なりきりランダム論者


株価の動きはランダムであると主張してみます。

本気でそう思っているわけではなく “遊び” です。
以下、ホントのことを書いているとは限りませんのでご注意を(数学的な記述については正しいはずです)。

Q & A 方式でいきます。


Q : 株価がデタラメに動くとは思えないのだが?

「株価がランダムに動く」 という意味は、「デタラメに動く」 とは少し違います。どの時点でも、「買い」 や 「売り」 に優位性がない、つまり、収益機会が存在しないという意味です。

簡単な例で説明します。いま、ソニーに悪材料が出て株価が下がっているとします。そして、次の2つのケースが考えられるとしましょう。

(A) 機関投資家が売っており、個人投資家が買っている。
(B) 個人投資家が売っており、機関投資家が買っている。
そして、明日以降の株価の動きは、次のように予想されるとします。
(A) ならば、機関投資家はすぐには買い戻してこないから続落する。
(B) ならば、個人のパニック売りが一巡したため高くなる。
「株価がランダム」 というのは、現時点では、(A) と (B) の確率が 50%で、買っていいのか売っていいのかわからないということです。もちろん、真実はどちらかなのですが、今すぐに調べる方法がありません(実際には方法があるかも知れませんが、ここではないものとします)。

注意してほしいのは、「株価の動きに原因がない」 と主張しているわけではないのです。毎朝、相場の神様がコインを投げて上がるか下がるかを決めているのではありません。

その時点でわかっている情報はすぐに株価に織り込まれてしまうし、それ以外の情報は、あなただって持っていないのだから、上げ下げの予測は不可能であるということです。

まあ、表面的には 「デタラメに動く」 と変わらないですけど。


Q : あらゆる情報がすぐに株価に織り込まれるとは理想論だろう。多少の収益機会は残っているのでは?

それはそうなんですが …。この収益機会は、普通の人にとっては無いも同然なんです。
これには、ちょっとした勘違いが関係しているようです。

一般に、「競争」 には次の2種類があります。

(A) それなりの努力が報われるもの

学校の勉強なんかがこれです。ちょっとは勉強して、多少なりとも成績が上がれば、先生は褒めてくれます。そして、たとえ東大に入れなくても、それなりの大学に進めば、あなたは周囲から 「学校の勉強はそこそこできる人だ」 という評価を得られるでしょう。
(B) 最高のレベルで争われるもの
オリンピックでメダルを取れば報奨金がもらえるが、取れなければ何も得られない … なんていうのがこれです。あるいは、「プロ野球の選手を目指す」 でもいいです。この種の競争は、「それなりにできる」 では何の報酬も得られません。はっきり言って、並はずれた才能がない限り、挑戦しても無駄です。
さて、一般社会で多くの人が経験する競争は (A) タイプです。それで、たいていの人は、競争というと (A) タイプだと勘違いするんですね。

トレードは (B) タイプの競争でしょう。インターネットで誰でもいつでもアクセスできるといういわば無差別級のケンカです。初級者専用の市場などありません。

(B) タイプの競争では凡人の努力など無意味です。収益機会を捉えることができるのは、圧倒的な量の情報を持つ機関投資家とか、ごく一部の天才トレーダーだけでしょう。

あれこれ研究して儲かると考えている人とか、「自分より下手な奴だってけっこういる」 と思って妙に自信を持っている人は、ここのところがよくわかっていないのです。


Q : 「株は、8割の人が負けている」 とよく聞く。ランダムなら、5割になるのでは?

それは間違いです。

有限の資金でゲームをやる場合、たとえ1回ごとの勝ち負けがランダムに決まるとしても、長く続けていくうちに、「少数が儲け、多数が損をする」 という構図になるのが普通なのです。

仮に、ゲームの参加者が無限の資金を持っていて、毎回一定の金額(たとえば、1万円)を賭けるとすれば、もちろん、勝者と敗者は半々になります。この場合、損益の分布は正規分布です。

しかし、資金が有限だと話は違ってきます。毎回1万円を賭けるなら、ゲームを続けていくうちに、一人二人と破産する人が出てきます。ゼロ・サム・ゲームとしてやっているなら、やがて一人を除いて全員破産となりますし、資金を無限に持つ胴元がいるなら、胴元がすべての資金を巻き上げてゲーム終了です。

実際には、一定の金額を賭けるのではなく、資金が増えると多めに賭けて、資金が減ると少な目に賭けることになるはずです。仮に資金の 10%を賭けるとしましょう。この場合、長くゲームを続けていったときの損益の分布は対数正規分布になることが知られています。

対数正規分布とは下図のような分布です。



【注】 これは初期資金を 100 とした場合のおおざっぱな図。ゲームをやる回数によって形状は異なります。
勝者は少数で敗者は多数になってますね。

もちろん、勝ち組に入った場合には、ものすごい儲けになる可能性があります。
なので、このゲームに参加するのが不利ということではありません。
【注】 ただし、ものすごく長い間 10%で賭け続けると、参加者の 99.99%は負け組になります。そういう意味では、ほとんど勝ち目はなく、不利と言えます。

Q : ネットや本を見ると安定的に勝っている人も結構いるようだが?

それは、たまたまうまくいった人が本を書いたり、ネットで自慢したりしてるんでしょう。どうしてもこの種の情報にはバイアスがかかります。

それに、個人のパフォーマンスは評価が難しいです。リスクの取り方が様々ですし、種銭だって、いざとなれば追加で投入するつもりだったかも知れません。不明確な部分が多くて、客観的な計測が困難です。


そもそも、第三者が調べていないなら、本当に勝っているのかわかったものではありません。

『ビアーズタウンのおばあちゃんたちの株式投資大作戦』 という本を知ってますか?

この本は、イリノイ州のおばあちゃん 16人が投資クラブを作り、10年間の株式投資で、年率平均 23.4%のリターンを叩き出したという話です。この時期、S&P500 は年率平均 14.9%の上昇なので、市場平均に勝っています。

小さな町のおばあちゃんたちの快挙です。ふつう、嘘だとは思わないでしょう。

ところが、本当のリターンは年率平均 9.1%だったことが判明しています(ここを参照)。

いい加減な話がもっともらしく活字になったりするので、うかつに信用できません。


Q : 数百万円で始めて 1億円儲けた人を知っている。まぐれとは思えないが?

仮に資金 200万円で始めて、100万円損をするか 1億円儲かるかしたらやめるとしましょう。手数料・税金はゼロとします。この場合、株価がランダムに動くと仮定すると、1億円儲かる確率は 1/101 です。

次のように考えれば簡単です。100人が失敗すると、100×100万円 = 1億円 を吐き出すことになるので、101人目の人が 1億円の利益を得ることでバランスがとれます。よって、101人に 1人の割合で成功します。

もし、200万円損をするか 1億円儲かるかでやめるなら、同様の理屈で、51人に 1人の割合で成功します。

したがって、そういう人がちょくちょくいるのは、ランダム・ウォーク仮説に矛盾しません。

面白いのは、資金管理が関係しないことです。これ、かなり意外でしょう。
大胆に賭けると結果が早く出るし、慎重に賭ければ結果が出るまで何十年もかかります。しかし、早いか遅いかの違いだけで、成功する確率は同じです。


ちょっと脱線ですが、「資金管理が関係しない」 ことについて付け加えておきます。
次の状況で説明します。
・ ルーレットで赤か黒に賭ける。
・ 最初は、チップを 10枚持っている。
・ チップが 0枚になるか 40枚になったらやめる。
(1) 有利不利がない場合
1回ごとに当たる確率が 50%の場合です。この場合、40枚になる確率は 25%です。賭け方は関係しません。もちろん、39枚持っているときに、10枚賭けてはいけません。必要以上に勝たないように賭けて下さい。それ以外、どのように賭けようが、成功する確率は同じです。ただし、チビチビ賭けていると結果が出るのに時間がかかります。
(2) 不利な場合
ゼロが出たら胴元の勝ちなどというルールがある場合で、1回ごとに当たる確率が 49%とか不利な状況です。この場合は、大胆に賭けるのがもっとも成功率を高くします。初めにいきなり 10枚全部を賭けましょう。それに勝ってチップが 20枚になったら、つぎも 20枚全部賭けて下さい。これがもっとも有利な戦略です。
(3) 有利な場合
あなたは超能力者で、1回ごとに当たる確率が 80%です。この場合、成功率をもっとも高くするのは、1枚ずつチビチビ賭けていく方法です。しかし、これでは時間がかかります。もっと大きく賭けると早くに決着するのですが、成功率は落ちてしまいます。時間と成功率のトレード・オフになっているわけです。時間も考慮する場合は、数学的な正解はなく、どうバランスをとるかは人それぞれです。

Q : 俺、百万円を 1億円にしたんだけど?

あなたにしてみれば偶然とは思えないでしょうが、こちらから見ると、数多くの人の中にはそういう人もいるというだけです。


Q : 株をやっている人を見ると、当初の資金から浮いた状態の続く人と、沈みっぱなしの人がいるように感じる。ランダムならそうはならないのでは?

ランダムでもそうなるのです。「逆正弦法則」 と呼ばれる事実です。

たとえば、100万円でスタートし、1日ごとに1万円得するか損するかを繰り返していくとします。1日ごとの勝つか負けるかの確率は 50%とします。ただし、破産はないとします。破産した場合は、お金持ちの友人がいて、何度でも貸してくれるとしておきましょう。

資金が 100万円以上の日は 「浮いた日」、100万円未満の日は 「沈んだ日」 とします。

このゲームを長く続ければ、ランダムなのだから、浮いた日と沈んだ日はおおよそ半々になると思うところですが、じつは、どちらかに偏るのが普通なのです。

【注】 ランダムなので、やり続けていれば何度でも資金はトントンに戻ります。そのことから考えて、どうしても半々になるような気がします。実際、数学や統計の専門家ですら逆正弦法則は奇妙に感じるらしいです。
資産推移のグラフを描いてみます。浮いた日は赤く、沈んだ日は青くしています。

直感的には、下図のように、浮いた日と沈んだ日がだいたい半分ずつになるように思うのですが、実際にこうなることは珍しいです。


むしろ、下図のように、どちらか一方に偏ってしまうことが、意外とよく起こるのです。



どのくらいの割合になるかの分布も知られています。

X を次のように定めます。浮いた日の割合です。

X = [浮いた日の日数] ÷ [全ての日数]
X = 0.5 なら浮いた日と沈んだ日が半々です。
X = 0.1 なら 90%の期間沈んでいたことになります。

長い期間このゲームを行うと X の分布は右図のようになることが知られています。

見ての通り、X が 0.5 の付近にあることは少なく、むしろ両端のきわめて偏った場合がよく起こります。
【注】 野球などで互角のチームが戦っても、抜きつ抜かれつの接戦は珍しいと考えるのがわかりやすいかも知れません。1回〜3回は A チームがリードし、4回〜6回は B チームがリードし … などというシーソーゲームはまれで、1回〜7回は A チームがリード、8回に逆転されそのまま B チームの勝ちなどとリードしている期間に偏りが出る方が普通です。

なお、図中の赤線は、理論的な確率密度で数式は次の通り。

X が a 〜 b の範囲にある確率は、次式で表されます。
この式に逆正弦関数(arcsin)が現れることから、逆正弦法則と呼ばれています。


Q : 株価にはトレンドがあるから、ランダムではないのでは?

まず、ランダム・ウォークでもトレンドみたいな動きは、ときどき発生します。

次のように考えるとわかりやすいです。ランダム・ウォークに対して、逆張りを試みるとします。しかし、ランダムですから儲かりません。ということは、逆張りの意図をくじく程度にトレンドが発生していることになります。

一方、現実の株価で、トレンドの発生頻度を過大評価していることも考えられます。大きく動いている株は話題になりやすいので、そういう株のチャートをよく見るためです。

そもそも、ランダムでは説明がつかないほどのトレンドが発生するなら、単純なトレンド・フォロー戦略で大儲けのはずです。しかし、通常のトレンド・フォロー戦略を幅広い銘柄で検証すると、大儲けなどできないことがわかります。ということは、思っているほどトレンドは発生していないことになります。


Q : チャート・パターンについては?

目の錯覚と後講釈です。


Q : 株価の変動は正規分布にならないそうだが?

これは誤解している人が多いと思います。収益機会の有無と正規分布であるかどうかは、あまり関係ないのです。

つまり、株価の変動が正規分布でなかったとしても、それは収益機会の存在を意味するとは限りません。
簡単な例で説明します。

コインを投げて表が出れば +1、裏が出れば -1 とします。1日に 100回コインを投げ、±1 を順次加えていくことで株価の変動を作るとします。100日後の変動は下図のようになります。

青で示したのがシミュレーションによる分布。赤線は正規分布を示します。一致していますね。

今度は、1日にコインを投げる回数を株価の動きによって変えるとします。

前日時点までの変動が ±50(前日終値とスタート時点の株価を比較)の範囲内なら、市場参加者が興味を失っているため、その日はコインを 50回だけ投げます。
変動が ±50 を超えているけれど ±100 の範囲内ならコインを 200回投げます。
±100 の範囲を超えている場合は、市場参加者が興奮しているためコインを 300回投げるとします。

100日後の分布が下図です。

分布が正規分布から大きくずれています。動かないときは徹底的に動かないので、中央付近に分布が集中しています。ところが、変動が大きくなるとボラティリティが上昇するため、大きな外れ値は、正規分布で想定される以上に現れます。いわゆるファット・テイルです。

しかし、コインを投げているだけですから、これはランダム・ウォークの一種で、収益機会は存在しません。

「ランダム=正規分布」 というのは、ボラティリティ(コインを投げる回数)が一定の場合の話です。ボラティリティが株価の動きに依存して変わる場合、ランダムであっても正規分布になりません。

したがって、株価の変動が正規分布でないからといって、ランダムでないとは言えません。

【注】 学術的には、上記のようなケースをランダム・ウォークとは呼ばないようです。ここでは、収益機会がないことを 「ランダム」 と言っています。
たまに、「株価の変動にファット・テイルがあることは相場が行き過ぎることの証明で、トレンド・フォロー戦略の優位性を示している」 というような記述を見ることがあります。これは厳密な論理になっておらず、「そうかも知れないが、そうでないかも知れない」 としか言えません。


Q : 「損切りが大切だ」 とよく言われる。これは、ランダムで説明できるのか?

株価がランダムなら、次の2つのケースの起こる確率は同じです。

(1) ある銘柄を持ち続けて、どんどん損をしていく。

(2) 逆行したら早めに損切りをして別の銘柄を仕掛けるのだが、どんどん損をしていく。
したがって、損切りなどしてもしなくても同じです(というか、手数料を考えるとやらない方がまし)。

どうして、有効性のない考え方が広く受け入れられているのでしょうか。
おそらく、(1) は起こりやすく、(2) はそれほどには起こらないという錯覚があるためでしょう。

では、なぜ、そういう錯覚が生じるかです。次のような理由だと思われます。

まず、(1) で失敗している人は特定しやすいです。たとえば、NTTドコモが長期の下降トレンドなら、いわゆる “アホルダー” が多数いることは容易に想像できます。実際、YAHOO!掲示板などに行けば、そういう人を見つけることもできるでしょう。

ところが、(2) で失敗している人は、そういう形では特定できません。目立たないわけです。そのため、(1) の方が起こりやすいように思えるのです。

それと、(1) の失敗は、「早めに損切りをしないから起こる」 と簡単に分析できるのに対し、(2) の失敗は個々のトレードで別々の原因があると考えてしまいます(あるときは銘柄選択、別のときは仕掛け方やストップの位置など。もちろん、株価がランダムなら、これはただ運が悪かっただけで、原因の分析など無意味ですけど)。

そのため、(2) の失敗は、(1) に比べて印象が薄くなるのです。


また、損切りが有効にみえる理由として、次のようなことも考えられます。

損切りをしない人は、含み損の銘柄をずっと抱えるので、1年 250営業日をフルに使うことになります。

一方、損切りをする人は、損切った後すぐに次の銘柄を仕掛けるとは限りません。トレードの間に休みが入ります。250営業日をフルに使うわけではないので、仮に損切りばかりだったとしても、損切りをしない人に比べれば資金の減少するスピードは遅いでしょう。

そのため、損切りをする方が有利であるような錯覚が生じます。実際には、資金を相場にさらす時間を短くしたにすぎません。

最後に、損切りは心理的にやりにくいから効果があるように思うのかも知れません。苦い薬は効くような気がするものです。


Q : 「1トレードでの利益/損失の比を大きくせよ」 というのは?

「利益/損失の比」 と 「勝率」 は逆相関します。株価の動きがランダムなら、この2つの効果はピッタリ相殺するため、比を大きくしても小さくしても有利不利はありません。

ところが、一般には、比を大きくするのがよいとされています。

なぜでしょうか?

仕掛ける時点で、「利益/損失の比」 を小さくしようと思っている人は少ないはずです。誰だって、うまくいったときはかなりの利益を見込んでいる一方、大きな損失を予定はしていないものです。

ということは、次のようになります。

(1) 比が大きくて儲けている人 … 予定通りに儲けていて自信満々。
(2) 比が小さくて儲けている人 … 想定外だが結果オーライ。まあいいか。
(3) 比が大きくて損をしている人 … まじめにやっているのにダメ。
(4) 比が小さくて損をしている人 … 全然ダメ。
(1) の人は、声高に 「損切りは早く、利食いはゆっくり」 と言うでしょう。
しかし、(2) の人は、自分の手法に自信が持てないので 「利益は小さく、損切りはどうにもならなくなってから」 とあえて主張することはありません。

(3)、(4) の 損をしている人は、もとより沈黙です。

だから、「利益/損失の比」 を大きくせよという話ばかりを聞くのです。

要するに、心理的な問題が絡んでいて、出てくる情報にバイアスがかかっているのです。


Q : これまでの話は、「ランダムという解釈も可能」 ということだろう。積極的な証拠は?

ファンドの成績でしょう。効率的市場仮説を掲げた本によく書いてあるやつです。

経済学者などがファンドの成績を分析したところ、次のような傾向が 確認できなかった のです。

 ・ 過去の成績が上位のファンド・マネージャーは、その後の成績もおおむね上位。
 ・ 同様に、下位の人はその後も下位。

ファンドの運用にいろいろな制約があるのは事実です。しかし、相場がランダムでないなら、そこには売買技術があるはずで、ならば、「上手い人」 と 「下手な人」 がいなくてはおかしいです。

売買技術が存在しないことは、相場がランダムであることを意味します。


Q : で、本当にランダムだと思っているの?

初めは遊びで書いていたんですが …。なんだか本当にランダムなような気がしてきましたあ〜


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