実験


このページは、コーヒー・ブレイクみたいなものです。


次の文は、『魔術師たちの心理学』(バン・K・タープ)からの引用です(71ページ。文章は少し変えました)。

ラルフ・ビンスは博士号を持つ40人を対象に実験をしたことがある。勝つ確率が60%のコンピュータゲームを100回してもらう。手持ちの資金は1000ドルで、毎回好きなだけ賭けてよい。どの人も、資金管理がこの種のゲームに与える影響についての知識はない。
何人が儲けられただろうか。最終的に元の1000ドルより増えたのは40人中、たったの2人だけだった。
実験の詳細は不明ですが、Google の検索結果をあちこち見たところでは、勝ち(60%の確率)なら賭けた金額だけ儲かり、負け(40%)なら賭け金を没収というものらしいです。

あと、博士といっても、次の条件が付いています(“He” は、ラルフ・ビンスのこと)。
He ruled out doctorates with a background in statistics or trading.
これって、どういう意味なんでしょうか。英語力がないのでよくわからないのですが…。統計学やトレーディングの素養のある博士は除外した……でしょうか? トレーディングとは、投資経験のことを指しているのでしょうか、それとも金融系の博士にはご遠慮いただいたということですか? そして、統計学って、基礎的な知識だけなら関係のある博士は多いはずです。そういう人もすべて除外したのでしょうか?

となると、古代ギリシア哲学の研究に没頭している人とか、ちょっと浮世離れしていて、金銭感覚については一般人より格段に鈍い人を集めただけじゃないのか?・・・と疑ってしまいます。

というのも、試しにプログラムを作ってやってみたのですが、このゲーム、少し慎重な性格の人ならプラスになりそうなものです。簡単に勝てるとはいいませんが、いくら何でも 40人中 2人って事はないと思います。お暇な方は、ソフトをここからダウンロードして、やってみて下さい。


ちょっと気になるのは、実験の手法です。

何も報酬を出さないと、被験者は、どうせゲームだからと遊び半分でいい加減に賭けてしまいます。かといって、「いちばん資金を増やした人に、賞品をあげる」 などとすると、ゲーム終盤で成績がそこそこの人は、「このままでは1位になれない」 と考えて一発を狙うでしょう。
それならばと、「プラスで終わった人には、賞品をあげる」 にすると、今度は、ゲーム序盤で適当に儲けの出た人は、手堅く守りに入ってしまいます。

自分のお金を本当に賭けてもらうのが一番いいのですがそうもいかないでしょうし、ラルフ・ビンスはどういう条件でやったのでしょうね。

【注】 引用文では、本当にお金を賭けているようにも取れますけれど、本物のお金でないことは検索したサイトに書いてありました。

もう少し詳細がわかる実験もあります。

TurtleTrader.com の4番目にある White Paper by Johan Ginyard です(PDFファイル)。

実際にゲームを行った実験報告で、概要は次のようなものです。


52名の被験者(ほとんどがスウェーデンのウプサラ大学学生)に、仮想資金として10000クローネ(日本円で約10万円)を与え、賭けをしてもらう。

ゲームはレベル1とレベル2に分かれている。はじめに、レベル1の賭を50回行う。レベル1終了時点で資金が 15000クローネ以上になっている者だけが、その資金を持ったままレベル2に進み、さらに賭を50回行う。

被験者は、1回ごとに好みの金額を賭ける。途中で資金がなくなったら、そこでゲーム・オーバーになる。

1回ごとの損益は、袋から 「おはじき(原文は marble)」 を取り出して、その色で決める。

たとえば、レベル1の場合、1回ごとの損益は次のような確率になっている。
もちろん、被験者は、この確率を知っている。

・ 賭け金と同額が儲かる ・・・ 確率 55%。
・ 賭け金の 10倍が儲かる ・・・ 確率 5%。
・ 賭け金と同額の損失 ・・・ 確率 35%。
・ 賭け金の 5倍の損失 ・・・ 確率 5%。
被験者は、はじめに、実験に協力する報酬として 100クローネ(1000円ほど。もちろん、本物のお金)もらえる。しかし、ゲームで破産した場合は、この 100クローネを返さなくてはならない。また、成績が良いとボーナスで追加の 100クローネがもらえる。

被験者のうち 32名には、まえもって、マネー・マネジメントやトレードの心理学についてのレクチャー(3時間ほどのもの)を受けてもらい、残りの 20名はレクチャーなしとする。

レクチャーの詳細は不明ですが、次のような内容らしいです(カッコ内は、私によるいい加減な説明)

・ ギャンブラーの誤謬 (連敗したあと「今度こそは勝ち」と思う錯覚)
・ プロスペクト理論 (優勢な時は手堅い戦法をとり、劣勢な時は無理して一発逆転を狙おうとする傾向)
・ 期待値、R−倍数 (おそらくタープ氏の本に基づくものでしょう)
・ ドローダウンについて (50%の損を回復するには、100%のリターンが必要)
・ ポジションサイズについて (多く賭ければリターンが大きくなるが、ドローダウンもひどくなる)


次のように言葉を定義しておきます。

(a) 破産トレーダー : 資金をすべて失った人。
(b) 負けトレーダー : 破産はしなかったが資金を減らした人。
(c) 勝ちトレーダー : 資金を増やした人。

そして、(b) と (c) を 「生き残り組」 と呼びます。

また、「ポジションサイズ」 とは、手持ちの資金に対する賭け金の割合(10%とか20%とか)を指しているようです。

被験者 52名の結果は次のとおり。

破産トレーダー ・・・ 10名
負けトレーダー ・・・ 6名
勝ちトレーダー ・・・ 36名
また、レベル1での各種トレーダーの平均ポジションサイズは、
破産トレーダー ・・・ 22.9%
負けトレーダー ・・・ 15.0%
勝ちトレーダー ・・・ 6.0%
となっているそうで、やはり破滅の原因はオーバー・トレードにあるようです。


もっとも、期待値がプラスのゲームを繰り返し行う場合、少ない金額でチビチビ賭けている人は、たいてい 「勝ちトレーダー」 になります。ですから、上記のような結果になるのは、ほとんど当たり前のような気がします。

ちなみに、レベル1の場合、ケリー基準によれば、資金の 7.8%を賭けるのが正解です。


この実験を行った人は、「普通の人が思うよりポジションサイズを小さめにした方がよい」 と考えているようで、実験の目的は、次の9つが正しいかを統計的に検証することでした。

(1) 破産トレーダーは、生き残り組よりポジションサイズが大きい。
(2) 負けトレーダーは、勝ちトレーダーよりポジションサイズが大きい。
(3) レクチャーを受けた人は、受けてない人よりポジションサイズが小さい。
(4) レクチャーを受けた人は、受けていない人に比べ破産する率は低い。
(5) レクチャーを受けた人は、受けていない人に比べ利益が多い
(6) 女性は男性より破産する率が低い
(7) 女性は男性より利益が多い。
(8) 投資経験がある人の方がない人より破産する率が低い
(9) 投資経験がある人の方がない人より利益が多い。

(6) と (7) は、女性は男性に比べるとリスクを取らないという研究結果が過去にあるため調べたようです。

実験の結論は、青色で書いた3つについては確認できなかったけれど、他は確認できたというものです。


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