次のようなギャンブルについて考えます。

大勢の人で賭を行う(競馬をイメージして下さい)。
各人は、A、B、C のいずれかに好きな金額だけ賭ける(複数に賭けてもよい)。
どれか1つが 「勝ち」 になる。
賭けた金額はすべてプールされ、仮に A が勝ちだとすると、A に賭けていた人は、賭けた金額に比例してプールしたお金がもらえるという仕組みである。

競馬の単勝馬券みたいなものですが、競馬では控除率があってプールした金額の一部を JRA(日本中央競馬会)が取ってしまいます。ここでは控除がないものとします。この仮定は重要で、控除があると以下の話は成り立ちません。
例を示しましょう。A、B、C それぞれに対する賭け金の総額が次のようになっていたとします。
ABC
100万円200万円300万円
賭け金をプールしたものは、600万円ですね。
仮に A が勝ちになれば、100万円に対し、600万円がもらえる勘定ですから、倍率は 6倍ということになります。つまり、A に 200円賭けていた人は 1200円戻ってくるわけです(儲けは 1000円)。
同様に考えて、B の倍率は 3倍、C は 2倍です。


さて、あなたは、他の人が賭けるのを見定めた後、最後に賭けることができるとします。
A、B、C に現時点で賭けられている金額を知った上で賭けることができるわけです。

まず、次のことを仮定しておきます。

あなたは少額でしか賭けないため、あなたの賭け金による倍率の変化は無視してよい。
たとえば、上の例のような状況から、あなたが A に新たに 100円賭けるとします。本当なら、あなたが賭けることで、A に対する賭け金の総額は 1000100円になります。これは、わずかに A の倍率を下げ、B、C の倍率を上げるはずです。しかし、この倍率の変化はわずかなので、以下、倍率は変わらないとして考えるということです。
この仮定は必ずしも必要ではないのですが、面倒なのでこうしておきます。


それと、次の事実を押さえておいて下さい。これは、控除がないために起こることです。
あなたは資金のすべてを、A、B、C のそれぞれに配分して賭けるとしてよい。
つまり、キャッシュ・ポジションはゼロとしていいのです。
理由は簡単です。先ほどの例で説明しましょう。

仮に 600円の資金を、A に 100円、B に 200円、C に 300円と配分して賭けるとします。この場合、結果がなんであれ、あなたには 600円が戻ってきます。つまり、賭けていないのと同じなんですね。

従って、あなたの資金が 1000円で、A に400円賭け、残りの 600円は現金で持っていたいなら、その 600円を 100円、200円、300円に分けて、A、B、C のそれぞれに賭けても同じ事です。

結局、「A に 400円、600円は現金」 とするのと、「A に 500円(400円+100円)、B に 200円、C に 300円」 とするのは実質的に同じです。

一般に、A、B、C それぞれの賭け金の総額に比例するように資金配分をすれば、現金で持っているのと同じです。
そのため、キャッシュ・ポジションは不要なのですね。以下、つねに手持ち資金のすべてを賭けるとします。


では、問題。あなたは、A、B、C のどれが勝つかについて正確な確率を知っているとします。
いま、それを、20%、30%、50%としましょう。現在の賭け金の総額、倍率、勝率をまとめたのが下の表です。

 ABC
賭け金の総額100万円200万円300万円
倍率632
勝率20%30%50%
このゲームは何回でもできるものとして、ケリー基準を使いましょう。
あなたは、現在 1000円持っているとします。どのように賭けるのがよいでしょうか?

ケリー基準に従って、資産の対数の期待値を最大にする賭け方を求めると、
A に 200円、B に 300円、C に 500円
という具合に賭けるのが最適となります(計算過程はわからなくても構いません)。


さて、ここまでが、前説です。いよいよ本題。
現在の賭け金の総額、倍率、勝率が次の表のようになっていたらどうしますか?
 ABC
賭け金の総額300万円200万円100万円
倍率236
勝率20%30%50%
先ほどの表と比べて下さい。勝率は同じですね。
ところが、なんと、もっとも勝ちやすい C に人気がなく、高倍率となっています。
一方、勝てる見込みの少ない A が人気で低倍率。
他の参加者たちは、大きく読み間違えているわけですね。あなたにとっては、チャンスです!

当然、先ほどの場合に比べて、
C に対する賭け金を増やし、A に対する掛け金を減らすべきだ
と思うでしょう。

ところがです。ケリー基準に従って計算すると、この場合の最適な賭け方は、
A に 200円、B に 300円、C に 500円
となるのです。つまり、さっきと同じです。


一般に、A、B、C の勝率が a%、b%、c%なら、資金をそれぞれに、
a : b : c
の割合で配分するのが最適となります。驚いたことに倍率は関係しないのです。

他の参加者の動向は気にしないで、それぞれの勝率のみに基づいて資金配分をすればよいことになります。早い話、倍率を知っている必要すらないのですね。

もちろん、他の参加者が間違っていればいるほど、大儲けが期待できます。だから、他の参加者が間違っていることは、あなたにとってチャンスであるのは事実です。しかし、賭け方には関係しないのです。


どうして、こういう直観に反する結論になるのか、私もちょっと腑に落ちないです。
キャッシュ・ポジション相当分が錯覚の原因かもしれません。

つまり、最初の例における最適戦略は、

A に 50円、B に 0円、C に 50円、現金 900円
と同じです。2番目の例では、
A に 0円、B に 166.7円、C に 433.3円、現金 400円
と同じです。

すなわち、キャッシュ・ポジション相当でない部分、つまり本気で賭けているお金については、A を減らし、C を増やしているのですね(2番目の例の方が有利な賭なので、キャッシュ・ポジションを減らしているのも合理的です)。

ところが、キャッシュ・ポジション相当の部分は、賭け金の総額が多いもの(倍率の低いもの)に多くの資金を回す形になるので、そこで相殺されてしまうというわけです。


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