116.子供貧困大国日本  (2009年6月6日記載)

 今まで、子供に関する問題と言えば、受験戦争とか、ゲームや携帯サイトの悪影響とか、あるいは、いじめとか、学力低下とか、子供が属する家庭の経済問題とは別のところで論じられてきた。しかし、最近では、給食費の未納とか、就学援助率の増大とかが問題視されるようになり、格差社会論議の深まりと共に、子供が属する家庭の経済問題がクロ-ズアップされるようになってきた。さらに、最近の様々な研究から、いじめや学力も、子供が属する家庭の経済力と密接な関連のある事がわかってきた。
 そこで、今回は、「子供の貧困」を取り上げ、国際比較を試みる事とした。
 今回のコラムで用いたデータは、末尾に記載した参考文献や、UNICEFのレポート(UNICEF Inocent Research Center Report Card 7)から引用した。

1.貧困率の国際比較

 まず最初に、日本の「貧困」は国際的に見てどのようなレベルになるのかを検討しよう。
 日本では、高度経済成長の結果、「一億総中流という幻想」が支配的な風潮となり、「貧困問題」を正面から取り上げる事はなかった。とくに、政府は「貧困問題」を積極的に取り上げようとはしなかった。しかし、小泉改革の副作用として「格差社会」が議論されるようになってから、様々な局面で「貧困」の問題が取り上げられ始めた。
 国際的には、OECDが「貧困率」の国際比較を公表している。そして、2005年2月に発表されたレポートが、日本の貧困率は、OECD27ヶ国中で5番目に高い、というデータを示し、日本中に大きな衝撃をもたらした。それを一つのきっかけとして、日本でも「貧困問題」が取り上げられるようになり、格差問題が浮上してきた。
 ここでは、最新のデータを用いて国際比較をする。

1-1.OECD加盟国の貧困率

図1-1 OECD加盟諸国の貧困率

 OECDの最新データ(Dataset: Income distribution - Poverty )で、OECD加盟諸国の貧困率を図示すると右の図1-1のようになる。

 注1: ここで取り上げた「OECDの貧困率」の定義は以下の通り。
 OECDは、国民の標準所得の半分を下回る所得しかない人を「貧困」とみなしている。標準所得の設定に使われているのは、所得の「平均値」ではなく「中央値」である。
 所得の「中央値」とは、国民を所得順に並べたときに真ん中になる人の所得額である。厚労省の2007年度の国民生活基礎調査によると、日本の一世帯当たり年間所得の平均値は567万円、中央値は451万円である。OECDの貧困率の算出方法に従えば、中央値の半分―225万円より所得の少ない世帯の割合が貧困率となります。ただし、OECDは、世帯単位の所得を個人単位に推計し直して貧困率を計算している。

 注2: 上記の説明でも分かるとおり、「OECDが定義する貧困」は、「相対的貧困」であって、食べる物も無い、着る物も無い、住むところも無い、といった「絶対的貧困」とは、別のものである。「相対的貧困率」が高い、という事は、それだけ、その国の格差が大きい、という事にも通ずる。

 ①右の図1-1を見ればわかるとおり、OECD加盟30ヶ国の中で、日本の貧困率は14.9%で、第4位にランクされるほど高い。つまり、日本は、一般国民の想像とは異なり、格差が大きな国なのである。

 日本より貧困率の高い3ヶ国(メキシコ、トルコ、アメリカ)
  ⅰ)貧困率トップのメキシコ(18.4%)と、第2位のトルコ(17.5%)は、OECD加盟国とは言え、いわゆる「経済先進国」の中には入っていない。
  ⅱ)貧困率3位のアメリカ(17.1%)は、先進国の中でもずば抜けて格差の大きい国であるが、元々、自己責任を強調し、助け合いの社会を目指すというよりは、自由競争で「弱肉強食」を容認している社会であり、当然の帰結とも思える。
 日本と同じ14%台の貧困率の4ヶ国(アイルランド、ポーランド、韓国、スペイン)
  ⅰ)アイルランドは、2005年2月に発表されたレポートでは、日本よりも高く、したがって、日本は5番目であった。しかし、最新のデータでは、日本よりも低くなったので、日本が4位に浮上してしまった。
  ⅱ)これら4カ国は、いずれも経済先進国とは言えず、その意味では、日本の、先進諸国内における貧困率の高さが際立っている。
 G8諸国の貧困率 G8と総称される欧米諸国の貧困率を見てみよう。(ロシアは、OECDに加盟申請中ではあるが、加盟国ではない)。
  ⅰ)貧困率がOECD平均値よりも高い5ヶ国(アメリカ、日本、カナダ、イタリア、ドイツ): アメリカはダントツの高さであるが、カナダ、イタリア、ドイツの3ヶ国は、平均値よりは若干高いだけである。
  ⅱ)貧困率がOECD平均値よりも低い2ヶ国(イギリス、フランス): この両国は平均値よりも2%以上低い貧困率である(イギリスは8.3%、フランスは7.1%) 。
 ⑤北欧諸国の貧困率: 高福祉高負担と言われている「北欧諸国」はどこも、貧困率は低い。
  ⅰ)スウェーデンとデンマークは、ともに5.3%で、OECD加盟国中で最低である。
  ⅱ)ノルウェーは、それより少し高くて6.8%、フィンランドはさらに高くて、フランスを少し上回る7.3%である。

1-2.OECD加盟主要諸国の貧困率の推移

図1-2 OECD加盟主要諸国の貧困率の推移


 OECD加盟の主要諸国として、G7と、北欧からフィンランドとスウェーデンの2ヶ国をピックアップした。その9ヶ国について、貧困率の推移を右の図1-2に示す。

 貧困率が上昇した6ヶ国 1980年代半ばの貧困率と、2000年代半ばの貧困率とを比べると、下記の6カ国では貧困率が上昇している。
  ⅰ)日本: 1980年代半ばでは12.0%から、2000年頃までの15.3%まで、ほぼ直線状に上昇した。この15.3%であった時に、日本の貧困率は第5位で、「一億総中流」という幻想は過去のものであった、としてマスコミを騒がせたわけである。(たとえば、「33.格差社会(1):データからみる格差」参照)。その後、最新データでは14.9%へと若干減少したが、前述のごとく、順位は4位に上昇した。
  ⅱ)カナダ: 1980年代半ばは10.7%であったが、1990年代半ばには9.5%まで低下した。しかし、その後は上昇に転じ、2000年代半ばのデータでは12.0%まで増加している。
  ⅲ)イタリア: 1980年代半ばの10.3%から1990年代半ばには14.2%まで一気に増加した。しかし、その後は減少に転じ、2000年代半ばには11.4%となったが、まだ、1980年代半ばの貧困率を上回っている。
  ⅳ)ドイツ: 1980年代半ばには6.3%と極めて低い貧困率であったが、その後はほぼ直線状に上昇し、2000年代半ばには11.0となった。これは、1990年10月のドイツ統一の影響が大きいものと思われる。
  ⅴ)フィンランド: 1980年代半ばには5.1%と極めて低い貧困率で、1990年代半ばにはさらに4.9%まで低下したのであるが、その後は上昇に転じ、2000年代半ばには7.3%まで上昇した。
  ⅵ)スウェーデン: 1980年代半ばには3.3%と極めて低い貧困率であったが、2000年頃までに5.3%へと上昇した。そして、2000年代半ばまで、そのまま横ばいであった。
 貧困率が下降した3ヶ国 下記3ヶ国は、2000年代半ばには、1980年代半ばよりも貧困率が低下した。
  ⅰ)アメリカ: 1980年代半ばにも17.9%と高く、トップであった。その後は、若干減少したが、最新の状況(2000年代半ば)でも、17.1%とトップのままである。
  ⅱ)イギリス: 1980年代半ばのデータはないが、1990年代半ばには10.9%であった。その後は減少に向かい、2000年代半ばに8.3%となった。
  ⅲ)フランス: 1980年代半ばには8.3%であったが、その後は減少に向かい、2000年代半ばには7.1%となって、G7の中では最小である。
 上述の推移の分析から、G7について以下の事が言える。
  ⅰ)日本は、アメリカに次いで貧困率の高い国となってしまっている。
  ⅱ)カナダ、イタリア、ドイツの3ヶ国は、貧困率が中位の国である。
  ⅲ)イギリスとフランスは、G7の中では貧困率が少ないグループであり、なおかつ、貧困率が減少傾向にある。

2.子供の貧困率の国際比較

図2-1 OECD加盟諸国の子供の貧困率

 今までは、全国民を対象に貧困率をみてきたが、ここでは、子供(17歳以下)を対象に「子供の貧困率」の国際比較を行う。

 注1: ここでいう「子供の貧困率」とは、全世帯を所得順に並べ、ちょうど真ん中にあたる世帯が得ている所得の50%未満の所得の世帯に属する17歳以下の子供の割合のことである。。

2-1.OECD加盟諸国の子供の貧困率

 UNICEFのレポート(UNICEF Inocent Research Center Report Card 7)から、子供の貧困率の最新データを右の図2-1に示す。

 ①ダントツのアメリカ 全国民を対象とした貧困率では、17.1%で第3位であったが、子供の貧困率では、21.7%と、断トツのトップである。(ただし、全国民を対象とした貧困率ではトップと2位であったメキシコとトルコのデータがないので、その両国との比較は行えない)。格差大国アメリカでは、子供の5人に一人は貧困にあえいでいる、のである。
 子供の貧困率が日本よりも高いヨーロッパ諸国等7ヶ国
  ⅰ)イギリス(16.2%)、イタリア(15.7%)、アイルランド(15.7%)、ポルトガル(15.6%)、スペイン(15.6%)、ニュージーランド(14.6%)、ポーランド(14.5%)の7ヶ国の「子供の貧困率」は、日本の子供の貧困率(14.3%)より大きい。
  ⅱ)これだけを見ると、日本は子供の貧困解消に他国よりは努力しているように思えるが、実態は、後で分析するようにそうではない。
  ⅲ)日本では、子供の貧困解消のために、特別の施策はとっていない。それどころか、「貧困」という問題に正面から向き合おうとはしていない。しかし、少子高齢化のおかげ(?)で、子供の貧困率が全国民の貧困率よりも下がっているだけなのである。
  ⅳ)たとえば、イギリスでは、サッチャー政権までは、貧困問題には目をつぶっていたが、ブレア政権になってからは、サッチャー時代の負の遺産に積極的に取り組み、子供の貧困率も低下している。(1980年代半ばから1990年代半ばまでの10年間に、子供の貧困率は、10%未満から20%近くまで約8%上昇した)。
 子供の貧困率が日本よりも低いが、OECD平均よりは高いヨーロッパ諸国等4ヶ国 カナダ(13.6%)、オーストリア(13.3%)、ギリシア(12.4%)、オーストラリア(11.6%)の4ヶ国の子供の貧困率は、日本よりも低いが、OECD平均値(11.2%)よりは高い。
 子供の貧困率がECD平均値よりは低いが、北欧4ヶ国よりは高い7ヶ国 ドイツ(10.9%)、オランダ(9.0%)、ハンガリー(8.8%)、ベルギー(7.7%)、フランス(7.5%)、チェコ(7.2%)、スイス(6.8%)の子供の貧困率はOECD平均値よりは低いが、北欧4ヶ国よりは高い。
 子供の貧困率が極めて低い北欧4ヶ国 ノルウェー(3.6%)、スウェーデン(3.6%)、フィンランド(2.8%)、デンマーク(2.4%)、の北欧4ヶ国の子供の貧困率は極めて低い。これは、これらの国々が、子供の貧困を国家的問題として、その削減に正面から取り組んでいる成果である。

2-2.OECD加盟主要諸国の子供の貧困率の推移

図2-1 OECD加盟主要諸国の子供の貧困率の推移

 OECDのデータに基づいて、所要諸国の子供の貧困率の推移を右の図2-2に示す。
 この図は、参考文献1(「こどもの最貧国・日本」、山野 良一、光文社新書)から引用したもので、「OECD(2005)、“Society at Glance”」から作成されている。

 OECD平均 1980年代中頃から、1990年代中頃、2000年と、ずっと上昇していた。
 日本 日本も、OECD平均と同じように、子供の貧困率は上昇を続けた。(1980年代中頃から199年代中ごろまでに1.2%、1990年代中頃から2000年までに2.3%上昇)。
 貧困率が上昇した2ヶ国 ニュージーランドと日本の2ヶ国の子供の貧困率は、1980年代中頃から、1990年代中頃、2000年と、継続して上昇した。とくに、ニュージーランドの上昇は著しい。
 貧困率が低下した国 1980年代中頃から、1990年代中頃、2000年と継続して子供の貧困率が低下したのは、驚くことに、格差大国アメリカだけである。
 貧困率が上昇後低下した国 イギリスは、サッチャー、メージャーと保守党が政権を握っていた時代(1979年~1997年)には、経済全体は再生できたかもしれないが、そ副作用として格差は拡大し、医療制度は崩壊した。そして、前述のごとく、子供の貧困率も大きく拡大した。1997年に発足した労働党のブレア政権は、保守党時代の負の遺産解消に取り組んだが、その効果の表れか、子供の貧困率は若干ながら低下した。
 貧困率が低下後上昇した4ヶ国カナダ、オーストラリア、フィンランド、デンマークの4ヶ国は、1980年代中頃から1990年代中頃にかけて、子供の貧困率は低下したが、その後は2000年にかけて上昇した。ただし、どの国も、2000年の貧困率は、1980年代中頃よりは低いままである。
 貧困率がほ横ばいで推移した2ヶ国 フランスとスウェーデンの2ヶ国は、1980年代中頃から、1990年代中頃、2000年と、ほぼ横ばいで推移している。この両国ともに、子供の貧困率は極めて低い。とくに、スウェーデンは、OECD平均値の3分の1未満である。
 上記の分析から、主要10カ国のうち、データを比較した時期で、貧困率が一貫して上昇し続けたのは、日本とニュージーランドの2カ国だけである、という事がわかる。
 しかし、ニュージーランド子供の貧困率は、図2-1で示すように、2000年代中ごろの最新データでは、2000年よりも低下している。日本の場合、2000年代中頃もほぼ2000年と同じレベルであり、低下しているとは言い難い。
 このように分析してゆくと、
OECD加盟の主要10カ国の中で、日本だけが、1980年代中頃から2000年代中頃までの20年間、子供の貧困率を一貫して上昇させ続けた唯一の国である、と言える。これが、表題として「子供貧困大国日本」とした理由の一つでもある。

3.ひとり親家庭の子供の貧困率の国際比較

 貧しい家庭の典型は、いわゆる「母子家庭」である。OECDでは「ひとり親家庭」の子供の貧困率を調査公表している。そのデータは、「ひとり親家庭全体」、「働いているひとり親家庭」、「働いていないひとり親家庭」の3種類に分けて公表されている。ここでは、そのデータを用いて分析する。
 なお、このデータは、参考文献1(「こどもの最貧国・日本」、山野 良一、光文社新書)から引用したもので、「OECD(2005)、“Society at Glance”」(2000年の貧困率)がベースになっている。


3-1.ひとり親家庭全体の場合

図3-1 ひとり親家庭全体の子供の貧困率
図3-2 働いていないひとり親家庭の子供の貧困率
図3-3 働いているひとり親家庭の子供の貧困率

 最初に、ひとり親家庭全体の子供の貧困率の国際比較についてみてみよう。
 OECD加盟主要11ヶ国その状況を右の図3-1に示す。


 トルコと日本 
  ⅰ)この両国は、はダントツに高くて57%強である。つまり、ひとり親に育てられている子供(17歳以下)の6割近くが、「貧困」状態にあえいでいるのである。
  ⅱ)トルコの子供の貧困率は不明だが、日本の子供の貧困率は、図2-1に示すように最新のデータ(2000年代中頃)で14.3%である。つまり、日本のひとり親家庭の子供の場合は、4倍の貧困率なのである。
 アメリカとニュージーランド
 
 ⅰ)この両国の場合、ひとり親に育てられている子供(17歳以下)の半分近くが、「貧困」状態にあえいでいる状態である。
  ⅱ)図2-1に示すように、アメリカの子供貧困率は21.7%、ニュージーランドの子供貧困率は14.6%、これらと比較すると、アメリカの場合は2.25倍、ニュージーランドの場合は、3.25倍の貧困率となっている。
 カナダ、イギリス、オーストラリア
  ⅰ)この3ヶ国は、ひとり親に育てられている子供(17歳以下)の4割前後が、「貧困」状態にある。
  ⅱ)図2-1に示した各国の「子供の貧困率」と、図3-1の「ひとり親家庭全体の子供の貧困率」とを比べると、次の通りとなり、3倍前後の高さである: カナダは3.1倍、イギリスは2.5倍、オーストラリアは3.3倍。 
 フランス OECD平均の32.5%よりは低い26.6%、つまり、ひとり親に育てられている子供(17歳以下)の4人に一人が、「貧困」状態である。これは、「子供の貧困率」の3.5倍である。
 北欧3ヶ国(フィンランド、スウェーデン、デンマーク)
  ⅰ)北欧3ヶ国の場合、ひとり親に育てられている子供(17歳以下)の貧困率は劇的に低い。
  ⅱ)それでも図2-1に示した各国の「子供の貧困率」と、図3-1の「ひとり親家庭全体の子供の貧困率」とを比べると、次の通りとなり、3倍弱から4倍弱となっている: フィンランドは3.75倍、スウェーデンは2.58倍、デンマークは3.0倍。 

3-2.働いていないひとり親家庭の場合

 働いていないひとり親家庭の子供の貧困率の国際比較を、右の図3-2に示す。比較対象は図3-1と同じ、
OECD加盟の主要11ヶ国である。

 アメリカ、カナダ、ニュージーランド
 この3ヶ国の場合、子供の貧困率は9割前後と極めて高い。つまり、親が働いていないひとり親家庭の子供は、9割前後が貧困状態なのである。
 イギリス、フランス、オーストラリア: この3ヶ国は、OECD平均よりやや高く、子供の貧困率は6割前後となっている。
 日本とトルコ この両国は、OECD平均よりやや低く、子供の貧困率は5割強となっており、図3-1と比べるとわかるように、ひとり親家庭全体の場合よりも低い。これは、他の9カ国には見られない異常な現象である。
 北欧3ヶ国(フィンランド、スウェーデン、デンマーク) この3ヶ国の貧困率は、働いていないひとり親家庭の場合でも、11ヶ国中で最低である。スウェーデンは他の2ヶ国よりはやや高いが、それでも、残りの9ヶ国よりはかなり低くなっている。

3-3.働いているひとり親家庭の場合

 ひとり親が働いている場合に、その家庭の子供の貧困率がどうなっているかを、右の図3-3に示す。比較対象は図3-1、図3-2と同じ、OECD加盟の主要11ヶ国である。

 日本とトルコ この両国の場合、奇妙な事に、親が働いている場合、貧困率が上がっている。普通に考えると、働けばそれだけ収入が増えるから、貧困率が低下するはずである。ところが、日本とトルコはそうなっていない。働く方が馬鹿をみるのだ。こんな事があってよいのだろうか?
 アメリカ 子供の貧困率は、働いていない場合に比べ、半分以下の40.3%まで低下しているが、それでも、11ヶ国中3位という高さである。
 カナダ 子供の貧困率は、働いていない場合に比べ、3分の1以下の27.7%となっている。
 ニュージーランド、イギリス この両国の場合、子供の貧困率は、OECD平均よりやや高い21%前後である。しかし、働いていないひとり親家庭の場合と比べると、その改善度合いにかなりの差がある。 ニュージーランドの場合には、4分の1以下に改善されたが、イギリスの場合には、3分の1そこそこの改善である。
 オーストラリア、フランス この両国の場合、子供の貧困率は、OECD平均の半分前後であり、働いていないひとり親家庭の場合と比べた改善度合いは、5分の1前後である。
 ⑥北欧3ヶ国(フィンランド、スウェーデン、デンマーク) この3ヶ国の貧困率は、働いているひとり親家庭の場合でも、11ヶ国中で最低である。フィンランドは他の2ヶ国よりはやや高いが、それでも、残りの9ヶ国よりはかなり低くなっている。働いていないひとり親家庭の場合と比べた時の改善度合いは右の通り: フィンランドは約29%、スウェーデンは約16%、デンマークは約18%。

3-4.ひとり親家庭に対する日本の奇妙な現状

 いままで、ひとり親家庭の子供の貧困率に対して国際比較をしてきたが、OECD先進諸国の中では、日本がきわめて特殊な状況にある、という事に気がついたであろうか。

 ①ひとり親家庭の子供の貧困率が極めて高い。格差大国アメリカの48.9%をも上回る57.3%であり、先進諸国の中ではダントツの高さである。
 ②働いているひとり親家庭の子供の貧困率が、働いていないひとり親家庭の子供の貧困率よりも高い。これは、記述のごとく、働く者が報われない、という事実を示すものであり、許し難い状況である。
 ③それにもかかわらず、日本のひとり親のほとんどは働いている。日本の場合、病気や障害等で物理的に働けない、という状況でない限り、福祉保護のセーフティネットの助けを得られない、と断定できるほど、貧弱な福祉政策なのである。(これは、ひとり親家庭に限らず、一般的に言えるところが、日本の福祉政策の悲しいところではある)。
 ④日本では、母子世帯に限っても83%の親が働いている。この就労率は、イギリス(約40%)、イタリア(約70%)、アメリカ(約70%)と比べても高く、スウェーデンと同様の高さである。それなのに、日本だけは、「働けど働けど、我が暮らし楽にならざり」という状況なのである。
 ⑤その最大の理由は、日本の「働くひとり親」の6割以上が非正規雇用で、ワーキング・プア状態だからである。ところが、スウェーデンの働くひとり親」においては、3分の2以上が正規雇用で働いている。

 このような「正直者が報われない」状態になっているのは、日本の福祉政策が間違っているからである。そのあたりの状況を次項以下で見ていこう。

4.政府の所得移転効果の国際比較

 資本主義経済をとっている国では、市場で働いて得た所得に対して、税金や社会保険料を課して、それらを財源として福祉政策の給付に充当する。こうした政府による所得移転政策で、貧困率がどのように変化するかをみることによって、政府の介入が貧困の解消にどれくらい役立っているかを評価する事が出来る。
 そこで、UNICEFのデータを基に、政府の介入前後での子供の貧困率の変化を国際比較してみよう。ここでも、OECD主要11ヶ国のデータを用いるが、この11ヶ国と第3項の11ヶ国とは若干異なる。(データの出典は、参考文献1(「こどもの最貧国・日本」、山野 良一、光文社新書)に記載されている、UNICEF(2005) "A Child Poverty in Rich Countries 2005"、並びに、「OECD日本経済白書2007」である。

4-1.
政府の介入前の子供の貧困率

図4-1 政府の介入前の子供の貧困率
図4-2 政府の介入後の子供の貧困率

 最初に、政府による所得移転が行われない前(「政府の介入前」)の子供の貧困率を比べてみよう。OECD主要11ヶ国のデータを右の図4-1に示す。

 政府介入前は、日本の子供の貧困率は低い 図4-1をみてまず気がつく事は、政府による所得移転前の状態では、日本の子供の貧困率は極めて低い、という事である。11ヶ国中、下から3番目であり、フィンランドやスウェーデンよりも低い数字なのである。
 OECD平均値(20.5%)より高い5ヶ国(ニュージーランド、フランス、アメリカ、イギリス、カナダ) この5ヶ国の、政府介入前の子供の貧困率は、OECD平均値を上回る25%前後である。
 OECD平均値よりは低いが日本よりは高い3ヶ国(フィンランド、スウェーデン、オーストリア)この3ヶ国の、政府介入前の子供の貧困率は、OECD平均値よりは低いが、日本を上回る18%前後である。
 日本よりは低い2ヶ国(デンマーク、スイス) この2ヶ国の、政府介入前の子供の貧困率は、日本よりは低い。デンマークは、11.8%、スイスは7.8%である

4-2.政府の介入後の子供の貧困率

 次に、政府による所得移転が行われた後(「政府の介入後」)の子供の貧困率を比べてみよう。OECD主要11ヶ国のデータを右の図4-2に示す。(図4-2と図2-1とのデータは必ずしも同じではない。これは、データを収集した年度の違いによるものである)。

 政府介入後は、日本の子供の貧困率は高くなる: 
  ⅰ)図4-2をみて、まず気がつくのは、日本だけが政府の介入によって、子供の貧困率が高くなっている、という驚くべき事実である。
  ⅱ)日本以外の10ヶ国は多かれ少なかれ、政府の介入(税や社会保険料を徴収し、それらを財源として、福祉給付を行う)の効果として、子供の貧困率は低くなっている。しかるに、日本は、政府が所得の再配分を行った結果、貧困層が増加している。
  ⅲ)このような不可解な現象が起きるのは、日本の子供を持つ世帯に対する福祉政策が、子供の貧困率を下げる、という視点で行われていないためである。
  ⅳ)つまり、日本の現行の税制度、社会保障制度は、元々、低収入世帯の経済状態を改善する、という視点で作られたものでないために、税金の扶養控除や、児童扶養手当等が、子供の貧困率改善に、全く役にたっていないのである(それどころか、かえって、貧困率を上昇させている)。
 アメリカ 記述のごとく、政府介入後の子供の貧困率では、アメリカはダントツ高さである。しかし、それでも、図4-1と図4-2を比べればわかるように、5%近く改善している(26.6%から21.9%へ)。
 ニュージーランド、イギリス、カナダ この3ヶ国は、15%前後で、日本よりは高いが、政府の介入により、8~12%近くまで、子供の貧困率は改善している。
 オーストリア、フランス、スイス この3ヶ国は、OECD平均値(12.2%)よりも低いが、北欧3ヶ国よりは高い。フランスは、政府の介入によって20.2%も貧困率を改善している(27.7%から7.5%へ)。オーストリアの改善率は、7.5%であるが、スイスの改善率はわずか1.0%である。
 北欧3ヶ国 政府介入後は、これら3ヶ国の子供の貧困率は極めて低く、福祉大国の面目躍如、というところである。政府介入による改善率は、フィンランドは15.3%でフランスに次ぎ、スウェーデンは13.8%でそれに続いている。デンマークは9.4%である。

4-3.おかしな国日本


 日本の福祉政策は、政府が介入する事によって、「貧困を拡大する」という誠に奇妙な結果を示している。3-4項でも述べたところではあるが、日本は本当に珍妙な福祉政策を施行しているのである。
 働いても働いても暮らしが楽にならない(それどころか、かえって貧しくなる)ひとり親家庭、政府が介入する事によって、豊かになるどころか逆に貧しくなる子供達、このような国が、かっては「一億総中流」という「神話」の国であったとは、何たる皮肉であろうか?
 こうした珍妙な現象が起きるのも、日本政府が、貧困、さらには、子供の貧困、といった問題に正面から向き合わず、家族の個人的な問題として対応してきた「無策」の結果である、と言わざるを得ない。それを見るために、家族関連の社会支出がGDPに占める比率について、次項で国際比較をしてみよう。

図5-1 家族関連支出の対GDP比率

5.家族関連社会支出とGDP比率の国際比較

 児童手当や児童扶養手当等の社会保障制度だけではなく、保育サービスや施設サービスなどの現物給付や、出産・育児休業給付等も加味した「家族関連社会支出」とGDPとの比率を調べて、国際比較を試みてみよう。

5-1.OECD加盟26ヶ国の比較

 最初に、OECDが2004年に発表したデータから、26ヶ国の、家族関連社会支出の対GDP比率を高い順に右の図4-3に示す。

 比率が圧倒的に低い日本
  ⅰ)
日本の「家族関連社会支出の対GDP比率」はわずかに0.6%で、OECD平均値(2.0%)の3割であり、下から4番目という低さである。
  ⅱ)
日本よりも低い先進国は、格差大国で名高いアメリカだけであり、日本のすぐ上のカナダでも、日本の1.5倍の0.9%となっている。
  ⅲ)
その意味から言うと、
日本は、アメリカに次いで、家族に厳しい「経済先進国」なのだ。
 家族に優しい北欧諸国
  ⅰ)福祉国家として名高い北欧諸国は、家族にもとても優しい。
  ⅱ)スウェーデンとデンマークの「家族関連社会支出の対GDP比率」は、OECD26ヶ国の中ではトップであり、日本の6倍以上の3.8%である。
  ⅲ)ノルウェーの場合も、OECD26ヶ国の中で4位につけており、日本の5倍以上の3.2%である。
  ⅳ)それに次いで5位がフィンランドで、日本のちょうど5倍に当たる3.0%が家族関連の社会支出に使われている。
 OECD平均(2.0%)よりは高い先進諸国 フランス(2.8%)、オーストラリア(2.8%)、イギリス(2.2%)、ニュージーランド(2.2%)、といった国々の家族関連社会支出の対GDP比率」は、北欧諸国よりは低いが、OECD平均値を上回っている。
 OECD平均よりは低いが、日本(0.6%)よりは高い先進諸国 ドイツ(1.9%)、イタリア(1.0%)、カナダ(0.9%)の3ヶ国の「家族関連社会支出の対GDP比率」は、OECD平均よりは低いが、日本よりは高い。
 ⑤図4-3の分析でわかるように、日本の「家族関連社会支出の対GDP比率」は、OECD加盟国の中でも、絶望的に低い。次項では、これを違った観点からみてみよう。


5-2.「家族関連社会支出の対GDP比率」と国民負担率

 「家族関連社会支出の対GDP比率」と国民負担率(図5-2の下部に数字で記述)とについて、政府が発表している国際比較の状況を右下の図5-2に示す。これは、厚生労働省の公表データから引用したものである。

図5-2 家族関連支出の対GDP比率と国民負担率

 低福祉低負担の国、日本: 図5-2から、日本は低福祉低負担の国だという事がわかる。
  ⅰ)国民負担率: 日本の国民負担率は36.3%、アメリカの31.8%よりは高いが、他の5ヶ国よりはずっと低い。下から数えて、3番目のイギリスでも、日本より10%以上多い47.0%である。
  ⅱ)潜在的国民負担率: 国債等の長期債務を加味した場合の潜在的国民負担率でも、日本の国民負担率は46.8%、アメリカの38.3%よりは8.5%も高いが、他の5ヶ国よりは低い。日本の次は、イギリスで4.3%高い51.1%である。
 注: 潜在的国民負担率とは、税金と社会保険料に財政赤字を加えた額が、国民所得に占める比率のこと。一般的に、税金と社会保険料をあわせた額を国民負担額というが、財政赤字は将来の負担になるとの考え方により、この数字も合算して、国民取得の占める割合を求めることで、潜在的な国民負担率を見てみようという考え方。
  ⅲ)現金給付: 日本の現金給付は0.31%、他国と比べた場合、家族手当がまったくない、という特徴がみてとれる。
  ⅳ)現物給付: 日本の現物給付は0.44%、アメリカの0.61%よりも低く、図5-2で比較した7ヶ国の中では最低である。
 高福祉高負担の国、スウェーデン 図5-2からも、スウェーデンが高福祉高負担の国である事がわかる。
  ⅰ)国民負担率: スウェーデンの国民負担率は69.1%、アメリカよりも倍以上高く、日本と比べても2倍近い高さである。
  ⅱ)潜在的国民負担率: スウェーデンの潜在的国民負担率は69.3%、国民負担率とほとんど変わりがない。
  ⅲ)現金給付: スウェーデンの現金給付は1.6%、日本の5倍以上であり、家族手当が0.85%と現金給付の半分以上を占めている。
  ⅳ)現物給付: スウェーデンの現物給付は1.95%、日本の4.4倍である。
 フランスとイギリスの場合 この両国の「家族関連社会支出の対GDP比率」は、3%前後でほぼ同じだが、国民負担率には10%以上の開きがある。
  ⅰ)フランス: 現金給付のほとんどは、出産・育児休業手当であり、現物給付のほとんどは、保育・就学前教育が占めている。フランスは少子化対策に力を入れており、「家族関連社会支出」の状況にもそれが表れている。
  ⅱ)イギリス: 「家族関連社会支出」の大半が現金給付で占められている。
 ④ドイツとイタリアの場合: この両国を比べると、イタリアは、ドイツより、国民負担率が高いのに、「家族関連社会支出のGDP比率」は、ドイツより低い。
 ここまでの分析で、日本は、アメリカに匹敵する「低福祉低負担」の国である事がよくわかる。高度経済成長の結果、日本は「一億総中流」という幻想を抱けるほど豊かな国になったが、そのかげで、社会福祉で貧しい人を支える、という大切な理念を忘れてしまったようだ。「努力すれば、報われる」、という「甘い、幸せ」な幻想が消えた今、お互いが助け合い、支えあえる社会を再構築しなければならない、と思うのは私だけであろうか?


6.最後に

 今回は、「子供の貧困」を取り上げ、国際比較を試みた。その結果、以下の事が言える。

 日本は、「貧困」という問題に正面から向き合おうとはしてこなかったし、今も向き合ってはいない。ましてや、「子供の貧困」問題は、完全に忘れ去られている。
 その結果、日本の「子供の貧困率」は1980年代半ばから2000年にかけて上昇し続けた。。
 とくに、「ひとり親家庭」に対する政策は、矛盾に満ちており、親が働いているのに「子供の貧困率」は高くなる、というありえない結果が生じている。
 また、「家族関連社会支出の対GDP比率」をみても、日本はアメリカとほぼ同じ低レベルであり、家族に厳しい国となっている。

 以上を総合すると、日本の少子化が進むのにも納得がいく。子供にもっと優しい政策をとらないと、少子化は止まらないだろうし、「貧困の負の連鎖」(貧しい家庭の子供は成人後もやはり貧しいままであり、貧困状態から抜け出せない)がいつまでも続くことになる。
 少子化を食い止めたフランスの場合には、図5-2で示すように、出産、幼児教育に重点的に財源を振り向けている。日本も、「子供の貧困」に正面から取り組み、メリハリのきいた政策で、子供達に明るい未来を約束できる努力をするべきであろう。


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参考文献: 1.「こどもの最貧国・日本」、山野 良一、光文社新書
        2.「週刊 東洋経済 2008年5月17日号: 子ども格差」、東洋経済新報社


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