各版の違い、他の著作


TV アニメ 『ルパン三世』 には、3つのシリーズがあるのをご存じでしょうか。
上着の色が 「緑」、「赤」、「ピンク」 のシリーズがあって、もっともポピュラーなのは第2シリーズ(上着は赤)ですけど、マニアが好むのは第1シリーズ(上着は緑)だそうです。


『証券分析』 にも 6 つの版があり、グレアム・マニアの間では評価が全然違います。

おおざっぱにいうと、1 〜 3 版が本物の 「グレアム・ドッド」 で、4 版からはグレアム・ドッド以外の者の手が入っており、5 版にいたってはほとんど偽物です。そして、6 版は実質的に第 2 版と同じです。

原書は第 4 版が絶版になっている以外は、すべて現在でも流通しています。

各版について説明していきます。


第 1 版(1934年)

大恐慌による株価暴落の記憶も生々しい頃に書かれており、グレアムの考え方がもっともわかりやすく提示されている版です。よって、この版をイチオシとする人が多いです。

日本語訳はこの版に基づいています。

初版第 1 刷で保存状態の良いものなら、コレクターに大変な高値で売れるそうです。ネット上に米国の古本屋が 25000ドルで売りに出しているのを見たことがあります。買い手が現れたのかは知りませんけど。

会計基準などがまだ完備していない時代で、現在ではありえないような粉飾決算が横行していました。そのあたりの解説にかなりのページを割いています。わかりやすくて面白いともいえますけれど、現代ではそのような粉飾をする企業がないので、知っていても役に立たないです。


第 2 版(1940年)

第 1 版の増補版といえます。きちんと測定したわけではないですが、80 %以上の部分が第 1 版と一言一句同じじゃないでしょうか。

33〜35章の減価償却費に関するところの構成が大きく変わっているくらいで、あとは事例の追加や補足説明を入れているなどです。SEC(証券取引委員会)が 1934年に設立されたことや、昔に比べ金利が低くなったことによる変更もありますけれど、たいした違いではありません。

第 1 版に比べ 「増補」 されてますし、説明がわかりやすくなっているところもあるので、これをグレアム・ドッドの決定版と見る人もいます。

若き日のウォーレン・バフェットはこの版で勉強したそうです。


第 3 版(1951年)

全面的な改訂版です。全体の構成から根本的に変更しています。

この時代になると会計基準や証券取引の法律などは整備されています。そのため、トンデモ粉飾決算の話などはなくなっています。代わりに、財務諸表の見方について細かいことを真面目に解説しています。これが正直言ってあまり面白くありません。より実用的になったと見るか、個性や面白みがなくなったと見るか意見の分かれるところです。

会計基準などが現代とあまり変わらない状況での解説本ということで、この版をイチオシとする人もいるようです。

なお、この版の著者はグレアムとドッドになっていますが、一部の章はチャールズ・タサムが執筆しています。


第 4 版(1962年)

絶版になっています。人気のない版らしいですが、私も見たことがないので詳細はわかりません。

執筆陣にシドニー・コトル、チャールズ・タサムを加えています。

どうも、徐々にグレアムらしさがなくなって面白みのない 「教科書」 になっていったらしいです。


第 5 版(1988年)

この版は、マニアの間でボロカスに言われてます。

すでにグレアムは他界してますし、ドッドも 1988年に亡くなっており執筆に参加してません。この版の著者名にはグレアムの名もドッドの名もありません。

著者は、シドニー・コトルら 3 名です。

その代わり、本のタイトルが 『グレアム・ドッドの証券分析』 となっています。

私は見てませんが、無味乾燥な教科書らしいです。ただし、そういう趣旨の本としてはよく書けているらしく、現在でも学校のテキストとして使われているそうです。


第 6 版(2008年)

もともとは、各版のいいところを選りすぐって、グレアム・ドッドの究極版を作るという企画だったらしいです。

しかし、最終的には、1940年版をそのまま使うことになってます。1940年版は現在も普通に流通しているので、それだけでは意味がないんですが、現代のバリュー投資の専門家 10人に一人 20ページくらいの寄稿文を書いてもらったのが特色です。

そのまま本にすると 1000ページを超えてしまうので、グレアムの原文のうち 11 の章を本からは削除し、代わりに CD-ROM を付けて、削除した 11 の章は pdf ファイルで読めるようにしています。

こうした処理のため本文のページ数が第 2 版とずれてしまい多少混乱しています。たとえば、「6 ページのチャートで …」 などとあっても、ページが合っていないことがあります(たいていはきちんと修正されてますが)。

1940年版のグレアム・ドッドを読むのが目的なら、第 2 版の方がいいと思います。

ただし、10人による寄稿文はなかなかの力作で、第 6 版の評判は悪くないようです。


私は、訳本を図書館から借り、原書(1934年版)はネットから拾って、お金をかけずに読み始めました。しかし、訳本にどうしても書き込みをしたくなり、やむなく中古を購入(6400円)しました。
その後、原書の第 3 版と第 6 版を買っています。


グレアムの他の著作についてです。


『賢明なる投資家』

グレアムの著書の中では、もっとも有名です。
原書は 1949年に初版が出て以降、何度も改訂されています。
邦訳は3つです。

(1) 『賢明な投資家』 (1967年、竹内書店)
(2) 『賢明なる投資家』 (2000年、パンローリング)
(3) 『新賢明なる投資家』 上巻・下巻 (2005年、パンローリング)
私が読んだのは (3) だけです。

『証券分析』 は上級者向けで、『賢明なる投資家』 は初心者向けという位置づけになってます。
しかし、根気さえあれば、たぶん 『証券分析』 の方が理解しやすいです。

他の分野でもよくあるんですけど、本格的な本ではひとつひとつのテーマをしっかりと解説してあるのに対し、初心者向けの本はいろんなことを駆け足で説明していて散漫な感じがします。

まあ、斜め読みしても、それなりに意味が取れるようになっている本ではあります。


賢明なる投資家【財務諸表編】(2001年、パンローリング)

財務諸表について初心者向けの解説本です。

原題は 『財務諸表の解釈(The Interpretation of Financial Statements)』 で、『賢明なる投資家』 とは関係のない本です。

簡潔で読みやすい本ですが、内容が少し古いしオススメはしません。

ただし、グレアムを原書で読みたい人には、巻末の用語集が役に立ちます。
たとえば、「fixed charges」 という語をグレアムがどういう意味で使っているのか調べるのに便利です。


ベンジャミン・グレアムの投資の王道(2010年、日本実業出版社)

読んでません。

1917年〜1927年にかけて、グレアムが雑誌に寄稿した論文をまとめたそうです。


Benjamin Graham: The Memoirs of the Dean of Wall Street

読んでません。邦訳はないし原著も絶版みたいです。

グレアムの自伝ですが、投資手法の参考にはならない本らしいです。


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