121.存亡の機を迎えた新聞(2):新聞社と新聞販売店  (2009年12月24日記載)

 前回は、新聞業界の現状を分析し、発行部数や売上がじり貧状態に陥って、ついには赤字になってしまった状況をみてきた。今回は、新聞社と新聞販売店の現状について分析してみた。

 今回のコラムに用いたデータ等は、最後の参考文献に記載した書籍やURLから引用した。

図1 新聞の製作に関する組織

1.新聞ができるまで

 最初に新聞ができあげるまでのプロセスをみてみよう。
 新聞の製作に関連する組織を右の図1に示す。


1-1新聞記事の取材・執筆

(1)記事のソース

 新聞記事は、そのすべてを、各新聞社の記者が自力で取材して執筆しているとは限らない。
 記事の一部は、「通信社」から配信されたものをそのまま、あるいは、若干加工して使っている(地方紙によっては、記事の半分以上が通信社から配信されたもの、という場合もある)。
 さらには、読者の投稿なども記事の一部を構成している。

 記事のソースが新聞記者だけではない場合に、その記事が間違っていた、あるいは、第三者の名誉を毀損した等の場合、誰が責任を負うのか、という問題が起こりうる。
 とくに、通信社から配信された記事を新聞社で加工した場合に、その責任の所在を確定する事は難しい。
 本来、こうした事柄は、通信社と新聞社で明確にしておくべきなのであるが、そこがあいまいなままなのが現状であり、時々、トラブルとなったりするようである。

(2)通信社

 通信社とは、国内・国外に情報網を張り巡らして取材した情報を、新聞社や放送局などのメディアや、企業・官公庁などに配信(販売)している組織である。

表1 国際通信社
通信社名 本社 支社局配置国数 支社局数 従業員(概算)
ロイター イギリス 150ヶ国 196支局 14,500人
AP アメリカ 97ヶ国 243支局 3,700人
AFP フランス 100ヶ国 123支局 2,000人

 取材した情報を、どこに配信(販売)するかで、「国際通信社」と「国内通信社」とに分類される。
 ユネスコは、世界100カ国以上に支社局をもち、100ヶ国以上のメディアに情報を多言語で配信する等の基準を満たすものを「国際通信社」と定義している。現在、この基準を満たしているのは、右の表1に記載した3社だけである。世界的な通信社としては、この3社のほかに、DPA(ドイツ)、タス(ロシア)、新華社(中国)などがある。
 このような国際通信社の存在は、国際ニュースを速報できる、というメリットのほかに、大国の立場から一方的に報道して、世界中の人々の情報を支配している、という批判も生んでいる。
 国内通信社としては、共同通信社時事通信社という二つの通信社がある。この両者の概要を右の表2に示す。

表2 国内通信社
通信社名 売上(08年) 国内支局数 海外支局数 従業員数 契約メディア数
共同通信社 438億円 51 35 1,719人 約260社
時事通信社 222億円 81 29 1,029人 約130社

 この2社は、戦前の国策で一本化された「同盟通信社」が、敗戦を契機に分割されたものである。
 分割当初は、共同通信社が新聞・ラジオ等の「メディア企業向け一般報道部門」、時事通信社が「一般企業や官公庁向け」といった事で、すみ分けていたが、1964年の東京オリンピックを契機に、時事通信社もメディア企業向け配信に乗り出し、その結果、今は完全
な競合関係にある。
 2社の売上規模をみると、共同通信社は時事通信社の2倍ほどの大きさである。しかし、日本最大の読売新聞社の2008年の売上高(4,553億円)と比べると10分の1にすぎない。

(3)共同通信社

 時事通信社は株式会社であるが、共同通信社は社団法人であって株式会社ではない。加盟紙契約をしている66社とNHKとから加盟費を受け取って記事を配信しているのである。共同通信社の概要と加盟社、契約者の詳細等については右をクリック: 
共同通信社について
 加盟紙契約をしていない新聞社や民間テレビ局なども、共同通信社と「契約者契約」をする事によって、特定分野の記事の配信を受ける事ができる。共同通信社の収入の9割が加盟費であり、契約費はせいぜい5%くらいだそうである。つまり、共同通信社は、加盟紙契約をしている新聞やNHKのために取材をし記事を作成しているのであって、一般読者向けには作成していない。もちろん、作成された記事はそのまま各紙に転載できるようにはなっているが、通信社の取材の要点は、顧客である新聞社が喜んでくれるか否かであって、一般読者が喜ぶか否かではない、というところを留意しておく必要がある。
 5紙ある全国紙のうち、産経新聞と日本経済新聞は、加盟紙契約をしているが、残りの3紙(読売・朝日・毎日)は「契約者契約」により、海外ニュースの配信だけをうけている。
 ところが、最近、毎日新聞はコスト削減を目指して、自前の取材網を縮小する事とし、共同通信と加盟紙契約を交わした。(右をクリックして2009年11月27日の朝日新聞の記事を参照: 
新聞記事 へのリンク)。
 加盟紙契約をしているという事は、全国・全世界に独自の取材網を持たなくてよい、という事であり、それだけ取材費のコスト節約につながるわけである。しかし、そのディメリットとして、独自取材ができないために、どの加盟紙も、通信社が配信する記事を掲載する事となり、まったく差がつかない、という結果になってしまう。

(4)記者クラブ

表3 主な記者クラブ
<中央官庁>
内閣記者会 官邸、内閣府
宮内庁記者会 宮内庁
法曹記者クラブ 法務省
司法記者クラブ 裁判所合同庁舎
霞クラブ 外務省
財政研究会 財務省
財政クラブ 財務省
国税庁記者クラブ 国税庁
経済産業記者会 経済産業省
国土交通記者会 国土交通省
農政クラブ 農林水産省
文部科学記者会 文部科学省
環境問題研究会 環境省
警察庁記者クラブ 警察庁
気象庁記者クラブ 気象庁
海上保安庁記者クラブ 海上保安庁
<国会・政党>
国会記者会 国会
衆議院記者クラブ 衆議院
参議院記者クラブ 参議院
平河クラブ 自民党
公明党記者クラブ 公明党
共産党記者クラブ 共産党
社民党記者クラブ 社民党
 注: 参考文献2から引用
 
<東京都>
警視庁7社会 警視庁
警視庁記者クラブ 警視庁
警視庁ニュース記者会 警視庁
都庁記者クラブ 東京都
<経済関係>
金融記者クラブ 日本銀行
兜倶楽部 東京証券取引所
檜クラブ 工業品取引所
みずほクラブ 東京穀物商品取引所
経済団体記者会 経団連
東商クラブ 東京商工会議所
貿易記者会 ジェトロ
日本たばこ記者クラブ JT
<放送・芸能・その他>
ラジオ・テレビ記者会 NHK
東京放送記者会 NHK
東京演劇記者会
東京映画記者会
東京音楽記者会
体操記者クラブ 日本体育協会
東京運動記者クラブ
東京相撲記者クラブ
東京競馬記者クラブ
レジャー記者クラブ
日本囲碁ジャーナリストクラブ
東京将棋記者会

 図1に記載されている「記者クラブ」とは、日本全土を網羅する巨大な一つの組織ではなく、取材対象(官公庁や地方自治体、警察や業界団体等)ごとに存在している日本独特の組織である。主な記者クラブについては、右の表3を見て欲しいが、このほかに各都道府県・市町村の庁舎内、商工団体、国の出先機関等々に置かれており、日本全国でいくつあるか正確な数字は不明である(800とも1000とも言われているそうである)。
 記者クラブとは、主要な取材先で記者たちが取材の前線基地として設置された組織である。そうした取材先にはたいてい「記者室」という部署があり、記者クラブに属する記者は、記者室を通じて官庁等からの情報提供をうけ、取材しているのである。
 官公庁などの記者会見は、記者クラブに対して行われ、記者クラブに加盟していないメディア(雑誌記者、フリーライター、海外メディアの記者等々)は、記者会見に参加できない。それなのに、記者クラブには、誰もが勝手に加入できるわけではない。すでにクラブに加入している記者の同意がなければ加盟できない。そして、加盟できなければ、記者会見にも参加できないし、官報等の配布を受ける事も出来ない。この排他性が、ある意味、新しいメディアに対する参入障壁になっている、と批判されている。
  注: 欧米諸国の場合、ジャーナリストであれば、記者証を発行してもらうだけで、記者会見に参加できる。
 さらに問題は、記者クラブの現場では、各紙の記者がお互い取材メモ等を見せ合い、情報の取りこぼしがないのかを確認しあってさえいるのである。これでは、まるで、談合して同じ記事を書こうとしているのと同じである。
 つまり、記者クラブがある事により、他の業界の事であれば、新聞が激しく非難する「競争の制限」と「談合」が白昼堂々と行われているのだ。こうした実態から、新興メディアや海外メディアから、しばしば、解散要求が出されてくる。
 さらに、「記者クラブ」が官側の都合のよい「情報垂れ流し機関」となっている、という問題もある。記者クラブに詰めている記者は、官がくれる情報を裏付け調査することなく、そのまま新聞記事としてしまう、というケースが多々ある。これが、たとえば、足利事件とか、松本サリン事件に伴う河野さんの冤罪被害・報道被害とかをうみだす背景となっているとも言える。つまり、戦争中の「大本営発表」を垂れ流した体質が、今の記者クラブにも引き継がれているのではないか、と危惧されるのである。
 先の衆議院選挙で、民主党は「内閣記者クラブの廃止」をマニフェストに打ち出したが、政権をとった後は今に至るまで廃止していない。これは重大な公約違反ではないか、と新興メディア等から批判されている。
 しかし、既存メディアのこうした記者クラブを通じた情報の寡占利得は、インターネットの普及により崩れつつあるのも事実ではある。

1-2新聞の編集

 新聞社に集められた記事は編集局に集められ、編集会議で、その日の紙面をどの記事でどのように構成するのかを決めてゆく。この際に、広告局が広告代理店経由で集めてきた広告の掲載面も同時に決められてゆく。
 編集会議には、政治部・経済部・社会部などの各部のデスク(編集を指揮する責任者)が集められ、テーブルを囲んで、どの記事をトップにするか等々を議論のうえ決めてゆく。各部デスクがテーブルを囲んで勢揃いするので、「土俵入り」、お互い自分の部の記事をトップに持ってこようと競うので「たたきあい」「立ち会い」ともいうそうである。
 編集会議で決められた掲載記事に見出しをつけてレイアウトしてゆくのが、編集局内の整理部の仕事である。そして、整理部がレイアウトした紙面を校閲部がチェックして、編集作業は終了し、印刷に回される。

1-3新聞の印刷と配送 

 新聞社は出版社とは異なり、記事の編集から紙面レイアウト、組版、印刷、流通までをほぼ一元的に管理している。主要な新聞社はかって、ほとんどが印刷工場を自社で保有していた。このため、使用総資本に対する固定資産の比率が極めて高い(業界平均で7割前後)。ただし、日本経済新聞の場合は、多くの地方新聞社に印刷を委託している。
 現在の新聞製作は、昔と違いIT化により大幅に省力化され、スピードアップが図られている。まず、記事はパソコンに入力され、本社編集局のデータベースに集約される。それを整理部がコンピュータでレイアウトし、紙面データとして印刷工場に送り込まれる。印刷工場ではその紙面データからネガ・フィルムの形で出力し、刷版に焼きつける。そして、その刷版を印刷機に装着して、紙面を印刷するのである。
 このようにコンピュータ化された現在の印刷工程を“CTS(Computerized Typesetting System)”という。90年代の終わりには、欧米で、フィルム製作工程を省いてコンピュータから直接、紙面データを刷版に焼きつける“CTP(Computer To Plate)”というシステムが普及し、その後、日本でも広まりつつある。さらには、コンピュータから直接輪転機にデータを読み込ませる“CTC(Computer To Cylinder)”というシステムが開発中である。

図2-1 新聞発行部数と総従業員数の推移

2.新聞社と通信社の従業員数の推移

 新聞の製作過程をみてきたが、近年、IT化の進展や、発行部数の伸び悩み等により、新聞業界もリストラが進んでいる。そこで、ここでは従業員数の推移を分析してみよう。

2-1.新聞発行部数と総従業員数の推移(図2-1)

 の図2に、新聞の発行部数の推移と、総従業員数(新聞社と通信社の従業員数の合計)の推移を示す。

 注1: 1998年から2008年までの総従業員数は翌年4月の総従業員数である。
 注2: 新聞発行部数は、各年10月の発行部数である。

 新聞発行部数は、1999年まで増え続けたが、総従業員数は、1990年の65,300人をピークに減少に向かっている。
 総従業員数の減少ペースは、新聞発行部数の減少ペースを大きく上回っている。
 1980年代に総従業員数はいったん上昇しているが、これは、IT化により一旦は減らした人員を、発行部数の上昇に合わせて増員したためである。
 しかし、1990年代に入って、バブルも崩壊し、発行部数の伸びも止まり、やがては逆に減少するにしたがい、人員はどんどんと減少していった。
 そして2009年4月には、総従業員数は5万人を割り込み、4万9千人そこそことなってしまった。

2-2新聞社の部門別従業員数の推移(図2-2)

 次に、新聞社の従業員数が部門別にどのように推移していったかをみてみよう。

図2-2 新聞社の部門別従業員数の推移

 通信社の従業員数を除き、新聞社の従業員数が部門別にどのように推移していったかを右の図2-2に示す。
 図2-2の右端の数字は、新聞社の従業員(正規社員のみ)の合計値(各年の4月現在のデータ)である。

 新聞社全体に勤務している正規社員の総数は、1999年4月の5万8,380人をピークに年々、若干の上下動はあるものの、ほぼ一直線に減少して2009年4月には4万7.600人となった。この10年間の減少幅は、人数で1万780人、減少率では18.5%である。
 これを部門別にみると、全部門で2009年4月の従業員数が1999年4月の従業員数を下回っている。
 その中でとくに減少が著しいのは、「製作・印刷・発送部門」で、1999年の1万3,040人から2009年の5,010人まで、10年間で8,030人減少した。減少率でいうと、63.7%、約3分の2の雇用が消滅した。これは、IT化等により、経営の効率化に邁進した成果である、とも言える。
 2番目に減少人数が多いのは、「出版・事業・電子メディア部門」。1999年の4,020人から2001年には4,860人まで増加した後、若干の上下動はあるものの、減少に転じ、2009年には2,890人となってしまった。減少人数1,120人、減少率では27.9%である。「出版・事業・電子メディア部門」が一旦は増加したのは、新聞社が生き残りを賭けて新しい事業分野を開拓しようとトライしたためと思われる。しかし、大した成果もみないままに、本業の不振から人員削減となったのであろう。
 3番目に減少人数が多いのは、「編集部門」で、1999年の2万4,420人をピークに、若干の上下動を繰り返しながら減少に向かった。そして、2007年に2万3,440人で底を打った後、2年続けて増加し、2009年には、2万3,850人まで回復した。この10年間の減少人数は570人、減少率は2.3%である。「編集部門」は、母数が大きいために人数では3番目であるが、減少率ではもっとも少ない。新聞の屋台骨を背負っているのが「編集局」であるから、減少率が最小なのもむべなるかな、という気がする。
 4番目に、減少人数が多いのは営業部門である。1999年の8,110人から2009年の7,590人まで、10年間で520人減少した(減少率で、6.4%)。
 そして、営業部門よりは、減少人数は少ない(270人)が、減少率で大きい(6.8%)のが「統括・管理部門」である。

図2-3 新聞記者の男女別数の推移
図2-4 女性新聞記者の構成比率の推移
図2-5 新聞社従業員の年齢階層別構成比率の推移

 部門別従業員数の推移から新聞業界の苦闘ぶりがみてとれる。
  ⅰ)発行部数の減少に対応して人員削減を進めてきたが、とくにIT化等で省力効果が図れる「製作・印刷・発送部門」でその努力が顕著である。
  ⅱ)新聞以外の多角化を目指して「出版・事業・電子メディア部門」の増強を図ったが、あまり効果が上がらず、そこも縮小した。
  ⅲ)他部門のリストラは進めても、新聞記事作成の要である「編集部門」の人員削減は最小限にとどめている。

2-3.新聞記者数の推移(図2-3)と女性記者の構成比率の推移(図2-4)

 新聞記事を作成する要は新聞記者である。そこで新聞記者数が男女別に、どのように推移していったかをみてみよう。
 参考文献2と7(日本新聞協会ホームページ)から得られたデータをベースに男女別記者数の推移を右の図2-3に示す。図2-3の右端の数字は男女別の記者数の合計値である(各年の数字は、4月現在のデータである)。

 新聞記事の一部は、読者の投稿であったり、社員以外の作家の小説であったりするが、通信社からの配信記事を除くと、ほとんどの記事は自社の社員記者が執筆したものである。そこが、企業に属さないフリーランスの記者を多用する雑誌などとは異なる特徴である。
 日本の新聞社は他の日本企業と同じく「終身雇用」の慣行があることもあって、新聞社側は、自社の記者を、「記者」としてよりも「社員」として扱い、「公益」よりも「社益」を優先するように教育しているのではないか、と危惧されている。
 こうした報道機関のあり方は、「組織ジャーナリズム」などと論評される。この弊害は、たとえば、戦争報道の際に現れる。新聞社は、社員の安全を守るために危険地帯から自社の社員(記者)を撤退させるので、後は、通信社やフリーランスからの寄稿に頼らざるを得ない、という状況が生まれる。
 1993年4月から2009年4月までの新聞記者総数の推移をみると、2万人前後で、ほぼ横ばい状態である事がわかる。ただし、一旦急激に落ち込んだ2007年4月(1万9,124人)からの推移をみると、2008年、2009年と着実に増加している。
 新聞記者という職業はどちらかというと男性中心で、女性の割合は低かった。このため、新聞記事も女性の価値観が反映されていない、などと批判される事がある。このため、最近は新聞社も女性記者の採用に積極的になっている。この事は、図2-3に示されている。
 1993年4月に1,620人だった女性記者は、その後、若干の上下動を繰り返しながら、着実に増加していった。2,000人を初めて超えたのは1999年であったが、2008年には一気に3,000人を突破した。そして、2009年にはさらに微増して、3,129人となり、1993年から2009年までの16年間で、女性記者数は、2倍に迫る1.93倍に増加した。
 女性記者数の推移を、女性記者が記者総数に占める比率の推移という観点かろみてゆくと、1993年の7.8%から2009年の14.8%まで、毎年着実に増加し続けている。(右の図2-4参照ください)。つまり、女性記者の構成比率は、16年間で、1.90倍となり、倍増に迫る勢いである。
 逆に、男性社員は、1993年の19,121人から、若干の上下動を繰り返しながらも減少し続けている。2007年には、一気に1万6千人台にまで落ち込んだが、その後はやや回復し、2009年には1万8千人そこそこのレベル(1万7,974人)となっている。1993年から2009年までの16年間で、男性記者数の減少率は、6.00%である。
 つまり、記者数そのものは、1993年と2009年を比べると微増であるが、男女別にみると、男性記者が減少して女性記者が増加している。女性の社会進出が、男性を職場から追い出しながら進んでいる、というところであろうか。


2-4.新聞社従業員の年齢階層別構成比率の推移(図2-5)

 日本社会は、急速な少子高齢化(つまり、若者は減り、高齢者は増加)が進んでいる。日本の企業でも、経済の停滞とも相俟って、若者の採用が減少し、従業員の平均年齢の高齢化が進んでいる。
 それでは、新聞社従業員の年齢構成はどのようになっているのであろうか?
 年齢階層別構成比率の推移を右の図2-5に示す。(このデータは、参考文献2から引用したものである)。年齢階層としては、若年層として30歳未満、働き盛りの層として30歳~49歳、熟年層(高齢者の入り口)として50歳~54歳、高齢者層として55歳以上、という四階層で分析した。

 ①1970年には、全体の3割強(31.3%)が若年層、その倍の6割強が働き盛り層、そして、熟年層と高齢者層を合わせても1割未満に過ぎず、若い業界であった。
 ところが10年後の1980年になると、若年層は2割弱(18.5%)と10年間で1割以上(12.8%)も減少した。そして、減少分の半分は働き盛り層に、残りの半分のほとんどは熟年層へと振り向けられた。熟年層の構成比率は1割を超えた(12.2%)が、熟年層と高齢者層を足し合わせても、若年層よりは構成比率は低かった。
 ③1990年になると、若年層は若干(2%)増えたが、働き盛り層が1割以上(12.8%)も減少した。そして、熟年層が微増(1.9%増加)、高齢者層が一気に激増(9%増えて11.5%)し、この両者を合わせると、若年層を上回るようになった。
 ④2000年になると、高齢化はさらに進んだ。図2-1から推測できるように、新聞社に勤務する従業員数は減少し続けている中で、若年層と働き盛り層の構成比率は着実に減少(両方を合わせても7割に届かなくなった)し、熟年層と高齢者層が増加している。そして、熟年層の構成比率(17.2%)が若年層の構成比率(17.1%)を上回ってしまった。
 ⑤2004年のデータでは、若年層の構成比率がさらに減少して14.6%となった。一方、働き盛り層はやや増えて53.6%となった。この両社の合計は2000年よりは若干増えたが、それでも7割には届いていない。2000年と比べると、熟年層が減って高齢者層が増えている。これはいわゆる「団塊の世代」が、高齢者層へ移行していったためと思われる。

2-5新聞社の従業員数の分析から

 新聞社の従業員数の分析を進めた結果、以下の事が言える。

 従業員総数は、1990年代後半からほぼ一直線に減少している。
 従業員数の減少は、新聞社の全部門に及んでいるが、とくに、「製作・印刷・発送部門」で著しい。
 新聞の要である新聞記者の数でみると、1990年代前半から現在にいたるまで、ほぼ横ばいで推移してきたが、近年になって、漸増している。ただ、それを男女別にみると、男性記者は減少し、女性記者数が増加している。(1993年から2009年までの16年間で、女性記者数は、2倍に迫る1.93倍に増加)。
 減少している従業員の年齢構成をみてゆくと、着実に高齢化が進んでいる、ということがわかる。

3.新聞の販売と流通

図3-1 宅配と即売比率の推移

 出来上がった新聞は流通経路に乗せられて一般読者に販売されることになる。新聞大国日本(「120.存亡の機を迎えた新聞(1)」で紹介)を支えているのは、完備された新聞配達網であり、その根幹をなす宅配制度である。外国にも、もちろん、宅配制度はあるが、日本ほど完備されている国はない。ここでは、宅配制度を中心に新聞の販売と流通について分析してみよう。

3-1.宅配比率の推移(図3-1):

 最初に、日本新聞協会加盟の新聞で、専ら即売で勝負しているのは「東京スポーツ」や「夕刊フジ」等、ごくわずかであり、宅配比率は90%を超えている。その宅配比率と即売比率の推移を右の図3-1に示す。
 このデータは、日本新聞協会の毎年10月の調査データから得られたものである。

 1998年から10年間の宅配比率の推移をみると、2001年に若干落ち込んだものの、1998年の93.20%から2008年の94.60%まで、ほぼ直線状に上昇している事がわかる。
 宅配比率の上昇傾向とは対照的に、即売比率は減少している。(1998年の6.20%から2008年の4.84%まで、ほぼ、直線状に減少)。
 なお、宅配比率と即売比率を足し合わせても100%にはならない。これは、離島等へは、郵送されたりしているからである。
 スポーツ紙等は、駅の売店等での即売の比率が高いが、それでも、宅配比率は7割前後であり、即売比率(3割前後)の倍以上である。

3-2.新聞販売店:

 前項でみたように、新聞大国日本を支えているのは、世界に冠たる宅配制度であり、それを実行しているのが新聞販売店である。そこで、ここでは新聞販売店の状況を分析する。

(1)新聞販売店の種類と新聞社との関係:

 ほとんどの新聞販売店は、新聞社とは独立した企業体として、新聞社と契約を結んで新聞を配達している。
 新聞販売店には、「専売店」、「複合店」、「合売店」といった3種類が混在している。
  ⅰ)専売店: 特定の新聞とその系列の新聞のみを扱う販売店。
  ⅱ)複合店: 主要地方紙と全国紙といった方式で複数の新聞を扱う販売店。
  ⅲ)合売店: 基本的にあらゆる新聞を扱う販売店。
 都市部では、競争が激しいために専売店が多いが、過疎化が進む地方では合売店が多い。
 歴史的にみると、1952年までは、戦時中の物流統制の規制から生まれた「合売店」のみであった。1952年にその規制が解除されると大手新聞社を中心に、独自の販売網の構築に乗り出し、現在に至る「専売店」を中心とした宅配システムが確立されてゆく。
 「専売店」は、独立した企業体、とはいっても実態は、新聞社の営業店みたいなものであり、そこから「拡販団」とか「押し紙」といった問題点が生まれているが、それらの問題点は後で分析します。

図3-2 販売店数と従業員数の推移


(2)新聞販売店数と従業員数との推移:

 日本新聞協会が各年10月のデータとして、
新聞販売店の数と、そこで働く従業員の数を公表している。そのデータに基づき、その推移を右の図3-2に示す。

 ①販売店数は、1970年の1万8,338から1990年の2万3,765まで、20年間で5,427も増えた(増加率でいうと、29.6%)。
 高度経済成長期からバブル崩壊前夜までは、図2-1からもわかるように、新聞の購読者数は年々増加した。そこで、各新聞社は自前で販売と宅配のネットワーク作りにコストをかけ、専売店の確保に全力を傾けた。
 販売店数の増大に伴い、従業員の数も一直線状に増えた。1970年の33.1万人から、1995年の48.1万人まで、25年間で15万人も増えた(増加率でいうと、45.3%)。
 販売店数のピークと、従業員数のピークでは5年のずれがある。これは、従業員数の変動は、販売数の変動に遅れて生じるからである。
 販売店数も従業員数も、バブル経済が崩壊した後は、ピークを過ぎて坂道を転げ落ちるように減少している。
 ⑥販売店数は、1990年の2万3,765から2008年の2万99まで、18年間で3,666店消滅し(減少率15.4%)、間もなく、2万点の大台を割り込みそうである。
 販売店で働く従業員数は、1995年の48.1万人から2008年の41.7万人まで、13年間で、6.4万人減少となった(減少率13.3%)。
 こうした販売店数や従業員数の減少率は、図2-1に示す発行部数の減少率(1999年から2009年までの10年間で4.2%)よりもはるかに大きい。この事は、後述する「押し紙」が増えているのではないか、という疑いを強める状況証拠となりうる。
 購読者数が年々増加していた時代には、新聞社にとっても有効に働いた「専売店」というシステムは、購読者数減少時代に入ると、こんどは、新聞社の経営を圧迫するようになっていった。そのへんの事情は、後で分析したい。

(3)新聞販売店の勤務形態別従業員数の推移:

図3-3 新聞販売店従業員の勤務形態別員数の推移
図3-4 新聞販売店で働く「新聞少年」の構成比率の推移

 新聞販売店の従業員を専業では働いているのか、副業で働いているのか、といった勤務形態で分類し時の従業員数の推移を右の図3-3に示す。
 図3-3の右端の数字は、新聞販売店で働く人たちの総数であり、図3-2の従業員総数と同じである。

 新聞販売店で、専業で働いている人(「専業」)は、1998年から2004年までは、8万人台を維持しながら、ほぼ横ばいで推移した。しかし、2001年の8万1,836人をピークに年々減り続け、2005年には8万人台を割り込み、2008年には7万5,347人となった。
 結果として、「専業」は、2001年のピーク時から2008年までの7年間で、6,489人減少した。減少率では7.9%である。
 18歳未満の青少年で新聞配達等で働いている人(「少年」)は、1998年の5万8,889人から年々減少し、2008年には、1万人台を割り込んで9,565人まで減らした。
 「少年」は、1998年から2008年までの10年間で、4万9,324人も減少(減少率でいうと83.8%)してしまった。かっての「新聞少年」はいまや、「絶滅危惧種」となってしまったのだ。
 同じく、大学や専門学校等へ通いながら新聞配達等で働いている人(「学生等」)も、1998年の2万3,069人から毎年減少を続け、2008年には8,093人となった。
 つまり、「学生等」は、1998年から2008年までの10年間で、1万4,976人減少(減少率でいうと64.9%)してしまった。かっての「苦学生」という言葉はいまや、「死語」とななりつつあるようだ。
 新聞販売店で、この「学生等」と「少年」以外で、パートやアルバイト等で働いている人(「副業」)だけは、1998年と比べると、2008年には若干ではあるが増加している。ただ、年々の推移をみると、2003年の33万3,311人をピークに年々減少している事がわかる。そして、2008年には32万4,164人となっている。
 このようにみてくると、近年、新聞販売店で働く人は、専業であるか否かを問わず、着実に減少している、という事がわかる。これは、新聞の発行部数が減少している、つまり、購読者が減り配達すべき部数が減っているためである、と推測される。
 いわゆる「新聞少年」や「苦学生」が減っているのは、社会情勢の変化も大きな影響を及ぼしていると思われる。ただし、「苦学生」そのものは、アルバイト先を新聞配達から、他の職種に変えて、いまだに減っていないのかもしれない。

(4)新聞販売店で働く「新聞少年」の構成比率の推移:

 新聞販売店で新聞配達等をして働いている18歳未満の人たち(いわゆる「新聞少年」)が、新聞販売店従業員の中で占める割合(構成比率)の推移を右の図3-4に示す。

 「新聞少年」が新聞販売店従業員に占める比率(構成比率)は、1970年には、6割近かった(
59.1%)。
 その後、、構成比率は、急坂を転げ落ちるように低下した。1985年までは、5年毎に7%前後の減であったが、そこから1995年までの5年ごとの減少幅は10%を上回った。
 1995年には、20%を切って、17.1%となり、5年後の2000年には10%を切って9.34%となった。
 そして、さらに5年後の2005年には、5%をも下回る3.91%となり、2008年には2.29%まで低下している。
 図3-4を見ると、20世紀末には、「新聞少年」というのは、もう貴重な存在になっていた、という事がわかる。

4.新聞販売店が抱える問題点

 新聞発行部数が減少する中で、宅配率は伸びており、新聞社の経営とって、新聞販売店はますます重要な存在になりつつある。しかし、新聞を購読する人が減りつつある今、新聞販売店側も売上の減少以外にも大きな問題を抱えている。
 それらの問題点は、すでに、1970年代頃から指摘されてきたものばかりであるが、販売部数が順調に伸びている間は、売上増大によって覆い隠されていた。しかし、売上減少時代に入って、一気に顕在化してきたものである。

4-1押し紙問題

 最初に取り上げるのは、「押し紙」である。これは、古くて新しい問題、存在は公然の事実であるのに新聞社が頑として認めない問題、新聞界最大の闇とも言える問題、等々、様々に形容されているが、新聞界が根元から腐っている事を示す重要な証拠でもある。

(1)押し紙とは

 ①「押し紙」とは、一言でいえば、新聞販売店が販売できる部数を超えて、新聞社から一方的に納品されてくる部数の事である。新聞販売店と新聞社の間には、注文書なるものは存在しない。阿吽の呼吸で必要と判断された部数が、新聞販売店の意向とは関係なく、新聞社から一方的に送られてくる。そして、必ず(と言っても言い過ぎではない)、何割かの新聞は売れ残る
 一旦、送られた新聞を売れなかったから、という理由で返品する事は許されない。売れなかった部数の代金も販売店は新聞社に払わなければならない。要するに、新聞販売店は不要な部数を「押しつけられている」わけである。そこで、必要な部数を超えて送りつけられてくる新聞を「押し紙」と呼んでいるわけである。
 新聞社側は、決して「押し紙」とは言わないし、その存在を頭から否定している。たとえば、朝日新聞は「アジャスタブル目標」、毎日新聞は「残紙」など様々な名称を用いているそうである。
 ④「押し紙」も新聞社の発行部数になり、売上に計上されるから新聞社にとってはメリットは大きい。一方、販売店側はその仕入れコストをまるまるかぶる事になるからその分、損失となり、一方的に不利なようにみえる。ところが、必ずしもそうとは言い切れないところが、この問題のややこしいところであり、相撲界の八百長疑惑のように、何十年も浮かんでは消え、消えては浮かんでくる背景でもある。
 販売店の収入は、購読者が支払う新聞代であるが、そのほかに大きな収入源として、折り込みチラシの配達料と新聞社からの「補助金」とがある。この後者の二つは、その販売店が取り扱う部数によって収入額が大きく変わってくるのだ。したがって、「押し紙」は、新聞販売店にとってもメリットがある話なのである。(新聞販売店の収入構造については項目を改めて分析する)
 しかし、押し紙は、結局は廃棄されるわけであり、資源の無駄遣いになっており、エコ精神に反した行いである。環境問題を大きく取り上げ、他者を厳しく糾弾している新聞社が、このような資源の無駄遣いをしており、しかもそれを認めず、恬として恥じない、というのでは、「偽善者」と非難されてもやむをえないのではなかろうか?。

(2)押し紙の割合

表4 押し紙の推定部数と比率
新聞社 ABC部数 推定押し紙
部数
推定押し紙
率(%)
読売新聞 70,769 13,025 18.4
朝日新聞 62,587 21,508 34.4
毎日新聞 26,910 15,432 57.3
産経新聞 11,164 6,392 57.3
その他 69,117 30,991 44.8
合 計 240,547 87,348 36.3

 「押し紙」が、公称発行部数の何割を占めるのか、これは、調査するのがもっとも難しい事ではあるが、何年(何十年?)も前から週刊誌等が取り上げているし、販売店が新聞社を訴えた裁判の中で取り上げられたりしている。
 ここでは、今年発売された「週刊新潮」6月11日号(首都圏では2009年6月5日発売)で取り上げられた滋賀県のポスティング業者「滋賀クロスメディア」が2009年5月時点で、1,700万円をかけて行った調査(琵琶湖周辺の大津、草津、守山、栗東、野洲の5市、人口約64万人を対象)結果を紹介する。その調査結果からまとめたのが右の表4である。(参考文献1より引用)。
 表4のABC部数とは、財団法人日本ABC協会が調査して発表している発行部数である。ただし、調査と言っても、各新聞社の報告数字をそのまま用いているだけであり、その客観的裏付けは乏しい、と言わざるをえない。
 表4の合計欄をみるとわかるように、この調査では、公称部数の3分の1以上(36.3%)が押し紙である。これは、ある意味驚くべき数字ではあるが、これでも少ないくらいである、という見方をする人もいるそうだから、実際はどうなのか、まさに「伏魔殿」の世界である。
 というのは、読売新聞の推定押し紙率が「わずか」18.4%であるが、これは、読売新聞が全国的に押し紙を控えているからではない。滋賀県新聞販売労組が、80年代に読売新聞の押し紙問題を追及した結果、滋賀県では、読売新聞の販売店側が押し紙を断り易い「空気」が生まれていたからである(参考文献1より引用)。
 ABC協会が、過去に行った調査(ABC公査)では以下の比率で新聞が廃棄されていると推定されている。
  ⅰ)2001年~2003年にかけて行われた「公査」では、朝刊の7.5%、夕刊では二桁以上が販売店で廃棄されている。
  ⅱ)2003年~2005年の「公査」では、この廃棄率はさらに大きくなっている。
 ABC考査は、ある意味内部調査であり、実際に配達されている部数を調査するのが目的であって、押し紙を調査するのが目的ではない。このため、ここでの数字は、極めて控え目な数字であって信用できず、実際の廃棄率(押し紙率)はこの何倍もある、と指摘されている。

(3)押し紙が生み出す「犯罪」

 押し紙の正確な比率は不明であるが、どれだけ少なく見積もっても10%以上である、と言いきれると思われる。つまり、ABC部数の少なくとも1割が廃棄され、無駄になっていると言う事である。この1割の無駄は、以下に述べるような「犯罪」を生み出している。
 ②広告費の詐欺: 新聞広告の値段は、ABC部数によって決められている。したがって、この数字に1割の水増しがあれば、広告主は1割余分に払わされていることとなる。これは、新聞社が広告主をだましている事を意味し、立派な詐欺行為である。。
 ③折り込みチラシや自治体のお知らせ折り込み等の手数料にかかわる詐欺: 新聞と一緒に配達される折り込みチラシや自治体からのお知らせ折り込み等の手数料は、ABC部数によって決められているので、これも、広告費と同じく、依頼主をだましているわけであるから、立派な詐欺である。
 ④地球環境に与える影響: 実は、これが最も深刻である。参考文献5(「新聞社」、河内 孝、新潮新書)によると、新聞業界全体で使用する紙の量は年間で370万トンを超えるらしい。この1割が廃棄されるとしたら、年間37万トンが廃棄されている事となる。これを金額に換算すると486億円、パルプ材のための木材に換算すると樹木で220万本、になるそうである。
 この他に、折り込みチラシも10%は無駄になるわけであるから、それも馬鹿にはできない。情報メディア白書2006年版によると、折り込み広告費は年間約4,800億円、折り込みチラシの枚数は、首都圏で新聞1部当たり年間7,642枚。これらの1割が廃棄されると考えると、お金の無駄ばかりではなく、いかに、地球環境をいじめているか、どれだけ非難されても仕方が無いであろう。
 ここで、私が指摘した問題は、新聞はおろか、テレビもまったく取り上げない。他の業界が同じように1割の無駄で地球環境をいじめていれば徹底的に批判するであろう新聞・テレビといったマスメディアが、「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んでいるのは、「偽善者」以外のなにものでもない。

4-2.新聞社と押し紙問題:

 「押し紙」問題は、ほとんど自明であるにも関わらず、新聞社が頑なにその存在を認めないのには、独占禁止法による「新聞特殊指定」の存在がある。これは、良く知られた「再販制度」をさらに強化した規定で、以下の3点が禁止されている。
  ⅰ)新聞社は、取引先や地域によって、卸売価格に差をつけてはならない(ただし、学校教育教材用や大量一括購読者向けなどの場合は例外とする)。
  ⅱ)新聞販売店は、新聞の小売り価格に差をつけてはならない(この規定については、例外は一切ない)。
  ⅲ)新聞社は販売店に押し紙をしてはならない

 つまり、新聞社も新聞販売店も値引き競争で売上を伸ばす事は禁止されているのだが、それと同時に、押し紙も禁止されいるのだ。
 この「新聞特殊指定」は、過去に何回も廃止の対象となったが、その都度、新聞協会は全力を挙げて廃止を阻止してきた。だから、押し紙を認めてしまったら、廃止に格好の口実を与えてしまう。そして、特殊指定が廃止されたら、「価格競争」が始まり、新聞業界は熾烈な戦国時代に突入する。
 他の業界には、規制緩和で自由競争を勧めるくせに、自分たちだけは規制でしっかり守られていたい。新聞業界とは全く自分勝手な業界なのである。
 
注: 新聞特殊指定については、右をクリック: 新聞特殊指定

4-3.新聞拡張団


 次に取り上げる問題は、新聞の購読者を獲得するために、活躍(?)している「新聞拡張団」である。

 新聞販売店は、取り扱い部数が増えれば増えるほど、利益が増えるビジネス・モデルになっている。そして、販売部数を増やすために、「新聞拡張団」が活躍する。「新聞拡張団」の中には、「アカが書き、ヤクザが売って、バカが読む」と揶揄される川柳が生まれるほど、ヤクザまがいの「新聞拡張団」もいたりして、大きな社会問題となる場合もある。
 ②「新聞拡張団」の人件費や「拡材(新聞宅配契約と交換で購読者に提供されるサービス品)」の購入費用は、基本的に新聞販売店の負担である。それだけの費用をかけてでも部数を増やそうとする背景には、「浮動層」(購読する新聞を変える人)の存在がある。
 1995年に公正取引委員会が行った調査によれば、「1年以上同じ新聞を取っている」人は89.2%だそうであるが、逆にみると、残りの1割強は、1年以内に取る新聞を変えているのである。この1割強の浮動層を取り込むために「新聞拡張団」が活躍するわけである。

図4-1 新聞販売店の収入構造

4-4.新聞販売店の収入構造

 新聞販売店が、様々な問題があるにもかかわらず、「押し紙」や「新聞拡張団」を受け入れているのは、そうする事によって、総体的に見て、結果として新聞販売店が潤う、という収入構造になっているからである。新聞販売店の収入構造について右の図4-1に示す。この図は、2006年版情報メディア白書を基にした参考文献5の図から引用したものである。

 新聞販売店は全国で約2万1,000店、その総収入は1兆2,800億円である。新聞購読者から受け取る新聞代1兆7,700億円はそのまま新聞社へ納めるので手元には残らない。
 新聞配達の手数料として、新聞社から6,500億円(新聞販売店総収入の50.8%、新聞代合計の36.8%)が新聞販売店に支払われる。つまり、新聞代の約4割が新聞販売店の収入となるのであるが、それは、新聞販売店の総収入の半分にすぎない
 新聞販売店にとって、配達手数料に次ぐ大きな収入源が折込みチラシの配達手数料である。これは、金額にして4,800億円であり、総収入の37.5%を占める。この手数料は、取り扱い部数によって決まってくるが、その取り扱い部数は、表4に記載したABC部数に基づいている。このABC部数は、押し紙も含んだ数字である。そこで、押し紙がなくなると、この収入が減るので、新聞販売店は、押し紙をあまり騒ぎ立てないのである。
 注: 押し紙を告発するのは、ほとんどが倒産または廃業した新聞販売店であり、営業中の新聞販売店は、沈黙を守っている。
 新聞販売店総収入の残り1,500億円(比率にして11.7%)は、新聞社から支給される「販売促進費」である。これは、「新聞拡張団」と密接に関連している。このため、新聞販売店は「新聞拡張団」を利用するわけである。
 つまり、新聞販売店が収入を上げようとすると、押し紙に目をつむりながら、「新聞拡張団」を使って購読者を増やし、ABC部数を増やせばよい、という事になる。ところが、そのためには、押し紙に伴う廃棄ロスと、新聞拡張団の人件費や拡販材の購入費などを負担しなければならない。それでは、最終的な収支決算はどうなるのであろうか?。そのあたりを次項で分析しよう。

4-5.押し紙と新聞拡張団を巡る「からくり」

 少々古いデータであるが、1995年、公正取引委員会は、再販制度と新聞特殊指定を見直すために、大々的な調査を行った。そのデータを用いて、参考文献5で、押し紙と新聞拡張団を巡るカラクリを分析しているので、ここで、その概要を紹介しよう。

表5 販売促進費配分の一例
分類 扱い部数に対する割合 原価
(本社へ納める)
部数別奨励金
(本社から支給される)
第一基数 70~80% 定価X約60%
(各社平均2,300円
/1部当たり)
無し
第二基数 10~30% 10~20円/1部当たり
第三基数 0~10% 数十円/1部当たり
第四基数 激戦区のみ 原価とほぼ同額

 新聞販売店が、新聞社に払う原価の平均値は、朝夕刊セット版で1部1ヶ月約2,300円。一方、折り込みチラシの手数料は、新聞1部につき1ヶ月で平均千円前後。したがって、このままであれば、押し紙1部を受け取るたびに、1,300円前後の損失を被る事になる。そこに、登場するのが販売促進費という名目の新聞社からの補助金である。
 新聞販売店総収入の11.7%を占める販売促進費がどのように配分されるのか、その例を右の表5に従って解説する。配分方法は極めて複雑で簡単には説明できないそうであるが、それを簡便化して表5としてまとめた(参考文献5よりそのまま引用)。
 新聞販売店の扱い部数は、購読者数の増減にかかわらず、過去の実績等から、ある程度固定化されているそうである。その部数の7~8割は、固定客向けとして考えられており、「第一基数」と分類される。この部数に対しては、配達手数料は約4割で、補助金は一切ない。
 新聞販売店の地域での競争状況に応じて、「第二基数」として、取扱い部数の10~30%が割り当てられる。この部数に対しては、約4割の配達手数料のほかに、1部当たり10~20円の販売促進費が支給される。
 競争が激しい地域では、「第三基数」が設けられ、取扱い部数の10%以下が割り当てられる。補助金は、1部当たり数十円だそうである。

図4-2 補助金のカラクリ

 さらに激戦区で戦う新聞販売店にたいしては、「第四基数」として、原価とほぼ同額の補助金が支給される(つまり、ただで新聞を仕入れる事が出来る)そうである。
 これらの他にも下記するような多種類の補助金があるとのこと。
  ⅰ)拡張補助: 専門の拡張員を入れた時の費用の一部を新聞社が負担。
  ⅱ)経営補助: 販売店の経営状況(他紙の販売店の集中攻撃で苦境に立ったとか、新規開店で支援が必要等々)に応じて支払われる臨時補助金。
  ⅲ)完納奨励金: 期限内に100%納金した奨励金(このような奨励金の存在が、逆に、新聞販売店の苦しさを現している)。
  ⅳ)その他、新聞奨学生への学費補助、店主・従業員の退職金積み立て補助、等々、多種多様にわたっている。
 こうした補助金を用いて、押し紙でもなんでも取り扱い部数を増やせば増やすほど、新聞販売店の収入が増える仕組みを作り出しているのである。つまり、右の図4-2に示すサイクルで新聞販売店の収入は増えていくのである。
 問題は、この先である。こうして、努力した結果、実際の購読者数が増えてゆけば、予備紙が減り、販売店での「押し紙」廃棄ロスも減るので、利益も増えてゆく、という好循環になってゆく。この好循環が続いたのは高度成長からバブル崩壊前夜までであり、その頃は、新聞社にとっても、販売店にとっても「古き良き時代」だったのである。
 ところが、実際の購読者数が増えない、あるいは、逆に減ってしまった、という場合には、増えた予備紙は、販売店での「押し紙」廃棄ロスを増やす事となり、結局は、販売店を赤字に転落させてしまう事もありうる。これが、バブル崩壊から現在に至る状況であり、結果として、図3-2に示すように、販売店の数が年々減少しているのである。

5.最後に

 今回は新聞社と新聞販売店の状況を分析した。その状況を知れば知るほど、新聞業界の将来は暗いと言わざるをえない。

 前回(120.存亡の機を迎えた新聞(1))も指摘した下記の「独占状態」が崩壊しつつあるのにそれに対する適切な対策が何ら打たれていないのである。
  ⅰ)記者クラブによる情報ソースの独占。
  ⅱ)宅配システムによる流通チャネルの独占。
  ⅲ)再販売価格維持制度と独占禁止法の新聞特殊指定による価格競争の制限。
 ②押し紙問題が地球環境問題にまで発展しようとしているのに、いまだに、「知らぬ存ぜぬ」で白を切りとおしている。
 こうした態度は、読者の反感を買い、インターネットの普及とも相俟って、益々、読者離れを誘い、新聞発行部数の減少をもたらす。

 次回は、インターネットと新聞の関係を中心に新聞業界の危機を分析してゆきたい。

参考文献: 1.「マスゴミ崩壊」、三橋 貴明、扶桑社
        2.「図説 日本のマスメディア」(第二版)、藤竹 暁、NHK Books
        3.「朝日新聞がなくなる日」、宮崎 正弘、WAC
        4.「2011年 新聞・テレビ消滅」、佐々木 俊尚、文春新書
        5.「新聞社」、河内 孝、新潮新書
        6.「新聞は生き残れるか」、中馬 清福、岩波新書
        7.日本新聞協会調査データ
        8.電通:「日本の広告費
        9.
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120.存亡の機を迎えた新聞(1) 121.存亡の機を迎えた新聞(2):新聞社と新聞販売店
122.苦境に立つテレビ業界(1):テレビ局の経営状況 123.苦境に立つテレビ業界(2):放送業界とテレビ業界
124.NHK(1):NHKの現状 125.NHK(2):法制度と政府の介入
126.苦境に立つテレビ(3):視聴者離れ? 127.苦境に立つテレビ(4):視聴者離れ? (2)
128.テレビとスポーツ(1):サッカー



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