インスリンは怖くない

〜インスリン療法を薦められたら〜

2001/05/30 水曜日

     
インスリンとは? インスリン療法とは? インスリン注射を必要とする場合
インスリン製剤の種類 インスリン注射のコツ あなたは1日何回注射法?
低血糖の対策と予防 シックデイとは? シックデイ対策の基本
シックデイの食事 シックデイのインスリン注射 血糖の自己測定

  インスリンとは?  
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血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれてエネルギー源として利用されるために必要不可欠なホルモンです。

膵臓のランゲルハンス島という細胞の中のβ細胞から常に一定量のインスリンが分泌されています(基礎インスリン)が、食後には高くなった血液中のブドウ糖をエネルギーに変えるためにさらに追加のインスリンが分泌されます(追加インスリン)。

インスリンが不足したり、分泌のタイミングが遅かったり、細胞側にインスリン抵抗性があったりすると、ブドウ糖が細胞内に取り込まれにくくなり、血液中に利用されないブドウ糖が貯まって高血糖となります。

インスリンの作用・・・糖代謝以外にも

  • ブドウ糖の細胞へのとり込み
  • 肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成
  • 糖新生の抑制
  • グリコーゲン分解の抑制
  • 脂肪組織での脂肪合成の促進
  • 脂肪組織での脂肪分解の抑制
  • 筋肉でのアミノ酸のとり込み
  • 筋肉や細胞での蛋白合成の促進
  • 成長因子
  インスリン療法とは?  
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インスリン注射はホルモン療法の一種と言えます。不足している量のインスリンを注射によって補充し、DMではない人のインスリン分泌パターン(基礎インスリンと追加インスリン)に可能な限り近づけて、血糖コントロールを改善することです。

インスリン注射をすると、自分の膵臓はもうインスリンを作らなくなってしまうのではないかと心配する人がいます。
例えば、副腎皮質ホルモンの薬(飲み薬、注射)は、長い間投与を続けると、自分の副腎皮質が萎縮して、副腎皮質ホルモンの分泌が著しく低下します。これは、副腎皮質ホルモンの合成が脳下垂体から分泌される刺激ホルモンによって調節され、体の外から副腎皮質ホルモンを投与すると、脳下垂体からの刺激ホルモンの分泌が抑えられてしまう、という仕組みがあるからです。
しかし、インスリンを合成・分泌するランゲルハンス島の細胞(β細胞)は、副腎に見られるような刺激ホルモンの調節は受けていません。ですから、インスリンを外から注射しても、β細胞が萎縮してしまうことはないのです。むしろ、高血糖の状態が長い間続いていると、やがて膵β細胞の疲弊が起こってくると言われています。外からインスリンを注射して、血糖を良い状態に保つことができれば、自分の膵β細胞は休息を取ることができるわけで、インスリン分泌の働きは温存されると考えられています。
インスリン注射をすると、自分の膵臓でインスリンが作られなくなるというのは、誤解です。

IDDMでは膵臓のβ細胞の働きがほとんど失われてインスリンが分泌されないため、インスリン注射が必要不可欠です。もっとも、インスリン注射を行っているDM患者の多くは、NIDDMです。

  インスリン注射を必要とする場合  
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a. 糖尿病性昏睡(ケトン性、非ケトン性)
b. インスリン依存型糖尿病(IDDM、SPIDDM)
c. コントロールが不安定な糖尿病(不安定型糖尿病)
d. IDDMではないが、次のような場合
 ・ 重症の感染症の合併
 ・ 重症の肝臓病、腎臓病の合併
 ・ 糖尿病の妊婦
 ・ 大きな手術を受ける場合
 ・ 大きな怪我をした場合
 ・ 栄養補給のために高カロリーの輸液を受ける場合
e. その他、食事療法や経口糖尿病薬でコントロールが得られないすべての糖尿病

  インスリン製剤の種類  
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ペン型インスリン注入器

インスリン製剤の種類と作用持続時間の目安

・ ノボリン、モノタード・・・使い捨てタイプのシリンジ用のインスリン製剤
・ ペンフィル・・・ノボペン、ノボペンV専用のインスリン製剤ノボリンU注

種類 インスリン製剤 作用
持続
時間
特徴 外見


ペンフィルR注
ノボレットR注
ノボリンR注
 


皮下注射後、約30分で効果が現れる。
食後の血糖を抑えるのに最適。
食前に単独、または中間型製剤と混合して注射する。
透明


ペンフィルN注
ノボレットN注
ノボリンN注
NPH
24

  白濁
モノタード注 モノタード
製剤




ペンフィル10R注
ノボレット10R注
R10%
24

速効型(R)と中間型(NPH)が混合され、速効型と中間型の2つの効果を併せもつ。
ペンフィル20R注
ノボレット20R注
R20%
ペンフィル30R注
ノボレット30R注
R30%
ペンフィル40R注
ノボレット40R注
R40%
ペンフィル50R注
ノボレット50R注
R50%


ノボリンU注   24

28

持続化剤を多く添加し、皮下からの吸収を遅らせた製剤

インスリンの保存法

  • 使用中のものは常温保存が原則。
    ただし、火や暖房器具の近くなど強い熱源の近くや、直射日光やその他の強い光線にさらされている場所に置き忘れないように注意。

  • 未使用のインスリン製剤は、包装箱の中にいれたまま、冷蔵庫の扉の卵入れ、バター入れなどに保管。
    凍らせないこと。
    ペン型注入器(ノボペンなど)は冷蔵庫に入れると結露により故障の原因になる。

使用期限に注意

期限切れのインスリンは、原則として使わない。

ただし、正しく保存されていれば、使用期限が少し切れていても、効果は落ちない。
使用期限後、徐々に効力は落ちていくが、ただちに無効になったり有害になることはない。
使用期限を数ヶ月過ぎていても、やむをえない緊急時には使用することも可能。

 

  インスリン注射のコツ  
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・ 毎食前、30分前に注射する。(皮下注射されたインスリンが血液中に吸収され、効果を現すまでに30分ぐらいかかる。)
・ 自分が使っているインスリン製剤の作用時間を知っておく。
・ 食事療法の手を抜かない。食事の量、カロリーだけでなく、食事時間も規則正しく。
・ 注射場所は少しずつずらす。
・ ペン型注射器(ノボペン、ノボペンV、ノボレット)は、冷蔵庫には入れない。(故障の原因になる)
・ 未使用のインスリン製剤は冷蔵庫へ。室温でも大丈夫だが、高温で日光のあたる場所や、閉めきった自動車内などは避ける。凍結すると効力がなくなるので、冷凍庫には入れない。
・ 中間型、混合型の製剤は、注射前の混和を忘れないこと。

・ インスリンの吸収に影響を与える要因

注射の部位 お腹、上腕、お尻、大腿の順に遅くなる。 日によって注射部位を大きく変えると、血糖変動の一因となる。
足をよく動かす運動をする場合は大腿への注射は避けたほうがよい。
温度(気温、体温) 高温の方が速くなる。 入浴後の低血糖に注意。
血流 血流が多い方が速くなる。  
皮下注射の深さ 深く注射した方が速くなる。  
インスリン製剤の濃度 低濃度の方が速くなる。  
量の少ない方が速くなる。 同単位であれば40単位製剤の方が量が多く、100単位製剤の方が量は少ない。
インスリンの種差 ヒトインスリンの方が速い。  
  あなたは1日何回注射法?  
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注射法 朝食前 昼食前 夕食前 就寝前 対象
1日1回注射法 中間型       NIDDMで、膵臓からのインスリン分泌が比較的保たれている人
1日2回注射法 混合型   混合型   NIDDMでインスリン分泌の低下している人
IDDMで比較的インスリン分泌が保たれている人
朝は夕方の2倍から3倍の量を注射する
頻回注射法 速効型 速効型 速効型 中間型
持続型
IDDM。
中間型又は持続型で基礎分泌を補い、食前に速効型で追加分泌を補う。
強化インスリン療法 速効型 速効型 速効型 中間型 IDDM。
NIDDMで、インスリン分泌が著しく低下している人。
不安定型DM。DMの妊婦。
自己血糖値測定を含め、患者の自己管理が必須

 

 
 

 

 

  低血糖の対策と予防  
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低血糖は、重症の場合には稀に後遺症が残ることもあります。また、それほどひどくなくとも、状況によっては危険な場合もあります。例えば、運転中や高い場所での作業中に低血糖が起これば、思いがけない事故に繋がる危険もあります。
低血糖に対する反動で高血糖になることがあります。(ソモギー効果)
また、軽い低血糖で食べすぎてしまうと、コントロールを悪化させてしまうことにもなります。
さらに、低血糖が誘因で、眼底出血が引き起こされることもあると言われています。

インスリン治療の副作用としての低血糖は、稀に起こる症状ではありません。むしろ、低血糖は避けられないと考えた方がよいかもしれません。そのうえで、あらかじめ対処法を学んでおく必要があります。

インスリン療法では、低血糖を起こさず、よりよいコントロールを保つことが重要です。

インスリン治療に伴う低血糖の原因

食事の量が少なかったり、時間が遅れたとき
過激な運動や、空腹時に運動をしたとき
インスリンの投与量が過剰なとき
自己注射のミス インスリン製剤の混和が不十分だったとき
インスリンの量が多すぎたとき
インスリンバイアルとシリンジが一致していなかったとき
インスリンの必要量が減ったとき 肥満が改善されたとき
ストレスや感染症が改善したとき
ステロイドホルモン剤の服用量が減ったとき
妊娠で必要量が増えていた人が出産を終えたとき
IDDMで症状が改善したとき
インスリン分解が低下したとき 腎障害や肝障害が悪化したとき
インスリンの吸収が促進されたとき
インスリン注入ポンプが不調なとき(CSIIの場合)
アルコールや薬剤の影響があるとき インスリンの作用を強める薬 経口糖尿病薬
アルコール
サリチル酸
β-ブロッカー など
インスリンの作用を弱める薬 降圧利尿薬
副腎皮質ホルモン
交換神経作動薬
抗てんかん薬 など
  シックデイとは?  
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DMは慢性の病気です。治療期間中に他の病気にかかることは避けられません。特に、インフルエンザや胃腸の病気などは、どんなに注意していても、くり返しかかるものと考えなければなりません。

インフルエンザなどの感染症は、ある程度以上に重い場合には、身体に大きなストレスを与えます。ストレスが身体に加わると、副腎皮質や髄質のホルモン、グルカゴン(膵臓のA細胞から分泌される血糖値を上昇させる作用のあるホルモン)や成長ホルモンなどが分泌されます。これらのホルモンは血糖を上昇させる働きを持っています。そのため、インスリンの効果は普段より弱まることになります。そのため、いつもと同じインスリン療法をしていても、血糖コントロールが乱れがちになります。

食欲不振、下痢、嘔吐があるときは、脱水や血液電解質の異常が起こります。また、糖質の摂取量が減ると、身体の中で脂肪分解が起こり、血中のケトン体が増加します。高血糖、脱水、ケトン体の増加をそのまま放置し、適切な処置を取らないと、糖尿病性昏睡(ケトアシドーシス)を起こす危険性が大きくなります。

一方、食事の量が極端に減っているのに、いつもと同じ量のインスリン注射を続けたり、経口血糖降下剤を飲み続けると、低血糖になる危険があります。

ですから、病状に気を配り、自分の血糖値はいつもと比べて高いか低いか、尿にケトン体が出ているかを慎重に見極めて、適切に対処しなければなりません。

  シックデイ対策の基本  
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シックデイ対策の基本は、水分や食事の摂取不足を改善することです。
インスリン治療を行っている患者は、
決して自分の判断でインスリン注射を止めたり、インスリン量を大幅に減らしてはいけません。

また、次の症状のあるときには、主治医に相談して、緊急に治療を受ける必要があります。

a. 発熱が続くとき
b. 頭痛、腹痛、嘔吐、下痢が重いとき
c. 食欲がなく、ほとんど食事を摂れないとき
d. 体重の減少が著しいとき
e. 高血糖のとき
f. ケトン尿が続くとき

  シックデイの食事  
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食欲のないときは流動食を中心に、食べやすく、口に合うもの、特に糖質を主体とした、消化・吸収のよいものを選んで食べるようにしましょう。摂取不足にならないように、エネルギーの補給を常に心がけることが大切です。

発熱や下痢、嘔吐が続くときは、脱水を起こし、電解質(ナトリウムやカリウム)が失われます。塩分を含んだ味噌汁、スープ、果汁、スポーツドリンクで補給するようにしましょう。

  シックデイのインスリン注射  
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IDDM(インスリン依存型)

インスリン注射を中止したり、インスリン量を大幅に減らしてはいけません。
食事や水分が普段どおりとれる場合は、原則としていつもと同じ量のインスリン注射をします。
発熱もなく、食欲が多少ない程度のときは、インスリン量を少し減らす必要があるかもしれません。
シックデイのときは、少なくとも1日4回は血糖の自己測定をします。
尿糖が陽性で血糖値が高ければ(200以上)、尿ケトン体のチェックが必要です。
高血糖が持続する場合は、3〜4時間ごとに血糖を測定します。
高血糖のときは、いつもよりインスリン量を増やす必要があります。
追加するインスリンは、速効型インスリンを用います。
なお、嘔吐が続いて食事がまったくとれず、尿ケトン体の陽性が続くとき、血糖値が300以上が続いている場合には、緊急入院が必要になることもあるので、ただちに医師の診察を受けましょう。

シックデイのインスリンの追加量については、病状をよく把握している主治医の先生とあらかじめ相談しておいてください。

NIDDM(インスリン非依存型)

基本的にはIDDMと同じです。
食欲が低下して、実際に食事摂取量が減っていて、なおかつ発熱などがなければ、インスリン量を減らす必要があります。
高血糖でインスリン量を増やすときは、速効型インスリンを追加します。
中間型インスリンを1日1〜2回注射している場合は、中間型インスリンの量を適宜増量することになります。

経口剤で治療している場合は、食欲がなく、食べられないときには経口剤の量を減らさないと、低血糖を起こすことがあります。
ただし、感染症などの病気にかかっているときは、血糖を上昇させるホルモンが分泌されます。このため、食事がとれなくとも血糖コントロールが悪化することがあります。一時的にインスリン注射が必要になることも少なくありません。いずれにしても、主治医の指示を受けることが大切です。

  血糖の自己測定  
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日常生活の中で測定した数値は、インスリン注射の量を調節したり、運動や食事療法を実践する上で貴重な情報となります。

具体的には、毎朝食前に測定(空腹時血糖)して、1ヶ月に2〜4回くらいは、1日血糖を測定する方法が行われています。また、空腹時血糖を測定する代わりに、朝食前(空腹時血糖)と朝食後(食後2時間の血糖)を毎日交互に測定するのも、食後のコントロール状況を見ることができます。

血糖の自己測定をしていると、食事療法や運動療法の効果をすぐに実感でき、次に生かすことができます。例えば、低血糖の兆しがあれば実際に血糖値を測定して確かめることができます。また、妊婦さんは、自己測定のデータをためておけば、主治医はどの時点でのインスリンが足りないのかを知ることができます。

大切な点は、血糖値とともに、万歩計の歩数や低血糖症状の有無などの情報を記録しておき、次の外来診療の際に主治医に見せて、インスリン量の調節、インスリン製剤の変更、食事療法や運動療法の具体的な指導をしてもらうのに役立ててもらうことです。そのためにも必ず記録を取り、そのデータをよりよい血糖コントロールに活用しましょう。
ただ、あまり神経質になりすぎるのはよくありません。血糖測定そのものが自己目的化してしまったり、データに縛られすぎるのは禁物です。

インスリン注射を行っている患者で、主治医が必要と認めた場合は、血糖自己測定にも健康保険が適用されています。

血糖自己測定を行ったほうがよい人

・ IDDM(インスリン依存型)
・ インスリン療法をしているNIDDM(インスリン非依存型)
・ DMの妊婦さん
・ ポンプ療法(CSII)を行っている人
・ 地理的理由などで定期的な通院が困難な場合
・ 主治医が必要と認めたとき

血糖値測定パターン

理想は必要な時に必要なだけ測定できればよいのですが、自費で自発的に行っている方や、保険適用であってもセンサーの支給数が少ない場合、血糖値測定をどのようなパターンで何回行うか、いろいろなパターンが考えられます。
主治医の指示が特にない場合のご参考までに。

測定回数 朝食前 朝食後
2時間
昼食前 昼食後
2時間
夕食前 夕食後
2時間
就寝前
7 回
4 回      
3 回        
2回 1日目          
2日目          
3日目          
2回 1日目          
2日目          
3日目          
4日目          
5日目          
6日目          
1回            
1回 1日目            
2日目            
3日目            
4日目            
5日目            
6日目            
7日目            

 

 

このページは、ノボ・ノルディスク・ファーマ株式会社発行の「別冊ノボケアFriends・アピちゃんのインスリン療法ゼミナール」を参考にしています。