YAMADA CHILDREN'S CLINIC


インフルエンザ・・・2014.2.17更新



熱が出てから今これを見ている方は最後のまとめを先にどうぞ

タミフルに関する内容はタミフル副作用情報の変遷に書いています。

異常行動についての私の考えは、speculation:異常行動に関してに書いています。

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急に高熱! インフルエンザ? 検査しなきゃ! ちょっとその前に

 インフルエンザは4〜5日で解熱し自然治癒する病気ですが、このお話をすると「えっ!そうなんですか?」と返ってくることが稀ではないことに驚かされていますが、タミフルが使えるようになってから「インフルエンザは すぐに病院を受診して検査をしてもらい、インフルエンザの特効薬(タミフル)を飲まないといけない。」と思っておられる方がまだまだ多いようです。実際、まだテレビの情報番組ではこのように説明されているのを見かけます。この説明では不適切な部分があり誤解が広がっています。インフルエンザかどうかはっきりしない場合、迅速検査は有効な診断根拠の一つですが、常に必要なわけではありません。この検査は本来、流行直前のインフルエンザの診断や典型的でない症状や状況(季節外れなど)の場合に有用なものです。流行中にインフルエンザの可能性が高い場合(後述)は、検査なしでもタミフルは処方できますし、そのほうが早く治療が開始できます。もう一つ大事なことは、インフルエンザで熱が出て直ちに(特に6時間以内で)迅速検査を行っても、結果は陰性、つまり「インフルエンザではない」という結果(false negative)が出る可能性が約半数にも登り、早く検査するほど陰性となる確率が高くなります。「すぐにわかる検査」として有名な迅速検査は、検査開始から結果までは早い(5〜15分程度)のですが、発熱と同時に判明するということではありません。保険診療で通常認められる迅速検査は原則1回です。(追記:2008年3月、佐賀県では二回目の検査を保険診療として認めようとする動きがありますが、その後でも認められなかったケースが存在します)特効薬のタミフルは48時間以内に飲めば有効ですから、誰もが信頼性の高い検査をするには少なくとも6時間ほど経過した時点から翌日までに検査をすれば間に合います。「早めに病院へ」とか「すぐに検査をして」というのは「少なくとも48時間以内に検査を!」という意味だと理解して下さい。しかし、タミフルの服用開始時期はその作用機序から早ければ早いほど効果が期待でき、臨床上も服用開始が発熱から24時間までとそれ以降では明確に差が出ています。(NEJM)したがって、診察のみで明らかにインフルエンザと考えられる場合は検査をせずにタミフルをもらう方が効果的という事になります。家族内に検査でインフルエンザとわかった人がいて、数日中に次々とインフルエンザ様の症状が広がった場合などはこれに当てはまります。しかし、このやり方が多くなると今度は後で「じつは違っていた」というケース(clinical false positive)がわずかに紛れ込みます。厚労省は発熱のみでタミフルが処方される例をなくすため、「A型またはB型のインフルエンザと診断された患者のみが対象となる」ように添付文書の改訂を指示しました。前述のような家族内感染では、型別は同じですので、全員検査する必要はないと考えられます。2007.4.19


(ここはやや医療サイドの話になります)  海外の内科領域の調査結果ですが、対費用効果(cost/performance)としては、インフルエンザ様症状の場合、検査せずにタミフルを処方した方が良いことがわかっています。小児ではやや事情が異なり、インフルエンザ以外の急性疾患の発熱も少なくないため、先ほどの偽インフルエンザの割合が若干増えることになりますが、それでも対費用効果は同じ結果が出るのではないかと思われます。数年前から救急外来や一般外来でもよりいっそう混雑を招くことになったインフルエンザの迅速検査と特効薬のタミフルですが、この混乱と日本での使用量(全世界のタミフル生産量の70%)を考えれば、いつ耐性ウイルスの流行がおこっても不思議ではありません。厚労省は備蓄のことは頭にあっても、保険診療がタミフルの耐性に拍車をかけていることはあまり考えていないようです。隣国から「日本で湯水のごとく使うので鳥インフルエンザに耐性が出ている」と言われてしまっていて、日本のインフルエンザの治療は少しばかり恥ずべきことだと感じます。医療現場の混乱を改善するにはいっそ薬局やコンビニで販売してしまった方がいいのかもしれません。ちなみに耐性化で使えなくなってしまったアマンタジンは処方箋なしで購入できる国があり、耐性化に拍車をかけた一因とも考えられています。
(皮肉ってしまいましたが、新型インフルエンザの危惧もあり、毎年ずっと有効であって欲しいものです)

補足:タミフル耐性は年々増加し、アマンタジンと同じ運命になる可能性が現実味を帯びてきました。2008.2.3
   新型インフルエンザの影響で耐性ウイルスが影を潜めている状態が続いています。2012.12.21


ワクチンは効くの? 2回がいい? 妊娠中はどうなの?

 効く、効かないで議論が絶えない所ではあります。「ワクチンを2回も打ったのにかかってしまった!」ということが起こるからです。このことについて説明します。これはワクチン自体が効果の高い「生」ワクチンではないことや、予測が外れたり、変異株が出てきて抗原性が大きく変化したりと、不確定要素が絡んでいるので、その年によって有効率が違ってきます。また、インフルエンザワクチンの効果は、基礎免疫がどれほどあるかということも大きく係わってきます。過去のA/ソ連/(H1N1)、A/香港/(H3N2)、B/ビクトリア、B/山形など(さらに多くの細分類があります)それぞれのインフルエンザ感染の既往の有無で、基礎免疫の程度とバリエーションが各自で異なってしまいます。過去に類似の抗原性を持つインフルエンザにかかっていた場合、交差免疫がある程度機能します。インフルエンザワクチンはこの基礎免疫を土台にして、この上にワクチンで得た免疫分を積み上げることで成り立っていると考えるとわかりやすいでしょう。したがって、交差免疫がほとんど期待できない低年齢(特に乳幼児)で有効性が低くなるのはこのようなことがあるからであり、このために1回では不十分とされるのです。つまり、効くか効かないかのいずれかではなく、効く場合と効果が不十分な場合の両方が入り交じっているのです。また、その人の生活圏(行動範囲)内で、どれだけ多くの人がワクチンを打ったかということも関与します。ちなみに効果が発揮されるまでは2週間かかります。いずれにしても有効性に関しては、さらに信頼性の高い効果判定を期待したいところです。

追記
日本では13才未満のワクチンは2回接種、2〜4週間隔とされています。なお、接種間隔が短いほど1回接種と変わらない効果になってしまいますので早めに余裕を持って受け、出来るだけ4週間あけましょう。CDC (Centers for Disease Control and Prevention)では、インフルエンザワクチン2回接種は8歳以下全ての人が享受できるワクチンであり、小児領域では特にリスクの高い6ヶ月から5歳の誕生日までの小児には強く接種を進め、同居家族も行う方が良いとしています。前述の CDC や Advisory Committee on immunization PracticesやOrganization of Teratology など多くの専門医学研究機関が妊娠中のインフルエンザワクチンを「望ましい」(リンクはCDCで英文です)として推奨していますが、日本では国内での安全性のデータが出されていないために、添付文書に「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断されると思われる場合にのみ接種すること。」と書かれており、これが普及を妨げている根本的な問題です。日本医師会のQ&Aでは「自然流産が起こりやすい妊娠初期は避けた方がよい」として、ワクチン接種に濡れ衣を着せられないように配慮した説明となっており、これはCDCの妊娠13週以降とする勧告とほぼ同様と考えてよいでしょう。結論としては、妊婦におけるインフルエンザワクチンは一般に推奨されるが、「子供の予防接種はかかりつけの小児科で行うのが望ましい」ということと同じで、妊婦さんはかかりつけの産科で特別なリスクがないことが確認できれば、接種が望ましいと言えるでしょう。
2012.12.21 接種間隔の期間に関する改訂)

医療従事者の方向け
ワクチンは添付文書通りに良く撹拌してから注射器に吸わないといけません。無色透明なので混ぜなくてよいと思い込んでいるスタッフの方がいるとしたら、その医療機関での乳幼児の有効率は低くなり、接種したのにかかってしまったという人が増えてしまうでしょう。(ワクチンを打ったのにかかったとしても撹拌されていなかったということにはなりませんので念のため)
(2007.2.24 追加)




解熱剤は使わない方がいいの?

 患者様から時々お伺いするのが、インフルエンザに限らず「熱を出させる方がいい」とか、「出し切ってしまった方がいい」と考える方がおられます。これは体温が高いとウイルスの増殖速度が遅くなったり早く減少する場合があり、熱を人並み以上に心配する保護者の方と説明する医師の両者にとって都合の良い説明でもあり、もう一つは解熱剤の使い過ぎをたしなめる意味をこめて説明されて広まった知識と思われます。また、インターネット上ではアセトアミノフェンと他の解熱剤を、明確な区別もなくあるいは混同して説明している内容が見受けられ、アセトアミノフェンに対する必要以上の不安を助長しているということも知っていただく必要があります。医師のなかにも「発熱は防御反応の一つだから、どんな場合であっても下げてはいけない」とする意見は少数ですが根強くあります。一見納得しやすいのですが、すべてをこの理論で押し通すのはやや偏った考えのように思われます。またこういった意見の方は「解熱剤よりクーリングが良い」とする方が多いように思いますが、「効果的なクーリングは熱が下がるので良くない」という変なことになってしまいます。(冷Eピタや熱さまし〜トならほとんど熱を下げないので良い?)例えば、咳嗽(せき)、鼻水、嘔吐、下痢は防御反応として起こりますが、無駄に症状が出たり、必要以上に症状が激しすぎたりすることもあり、これが原因で結果としてはダメージの方が大きいこともあります。百日咳の咳然り、嘔吐下痢症の脱水然り、アレルギー反応然りで、人の防御反応がすべて完璧に働くとは限らないのです。発熱も必要以上に高熱が出てしまう暴走が起こることがわかっています。高熱とともに悪寒戦慄が続くのを良いことと納得して眺めているより、高熱が過度のストレスにならないように看病することを考える方が良いでしょう。決して解熱剤をどんどん使うことを勧めているわけではありません。熱が高くてもつらくない場合はそのままでかまわないでしょう。熱を下げて元気になり活発に遊ぶことで安静が保てないのも考えものですが、少なくとも一律に熱を下げない方が良いとすることはできないでしょう。インフルエンザウイルスは体外では低温を好みますが、私の知る限り、体内での感染増殖の場合、解熱剤(アセトアミノフェン)を一切使わない方が明らかに早く治るとか、逆に使って下がった分長引くといったことが臨床的に確かめられたことはないと思います。最近の調査でも発熱期間は長くなる傾向はあっても有意ではない(統計的には差がない)という結果でした。仮に解熱剤を使わない方が1時間早く治るからといって、丸4日間高熱が続くのと、時々熱を下げて1時間長くなるのと、どちらが良いかは人によって異なり、いずれを選択するのも個人の自由でしょう。他の病気も含めて、発熱期間は解熱剤(アセトアミノフェン)とはほぼ無関係、解熱剤によって総発熱時間は減少と考える方が一般的です。むしろ使用法を守って上手に利用してあげる方がメリットが大きいでしょう。小児に安全な解熱剤はアセトアミノフェンです。とりわけインフルエンザやみずぼうそうはこの解熱剤だけ使ってよいことになっています。
 なお、解熱剤(アセトアミノフェン)で熱を下げる場合、必ずしも平熱にならなければ異常ということはなく、インフルエンザの様に熱の勢いが強い疾患の場合では38.5度以下であればそれで良いと思われます。「39度台までしか下がらない」といったこともしばしばですが、意識が正常なら心配ないでしょう。なかには異常と診断する熱型もありますが、この判断は難しく、医師に任せて頂くのが良いと思います。
発熱に関しては発熱について詳しくは別のページ「1. 高い熱!・・・」にも書いていますのでご覧下さい。


脳症が心配! 熱は下げた方が良いという最新の研究結果

 インフルエンザで怖いのは乳幼児でごく稀にインフルエンザ脳症が発症するという事でしょう。徳島大学 病態分子生物学の木戸博教授による最近の研究ですが、「重症になった人では特定の遺伝子の2カ所で塩基が変異しており、重症でない人は、少なくとも一方で変異がなかった。変異がある遺伝子を持っていると、体温が高い場合に酵素の働きが悪くなり、脳症が重症化するらしい」ということが実験的に確かめられ、最後に「インフルエンザでは熱は下げた方が良い」と結んでいます。この研究からは、熱が高くても誰でも熱性痙攣を起こすわけではないというのと同様に、特有の体質と密接に係わっていて、だれでも脳症になるわけではないということになります。また欧米に少なく日本人に多いといった人種間での発症頻度の違いも説明できる可能性が出てきました。この論文はどれだけの小児科医に支持されるか、あるいは否定論文がでるか、今後を見守らないといけませんが、大きな発見ではないかと思います。これから遺伝子の情報をもとに体質別に治療することが増えてゆくと思われますが、将来インフルエンザもそういった治療を行うことになるかもしれません。

そのうち「冷Eピタや熱さまし〜ト(を信用して解熱剤を使わなかったこと)で脳症になった」とメーカーを訴えるなんて時代がほんとに来るかも・・・


インフルエンザ迅速診断検査のタイミング

ご注意:この枠内は当クリニック独自の暫定基準です

発熱がありインフルエンザの疑いで受診されるお子さんに検査を行っても、時期が早いために期待する結果が出ないことが少なくありません。不快な検査ということもあり、再検査を行うことはあまりお勧めできません。このため、当クリニックで綿棒による鼻汁採取法を行う場合には暫定的に以下のような目安で検査を行うことをお勧めしています。(一般に広く行われているのは検査キットだけで行う綿棒による鼻汁採取法です。)


Chart インフルエンザ
発熱から迅速検査施行までの時間の目安
(綿棒による鼻汁採取法の場合)
平均体温経過時間
咳・鼻水が多いか、前日からある咳・鼻水がほとんどない
39.0℃以上(6*〜)12時間12〜18時間
38.0〜38.9℃12〜18時間18〜24時間
37.5〜37.9℃18〜24時間24〜36時間
37.0〜37.4℃24〜36時間不要または36時間

  • 注意:検査キットの感度により異なります。
  • 発症翌日の検査成績が一番良いとされています。
  • 上記の基準は検査成績を上げるための考案したもので、明確なエビデンスに基づくものありません。
  • 鼻水は垂れていなくてもグスグスいうようなら「あり」とします。
  • 最近の調査によると12〜18時間後の検査でも約1/4は陰性です。
  • (6*〜): 特定の検査キットのみ
        (2010年10月6日追記)

■ インフルエンザの疑いで救急受診が必要な例 ■
  • 息苦しそうで呼吸が速い
    (熱が高いときにやや速くなるのは異常ではありません)
  • 顔色や唇の色が悪い(赤みがない・やや紫色・蒼白)
  • 落ち着きがない、反応が鈍い、視線が合わない
  • 症状が長引いて悪くなってきている(発熱が3日以上など)
  • 息切れがする
  • 胸の痛みがある
  • 嘔吐が続き水分が摂取できない
  • けいれんがある、止まらない、繰り返す
  • その他、異常と思われる場合



新しい出席停止基準(登園登校基準)平成24年4月1日から施行

発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児にあっては,3日)を経過するまで

文部科学省:学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)

 

タミフル副作用情報の変遷

 異常行動が注目される前からタミフルの副作用を重大ととらえている人たちが見受けられます。医薬品監視と称して薬害を訴える民間機関はタミフルを脳症の原因だと決めつけていますが、決定的な根拠となる新たなデータを出しているわけでははなく、それまでのデータに対する考え方の違いや思い込みのバイアスがかかった直感的な判断と思われ、実際のデータを収集し検討した厚労省や日本小児科学会の見解とはかけ離れています。(これについては後述しています)また、「本剤は1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)への使用経験がなく、有効性、安全性及び 用法・用量は確立していない。なお、国外臨床試験においては体重 8.1kg 未満、国内臨床試験にお いては体重8.5kg 未満の幼小児に対する使用経験はない。」という制限があります。1歳以下は治験の対象外ですので、このような但し書きがついています。(ちなみに小児に最も安全とされてから20年以上経過したアセトアミノフェンでもまだ「小児等に対する安全性は確立していない」という文章が添えられていました。厚労省は2007年3月28日にこの文章を削る方針を明らかにしました)それでも私を含めて多くの小児科医が1歳未満でも処方しました。投与せずに重症化し脳症まで進行することを考えたら1歳と11ヶ月のリスクの差は問題にならないと考える医師は少なくなかったのだと思います。この1ヶ月のリスクの差は2ヶ月以上のケースもありました。新薬は最初はすべて似た様な但し書きがつきますが、これは即危険を意味するものではありません。2004年タミフルのメーカーでは「幼若ラットで毒性試験を行い1000mg/kgの用量(人の治療に投与するのは2mg/kg/回の用量)を単回投与し、7日齢、14日齢、24日齢及び42日齢のうち、7日齢と14日齢に死亡例があったが、500mg/kgでは問題はなかった」という結果から、1歳未満の患児には投与しないように勧告しましたが、小児科学会から回答を求められた厚生労働省は説明と危険性に配慮する必要があるが、禁忌ではないという見解を出しています。日本小児科学会はタミフルを投与した1歳未満の乳児の副作用データを集計し、乳児737例中、タミフルDSとの因果関係が疑われる副作用として、下痢(13例)、嘔吐(5例)、軟便(3例)、低体温(2例)、発疹(1例)などの症状が見られ、現時点では危険性は高くないとしています。しかしながら症例数から約0.13%未満の副作用は把握できていませんのであくまで中間報告としています。最近「突然死がおこる新型脳症」というのが報告されています。発症率は従来の脳症よりさらに少なく20〜50分の1程度かと思われますがはっきりしていません。タミフルとの関連が指摘されてはいるもののタミフルを使用していない人にも認められているため、タミフルだけが原因ではないとも考えられていますが、増悪因子としての関与は否定できないかもしれません。また、幻覚や異常行動/異常言動の報告もあります。添付文書にも頻度不明の副作用として記載があり、ニュースでも取り上げられました。インフルエンザでは、タミフルを服用していなくても、特に幼児・学童でこのような一時的な幻覚状態が起こりやすいことは、臨床経験から知っている小児科医は多いのですが、タミフルによる症状の増強など様々な原因が推測されます。これも日本国内での消費量が大量であるが故に報告も多いのでしょう。厚生労働省は薬と死亡との因果関係に否定的見解を出していましたが、2007.3.22に再判定の意向を発表しています。

 横浜市立大発生成育小児医療学教授 横田俊平氏らの調査「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」では、0歳から61歳まで(主に0〜12歳)の患者を診察した医師から2846件、患者・家族からのアンケート2545件の回答を調査し、タミフル服用群(2560人)の11.9%、非服用群(286人)の10.6%と、いずれの群も異常行動が現れていたことがわかっています。(なお、この調査における服用群の中には服用前に異常行動が見られたものも含まれています)しかし、両群間に発生率の有意差は認められず、多変量解析(統計)でも、タミフルの投与と種々の異常行動との間に明確な関連は見られなかったという結果です。さらに、異常行動の発現はほとんどが発熱初日から2日目に集中していることから、この間は患者から目を離さないようにすることが大事でしょう。
(2006.12.23 追記)

 タミフルの添付文書には「精神・神経症状として、意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等が現れることがある・・・」とあります。(ニュースでもこのことを説明していました)一般の方が見るとタミフルの症状と確定しているように思われるのも無理ないのですが、このようなまれな症状は多くの医師が原疾患の症状だろうあるいは無関係だろうと考えているようなものでも、原疾患と薬物のどちらが原因なのか証明できなければ、注意を喚起する目的もあり、最近はほとんど注意書きとして添えられるようになり、必ずしも薬剤の副作用とは限らないというのが現実です。疑わしいことでも注意を喚起していた方が国も製薬会社も裁判などに発展した場合に有利に運べるという側面もあるからです。(あとは説明が不十分な医師の責任が大きく問われることになりますが、膨大な添付文書の注意書きをもれなく説明するなど時間的に非現実的であり、さらには風邪薬程度の処方でさえも毒物のようなイメージを与え兼ねない説明になり、聞く方としてもうんざりでしょう)当院の場合はニュースになっていることと質問を中心に的を絞って説明しています。
(2007.2.28 追記)

 2007.3.21 午前0時、厚労省はタミフルの使用制限に踏み切る会見を行い、タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)をウェブサイトのホームページ上に発表しています。その内容は添付文書の改訂で、要旨は以下の通りです。また、中外製薬もタミフル(R)を服用される患者様・ご家族・周囲の方々へ|中外製薬株式会社を発表しています。

タミフルドライシロップ3%添付文書の改訂部分(タミフルカプセル75もほぼ同じ内容)
【警告】
  1. 本剤の使用にあたっては,本剤の必要性を慎重に検討すること。(注:今回の改訂部分ではなく発売当初より記載がある。)
  2. 10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
    また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、[1]異常行動の発現のおそれがあること、[2]自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。
    なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。
  3. 本剤の予防効能での使用は推奨されていない。(注:ドライシロップのみ。今回の改訂部分ではない。)
    インフルエンザウイルス感染症の予防の基本はワクチン療法であり、本剤の予防使用はワクチン療法に置き換わるものではない。(注:カプセル75の場合の内容。今回の改訂部分ではない。)

原則という言葉が使われており禁忌にはなりませんでした。入試直前などで強い要望があった時には配慮できればよいのですが、当面は処方は困難です。ひとまずこれで様子を見たいという風に受け取れます。やむを得ないといったところでしょう。先日、小児科のメーリングリストにも意見を述べたのですが、自動車と交通死亡事故の Risk-Benefitでは、事故が起きないように十分注意して利用しましょうというところで落ち着いているわけです。(病院にくる途中の交通死亡事故も起こり得るのですが、だから病院に来るなと言うことにはならない、交通死亡事故があるからと言って世の中から車を無くそうとする声は上がってこない)個別のRisk-Benefitに配慮できても良いと思うのですが、まだ混乱は続きそうです。さて、服用中に誕生日が来る9歳、1〜2日で20歳になる患者さんはどう対処しましょうか・・・。保険審査担当者の意見をお聞きしたいところです。
(2007.3.22)


 タミフルの製造元であるロシュは日本での動きを見てタミフル服用との因果関係は証明できないとする声明を発表しており、日米の調査研究からタミフルを服用した患者は世界で約4500万人、異常行動はは37,000人に1人、死亡例は5,000,000人に1人とし、米国の健康保険記録ではタミフルを服用した患者の異常行動の発生率の方が低かったと説明しています。
欧州医薬品審査庁(EUの政府機関)は、添付文書を改訂する方針を出し、「因果関係は不明ながら異常行動や幻覚の報告がある」と加え、子供や若者などの患者には十分な監視が必要と勧告するようです。なお、欧州では幻覚を起こす例はあるが飛び降り行動はないため、日本のような10代の患者に対する処方中止は行わないようです。庁の医薬品委員会は適切な指示の下で使用されれば利益が危険性を上回るとの見解も出しています。
(2007.3.24)


 
Speculation:異常行動に関して

 一部の小児では病気と無関係にいつもと異なる時間(夜中など)に起きたり、いつもは寝ない時間に寝ていて起きた時など夢と現実が交錯した明らかに認識異常(失見当識など)のある異常行動が一時的に観察されることがあり、必ずしも発熱しているとは限りません。おそらくこれは脳と体の睡眠の周期のズレなどがきっかけで発現していると考えられます。このような行動は幼児〜学童に多く、次第に見られなくなりますが、これはインフルエンザの異常行動と酷似しています。このような「引き出し」を持っている人は一定の割合で存在し、あとはそれが引き出される誘因の有無や引き出され易さが係わっていると考えられます。そしてインフルエンザの感染そのものがこのような異常を引き出す誘因となる場合があり、高熱だけが原因ではないであろうと考えられます。自分が高層階にいるにもかかわらず、学校など平地にいるという認識異常があれば、教室を出てトイレに行こうとするだけで「飛び降りた」という結果になってしまいます。仮に怖いという感情が生じた場合、幼児では親に助けを求めるなどといった家からは出ない行動をとりやすいと考えられますが、年齢が上がると自分で逃げ出すという行動をとりやすくなると考えられます。*また、以前から気になっているのはゲームの疑似体験で、高いところから飛び降りたり、空を飛んだりすることがあるので、このようなゲームの経験が多いほどリスクが高まることが考えられます。(*以降2007.6.4追記)通常タミフルを服用しなかった場合、高熱のため倦怠感が強くて体を動かそうとせず、意識もうろうとしていることも少なくないため、幻覚があっても異常動や悪夢で終わってしまい、現実の行動に出にくいといったことが考えられますが、タミフルを服用すると解熱とともに倦怠感も軽減して体が軽くなり、必然的に認識の異常や思考の異常が現実の行動となって現れやすいとも考えられます。タミフルが市場に出る前にも発熱時の転落事故は起こっているようなので、わずかな確率(約1/1,000,000程度)で事故が起こり易いのかもしれませんが、これを副作用と言ってしまうことにも問題があると考えます。異常行動のパターンが変化するのはタミフルが関与するのかもしれませんが、飛び降りはこれに伴う事故です。風邪薬を飲んで車を運転して居眠り事故を起こしても交通事故は風邪薬の副作用ではありません。この点では厚生省の見解や異例と言われている「48時間目を離さないように・・・」とした通達はそれなりに評価しています。(眠気が出る風邪薬に、車の運転や機械の操作に従事しないという警告がついていることと同じです)しかし本来行うべきことは、タミフルの保険適応をやめるか、年齢制限だけではなく他の条件との組み合わせで限定することです。(2007.3.1 追記)

 ついにタミフルの保険診療が限定されました。理由は目を離さない様にしていても事故が防ぎきれないためと説明しています。出来れば「この年齢を制限」という形だけでなく、「この年齢層には推奨される」という文面とセットにすればもっと良かったでしょう。医療機関への通達がニュースより後回しにされ、患者に教えられた当直医もいたことでしょう。いかにメディアに振り回され、いかに現場への配慮が欠落していたか、余裕のなさを感じます。影響力の大きい方針転換を窓口である医療機関が知らないなどということは一般企業では到底あり得ないことです。さて欧米では飛び降り行動は観られないないようですが、処方数の絶対数が少ないから上がってこないのか人種間で差があるのかは不明です。しかし、インフルエンザで脳炎・脳症が日本人に多いことはわかっており、ごく一部の人が持っている遺伝子型によって合成された特定の酵素は高熱で活性が低下し、これが大きく関わっている可能性が指摘されています。事故の報告数と日本での使用量を対比すれば異常行動が人種間での発生率に差がある可能性は十分に考えられ、差があると仮定すれば、脳炎・脳症に見られるような遺伝子変異が関与している可能性もあると推察できます。また、このような熱に弱い人は、意識もうろうとなり睡眠のリズムが狂ったり幻覚が起こり易い状態から、タミフルによって速やかに回復機転が始まった場合、意識の回復が追いつかない状況が発生し易いのではないかとも考えられます。
(2007.3.24 追記)

 タミフルを服用して異常行動をとった症例で、「以前もインフルエンザにかかったときにタミフルを服用しているが、そのときは何もなかった」という症例が複数ありますが、この様な症例で言えることは、明らかに違っているのは、ウイルスの株、その株に対する既得免疫(ワクチンや交差免疫)、やや違いがあるのは、年齢、服用のタイミング、発熱の程度、変わってないのはタミフルの化学構造であるという事です。
また、タミフルの服用時間に関連して異常行動が出ている例もあります。このような症例は関与を疑わせるものですが、服用の有無での発生率に差がないという結果から言えるのは、服用により異常行動が抑制されたものも同程度あり相殺されている可能性が示唆され、この場合は「タミフルは関与するが全体のリスクを押し上げてはいない」ということになります。
(2007.5.20 追記)

 異常行動、インフルエンザ脳症、熱性痙攣などは脳に起こる異常であり、すべて欧米人に比べ日本人に多いことがわかっています。日本の島国といった地理的環境では民族特有の遺伝子が受け継がれる確率が高く、この様な観点から考察すると何が原因なのかが見えてきます。

報道に関わる方々はドラマチックな展開を期待しすぎていませんか? それが原因でパニックを引き起こしていることにもっと早く気付いてください。疲弊した小児科医が社会問題となっている最中、さらに追い詰める報道を流し続けることを反省してください。科学的な内容の報道の前に中立した専門家に意見を求めてください。リレンザの服用後に異常行動なんて報道は意味がありません。たとえ服用しても人体にはほとんど吸収されないのです。だから吸入薬としてしか使えないのです。新しければ何でも報道すれば良いわけではありません。真っ先に報道しなければ報道関係の受賞を取り逃がすなんて考えている人がいるとしたら考えを改めてください。多くの賞は優れたものに与えられるのです。

(2009.2.8 追記)



パニック煽動型マスメディアで有名になった飛び降りなどの行動異常ですが、こういった以下のニュースもひっそりと報道されています。
(リンクは時間がたつと削除されますのでリンク切れが増えていますがご了承下さい。)

■ 北九州でインフルエンザの14歳男子、タミフルは服用せず飛び降り 2007年3月23日配信 読売新聞
■ インフルエンザ:感染の中学生、飛び降り タミフル服用せず 横浜市 2007年3月30日配信 毎日新聞
■ 小6が転落死 タミフル服用せず−−京都・伏見区 2007年4月2日15時3分配信 毎日新聞
タミフル以外にも異常行動、厚労省部会で報告 2007年4月2日15時3分配信 毎日新聞
目覚め直後に異常行動多発 タミフル、患者に記憶なし 2007年5月15日配信 共同通信社
■ 脳からタミフル検出されず、服用後転落死の中1男子 2007年7月24日10時18分 読売新聞

タミフル大量使用時、河川介しウイルス耐性化の恐れ・英チーム  2007年6月02日
タミフル、異常行動との関連みられず…動物実験で中間発表  2007年10月24日21時31分 読売新聞
タミフルと睡眠障害の関係、厚労省部会が否定見解まとめる2007年11月22日0時12分 読売新聞
タミフル異常行動「服用者の方が少ない」2007年12月25日19時39分 産経新聞
タミフルと異常行動 動物実験でも「関連性なし」 産経新聞 2008.6.24
タミフルと異常行動「関連なし」 厚労省が10代処方禁止見直しも2008年7月10日21時43分 産経新聞
タミフル服用で飲まなかった場合に比べ、けが増えず2008年11月9日 読売新聞

薬は全て「利益」と「危険性」の両面があります。
副作用のあるものを禁止すると世の中から薬がなくなってしまいます。
これは食材でも同じです。
そばアレルギー(薬害ならぬ食害?)で亡くなられる方がいてもそばは販売禁止になりません。
万人に問題が起こらない食材だけにしようとすれば世の中から食べ物がなくなってしまいます。
メディア(特にテレビと新聞)は視聴者を引きつける目的で微妙なニュアンスで話題性を膨らませたり、
厚労省への「いじめ」を煽動するのではなく、原点に戻って事実を歪みなく伝えて欲しいものです。
保護者の方の多くはニュースは知っていても危険性の認識には事実と隔たりがある方が少なくありません。
こういったケースは他の事例を出すなどして頻度をわかり易く解説し、過大な不安を与えない配慮が必要です。
現場が混乱したら、またそれがニュースの元になるなんて無責任なことを考えないでください。
ついでに自殺のニュースは統計だけにしましょう。必ず誰か真似するのですから。報道に関わる人は常識のはずです。
医者も患者も報道関係者も事実をしっかり認識して事故が起きないように注意することが大事なのです。

Coffee Break



まとめ
 (2017 更新)
  • すべてのインフルエンザワクチンはA型2種類+B型2種類の3種類の混合ワクチンである。
  • インフルエンザワクチンはほぼ毎年変更されており、前年に打っていても新たに接種が必要。
  • インフルエンザワクチンは接種してもインフルエンザにかかるが、重症化を予防・低減する。
  • インフルエンザはタミフルを飲まなくても高齢者を除いてほとんどの人が自然治癒する病気。
  • インフルエンザの検査を行う場合は、少なくとも6(〜12)時間経過後、翌日までに行うのが望ましい。
  • タミフルは発熱から48時間以上経過していれば効果は少ない。(遷延した重症例では効果あり)
  • タミフルは早く飲むほど効果があり、発熱から24時間以内に服用すればよい効果が得られる。
  • 流行中なら検査を省略してすぐにタミフルを処方できる場合もある。
    (例:確定的なインフルエンザ患者と長時間接触[家族など]があり、潜伏期に合致するなど)
  • タミフルはほとんど (99.9%以上) の人には危険な薬ではない。
  • 解熱剤は小児科で処方されるアセトアミノフェンなら使っても良い。(日本小児科学会の見解も同じ)
  • 解熱剤が効いていた時間だけ発熱期間が延長することはなく、解熱剤により総発熱時間は短縮する。
  • 解熱剤を使って平熱(37.0度以下)にならなくても問題はない。
  • 解熱剤を使うことで元気になりすぎて安静が保てなければ、使うのは好ましくない。
  • インフルエンザの場合、脳症の重症化に配慮するには熱を下げた方がよいという研究結果もある。
    (熱を下げない方が脳症の発症が少ないという結論は私の知る限りでは出ていない)
  • 異常行動は抗ウイルス剤(タミフルなど)を飲まなくても起こり、家から飛び出すのは中高生に多い。
  • 発熱から48時間までに異常行動が出ることが多いので目を離さないこと。
  • タミフル耐性インフルエンザウイルスが蔓延していても、タミフルが効かないわけではない。


授乳中の母親がインフルエンザに感染した時の対応:
日本ラクテーション・コンサルタント協会/Q&AよりPDFをダウンロードできます。

小児のインフルエンザに関する予防接種以外の対策:
「小児インフルエンザの予防と対処法」PDFファイル(1.4MB)がご覧いただけます。2008年2月 佐賀県医師会情報誌


あとがき

小児のインフルエンザの死亡率は、毎日30分間徒歩で外出して生涯を通じて交通死亡事故に遭う確率の40分の1程度。
(死亡事故統計と比較した概算です。もちろん机上の空論ですが、外出する方がもっと危ない!?)
とはいうものの小児科医は常にインフルエンザ脳症には神経をとがらせているものです。
新型インフルエンザは近いうちに流行することが予想されています。これは十分にご注意下さい。
家から出ないようにするのが一番でしょう。外出するならマスクと水でのうがいが良いでしょう。
タミフルは新薬ですのでこれからいろいろなことがわかってくるでしょう。「現時点で正しいこと」でも「真実は違っている」ということもあります。
(2009.2.24 追記)


発熱について詳しくは「1. 高い熱!・・・」の所もお読み下さい。

 




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