黒の幻惑、白の誘惑 石田黙展「黙の部屋」

  日 時:2007年6月25日(月)〜30日(土) 11:00 〜18:30(最終日は 〜17:00)
  場 所:文藝春秋画廊 ザ・セラー(地下室)

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 昨年末、このミス「私の隠し玉」で告知があったその日から、絶対行くぞと心に決めてた「石田黙展」です。わくわく。
 銀座に着いて、まずは別件、折原さんのHPで知った諏訪敦展へ。薄い毛布の質感、筋張った手‥克明に伝える描写力に圧倒され、ただただ立ち尽くすばかり。

 この日は暑かった〜(^^;)、地図を片手にてくてく歩いて会場に到着。さあ、いよいよ黙に会えるぞ。
(右側、ちょっとトリック写真っぽい? ガラス扉に反射してカメラを構えた私が映ってます(笑))

  

 メモを取りながら見たわけではないので、以下、印象深かった作品について、幾つか書いてみます。ほんとに個人的な感想なので、お恥ずかしいですが。

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 階段を降りたそこには、白樺林の男の絵「解放区(粉雪舞う)」(『黙の部屋』P253)。汗だくだった身体を一気に冷やしてくれるような、寒々しい風景。キャンバスの中の黒い男に「いらっしゃいませ」と出迎えられたような気分。

 扉を開けて最初に目に入ってきたのは、うわあ、禍々しいリンゴの絵「月の光に」(『黙の部屋』P279)。点描で描かれたそれにまずは釘付け。骨のように神々しい。
 黙の絵の最たる特長は、黒と白の色遣いよりも、この渦巻きというか年輪のような紋様だと私は思っているのです。この模様が独特で、なんとも心をざわつかせて、いいんだよなあ。

 リンゴの絵の上に飾ってあるのは、「私の部屋」(『黙の部屋』図版2ページ目/P86)。折原さんの『チェーンレター』(角川ホラー文庫)表紙に使われている絵です。印刷で見るよりずっと「M」の赤い色の深みがあり、その部分がくっきりと浮かび上がって奥行きを感じさせます。
 

 室内には、折原さんと、もうひとり男の方が(お手伝いの方っぽい)。でも程なくその男の方は外に出て行っちゃいました(お昼時だったんで、お弁当と飲み物を買いに行ったんですね、後で判明)。あれれ、お客さんが一人になっちゃったよーと、微妙に緊張する私(笑)。折原さんは、会場内の写真をぱちぱち撮っていらっしゃいました。

「伝説 II 」(『黙の部屋』図版6ページ目/P265)。それほど大きくない絵なんですが、実物は迫力がありました。というのも、人物の年輪模様や背景の黒い部分って、絵の具が何層にも塗り重ねられているんですね。厚みのある絵だなあと、しばし見入っていました。こういうのは印刷じゃ分からないからね。
 背景に白い手が何本か浮き出ていて、幻想的な趣もあるんですが、正面の人物たちの存在感があまりに大きくて、それほど怖い感じはしなかったです。

「伝説」。画面を横切る白い石のテーブル、これも黙の絵でよく描かれるモチーフです。テーブルの向こう側にも人がいっぱいいるなあ。

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 私より年輩の女性が二人来場。折原さんと気さくに挨拶を交わしていたので、知り合いの方かなと思っていたら、後で折原さんがそのうちの一人を紹介して下さったのです、「黙夫人です」と。わあ、小説にも登場していた奥様が目の前に。びっくり。
 黙夫人はとてもにこやかに、「折原先生のお陰で、主人の絵がこうして再びたくさんの方々に見ていただけることになって、本当に嬉しい」とおっしゃっていました。

 美術関係者と思しき男女二人連れが来場。折原さんが彼らや黙夫人といろいろ話しているのを、横で立ち聞く私。以下、黙夫人のお話です。
・小説『黙の部屋』には、私も登場しているんですよ。折原先生とは数えるほどしかお目にかかっていないのに、作家の方はその短い時間の中でよく観察していらっしゃるんだなあと思いました。
・私は主人の絵が大好きで。でも作品を描いている時、主人はアトリエに入られるのを嫌がるんで、本人がいない時にこっそり入って見てました。
・何か(モデルとなるもの)を見ながら描く、ということはあまりなかったんですけど、「伝説のある風景」(『黙の部屋』図版6ページ目/P377)の時は、小さい石仏を手に持って、それを見ながら描いていました。

 会場の中央には小さなテーブルがあって、夫人が撮られた黙の絵の写真を納めたアルバムが置いてありました。本当にご主人とご主人の仕事を理解し、愛していらっしゃったんだなあと。そういう意味で、なんとなく宇山日出臣さんの奥様、慶子夫人と共通したものを感じました。

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 百号の絵「白い静物(黒い地平線III)」(左側)(『黙の部屋』P240)。印刷物ではモノクロに見えますが、うっすら赤や青の色も配されているんですね。近くで見ると、画面の下半分は輪郭にそって細かい茶色い線がいっぱい描かれていて、そのせいか、丸みを帯びたなんとも柔らかな印象。おお、下の方に描かれた図形は、デザインされた「MOKU」の字か。
 折原さんに「遠くから見ると、奥行きを感じるでしょう」と促され、遠目に見たり近くで見たり。なるほど、白い背中(なのかな?)の周りが、一段暗い黒い色で縁取られていて、それによって手前が浮き上がって見えるんですね。

「夜明け」(『黙の部屋』P303)。窓の外のグラデーションがなんとも素晴らしい色合いです。これも残念ながら印刷だと分かりにくい部分ですね。希望が差し込んでくるかのよう、本当に綺麗。『偽りの館』(講談社)の表紙になっています。
 

『黙の部屋』表紙にもなっている「室内風景」(『黙の部屋』表紙/P15・P322)。百号の絵の横にあったせいか、大人しく見えました。大きな水玉模様(って云うのかな?)の布も、黙の絵によく描かれるモチーフですね。
 

 会場内もう一枚の百号の絵、「白い静物(黒い地平線II)」(右側、カタツムリのいる絵)(『黙の部屋』P178)。巨大なカタツムリがグロテスクかと思いきや、タッチのせいでしょうか、先の「白い静物(黒い地平線III)同様、とても静かで柔らかな絵に見えました。画面下半分の輪郭が細かい茶色い線で被われているのも、先の絵と同じ。デザインされた「MOKU」の字が配されているのも同じ。
 折原さんがおっしゃっていました。「私の家では、この絵がマッサージ・チェアのすぐ横に飾ってあるんですよ。ここのような広い空間だといいんですけどね、一般住居はこの絵を飾るには狭いです。」

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 会場は、入って左側がなぜかカウンターになっていて(元はバーだったらしいです)、そこにチラシやハガキが置かれていました。私が行った時はまだ数があったので、折原さんが一式下さいました。ハガキもチラシも、少し厚めの紙に印刷されていて、とても立派。
 最初気付かなかったんですけど、カウンターの奥にも絵が四点飾ってあるんですよ。これ知らずに帰っちゃった人、いたんじゃないかなあ。
「白い静物(コスモス)」(『黙の部屋』P337)は、折原さん曰く「この絵なら辛うじて、一般の家にも飾れるんじゃないかな」。不気味度が低い、という意味でしょうかね。いえいえ、私だったら、カタツムリのでかいのでも喜んで飾りますよー(でも家族には嫌がられそう(笑))。
「月夜の森で(仮)」は楕円形の絵。作者不詳でオークションに出ていて、折原さんは一万円台という信じられない安値で落札したとか。「空の色を見てると、黙の絵だと分からないんですが、上半分を隠すと分かりますね。」たしかに、洋服のしわが渦巻いてます(笑)。
 他には、「白い静物(パズル)」(『黙の部屋』P213)と、もう一点小さな絵がありました。

 そうそう、「月夜の森で」の絵の下に、頭骸骨が一つ置いてありました。折原さんのHPを日頃から読んでいる私には、「折原さんがコレクションの一つを持っていらしたんだな」とすぐに分かりましたが、そうでない人の目には奇異に映ったようで(そりゃそうだ)。なんでここにそんなものがと訝しがるのを見て、折原さんはマズいと思われたのか、骸骨を裏返しに置き直していました。髑髏も、後側から見ればただの白い丸、巨大な卵みたいでカワイイ‥か?(笑)。

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 展示されている絵は、1972〜1976年のわずか数年の間に描かれたもの。その中で一番最後に描かれたのが、「伝説のある風景」(『黙の部屋』図版6ページ目/P377)。点描で丁寧に描かれたそれは、うわあ、静かで優しくて、癒されるなあ。今回私が、一番長い時間かけて見ていたのが、この作品でした。
 来場者が中央の仏頭を「これは黙の自画像だね」。この言葉には折原さんもびっくり、「なるほど、たしかにそうですね」。
(石田黙の写真は、『黙の部屋』P335)

「白い静物(青い窓)」(『黙の部屋』図版2ページ目/P64)。たしかに、分厚い壁です(笑)。冬空のような澄んだ青い色と、細かいタッチで描かれた木立が目を引きます。手前の静物も、不思議ですよね、なんでレモンにまで渦巻きがあるのやら。

「夜行時計」(『黙の部屋』図版1ページ目/P29)。実は、今回の個展で一番楽しみにしていたのが、この絵でした。小説の中でとても印象的な使われ方をしていたので。
 小説では最初の方に出てきますが、描かれた年代は展示作品のなかでは後の方なんですね。なのでタッチも、時計の辺りは点描でした。

「ほのほ」(『黙の部屋』図版4ページ目)。これはびっくりしました。印刷だと分かりにくいのですが、背景の黒に、炎に照らされた蝶の影と、「MOKU」という字の影がくっきり写し出されているんですね。実物を見に来て良かった。

「星座」(『黙の部屋』図版8ページ目/P89)。小説で大きく取り上げられている絵なので、実物が意外に小さくてびっくり。でもアンバランスな女性といい、お面をかぶった鶏といい、不思議な絵ですね。ほんの一部分なんだけど、女性の爪と鶏のとさかの赤が、毒々しい。

「白い静物(ピーマン)」(『黙の部屋』P57)。折原さんが最初に手に入れた黙の絵。ピーマンの緑色が鮮やか、でもやっぱり年輪模様。

 作家の飯野文彦さんのお気に入りだという「骨と体」(頭蓋骨の裏側 2007/7/07)。これは初めて見ました。人間の身体の皮だけと中身と、首から下が洗濯紐からぶら下がっているような絵。ユーモラスな感じがしました。

「合掌」(『黙の部屋』P410)。女の子の髪の毛が細く渦を巻いています。タッチが繊細。
 

「浅い夢」(『黙の部屋』図版7ページ目/P313)。印刷で見るよりずっとソフトな感じでした。手前の女性といい、背景の鮮やかな黄色といい、綺麗だなあ。グリークの「ペールギュント組曲・朝」が聴こえてきそう。

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 以上、極私的な感想を綴ってみました。貴重な絵を見る機会が得られて、感激でした。
『黙の部屋』にサインもいただきました。折原さん、ありがとうございました。
 日記の最後に「それでは、次の石田黙展でお会いしましょう。(おおっ、まだやる気なんですね?)」とあったので、期待しています。今回展示されたのは、折原さん所蔵の黙作品の半数に過ぎず、従って少なくともあと一回はやらなくてはいけませんよ折原さん(笑)。楽しみにしています。

(2007/07/13)

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