咲かない桜                    咲:ヤマビコ L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L    「桜」     それには不思議な思い出がある     まだボクが小さかった頃     家の近所の街道は桜で有名な所だった     でも、ドンドン住宅開発が進み     桜は道が通るためにほとんど切り倒されていった     便利にはなったけど     人がその場所に集まることはなくなった     でも、ボクは春になるとかならずそこに行く     まだ一本だけ残っていることを知っているから     そう、ボクだけの特別な場所...     でも、その日だけはいつもと違った    「せんきゃく」がボクの場所に居た     そこには見知らぬおばあちゃんが座っていた     ボクはこの桜が咲かない事を知っている     だから、「おとな」がここに来ないのも知っていた     でもボクはココに来る     いつかこの桜が人を呼び戻してくれると信じて     おばあちゃんはずっと桜を見ている    「おとな」なのにどうしてここにいるのだろう?    「おとな」は咲かない桜は見に来ないはずなのに ボク:「何をしているの?」 お婆:「桜をみているのだよ」 ボク:「でも咲いてないし、この桜は咲かないよ?」 お婆:「…咲かない桜に意味があると思うかい?」 ボク:「ボクはあると思うけど、『おとな』は…」 お婆:「…もう咲いても意味がないのだよ………」 ボク:「どうして? どうして意味がないの?」 お婆:「咲かない桜に大人達は興味を示さないし、 咲いたとしてもこの桜は切り倒されることが決まっているしね」 ボク:「じゃあなんでこんな所に一本だけ残ってるの?」 お婆:「お金がなくなったからだよ。お金ができればこの先の道も作られる」 ボク:「そんなの…絶対に違う! いつか咲いてくれるのを待っているんだよ! だってこの桜は一度も咲いたことがないんだよ?      可愛そうだから咲くまで待ってくれてるんだよ!」 お婆:「…咲いたって誰も見てくれないからだよ」 ボク:「…え?」 お婆:「この桜は街道から離れた場所にあったし、咲いても他の木に隠れて見えなかったんだよ。…折角咲いても誰も見てくれない…      …やっと見てもらえるようになったと思ったら…今度はこれか………もう…咲いても意味がないのだよ…」 ボク:「…じゃあ、ボクがいつもここに来ていたのは無駄だったってこと!?      今日はあの桜が咲いていたらいいなって楽しみにしていたのは駄目だったってこと!?」 お婆:「…そういえばいつも坊やはここに来ていたね」 ボク:「・・・?」 お婆:「…いつも高い所から見ていたよ… でもねぇ…」 ボク:「おばあちゃんは咲いたところを見たくないの?」 お婆:「…」 ボク:「見たいからここに来ているんだよね? じゃあ、咲く意味があるじゃん」 お婆:「…そうだね」 ボク:「明日、咲いているといいね」 L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L              次の日... 桜は無くなっていた L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L L     それから数年経って、ふいにあのお婆さんの事が気になったので、「あの場所」に行ってみた。     するとそこには、まだ新しい道路の脇に小さな苗木があった。     …後ろの方から声が聞こえた。     振り返ってみると、そこには知らない少女が立っていた。 少女:「また見に来てくれたんだね」       2004/ 4/16  Copyright (C) 2004 YAMABIKO All Rights Reserved.