ドンチャン・ルール


リチャード・ドンチャンが開発した有名な戦略です。ケストナーは、比較対照用として調べているようです。パラメーターを 40/20 としていますが、これに特別な理由があるのかは不明です。

売買ルールは次の通りです。

・ 直近 40日の高値を逆指値で買い、直近 20日の安値で逆指値の手仕舞い。
・ 直近 40日の安値を逆指値で売り、直近 20日の高値で逆指値の手仕舞い。

ケストナーは、高値・安値と同値に逆指値を入れています。各種先物で呼値が異なるため、面倒なのでそうしたのでしょうか。

ここでは、1ティック抜いたところに逆指値を入れるとして検証しました。買いの場合なら、直近高値の 1ティック上に逆指値を入れます。


このルールは、シンプルで美しいですよね。

たとえば、仕掛ける時点でのボラティリテイが高いなら、ストップ・ポイント(直近20日の高値・安値)は離れた位置にあるはずだし、ボラティリティが低いときは近い位置に来るはずです。こういう動作が、じつに合理的です。


ドンチャン・ルールの検証結果は、「株式市場にトレンドはあるのか?」 という疑問への解答になると思います。

株式市場がランダム・ウォークしているなら、当然、ドンチャン・ルールもトントンで終わります。

しかし、株式市場がランダム・ウォークに比べて、

(1) トレンドが発生する頻度が高い。
(2) トレンドが生じたとき、その規模が大きい。
このどちらか(あるいは両方)の傾向があるなら、ドンチャン・ルールは機能するはずです。

【注】 ここでトレンドというのは、“価格の持続的な一方向への動き” という程度の意味です。ランダム・ウォークでも、偶然により、ときどきそれは起こります。
微妙なのは、たとえば、
・ ランダム・ウォークよりも規模は大きいが頻度は逆に低い。
・ それらの傾向が相殺してドンチャン・ルールはトントンで終わる。
・ しかし、上級者は、その少ない頻度で起こるトレンドをうまく当てるので儲かる。
なんて場合ですね。この場合は、初級者にとってはトレンドはないけれど、上級者にとってはトレンドがあることになります。(笑)


平均0.78%
P.F.1.19
勝率37.43%
勝ち平均13.13%
負け平均-6.61%
勝ち保有期間59.61日
負け保有期間22.33日
2倍損失5.09%
3倍損失0.37%
回数20840回
ドンチャン・ルールは機能しているようです。

平均 0.78%なのでたいしたことないですが、統計的な優位性があるのは事実でしょう。

株式には、「短期的には、上がれば下がる、下げれば上がる」 という傾向があるのでした。ドンチャン・ルールは、その点では不利な戦略です(上がったところ買い、下がったところを売っている)。

その逆風を跳ね返してプラスにしているわけです。

中長期的に見ると、株式市場にはトレンドが存在する
と言ってよさそうです。

もっとも、平均 0.78%ですから、トレンドがあるといっても、かなり微弱な傾向です。


年度ごとの成績は次の通り。

 平均P.F.勝率勝ち平均負け平均勝ちMAX負けMAX回数
1994年-0.01%1.0035.51%11.78%-6.50%81.25%-24.58%1853回
1995年3.12%1.9247.68%13.64%-6.47%116.32%-23.85%1896回
1996年0.78%1.1734.90%15.24%-6.98%91.57%-21.91%2037回
1997年2.85%1.7242.87%15.86%-6.91%140.14%-22.19%1710回
1998年-0.89%0.7832.57%9.68%-6.00%278.51%-21.45%1928回
1999年3.75%1.9441.96%18.50%-6.91%360.55%-33.24%1778回
2000年-0.59%0.8634.90%10.69%-6.64%174.19%-27.69%1937回
2001年0.23%1.0638.62%10.90%-6.48%62.29%-29.91%1867回
2002年0.66%1.1638.38%12.47%-6.70%81.04%-20.31%1764回
2003年0.97%1.2435.75%14.19%-6.39%309.96%-26.43%1849回
2004年-1.50%0.6830.84%10.38%-6.79%96.30%-25.96%2221回



順張り・逆張りを RSI で見たものが右図。

調べるまでもなく、順張りです。


市場P.F.
先物全体1.48
S&P0.86
日経2251.59
TOPIX1.49
日経3001.23
先物について、ケストナーの本の検証結果は右表の通りです。

先物全体で、たいへんよく機能しています。

日本の株価指数でも機能していますが、S&Pだけはマイナスですね。


ケストナーのように高値・安値と同値に逆指値を入れるのと、抜いたところに入れるのでは違いがあるのでしょうか。

あるいは、直近 40日高値の1ティック下で買い、直近 20日安値の1ティック上で手仕舞うのはどうでしょうか。
一見ナンセンスのようですが、大きなトレンドが発生した場合には、必ずトレンドの方向にポジションを持つことになるので、トレンド・フォローになっています。トレンドがあるなら、これでもうまく行くはずです。

調べてみたのが次の表です。

・ Tick = 0 は同値に逆指値を入れるケストナーの方法。
・ Tick = 1 は1ティック抜いたところに逆指値。
・ Tick = 2 は2ティック抜いたところ。
・ Tick = -1 は1ティック手前の価格に逆指値。
という具合に、Tick が -5 〜 5 の場合を調べました。仕掛けも手仕舞いも Tick の数だけずらします。

Tick平均P.F.勝率勝ち平均負け平均回数
50.91%1.1938.44%14.54%-7.61%16407回
40.93%1.2038.29%14.31%-7.37%17374回
30.89%1.2037.87%14.01%-7.11%18448回
20.82%1.1937.69%13.56%-6.88%19653回
10.78%1.1937.43%13.13%-6.61%20840回
00.60%1.1536.77%12.65%-6.41%22334回
-10.48%1.1236.04%12.28%-6.17%23957回
-20.35%1.0934.10%11.99%-5.67%26555回
-30.20%1.0631.59%11.42%-4.98%30861回
-40.10%1.0329.45%10.56%-4.27%36908回
-50.00%1.0028.72%9.27%-3.74%44670回

3 〜 4 ティック抜いたところに逆指値を入れるのがいいようです。

手前に逆指値を入れるのはよくないですね。ということは、ドンチャン・ルールには、単にトレンド・フォローであるという以上の有効性があるのでしょう。

普通に考えるなら、直近の高値・安値は相場参加者の多くが注意しているため、それを抜くか抜かないかが重要な分かれ目になるということでしょうか。

上の表は 40/20 のドンチャン・ルールで調べたものです。80/40 とか期間を長くすると、1ティック抜くか 3ティック抜くかの違いは、はっきりしなくなります。しかし、その場合でも、同値に逆指値を入れるよりも、1ティック抜いたところに入れる方がいいのはかなり明確です。

これは、「株価が記憶を持っている」 証拠かも知れません。テクニカル信者には朗報ですね。(笑)


40/20 のパラメータを変えてみましょう。下の表です。
なお、右端の 「保有期間」 とは、勝ち負けの区別をせずに保有期間の平均を取ったものです。

 平均P.F.勝率勝ち平均負け平均回数保有期間
20/100.18%1.0636.47%8.63%-4.68%41501回18.14日
30/150.54%1.1537.40%10.94%-5.67%27649回27.22日
40/200.78%1.1937.43%13.13%-6.61%20840回36.28日
50/251.12%1.2438.02%15.09%-7.45%16502回45.56日
60/301.71%1.3539.46%16.62%-8.01%13529回55.31日
70/352.06%1.4039.91%18.04%-8.55%11604回64.40日
80/402.40%1.4440.56%19.22%-9.08%10107回73.80日
90/452.67%1.4741.66%19.90%-9.63%8966回83.00日


傾向は明白です。直近の高値・安値を見る期間を長くした方がいいのです。

期間を長くすると、保有期間も長くなります。よって、平均利益も上がってくれないと話にならない(保有期間が長くて利益が同じなら不利です)ですが、その点を考慮しても、期間の長い方が有利です。
たとえば、40/20 と 80/40 では、保有期間は 36日 → 73日と約 2倍ですが、平均は 0.78 → 2.40 と約 3倍です。

20/10 では、ほとんど利益になっていません。保有期間が短くなると、「短期的には、上がれば下がる、下がれば上がる」 という傾向に打ち勝てなくなるのでしょう。


H.V. との関係を調べてみましょう。40/20 のドンチャン・ルールを使います。
各トレードを、仕掛ける前日での H.V. の値で分類したのが次の表です。

平均と P.F. の背景色は、全体での値(平均は 0.78%、P.F. は 1.19)と比較したものです。

H.V.平均P.F.勝率勝ち平均負け平均回数
150--1.78%0.3933.33%3.36%-4.35%6回
140-150-4.07%0.2920.00%8.19%-7.13%10回
130-140-0.82%0.8036.36%8.92%-6.38%11回
120-130-0.55%0.7728.57%6.48%-3.36%35回
110-120-2.58%0.3519.23%7.19%-4.91%52回
100-110-0.73%0.7933.02%8.19%-5.13%106回
90-100-2.53%0.3728.57%5.22%-5.63%175回
80-90-1.66%0.5633.85%6.21%-5.68%322回
70-80-0.14%0.9637.71%9.26%-5.82%655回
60-70-0.25%0.9336.62%9.22%-5.72%1360回
50-600.47%1.1337.96%11.00%-5.97%2582回
40-500.63%1.1637.54%12.10%-6.26%4244回
30-400.72%1.1737.43%13.28%-6.80%5392回
20-301.17%1.2637.36%15.24%-7.22%4548回
10-203.69%1.7740.92%20.80%-8.16%1305回
0-100.99%1.1424.32%32.39%-9.10%37回

これはビックリ、はっきりとした傾向があるのです。ボラティリティの低いときがいいんですね。

乱高下しながら高値・安値をブレイクするより、じわじわとブレイクした方がいいということなんでしょうか。


以上の結果を合わせて、次のようにしてみましょう。

80/40 のドンチャン・ルールを使うのですが、次の2つの条件を付けます。

(1) 逆指値は 3ティック抜いたところに入れる。
(2) 仕掛けの前日での H.V. が 40 を超えるトレードは集計から除外する。

【注】 80/40 のルールでトレードを行ったとして、そのうち、仕掛け時点でボラの高いものは除外するわけです。ボラが高くて仕掛けなかった場合、その後、ボラが下がって仕掛けのシグナルが出ても、通常のルールで手仕舞いになっていないものに、途中から参戦することはありません。
ボラティリティの高いときを見送るなら、ケストナー流の建玉法を使わない方が安全です。ボラティリティが低いときに過大なレバレッジをかけている可能性があるからです。

そこで、金額ベースでやることにします。


平均2.55%
P.F.1.56
勝率43.28%
勝ち平均16.44%
負け平均-8.05%
勝ち保有期間130.86日
負け保有期間48.24日
2倍損失6.24%
3倍損失0.58%
回数4887回
その結果が右の表。改善してますね。
トレード数が減っているので、統計的な信頼性は落ちますけど。

なお、上に書いたように、H.V. ≦ 40 の条件下では、ケストナー流の建玉法より、金額ベースの方が低リスクです。このため、平均や P.F. の数値以上に実際は改善しています。

平均保有期間は、84日(130.86*0.4328+48.24*0.5672)なので、1年(250営業日)の利益に直すと、

2.55 × 250/84 = 7.59 %
です。

手数料・スリッページがないとすれば、100万円でレバレッジをかけずに年間 75900円稼ぐということです。

しかし、トレードあたりの平均が 2.55%ですからね。一昔前、手数料の高かった時代なら、ほとんど手元に残りません。

トレンドは存在する、といってもその程度なんですね。


年度別は次の通り。1999年に 788%の利益を上げているのは、トランスコスモスの 1999年 1月 12日買い、2000年 3月 27日手仕舞い売りです。

 平均P.F.勝率勝ち平均負け平均勝ちMAX負けMAX回数
1994年4.75%2.5052.79%15.02%-6.72%53.27%-22.31%538回
1995年3.27%1.7654.22%13.97%-9.40%80.11%-32.16%474回
1996年5.51%2.5347.13%19.34%-6.81%93.55%-19.78%696回
1997年3.73%1.8749.88%16.03%-8.51%70.87%-25.76%413回
1998年-1.85%0.6932.84%12.62%-8.92%95.51%-38.26%335回
1999年9.01%2.9548.50%28.11%-8.98%788.31%-27.71%334回
2000年0.45%1.0839.38%14.95%-8.96%81.18%-26.93%226回
2001年2.22%1.4647.00%15.07%-9.16%86.03%-23.02%283回
2002年1.84%1.3642.47%16.26%-8.80%57.27%-35.04%365回
2003年1.90%1.3736.21%19.33%-8.00%162.07%-26.52%464回
2004年-2.25%0.5629.38%9.96%-7.34%181.23%-31.36%759回



ドンチャン・ルールの検証から、次のようなことが言えると思います。

まず、トレンドは存在するようです。「株は、下がっているものを買うもんだ」 と思い込んでいるなら、必ずしもそうではないというのが教訓です。

一方、上記トランスコスモスの例などから、「トレンドがあるのは明白。株はトレンドに沿って売買する方がいいのは当たり前」 と思い込んでいるなら、統計的には、その有効性は意外と微弱であるというのが教訓です。

あと、トレンド・フォローは、じわじわ上げているものをゆったりと取りに行くのがいいようですね。


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