◆ 綾辻さんと浩子さん ◆

出 会 い

 綾辻さんが浩子さんの曲に出会ったのは、高校二年の夏。
 友人の家で泊りがけの宴会をした時、誰かが持ってきたアルバム『ねこの森には帰れない』(1977年5月)をみんなで聴いたのが始まりだそうです(宴会のBGMに谷山浩子って、奇妙な取り合わせかも)。
「アルバムのB面『車の色は空の色』(あまんきみこさん作の童話)をモチーフにした構成を新鮮に感じた。透明な歌声と綺麗な、けれどちょっと変わった旋律が心地よかった」というのが、第一印象。
 

初 期 の お 気 に 入 り

『もうひとりのアリス』(1978年3月)のA面と、『時の少女』(1981年11月)のA面。
『もうひとりのアリス』のA面は「不思議の国のアリス」「白雪姫」「青い鳥」「赤い靴」など、西洋の童話をモチーフにした作品群。『時の少女』のA面は「悪魔の絵本」とでも云いましょうか、かわいいけれど実は怖い、幻想的な世界を描いた歌が並びます。
 いずれも、いかにも綾辻さん好みと思える曲ばかり。
 

本 格 的 に ハ マ る

『たんぽぽサラダ』(1983年4月)のレコードに針を落とした時から、綾辻さんは本格的に谷山浩子にハマることとなります。
「十曲の全てが、すごく好き」「誇張でも何でもなく、僕は、当時住んでいた下宿の部屋中を転がり回った。感動したのである」「すごい、すごいと譫言のように繰り返しながら、歓喜の涙を流した(かなり不気味な光景ですな)」とまあ、ものすごい入れ込みよう。特に「たんぽぽ食べて」という曲については「これほど突き抜けた、ボーッとしているとこちらが食べられてしまいそうな、強烈な歌はなかったように思う」と、絶賛。
 このアルバム、浩子さんご自身も「この時期の代表作。出来もいいし、売れた」とおっしゃっていました(発売当時、TVCMもあったもんなあ)。
 

綾辻さんが 語る 浩子さん

 彼女が歌う、あるいは語る宇宙の中心は「夢」である。ただし、その全てが、「少女趣味的な」とか「ふわふわした」とか「可愛らしい」とかいった言葉で括られる、人畜無害な夢だと早合点してはいけない。むしろ彼女が描き、提示する夢は、時として受け手の精神を破壊するまでに鋭く、いびつな形すら取る。「いびつ」なんて表現を使うと怒られるかもしれないが、僕の場合、これは「暗い」と同様に大いなる褒め言葉なのである。
(『猫森集会』解説より抜粋)
 

綾辻さんが 語る 浩子さん 2

 物語世界を彩る道具立てが「好み」のものばかりなのだ。(中略)迷路、暗号、手品師、人形、時計、遊園地‥と、中でもこれらは、僕が推理小説(と云うよりも探偵小説)の世界に見つけ、いまだに追いかけているのと同じ、素敵な謎を秘めた宝石たちばかりだ。しかも、アレンジはまるで違うけれど、それらの言葉や概念を操る上での意識と云うか、根っこの部分と云うか、それがまた似通っているように感じる。昼ではなく、夜に属するものたち。光ではなく、闇に属するものたち。明るい陽射しや緑が描かれていてもその背後には必ず、暗い夜と闇が控えている。喜びや楽しさが描かれていても、悲しみや寂しさ、あるいは不安といった裏返しの感情が常に意識されている‥そんな感じ。
 そういった宝石たちと戯れるように、谷山浩子は彼女の持つ、有り余るほど豊かな「夢」の世界を描く。用いられる文章からは、彼女がこの上なく「言葉」を愛し、なおかつ恐れているということが滲み出ている。脱帽ものである。
(『猫森集会』解説より抜粋)
 

浩子さんが 語る 綾辻さん

 友人に若手の推理作家がいます。
 彼は自分の何年か前の作品を読み返すと、必ず悲鳴をあげます。
「ひえぇ、ヘタだよぅ。耐えられないよぅ。全部書き直したいよぅ」と情けない声で叫ぶのを何度きかされたかわかりません。
 確かに彼は一作ごとに目に見えてうまくなっていて、「成長する作家というのはこういうものなのか」といつも感心させられます。
(谷山浩子著『お昼寝宮 お散歩宮』(角川文庫)あとがきより抜粋)
 

浩子さんの歌作りのキーワード

 猫、ガラス、水、森、船、帽子、野菜と卵、手品と魔法、人形、鏡、家、靴、窓、少年と少女、風、魚、ナイフ、殺す、迷路、悪魔、指、骨、月や星など天体関係のもの、睡眠と夢、記憶、過去、夜と暗闇、時計と時

 これらの言葉のどれかが、必ずと云っていいほど、浩子さんの歌の中には登場します。綾辻ワールドとの共通点がいかに多いか、良く分かるでしょう 。
 

出 会 い その2

 綾辻さんが浩子さんに実際に会ったのは、1990年のことでした。
 それまでにも何度か、京都での101人コンサートに足を運んでいた綾辻さん。1989年の春、浩子さんが雑誌のインタビュー記事で「推理小説が好きです」と云っているのを目にして(ほんとはそんなでもなかったらしいのだが)、「それを読む限りすごいマニアに思えた」という綾辻さん、その夏の京都でのコンサートに、差し入れとして自分の本を一冊持って行きました。

綾辻「せっかくだから、僕も作家なんだから(笑)ミステリが好きなんだったら差し入れでもしてみようかなあ、と散々迷って(笑)。あつかましいかなあとか。で、結局本を一冊渡したのね」
浩子「でも直接じゃなくてスタッフに渡したのね。私は、綾辻さんのことを全然知らなくて、京都で名前が綾辻行人なんて、なんか変な人だなあと思って(笑)。きっと、同人誌か何かをやってる人なんだろうと思って(笑)」

 結局一ヶ月ほどたってから、浩子さんは綾辻さんの本を何冊か続けざまに読むことになります。

浩子「すごく面白くて。あんまり期待してなかったのに(笑)。ごめんね。すごく面白くて、びっくりした。あっ、こんなものをこんな顔した人が書けるのか(笑)。だって綾辻さんって子供みたいな顔してるじゃない、写真では。それでファンレターを書いたんです」
綾辻「その手紙が来るまでの一ヶ月の間、僕は「あんなことしなければ良かった」とずっと後悔してて(笑)「忙しいからなかなか読めないよな」「迷惑じゃなかったのかなあ」とか(笑)で、手紙を下さったので嬉しかったですね。それに『人形館の殺人』という思い入れのある作品を誉めてくれたのが嬉しくて」
(谷山浩子コンサート’92 歪んだ王国 パンフレットより一部抜粋)

出 会 い その2(続き)

 そして、1990年の大阪バナナホールでのマスコミ向けコンベンションで、ついにお二人、初対面!
 この時綾辻さんはコチコチに緊張していたそうです。ところが、会場の受付係に浩子さんが、綾辻さんが来ることを前もって何度も云っていたにもかかわらず、なかなか入れてもらえなかったんですって。どうも童顔の綾辻さん(学生にしか見えない、浩子さん曰く「高校生だと云ったら信じた」)は、ファンの会場紛れ込みと思われたらしいです(笑)。

 その後、一緒に食事をしたりして、似た素質を持つ二人の交流が本格的に始まります。
(谷山浩子コンサート’92 歪んだ王国 パンフレットより一部抜粋)

綾辻さんが一番印象に残っている出来事

 谷山さんとAQさん(シンセサイザー担当)と、京都で初めて食事をご一緒した時のこと。料理はスッポン。「かわいそうなスッポン。でも、おいしい」としみじみ云いながら、本っ当においしそうに食べておられました。あんなに幸せそうに物を食べる人と、それまで会ったことがなかったもので‥。
(谷山浩子 101人コンサートスペシャル’96 パンフレットより)
 

小説に出てくる浩子さんリンク

霧越邸殺人事件

 図書室にある本の題名「瞬間」「時の回廊」「夢の逆流」はいずれも浩子さんの曲の題名です。

時計館の殺人

 カナリアの名「メシアン」、そして「沈黙の女神」という発想は、いずれも浩子さんによるものです。 

黄昏の囁き

 冒頭からして「To Hirokosan(浩子さんに捧ぐ)」。小説内にネパールについての記述がありますが、これはおそらく浩子さんから仕入れた話でしょう。ネパールは浩子さんの大のお気に入りの地。日本人として初めて、ネパールでコンサートを開いたこともあるのですよ。一定時間ひとつの場所にじっと座って曲を聴くなんて機会の全くなかったネパールの人々をもすっかり魅了し、コンサートは成功をおさめたそうな。
 

夢 の 共 演

 館シリーズが全10作出揃ったら、ひとつひとつのテーマソングを綾辻さんと浩子さんと共同で作って、一枚のアルバムにするという夢のような企画があるのです! ぜひぜひ実現させてほしいと、切に願うファンは多いでしょう(もちろん私も)。

(2002/1/19)

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