追われていれば、援助は期待できない。こうした点からも、子育て世代は二極化してゆく。
(3)未婚者の将来不安
 日本では2005年時点で、30代前半の男性の約42%、女性の約32.6%は未婚であり、図表8−1に示すように、未婚化は進行する一方である。
 親と同居している若者のうち、収入が不安定な男性は結婚相手としては選ばれにくい。また、収入が安定している男性の割合が減っているため、女性が結婚できる確率も低くなる(「U.結婚格差」で分析済み)。そうすると、親と同居している未婚者が、だんだんと高齢化してゆく。35歳から44歳までの親同居未婚者は、2004年時点で、男性127万人、女性71万人に上る。そして、その中には、フリーター等の不安定雇用者が目立つ。
 現在は、親世代(60歳〜75歳くらい)の経済的余裕があるので、本人の収入が低くても、ある程度ゆとりのある生活は可能である。しかし、親がさらに高齢化したり死亡したりすれば、とたんに、生活に困ることになりかねない。

 以上でみたように、日本は、今後、家族が格差を伴って多様化する社会となる。本人の経済力格差が家族生活の格差となり、家族形態が経済格差を拡大させる要因ともなってきた。したがって、
 @社会保障制度を多様化した家族形態に合ったものに変える事。
 A安定して将来に希望の持てる雇用を増やす事。
という2点が、今後の施策で重要なポイントとなるであろう。

W.教育格差

 最近、学力低下の問題が叫ばれている。学力低下の原因としては、ゆとり教育とかいろいろ言われているが、「新平等社会」(山田昌弘、文藝春秋)の記述に基づいて、この問題を分析してみたい。

1.勉強意欲の低下 

 最近の小中学生を対象にした調査によると、1990年代の後半から学校外の勉強時間が減っている。とくに、学校外でまったく勉強しない子供が増えていると言う。つまり、勉強する気をなくした子供や、勉強させようとしない親が増えているのである。一方、今まで通りに勉強している子供もいる。いわゆる、「インセンティブ・ディバイド」(意欲格差)が生まれている。
 この原因として、「勉強という努力をしても、必ずしも報われるとは限らない」、と考える大人が増え、それが子供に伝播していったためではないか、と考えられる。 ランドルフ・ネッセという社会心理学者によれば、
「希望は努力が報われる、と感じる時に生じ、努力が報われない、と感じれば絶望が生じる」そうである。
 学力低下という現象は「勉強という努力が必ず報われる」という保証がなくなったからではないのだろうか。

2.戦後教育のパイプライン・システムとその漏れ

 ハーバード大学の研究者は、戦後日本の教育システムを「パイプライン・システム」と表現したそうである。左の図表9−1に示すように、学校システムは分岐のあるパイプとして表現され、生徒は、パイプの中を流れることによって、自動的に職業に到達する。

(1)伝統的パイプライン・システム 重要なのは、このパイプライン・システムは、「勉強という努力」が報われるシステムであった、ということである。勉強すれば、より上位のパイプラインに入ることが出来その結果、、より良い学校に進めて、より良い企業に就職出来る。
 職業教育は、入社後、各企業の責任で行われるので、学校教育で、必ずしも職業能力を身につける必要は無い。。

(2)パイプライン・システムの漏れ 1990年代後半から、グローバル化とIT化が日本経済に浸透したことにより、ニュー・エコノミーが日本にも押し寄せてきた。ニュー・エコノミーでは、物作り主体のオールド・エコノミーと違って、商品やシステムのコピーが容易である。そこで始まったのが、コピーの元を作る人と、それをコピーする人+そのコピーを配布する人への分化、また、マニュアルを作る人と、そのマニュアル通りに働く人への分化である。
 その結果、仕事の種類と内容が、大幅に変わってしまった。
将来が約束された中核的・専門的労働者と、熟練が不要な使い捨ての単純労働者への二極化である。オールド・エコノミー時代に存在したOJTを重ねて、未熟練工から熟練工へ、あるいは、単純事務職から管理職へと進む職業のキャリア・パスが消えてしまった。そして、グローバル化により、旧来型の産業・職は衰退局面に入り、工場はアジアに移転した。また、IT化により、営業や事務、販売職といった熟練を前提とした正社員は不用となった。
 ところが、
日本では、職に応じて学校数や種別が調整されるようになっていない。このため、従来のパイプラインの出口で受け皿となっていた職種が変化し、量も変化しているのに、今までと同じように学生を送り出し続けた。この結果、学校を卒業したけれど、職に就けない卒業生が多数輩出することとなった。これが、フリ−ター問題の一つの原因でもあるが、同時に、勉強をしても報われない、という感覚をはびこらせた。つまり、今までは有効に働いたパイプラインから洩れる学生が大量に輩出するようになったのである。それにもかかわらず、このパイプラインに代わるものが無い現状では、やはり、このパイプラインを使わざるをえない。そこで、今まで通り、勉強をしてより良い学校に進もうと言う人も多数いる。

(3)教育のバトルロワイヤル 「パイプラインシステムの漏れ」は、学校を出ても仕方が無いが、学校を出なければもっと駄目である、ということから、若者の意識に様々な悪影響を及ぼしている。
学校に入った全員が、そこそこの職に就けるわけではない、という状況は、バトルロワイヤル、つまり、勝ち残った者以外は死ね、という状況である、と言ってよい
 このバトルロワイヤルに勝ち残れるのは、「ゆとり教育」で生まれた自由時間に「塾」で勉強をする若者である。そして、「塾」に通うためには、それなりの経費がかかるから、結局、経済的に恵まれた家族の子弟が勝ち残る事となる。このことは、
今ある「経済格差」を固定化することとなり、社会の流動性を損なう

 教育の現状は、ここで指摘した以上に多くの問題を孕んでいる。今後、教育の問題も検討してゆきたい。

X.最後に

 日本における様々な格差を分析した。
 そして、経済的格差が、教育の格差を広げ、結局、将来にわたって今ある格差を固定化するのではないか、という結論に達した。格差の問題は、今後の日本社会がいかにあるべきかを考える上で重要な論点である。「機会の平等」「結果の平等」という観点も含め、今後、さらに検討していきたい。

参考文献:

 1.「新平等社会−「希望格差」を超えて」、山田昌弘、文藝春秋。
 2.「格差社会」、宮島理、9ten (株式会社九天社)。
 3.「論争・中流崩壊」、中央公論編集部編、中公新書ラクレ



格差に関するコラムは以下の通り。

33.データから見る格差 34.新しい階級社会の誕生 35.様々な格差
36.老人格差 44.ワーキング・プア 53.所得格差と国際比較
59.教育格差と格差の世襲 60.教育格差の現状 61.教育格差と国際比較
62.教育格差と大学格差(1) 63.教育格差と大学格差(2)
64.団塊の世代と団塊格差  65.団塊ジュニアとその格差 
66.団塊ジュニアの結婚格差と少子化問題
79.所得格差と格差拡大税制 80.国民負担率と国際比較
84.福祉国家の経済成長−北欧の挑戦と日本の凋落

格差問題の背景としてのグローバル化と日本型雇用の崩壊に関するコラムは以下の通り。

46.経済のグローバル化 47.正社員システムの崩壊  48.年功序列賃金の崩壊?
49.労働組合の衰退 50.多様化する雇用形態 52.いじめられるサラリーマン
54.フラット化する世界(1) 55.フラット化する世界(2) 57.フラット化する世界(3)
58.フラット化する世界(4) 22.雇用状況の変遷


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